児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

公然わいせつ罪は傾向犯ではないという判例(東京高裁s27)と、傾向犯と理解したような判例(東京高裁H17.2.7)

猥褻物公然陳列同幇助及び詐欺被告事件
東京高等裁判所判決昭和27年12月18日
甲男が乙女と相談の上、乙女をしてキヤバレー内ホールにおいて数10名の観客の取り巻く裡に、腰部に白色のサロン1枚を纏い、胸部に乳バンド1本を着けたのみの半裸体で立ち現われ、「マニヒニメレ」と題するジヤズ演奏に合わせて臀部をことさらに動かすいわゆるフラダンスを踊りながら、先ず乳バンドを取り去り、次いでサロンを脱ぎ捨て陰部を露出した後さらに両脚を交互に挙げ両股を開いたまま臀部を床に着ける等の挙措をさせた行為・・・
。。。
刑法第百七十四条にいわゆる猥褻の行為とはその行為者又はその他の者の性慾を刺戟興奮又は満足させる動作であつて、普通人の正常な性的羞恥心を害し善良な性的道義観念に反するものと解するのを相当とする。即ち行為者が自己の性慾を刺戟興奮又は満足させる目的でその動作に出る場合が前記猥褻の行為に該当することはいうまでもないのであるが、この場合のみに限定すべきものではないであつて、たとえその動作により行為者自身の性慾は刺戟興奮又け満足させられなくとも、その動作により行為者以外の者の性慾が刺戟興奮又け満足させられるのであれば、この場合も亦刑法第百七十四条にいわゆる猥褻の行為に該当するものと認めるべきである。

東京高等裁判所平成17年2月7日第9刑事部判決
4 以上のとおり,被告人の自慰行為を目撃したとするAの原審証言部分には,その信用性に種々の疑問を差し挟まざるを得ないのであって,これに信用性を認めて被告人による自慰行為の事実を認定した原判決の認定説示は首肯し難いというべきである。
 原判決は,Bの検察官に対する供述調書(甲2)中のBが被告人の自慰行為を見ていない旨の供述とA証言との食い違いについて,Bは「そもそも被告人の陰部付近の様子を見ていない旨述べているのである。」との前提をとり,「Bは当時32歳の女性であって,男性の陰部付近に視線をもっていくことをとっさにためらうということも十分あり得るし,仮にいくらか視界に入ったとしても,これこれのような状況であったとはっきり供述できるような見え方でなかったということも考えられること,Bが見たと述べる状況だけでも被告人に対する職務質問を決意させるに十分なものであり,あとは一刻も早く声をかけることを考えていたとみる余地も十分にあることなども考慮すると,Bが本件行為を目撃した旨の供述をしていないからといって,A証言の信用性を否定すべきであるとまではいえない」旨説示するが,既に見てきたとおり,Bの当審証言によって,その前提とするところを欠いていることは明らかであり,是認することができない。Bの当審証言は,同人の検察官に対する供述内容と同趣旨ではあるものの,その詳細を見てみると,Aの原審証言の信用性を大きく揺るがすものであって,ひいては原判決の事実認定に重大な疑問を生じさせるものであるといわざるを得ない。
 そこで,Aの原審証言が信用できないとしても,なお関係証拠を総合すれば,原判決の事実認定が維持できるものであるかを次に検討しておくと,検察官は,当審弁論において,本件現場近くに「M劇場」というポルノ映画館があり,当日オールナイトの上映を行っており,被告人も職務質問を受けた際に,「Mに行ってきたので我慢出来なくなってやった,男なら分かるでしょう。」などと言っていたのであるから,被告人が自慰行為をしていたと認めるに十分であるなどと主張する。検察官の指摘する被告人の言動についても、被告人自身は否定するものの,B及びAの両名の証言が一致しているところであって,その内容からすると被告人が自慰行為をしていたことを認めた趣旨と理解できないでもない。
 しかしながら,被告人が同劇場に行ってポルノ映画を見たことを裏付ける直接的な証拠はない。〈略〉被告人が前述のような格好をしていたところを警察官に見とがめられ,放火犯という疑いをももたれながらあれこれ職務質問をされた際に,本名や〈略〉身分を明らかにしないまま何とか逃れようとして,警察官に必死に謝罪したり,また,警察官に迎合し,目撃された際の格好に沿う話をしてその場を取り繕い,理解を求め許してもらおうとして,上記のようなことをAに述べたと見ることも十分可能である。また,被告人がこれから自慰行為をしようとしていたともいえないことはない。そうすると,少なくとも,被告人がAに述べた内容から,被告人が自慰行為を自認したと認定することはできないというべきである。 
 その他関係証拠を精査しても,被告人が自慰行為を行っていた事実をうかがわせるに足る証拠を見いだすことはできない。
 そうすると,結局,関係証拠を総合しても,本件当時,被告人が自慰行為を行っていた事実を認めるには足らないというべきであり,「罪となるべき事実」として被告人が「右手で自慰行為を行い」と認定している原判決には事実の誤認があるといわざるを得ない。この点において,原判決は破棄を免れない。
5 被告人に対する公然わいせつ罪認定の可否
 以上検討してきたところを前提として,被告人に公然わいせつ罪に該当する事実を認定できるか否かを更に検討する。
(1)まず,当審で取り調べた証拠も含め,関係証拠により認めることができる被告人の行為は,以下のとおりである。
ア 被告人は,本件発見時に本件位置において,東側の壁に向かって立って,トレーナーのすそを上げて胸のところまで上半身を露出し,半ズボンを太股の真ん中,ひざと足の付け根の真ん中くらいまで下げて下半身を露出した状態であった。この段階では,被告人が体の正面を壁の方に向けていたため,Bらからは,露出された被告人の背中,臀部付近は見えたが,陰部は見える状況になかった。
イ 被告人は,近づいてきた本件車両の気配を感じて,トレーナーが上がり,上半身が胸の辺りまではだけ,下半身を露出したままの状態で,本件車両の正面方向に正対するような形で振り向いた。そのため,Bらによって被告人の陰部が露出しているのを目撃された。
 被告人は,追尾してくる不審車両をやり過ごすため,左手を陰部にあてて立ち小便のふりをしていただけであり,ズボンの前のベルトの部分を陰部の上付近までVの字のように下げたが,陰茎を出してはおらず,ズボンの後ろ側は下げていない旨供述する。しかしながら,Bらが目撃したとする被告人の格好は極めて特異であり,しかも先に見たとおり,本件において重要と思われる事実についてのB及びAの証言は大きく食い違っているのに対して,この点については両名の証言は完全に符合している。本件においては,B及びAの両名がそれぞれの立場から証言していることは明らかであり,警察官同士であるからといって口裏合せをしたり,互いに証言内容を符合させようとする様子は全くうかがえない。そうすると,両名の証言は前述の限度においては,互いに補強し合う関係にあって十分に信用できるというべきである。被告人の供述は,少なくとも本件当時の着衣の状況に関しては前記認定を揺るがすには足らない。
(2)そこで,関係証拠によって認められる前記の「トレーナーを胸のところまで上げ,半ズボンを太股の真ん中まで下げて下半身を露出し,それに伴い陰茎を露出した」行為(以下においては,これを「本件行為」という。)が,本件において「わいせつな行為」と認定できるかが問題となる。当該行為が「わいせつな行為」に当たるか否かは,その行為がなされた具体的状況如何にかかるのであって,公然性が否定できない本件のような事案においても,その具体的状況によっては,「わいせつな行為」とは認めるに足りないことも十分あり得るところである。例えば,本件のような行為が子供が小便をするために衣服を上下に下ろしたとしても,それが「わいせつな行為」だという者はいないであろう。被告人のような成人男子の場合には,もとより,子供と同列に扱うことはできないが,なお,具体的状況によっては,「わいせつな行為」とまでは認められない場合があり得るというべきである。そこで,本件においては,以下のような事情を考慮しなければならない。
ア 関係証拠によれば,本件行為が行われたのは,夏至の約1週間後の午前4時ころから午前5時ころにかけての早朝の時間帯であり,その場所は,幅員約5.7メートルの一方通行の裏通りで,寺院の墓地前の壁沿いの場所であった。被告人は,Bらの乗った本件車両に気付くまでは,道路脇の壁から約1.5メートル程度離れた地点で,壁に正対した状態で立っており,露出された陰茎は当該道路を通行する者からは見えにくい状況にあった。また,本件行為を目撃したのは2名の警察官だけであり,本件当時,現場付近には,Bらの車両のほかに通行人がいたり,走行車両があったなど,Bら以外の者が被告人の行為を目撃する具体的な可能性があったことを認めるに足る証拠はない。
 そうすると,本件行為は,当該道路を通行する者やその近隣に居住する不特定の者によって認識し得る状況にあったことは否定し難いものの,その可能性は極めて低い時間的・場所的状況下においてなされたというべきである。
イ 被告人が,陰茎を露出した状態のままで,本件車両で近づいてきたBらの方向に体を正対した事実は動かし難く,被告人の当該行為は,単に陰茎を露出していたにとどまらず,これをことさらBらに示したのではないかとの疑いを抱かせる行動である。Aは,車から降りたBが警察手帳を示すと,被告人が一瞬ひるんだ様子を示し,あわててズボンを上げた旨証言しており,被告人がBらが警察官であることに気付くまで自己の陰茎をことさらに見せていたことをうかがわせるような証言をする。しかしながら,被告人に職務質問しようとしたB本人は,被告人の顔を見ながら被告人に近づき,警察手帳を示したが,被告人が一瞬ひるんだ様子を示したことは覚えておらず,ズボンを上げたのは職務質問中にその気配を感じたがどの時点だったかははっきりしない旨証言しており,「こちらを向いたときに全く隠すそぶりがなかった。」,「こちらに見せたと理解した。」という程度のものであって,この点についてもやはりAの証言をそのまま信用するわけにはいかない。また,仮に,被告人がことさら他人に自己の陰茎を見せようと考えていたのであれば,そもそも人通りのない路地で早朝に壁に向かって陰茎を露出していたという態様自体がその意図とそぐわないともいえる。さらには,B及びAの一致して証言するところによれば,被告人は一旦大きな通りまで行き,左右を確認するような挙動をした後に,本件現場に向かい,本件行為に及んだというのであるから,あたかも人気がないのを確認したかのようでもあり,これら一連の挙動からすると,被告人の行った行為が他人にことさら示す意図の下に行われたものであったとは考えにくいところである。被告人の警察官に対する供述調書中には,「陰茎を見せた」という記載があるが,「陰茎を出したまま,陰茎を見せてしまったのです。」などという表現によるだけのもので,具体性がなく,どのような態様で行われたのか,Bに対してことさら見せようとしたのかもその供述内容自体からは不明である。また,被告人の検察官に対する供述調書中には,「右手で陰茎を握ったまま体を捻るようにしてその車の方を向き,小便を切るのを見せるため,右手で陰茎を振ったのです。車の中の2人には見えるようにしました。」との供述があるが,当該供述は,そもそもBが目撃した状況と全く符合しないものであり到底信用できない。
 そうすると,被告人がBらの方向に陰茎を露出した状態のまま正対した事実を捉えて,それがことさらに示した行為であると認めることもできないというべきである。
ウ 被告人が陰茎を露出していた時間については,B,Aのいずれの証言においても,せいぜい十数秒程度であって,それほど長い時間であったとはいえない。
エ 検察官は,本件行為は,上着のトレーナーをめくり上げるなどいわゆる露出狂による行為態様に完全に符合するものであり,被告人が公然と陰茎を露出し,ことさらBらに見せようとしていた行為であるかのように主張するが,当該主張を裏付けるに足る証拠はなく,被告人にそのような嗜好があったことをうかがわせる証拠も何ら認められない。確かに被告人が本件現場において特異な格好をしていた理由については,被告人がそれ自体も否認しているためにつまびらかではないが,その客観的な行為態様のみから,当該行為がいわゆる露出狂による性的興奮を満足させるための行為であったと認定できるものではない。
(3)以上の諸事情を総合すると,被告人の本件行為は,陰茎を露出した行為ではあるものの,通常人の正常な性的差恥心を害し善良な性的道義観念に反する行為,すなわち「わいせつな行為」であると認定するに足らないというべきである。
 なお,弁護人は,被告人が本件行為を行った時刻について,Bらが最初に被告人の姿を認めた午前3時58分からそれほど経っておらず,午前4時30分ころという原判決の認定は誤りであって,まだ夜明け前の薄暗い時間帯であった旨主張する。最初に被告人の姿を認めた時刻から,本件発見時までのBらの行動は時間的経過の中で明確でなく,また,B及びAの証言が一致していない部分もあるため,約30分もこの間に経過していたかどうか不明であって,被告人の供述するところも踏まえると,本件発見時が午前4時30分ころより早い時刻であった可能性を否定することはできない。しかしながら,本件行為は,既に述べたとおり,その当時の周囲の明るさの点をおいたとしても,すなわち,Bらにはっきり認識できる状況下であったとしても、これを「わいせつな行為」と認定するには足らないというべきであるから,本件当時の周囲の明るさは本件においては前記結論を左右するものではない。
 以上のとおりであるから,事実誤認の論旨には理由がある。 
第3 破棄自判
 よって,その余の論旨について検討するまでもなく,刑訴法397条1項,382条により,原判決を破棄し,同法400条ただし書により,当審において被告事件について更に判決する。
 本件公訴事実は,前記第1,2において記載したとおりであるところ,前記第2において詳細に検討したとおり,原審及び当審において取り調べた関係証拠を総合してみても,前記本件行為の限度で認定ができるだけで,当該自慰行為が合理的疑いを超える程度に証明されているとはいえず,本件行為もわいせつな行為とは認めるに足りないから,結局,本件公訴事実については犯罪の証明がないことに帰する。そこで,刑訴法336条により無罪の言渡しをする。
 よって,主文のとおり判決する。
平成17年2月7日
東京高等裁判所第9刑事部
裁判長裁判官 原田國男 裁判官 渡邊康 裁判官 佐々木一夫