児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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児童の姿態を描写して児童ポルノを製造する目的児童を売買罪の検挙

 初めて使う規定なんだけど、解説はこれくらいしかない。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(H26改正後)
(児童買春等目的人身売買等)
第八条  児童を児童買春における性交等の相手方とさせ又は第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を描写して児童ポルノを製造する目的で、当該児童を売買した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
2  前項の目的で、外国に居住する児童で略取され、誘拐され、又は売買されたものをその居住国外に移送した日本国民は、二年以上の有期懲役に処する。
3  前二項の罪の未遂は、罰する。

森山野田「よくわかる改正児童買春ポルノ法」
本条は、児童買春等目的人身売買等の罪を定めたもので、児童を児童買春における性交等の相手方とさせ又は児童ポルノを製造する目的で、児童を売買した者は、1 年以上10 年以下の懲役に処せられ、同様の目的で、外国に居住する児童で略取され、誘拐され、又は売買されたものをその居住圏外に移送した日本国民は、2年以上の有期懲役に処せられることになります。
このような規定を置いた趣旨は、東南アジア等において、児童買春、児童ポルノの製造目的で、児童が売買等されている実態に対処しようとするものです。刑法においては、日本国外に移送する目的での人身売買、あるいは略取等された者を日本国外に移送することは処罰されますが、上記の行為は処罰されない(もっとも、この点については2005年の第162回通常国会において、政府から刑法等の一部を改正する法律案が提出され、日本から国外へ移送する場合に限らず、所在する国からその国外へ移送する場合がが広く処罰されることも盛りこまれています。)ので、この法律において規制することとしました。
なお、児童の人身売買については、児童買春、児童ポルノの製造目的以外にも、強制労働目的、臓器提供目的等の態様はありますが、この法律は、児童買春、児童ポルノに係る行為を規制して、児童の権利を擁護することが目的なので、児童買春、児童ポルノの製造目的の人身売買のみを処罰することとしました。
(1)「児童買春」 及び「性交等」 の意義は、第2 条第2 項の定義を参照してください。児童を児童買春における性交等の相手方とさせるとは、例えば、児童買春クラブのオーナーが児章を児輩買存の相手方となる業務に使用することがその例です。
(2) 単に「児童ポルノを製造する目的」と規定するのではなく、「第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を描写して」という文言を入れたのは、当該児童の性的な姿態、を描写した児童ポルノを製造することを明らかにするためです。例えば、児童ポルノの写真撮影をする際の撮影助手として児童を使用するため、児童を売買することは、第1 項で規制する児童の売買ではありません
(3)「児童ポルノ」 の意義については、第2 条第3 項の定義を参照してください。また、[製造」の意義については第7 条の(9)の解説を参照してください。
(4)「売買」 とは、対価を得て人身を授受することをいいます。
(5) 児童買春春等目的の人身売買罪の法定刑は、l 年以上10 年以下の懲役となっています。これは、刑法第225 条の営利目的等略取及び誘拐の罪の法定刑を考慮して決めたものです。

 人身売買の定義がありませんが、刑法を見て下さい。

条解刑法
3) 1・2・3項の罪の行為「人を買い受けた」とは,対価を支払って売主からその事実的支配下に置かれた人身の引渡を受け,自己の事実的支配下に置くことである。
民法上の売買とは異なり,単に契約が成立しただけでは足りず,事実的支配の移転を要する。売主と買主の聞に被売者の処分権限を移転する合意がなく,借金の担保等として,いずれ売主にその人の支配を戻す約束で,その事実的支配を売主から買主に移転した場合でもよい。
婚姻の形態を取っていても,金銭を支払って外国人女性を自己の事実的支配下に置く行為は,人の買受けに当たる。金銭を支払って養子を迎えた場合であっても,親子関係を逸脱する事実的支配がなければ,人を買い受けたとはいえない。事実的支配の移転には,場所的移転を要しない。
対価は金銭以外のものでもよく,財物との交換はもちろん,債務免除,弁済期の猶予等でもよい。人身売買を処罰する趣旨からすれば,不法な利益も含まれると解すべきで、人身同士の交換も除外すべきではない。
売買の申込みが実行の着手と解される。売主から売買の申込みがあった場合はその申込みに対する承諾が実行の着手になる。人身の引渡しがあれば対価の授受がなくても既遂になる。
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7) 4項の罪の行為「人を売り渡した」とは,対価を得て売主の事実的支配下に置かれた人身を買主に引き渡すことである。
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9) 5項の罪の行為
人を売買することであり,「人を売り渡す」ことと「人を買い受ける」ことの両方である

島戸純「『刑法等の一部を改正する法律』について」捜査研究 第649号
「人を貰い受けた」とは,対価を支払って現実に人身に対する不法な支配の引渡しを受けたことをいい「人を売り渡した」とは,対価を得て現実に人身に対する不法な支配を引き渡したことをいう。これは,従前の226条2項前段の「人を売買し」との構成要件について,単に売買の約束をしただけでは足りず、 実際に人の支配を移転させることを要するとの解釈が確立されていることを前提とするものである。
ア対価は金銭以外のものでもよく,財物との交換も売買に当たり、また,従前の債務の免除と引き換えに人の支配を移転させるような場合も売買に当たると解される。さらに,担保として人身の支配を移転することにより,既に弁済期にある借金の当面の支配を免れたり、将来における弁済期の延期その他借金弁済上の条件の有利な変更を得たりすることなどは,財産上の利訴の対側としての移転があったものとして「売買」 に当たり得るものと思われる。
イ 人の買受け,売渡しは,人に対する支配を要素とするものである。「人を支配下に置く」 とは「物理的,心理的な影響を及ぼし,その意思を左右できる状態の下に対象者を置さ,自己の影響下から離脱することを図難にさせること」 をいうところ,場所的移動の有無やその程度、自由拘束の程度やその時間の長短,対象(被害)者の年齢、犯行場所の情況,犯行の手段方法等あらゆる要素を総合考慮して決定されるものと考えられる。したがって,必ずしも被害者の自由を完全に拘束することまでは必要ないし,人を終局的に処分する権限までを移転させる必要はない。
債権の担保のような形で,一定期間第三者に対して対象者に対する支配を移転し,後日その支配の返還を受けることを約しているような場合であっても,有償で人身の引波しがなされ、これを受けた者が定期間対象者への」独立した支配を取得したと認められるのであればτ「買受け受け」,「売渡し」 に該当し得る。
例えば,外国人女性を売春スナックさせるに際し,①当該女性のパスポートを取り上げただけで「支配」が認められるかは, 概には断じられないが、言葉も地埋も分からない地に連れて来られた外国人女性の立場からすれば,それのみをしても。パスポートを取り上げた者の影響からの離脱は相当程度困難になると思われるうえ、さらに。②指定した住居に住まわせる③スナック等に出勤して売春しないと罰金等の名目で報酬を与えない,④高額の借金を負わせる,⑤逃げ出せば、本人又はその親族に危害を及ぼす旨明示的又は黙示的に告知する、などの各行為のいずれかと相まって「支配」行為を認定する重要な要素となるものと考えられる。
なお、買受行為。売渡行為ともその既遂時期は,現実に人身の授受がなされ,引渡しがあったと評価できた時点である。
ウ対象者が白らの支配の移転につきす自由かつ翼撃な意思に基づいて同意している場合には,買受者がその支配下に置いたとは考え難いうえ,また,人身の自由という個人的な保護法話からしても,人身売買罪は成立しないと解されるが,実態としては,行為者による搾取の目的や、暴行・脅迫・欺もう・誘惑,金銭の授受等の手段が認められる以上 被害者が,行為者の支配下に置かれることについて,その自由かつ真摯な意思、に基づいて同意しているという場合は想定し難い。
例えば,家族を貧困から救うために1 親からの働きかけなしに被害者が自ら売春をして金銭を稼ぐことを希望していた場合, この続に金銭を支払うなどして被害者の支配を取得する事例において,被害者の同意は,自由かつ真撃な意思に基づいて不特定多数の遊客を相手とする売春を望んだものとは認め難く、当然に犯罪の成立が否定されるものではないと考えられる。
エその他,海外から金銭の授受を伴ってで我が国に養子として児童を連れて来たり,外国人女性を妻として迎えるに当たり,金銭の授受が行われる事例も存在するといわれているところ「人の不法な支配」の成否,授受される金銭等が対価といえるか否か,という事実認定や構成要件への当てはめの問題に帰着し,いずれも直ちに犯罪が成立しないとみることはできないが,真に親としての愛情等の発現や人道的な見地からされる養子縁組や,通常の結婚生活を送り,行動の自由が確保される結婚であれば,犯罪は成立しないものと思われる。

       人身売買被告事件
東京高等裁判所判決/平成22年7月13日
被害者を支配下に置いたといえるためには,被害者に対し,物理的又は心理的な影響を及ぼし,その意思を左右できる状態に被害者を置き,自己の影響下から離脱することを困難にさせることを要するところ,その「支配」の有無については,諸要素を総合考慮して決定されるべきものと解される。
被告人,共犯者Uらが,共謀の上,被害者2名(以下「被害者ら」という。)を空港に迎えてから,買受人に引き渡すまでの間,被害者らを自動車に乗せたり,Uの管理する借家に泊めたりしたことや,買受人に被害者らを引き渡し,買受人から売買代金を受け取ったことは認められるも,被害者らが,その間,勝手にビールを飲んだり,Uにたばこをねだったり,Uに分けてもらった国際電話のプリペイドカードで自由に国際電話をかけたりするなど,かなり気ままに振る舞っており,Uと和気あいあいと会話をしていたこともうかがわれるのに対し,被告人らが,被害者らに対し,物理的又は心理的な圧力を加えるような言動に及んだといった状況も見当たらない場合,被告人らが,被害者らを自己の支配下に置いたものとは言えない。

http://mainichi.jp/select/news/20150508k0000m040064000c.html
逮捕容疑は、容疑者が土浦市内のホテルで2月21日、生徒を容疑者に15万円で引き渡したとしている。同課によると、生徒は当時、家出をして容疑者の自宅で寝泊まりし、デリバリーヘルス店で働かされていた。容疑者は出会い系サイトで撮影に応じる中学生を探していたという。15万円のうち2万円は生徒に渡り、生徒は22日朝まで撮影に応じ、再び容疑者宅に戻った。両容疑者は容疑を認めているという。
 同課によると1999年の同法施行以降、児童ポルノ映像を撮影する目的で行われた人身売買容疑の摘発は初めて。県警は3月、生徒に売春させたとして容疑者を逮捕し、供述などから今回の容疑が浮上した。
 容疑者の自宅からは、この生徒のほか、未成年とみられる女性を撮影したDVDが数十枚見つかり、余罪を調べている。容疑者は「5年ぐらい前から撮っていた」などと供述しているという。