児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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和田俊憲「鉄道における強姦罪と公然性」安富退職記念号慶応法学31号p255

 鉄分。

I はじめに
慶慮義塾大学法科大学院きつてのレールファンであり、京都のご出身である安冨潔教授のご退職を、まもなく北陸新幹線が延伸開業するというこのタイミングで記念するにあたっては、いわゆる特急サンダーバード強姦事件I)を題材にするのが自然であろう。
特急サンダーバードは、特急雷鳥の後継として、主に大阪駅富山駅聞を東海道本線湖西線および、北陸本線経由で走っている列車である。普通列車よりも特急列車の方が本数が多いことなどから特急街道とも呼ばれる北陸本線の今日における代表的存在であるが、北陸新幹線の延伸開業に伴い、それとの重複区間について運行が廃止される予定である。
平成18年の特急サンダーバード強姦事件は、同特急の富山発大阪行き列車が福井駅から京都駅を経て新大阪駅までを走行中に、その車内で発生した強姦事件であった。暴行・脅迫は座席において加えられており、姦淫はトイレだけでなく洗面所でも行われていて、ほかにも乗客のいる運行中の特急の車内が現場であったことから世間の耳目を集めた。それ以外に普通列車の車内や駅のトイレでも強姦を繰り返すなどした被告人(強姦3件、傷害l件)に対して、懲役18年(求刑懲役25年)を言い渡した第1審判決は、量刑の理由において次のように述べている。

ここでは、本件が個別の具体的事件として社会にもたらした影響に触れつつも、公共交通機関において公然と行われる強姦罪は一般的に、公共交通機関の安全・安心の確保という観点から厳罰に処する必要性が高いことが指摘されている。同判決ではそれ以上具体的に示されてはいないが、強姦罪が公然と行われること、および、公共交通機関において行われることは、いかなる意味で厳格な刑事的対応を要求するのであろうか。
本稿では、この問題意識を切り口として、強姦罪(以下では、強制わいせつ罪なども含めて「強制系犯罪」と呼ぶことがある)と公然わいせつ罪(以下では、わいせつ物頒布等罪なども含めて「公然系犯罪」と呼ぶことがある)の特質を明らかにしたい2
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VII おわりに
強姦罪は、テーマの重要性に比して刑法学界における議論のあつみが不足しており、そのことがまた、議論の深化を滞らせる原因にもなっていると思われる。議論が充実しないのは、論ずべき必然性や理由がないところでは議論しづらいテーマだからであろう。それは、性行為非公然の原則が議論自体にも半ば及ぶからでもあり、また、主張が論者の人格を映すように強く感じられてしまうために、他者の見解を批評することが躊躇われるからでもある。冒頭で特急列車などを持ち出し、テーマ選定の必然性を示すことから本稿を始めた所以である。
最後に1点だけ補足しておきたい。筆者がいま在外研究のために滞在しているカナダのブリティッシュ・コロンピア大学では、公式マスコットが定められ、目に付くところで多用されている。そのマスコットもThunderbirdなのであった。