児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

わいせつな動画ファイルのファイル共有に関する著作権侵害を理由にする損害賠償請求について

 外国法人が外国に設置したサーバーがらダウンロード販売で配信しているわいせつな動画を、ファイル共有ソフトで流している日本国内の者に対して、日本人の弁護士を代理人として著作権侵害を理由として、高額の損害賠償を請求する事案の相談が相次いでいます。
 
 著作権の発生としては、わいせつな動画であっても、支障ないのかも知れませんが、最決H26.11.25を前提にすると、この法人の関係者は日本国内に入るとわいせつ電磁的記録記録頒布罪で検挙されうるわいえで、「日本国内では違法な画像を無断で公衆送信したことについての損害」の回復に、日本の裁判所が手を貸すのかは疑問です。
 業界も、同法人からの発信者情報開示請求についても慎重に対応するらしいです。

事件番号  平成25(あ)510
事件名  わいせつ電磁的記録等送信頒布,わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管被告事件
裁判年月日  平成26年11月25日
法廷名  最高裁判所第三小法廷
裁判種別  決定
結果  棄却
判例集等巻・号・頁  
原審裁判所名  東京高等裁判所
原審事件番号  平成24(う)2197
原審裁判年月日  平成25年2月22日
判示事項  1 刑法175条1項後段にいう「頒布」の意義
2 顧客のダウンロード操作に応じて自動的にデータを送信する機能を備えた配信サイトを利用してわいせつな動画等のデータファイルを同人の記録媒体上に記録,保存させる行為と刑法175条1項後段にいうわいせつな電磁的記録の頒布
裁判要旨  1 刑法175条1項後段にいう「頒布」とは,不特定又は多数の者の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を存在するに至らしめることをいう。
2 不特定の者である顧客によるダウンロード操作に応じて自動的にデータを送信する機能を備えた配信サイトを利用した送信により,わいせつな動画等のデータファイルを同人の記録媒体上に記録,保存させることは,刑法175条1項後段にいうわいせつな電磁的記録の「頒布」に当たる。
参照法条  (1,2につき)刑法175条1項後段
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/650/084650_hanrei.pdf
所論に鑑み,職権により判断する。
1 原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,(1)日本在住の被告人は,日本及びアメリカ合衆国在住の共犯者らとともに,日本国内で作成したわいせつな動画等のデータファイルをアメリカ合衆国在住の共犯者らの下に送り,同人らにおいて同国内に設置されたサーバコンピュータに同データファイルを記録,保存し,日本人を中心とした不特定かつ多数の顧客にインターネットを介した操作をさせて同データファイルをダウンロードさせる方法によって有料配信する日本語のウェブサイトを運営していたところ,平成23年7月及び同年12月,日本国内の顧客が同配信サイトを利用してわいせつな動画等のデータファイルをダウンロードして同国内に設置されたパーソナルコンピュータに記録,保存し,(2)被告人らは,平成24年5月,前記有料配信に備えてのバックアップ等のために,東京都内の事務所において,DVDやハードディスクにわいせつな動画等のデータファイルを保管したというのである。
2 所論は,サーバコンピュータから顧客のパーソナルコンピュータへのデータの転送は,データをダウンロードして受信する顧客の行為によるものであって,被告人らの頒布行為に当たらず,また,被告人らの行為といえる前記配信サイトの開設,運用は日本国外でされているため,被告人らは,刑法1条1項にいう「日本国内において罪を犯した」者に当たらないから,被告人にわいせつ電磁的記録等送信頒布罪は成立せず,したがって,わいせつな動画等のデータファイルの保管も日本国内における頒布の目的でされたものとはいえないから,わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪も成立しないという。
3 そこで検討するに,刑法175条1項後段にいう「頒布」とは,不特定又は多数の者の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を存在するに至らしめることをいうと解される。
そして,前記の事実関係によれば,被告人らが運営する前記配信サイトには,インターネットを介したダウンロード操作に応じて自動的にデータを送信する機能が備え付けられていたのであって,顧客による操作は被告人らが意図していた送信の契機となるものにすぎず,被告人らは,これに応じてサーバコンピュータから顧客のパーソナルコンピュータへデータを送信したというべきである。
したがって,不特定の者である顧客によるダウンロード操作を契機とするものであっても,その操作に応じて自動的にデータを送信する機能を備えた配信サイトを利用して送信する方法によってわいせつな動画等のデータファイルを当該顧客のパーソナルコンピュータ等の記録媒体上に記録,保存させることは,刑法175条1項後段にいうわいせつな電磁的記録の「頒布」に当たる。