児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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所持が適法→違法・犯罪化された場合に、遡及処罰だと主張した場合の判例

いちおう、児童ポルノでも主張してみよう

最高裁判所第1小法廷判決昭和29年2月25日
【掲載誌】  最高裁判所裁判集刑事92号709頁
       刑事裁判資料222号158頁
 弁護人中尾武雄、同坂上寿夫の上告趣意第一点について。
 原判決の引用した第一審判決の判示第一(一)の事実摘示が「被告人は、昭和二二年七月頃高より交付を受けた主文第八項後段記載の塩酸モ〆ヒネ注射液五百本を昭和二五年三月頃迄の間被告人肩書の住居において所持し」と判示し、また、同第九の事実摘示が「被告人は、昭和二一年六月四日以降同二五年八月二〇日頃迄の間前記被告人宅に於て塩酸モルヒネ八、六五瓦・・・・・・・・・・・・を各所持し」と判示したことは、所論のとおりである。しかし、右判示を原判決の擬律と対照してこれを読めば、右判示の昭和二二年七月頃又は昭和二一年六月四日とあるのは、入手の始期を示しただけで、判示全体の趣旨とするところは、要するに、昭和二三年七月一〇日公布施行の麻薬取締法三条一項の禁止する所持をなした判示と解するを相当とする。されば、所論(一)の憲法三九条前段違反の主張は、その前提を欠き刑訴四〇五条の上告理由に当らない。しかのみならず、仮りに、一個の所持が罰則施行前から罰則施行後まで引続き為され且つ新旧両法に跨りて為されたとしても、その一個の所持全体に対して新法を適用して処断すべきものであつて、罰則施行前の部分を分割して無罪の言渡を為し又は旧法の部分を分割してこれに対し旧法及び刑法六条をも適用すべきものではない。されば、所論(一)の主張は採用できない。
 次に第一新判決の主文八項前段の塩酸モルヒネ約一〇九は、同後段のごとく被告人から相被告人であつた高に交付され、同人は昭和二二年六月頃及び昭和二五年一月頃の二回にこれを注射液に製剤してしまつたこと同判示並びに判示第一の(二)の判示により明白であり、従つて、その所持は第一審判決の判示第九の塩酸モルヒネ等の所持と別異の所持であることも明白であるから、所論(二)の憲法三九条後段違反の主張は、既にその前提において採用し難い。

弁護人中尾武雄、同坂上寿夫の上告趣意
第一点 原判決は、憲法第三十九条に違反して法令を適用した違法があるから破棄せらるべきである。
(一)原判決の被告人に対する認定事実(第一審判決書掲示と同一事実)中、第一(一)は被告人が、
   昭和二十二年七月頃、○より交付を受けた第一審判決主文第八項後段記載の塩酸モルヒネ注射液五百本を昭和二十五年三月迄の間、被告人肩書の住居に於て所持し、たものとし、同第九条は被告人が、
   昭和二十一年六月四日以上同二十五年八月二十日頃迄の間、前記被告人宅に於て塩酸モルヒネ八・六五グラム、燐酸ヒドロコデイン○・五九、燐酸コデイン六九、昭和二十三年七月十日以降同二十五年八月二十日迄の間、前同所に於てオビスタン注射液七十本、ネオモヒン注射液八十本を各所持、
  したと謂うのである。ところで原審の適用法条を見ると、麻薬取締法第三条第一項、第五十七条(他に刑法、刑訴法の条文)が掲記せられている。
 しかしながら、申すまでもないことであるが麻薬取締法は昭和二十三年七月十日に公布施行せられたものであって、
  従つて、右施行以前である昭和二十一年六月四日以降の所持罪について同法の法条を適用するのは、正に法律不遡及の原則に違背するものである。もつとも、判示の所為は全然犯罪を構成しないかと言うと必ずしもそうではなくて、昭和二十一年六月十九日公布施行の厚生省令麻薬取締規則第四十二条、第五十六条(麻薬取締法第七十四条)の規定に該当するものである。
 それにしても、右規則は昭和二十一年六月十八日以前の所為については遡及して適用あるものではないし、又右規則施行後の所為についての罰則は三年以下の懲役、又は五千円以下の罰金であつて、麻薬取締法になってからの罰則(五年以下の懲役、又は五万円以下の罰金)よりも軽いのである。しかるに前掲判示両事実を認定して、それに麻薬取締法第五十六条の罰則を適用した原判決は、畢竟法第三十九条前段に違反したものであつて(明文はないが、吾人は後法で刑が重く定められたような場合に、その施行前の行為に重くなつてからの刑を科することは、やはり憲法第三十九条違反と考える)、継続犯であるからと言つて、法規が施行せられる以前の行為までが処罰の対象になう、あるいはより加重された後法の罰則の適用をみるべき理はないと信ずる。よつて原判決は破棄せらるべきである。
(二)しかうして、前掲判示第九事実に不法所持として摘示された塩酸モルヒネ八・六五グラム以下の諸品は、いずれも被告人が終戦前より自宅において保有していた品であること一件記録に徴して極めて明白である(法律の制定、変化に伴つて、犯罪を構成していつたと言う形である)。ところで、本件の第一審において免訴を言渡され、すでに確定した第一審判決主文第八項掲記の事実、そこに不法所持を指摘された塩酸モルヒネ十瓦も、また同じく被告人が終戦前より自宅において保有していたものであることこれまた記録上明白である。とすると、右判示第九の事実と免訴となつた事実、この二つは入手の時期こそ異なれ(それも麻薬取締規則以前であることにおいて同一)、いずれも同種物件の同一態様による所持にかゝるもので、明らかに一個の所持罪を以て数えらるべきこと昭和二十三年(れ)第九五六号事件につき最高裁判所大法廷判決の説示するところである。たゞ問題は、判示第九事実の方の所持が麻薬取締法施行後の昭和二十五年八月まで継続したと言うことだけである。そこに新たな別個の法益侵害を認めるか否か〉問題であるが、少くとも昭和二十二年六月までを限つて考察する限り、右原判決で二つの事実として扱われた事実は全く単一であること議論の余地がない。右一個の事実を二個の事実として扱つた点においてすでに前掲判例に違背するものであり、しかうして、単一書の一部についてすでに免訴の裁判が確定している以上、実体裁判の場合と等しく、重ねて裁判を受けることはないものと謂わねばならない。この点から考察すれば、原判決は憲法第三十九条後段に違反するもので破棄せらべきである。(なお、断るまでもないが、本件は前述のように確定判決後、または刑罰法規の改正実施後の行為のみを対象としたのでないことにおいて、前掲判例の場合と具体的事案を異にすることを附記しておきたい)