児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

所持の裁判例(奈良地裁h10.11.27)

 所持概念というのは、覚せい剤の実務が応用されます。
 判決の「覚せい剤」を「児童ポルノ」に置き換えるとこうなります

児童ポルノ取締法違反被告事件
奈良地裁平10・11・27刑事部判決
(争点に対する判断)
一 被告人は、判示第一の事実について、これを全面的に否認し、弁護人も、被告人の児童ポルノ所持及び営利目的を否定する。
二 そこで、まず、本件児童ポルノの発覚の経過を見ると、次のとおりである。すなわち、被告人は、平成九年六月一日未明、自宅から警察に電話して「警察か。おれを連れに来てくれ。」「児童ポルノでぼけとんねん。」などと言い、自ら警察に出頭して、そのまま児童ポルノ使用の容疑で逮捕されたこと、同日午前九時ころ、被告人あてに(お届け先欄には「奈良県《番地略》A」と書かれていた。)紙袋に梱包された荷物が宅急便で送られ、同居の父親Bがこれを受け取ったこと、Bが荷物を開けて見ると、封筒やビニール袋が入っていたこと、Bはこれが児童ポルノであると分かったが、元通り紙袋の中に直して、台所の水屋の上に置いたこと、同日警察官が被告人の自宅の捜索に訪れ、午後五時二〇分から午後七時三〇分まで捜索を実施したが、これに立ち会ったBは、捜索中の午後七時一〇分ころ、警察官に対し本件児童ポルノ入りの荷物があることを伝え、その荷物を任意提出したことが認められる。
 こうした事実関係を前提とした上、被告人が本件児童ポルノを所持したといえるかを検討すると、児童ポルノ取締法一四条にいう「所持」とは、人が児童ポルノを保管する実力支配関係を内容とする行為をいい、必ずしも児童ポルノを物理的に把握することは必要ではなく、その存在を認識してこれを管理し得る状態にあれば足りると解すべきところ、これを本件についていえば、Bが、被告人が逮捕されて不在中に被告人あてに宅急便で送られて来た本件児童ポルノを受け取り、その日の夕方に被告人の自宅を捜索した警察官に任意提出するまでの間保管していたことをもって、被告人が本件児童ポルノの存在を認識してこれを管理し得る状態にあったということができるかに帰するか、被告人の自宅に被告人あての荷物が届けば、たとえ被告人が不在であっても、同居の家族である父親B、妹Cが受け取って被告人のために保管するのが通常であると考えられる。言い換えれば、もしも被告人において本件児童ポルノが自己あてに宅急便で送られて来ることをあらかじめ認識していたとするならば、被告人が不在であったとしても、父親なり妹なり同居の家人が被告人に代わってその荷物を受け取るであろうことは当然に予想していたものと認められるから、現実に被告人が受領しなくても、本件児童ポルノが被告人の自宅に届けられ家人がこれを受け取った時点で、その存在を認識してこれを管理し得る状態に置いたといえるのであるから、このような実力的支配関係が継続する限り所持は存続するというべきである。
 この観点から、被告人が本件児童ポルノが宅急便で送られて来ることの認識を有していたかを検討すると、被告人は、本件児童ポルノが自宅に送られて来たことにつき心当たりがないと弁解しているが、本件児童ポルノ入りの荷物は平成九年五月三一日に甲野運輸株式会社横浜関内営業所で受け付けられたものであるところ、Dは、検察官に対する供述調査で、同年三月以降被告人から三、四回児童ポルノを購入していたが、同年五月二九日ころ被告人の自宅を訪れた際、被告人に対し児童ポルノがないかと聞くと、被告人は「今はない。もう二、三日したら、横浜から品物が入る。」と答えたと述べているのであって、この供述は、実際にも本件児童ポルノがその三日後である六月一日に被告人の自宅に送られて来ているという客観的事実に符合し、その信用性を疑うべき事情は存しない。
 のみならず、Bが検察官調書において,平成九年二月に被告人が出所してから、関東なまりの男数人から被告人に掛かってきた電話を何回か取り次いでいるが、その中には「横浜のカナイ」とか「横浜の何とか」と名乗る男がいたこと、横浜からの電話は五、六回あったことを供述しているところであって、これらの状況にかんがみるならば、被告人があらかじめ横浜方面にいる関係者に児童ポルノを注文し、同年五月二九日ころには、二、三日中に横浜から被告人あてに右注文に係る児童ポルノが宅急便で届くことを認識し、児童ポルノが送られて来れば、たとえ自分が不在でも当然、同居の父親又は妹がその荷物を受け取って被告人のために保管するであろうと考えていたと認めるに十分である(弁護人は、被告人はBに対し本件児童ポルノの保管を依頼しておらず、また、Bは本件児童ポルノを被告人のために保管する意思を有さず、捜索に来た警察官に引渡しているのであるから、Bが本件児童ポルノを受け取ったことをもって被告人がこれを所持するに至ったということはできないと主張するが、明確な依頼などなくとも、同居の家族あてに荷物が届けばこれをその者のために保管するのは家族間では当然のことである。Bは、荷物を開けて中身を確認した後において、自ら警察に通報し、あるいは捜索に来た警察官に対し直ちに本件児童ポルノの存在を告げて任意提出しようと思えばできたにもかかわらず、被告人あてに送られて来た荷物であり、被告人のために預かり保管しているという遠慮があったからこそ、警察の捜索で発見されることを期待して台所の水屋の上に目に付くように置いていたもので、結局警察官が発見し得なかったため、捜索終了近くになって警察官に本件児童ポルノの存在を告げて任意提出したにすぎないのであるから、宅急便で届いた被告人あての本件児童ポルノを受け取った後、これに対する被告人の支配を排除し、警察に提出する意図でこれを保管していたとは認められない。)。
 したがって、被告人の自宅に本件児童ポルノが宅急便で届けられ、Bが被告人のためにこれを受領して保管していた以上、被告人において、いつの時点でBが本件児童ポルノを受け取ったのか把握していなくとも、本件児童ポルノの存在を認識してこれを管理し得る状態に置いたと認めるのが相当である。