児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童を脅迫して裸画像を送信させる行為が、強要罪であって強制わいせつ罪でない理由by某検事

 脅迫されて撮影送信させられる場合の恥ずかしさは、脅迫されて撮影される場合ほどではないそうです。
 高裁岡山支部は、性的傾向が訴因に記載されてないので強制わいせつ罪にはならないと判示してて、大分地裁は執拗だと撮影させる行為もわいせつ行為になると判示していますが。

某地裁h23
a(当時13歳)に強いてわいせつな行為をしようと企て,同月12日午後時53分頃から同日時40分頃までの間,55回にわたり,前記被告人方において,被告人の携帯電話機ないしゲームサイト「G」のメール機能を利用して,同女の携帯電話機及び「G」上の同女が閲覧できるメール受信箱に「送らんとマジで中にいけんように画像ばらまくよ」「中学生の全員に画像送るから」「マンコを指でひろげたやつを撮れ」「乳首つまんだやつ撮れ」「まだ終わりやないよ」「胸なめよんやつ撮れ」「メールせんならゲームオーバー」「今日中に送らなかったら明日から家の外でれないね」「マンコの中がみえるように指でつまんでひろげろ」などと記載した電子メールを送信し,その頃,同女方において,同女をして,その電子メールを閲覧させて脅迫し,別表3記載のとおり,同月12日21回にわたり,同女方において,同女をして乳房を露出させたり,陰部に指を挿入させるなどした姿態をとらせた上,その姿態を同女の携帯電話機で撮影させてその画像データを被告人の携帯電話機に電子メール添付ファイルとして送信させ,もって強いてわいせつな行為をした

(弁護人の主張に対する判断)
1 弁護人は,判示第3の強制わいせつ罪については,強要罪が成立するにすぎず,また,その強要罪と判示第4の児童ポルノ製造罪とは観念的競合として科刑上一罪の関係にある旨主張する。
 確かに,弁護人が指摘するように,携帯電話機を用いた児童ポルノ製造罪について,強要罪と併せて起訴され,これを観念的競合として科刑上一罪の関係にあるとしたと思われる下級審裁判例が複数存在している。
2 まず,本件で強制わいせつ罪が成立するかどうか検討する。
 本件の事案は,被告人がメールにより送信した脅迫,指示の回数が55回と多く,被害者からこれに応えてメールに添付してわいせつな映像を送付した回数も21回と多い点で,弁護人が指摘する下級審裁判例の事案と異なっているようにも思われる。
 すなわち,本件において,被害者が終わりにしようという趣旨のメールを被告人に送ってメールアドレスを変更した後,被告人は,ゲームサイトのメール機能を使って被害者を脅迫し,さらに,携帯電話機のメール機能を使って,「上脱いで撮れ」「パンツも脱いで撮れ」「下から撮れ」「マンコ指で開いてみせろ」「指で開けって」「開いて中がみえるやつな」「ちゃんと入れちょんのがわかるようにうつせ」「マンコを指でひろげたやつを撮れ」「指2本」「胸寄せて撮れ」「乳首つまんだやつ撮れ」「胸なめよんやつとれ」などと順次わいせつな内容の指示をしつつ,わいせつな内容の添付ファイルが届くと,これを確認しつつ,次の指示を出す形で,被告人の具体的な指示に従って被害者をしてわいせつな行為を次々とさせている。
 そうすると,本件では,被告人のわいせつな内容の具体的指示に基づいて,被害者が継続的にわいせつな行為を強いられており,わいせつ性や被害者の性的自由が侵害された程度が大きいと認められる。よって,本件を強制わいせつ罪として起訴した点が不当とまではいえず,本件では,強要罪にとどまらず,強制わいせつ罪が成立するといえる。

速報番号平成23年1号
判示事項
児童ポルノ製造罪と強要罪併合罪の関係にあるとして、両罪を観念的競合であるとした原判決に法令適用の誤りがあるとした事例
広島高裁岡山支部
平成22年12月15日宣告
(1)前記控訴理由第3について
 そもそも訴因制度を採用した現行法の下では,裁判所としては,訴因の制約の下において,訴因に表れた事実について犯罪の成否を判断すれば足り,これにより実体的真実との乖離が甚だしく,これを放置することが正義感情に反すると思われる特段の事情のある場合に,釈明,訴因変更の勧告,訴因変更命令等の措置を取るべきは別として,そのような例外的な場合に該当しない限り,訴因外の事実をも(罪となるべき事実)として認定し別罪の成否を審理・判断する義務はないというべきである(最高裁判所昭和58年(あ)第909号同59年1月27日第1小法廷決定・刑集38巻1号136頁参照)。
 ところで,原判示第3の事実は,被告人が,当時16歳の被害者Aを脅迫し,同人に乳房及び陰部を露出した姿態等をとらせ,これをカメラ機能付き携帯電話機で撮影させたなどの,強制わいせつ罪に該当し得る客観的事実を包含しているが,強制わいせつ罪の成立には犯人が性的意図を有していることが必要であるところ,原判示第3の事実に,被告人が上記性的意図を有している事実が明示されてはいない。
 また,原判示第3の事実にかかる起訴状には,原判示第3の事実と同旨の公訴事実が記載され,その罰条として,3項製造罪のほか,「強要 刑法223条」と記載されているのみであるから,検察官において,上記性的意図を有していることも含めて訴因を設定する意思があったとは認められず,原判決が,被告人が上記性的意図を有していることも含めた訴因であることを前提に原判示第3の事実を認定したとも認められない。なお,所論は,原判決が上記性的意図を認定している旨も指摘するが,原判決は,(量刑の理由)欄において被告人に性的欲望を満たすためという動機があった旨説示しているにすぎず,(罪となるべき事実)として性的意図の存在を認定したものではないから,原判決の上記説示が上記結論を左右するものではない。
 そうすると,原判示第3の事実だけでも強制わいせつ罪が成立するとは解されず,所論は前提を欠いており,原判示第3の事実中,強要の点に刑法223条を適用して強要罪の成立を認めた原判決に法令適用の誤りがあるとは認められない。
 なお,所論は,法条競合という実体法上の問題であるから,訴訟法上の問題は無関係であり,強制わいせつ罪を構成する事実が認定された場合には強要罪は成立しない旨も主張するが,独自の見解といわざるを得ない上,原審記録を精査しても上記特段の事情があるとは認められないから,所論は失当である。所論引用の大審院判例及び高裁判例は,いずれも訴因制度が採用される以前の旧法下の事案であるか,訴因として恐喝未遂罪と強要罪が設定されている事案又は強要罪として掲げられた訴因中に恐喝罪若しくは逮捕罪に該当する事実がすべて掲げられている事案であって,本件はその射程外の事案である。