児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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「被告人が、知人である共犯者A及び関係者Bが被害者C及び被害者Dとそれぞれ情交関係を持ったことを知り、これを口実に被害者C及び被害者Dから金員を喝取しようと企て、共犯者Aと共謀して、平成23年3月1日夜、約2時間半にわたり、宇都宮市内のコンビニエンスストアの駐車場に駐車中の自動車内で、被害者C及び被害者Dに対して、「俺はこいつの彼氏だ。こいつはおまえらに無理矢理やられたと言っているんだ。どうなんだ。」、「俺は、おまえらのことを埋めてしょんべんひっかけたいほど腹が立っているんだ。」、「事務所に行って話をして

東京高等裁判所(刑事)判決時報63巻213頁
東京高等裁判所
平成24年10月30日

       主   文

 原判決を破棄する。
 被告人を懲役2年に処する。
 原審における未決勾留日数中210日をその刑に算入する。
 この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。


 3 事実誤認の論旨について
 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人が、知人である共犯者A及び関係者Bが被害者C及び被害者Dとそれぞれ情交関係を持ったことを知り、これを口実に被害者C及び被害者Dから金員を喝取しようと企て、共犯者Aと共謀して、平成23年3月1日夜、約2時間半にわたり、宇都宮市内のコンビニエンスストアの駐車場に駐車中の自動車内で、被害者C及び被害者Dに対して、「俺はこいつの彼氏だ。こいつはおまえらに無理矢理やられたと言っているんだ。どうなんだ。」、「俺は、おまえらのことを埋めてしょんべんひっかけたいほど腹が立っているんだ。」、「事務所に行って話をしてもいい。」、「警察に行って話してもいい。」「おまえらは俺の女を無理矢理やったんだから、こいつが警察に言えば、おまえらは逮捕されるんだぞ。それでもいいのか。弁護士に言って裁判やれば500万円くらい取れるんだ。」などと、被害者Cに対して、「おまえは、やられた俺の女にも払わなきゃいけないし、女をやられて傷ついた俺にも払わなきゃいけない。」、「俺からは金額の話は言えねえ。」などと、被害者Dに対して、「女は無理矢理やられたと言ってるんだ。どうすんだ。」、「相手は10万円じゃ手打てねえって言ってる。」などと、それぞれ語気鋭く申し向け、被害者Cにおいて被告人及び共犯者Aに対して各25万円、被害者Dにおいて関係者Bに対して20万円を支払うようそれぞれ約束させ、さらに「X一家Y会内Z組Y1」などと記載された名刺を示して被害者Cらを畏怖させたが、金員を喝取できなかった、というものである。
 被害者D及び被害者Cの各供述によれば、被告人が上記脅迫文言を述べて両名に金銭の支払を約束させ、さらに上記名刺を示したことが認められる。被告人は、脅迫文言の一部について述べていない旨供述するが、上記脅迫文言に関する被害者D及び被害者Cの各供述は捜査段階から公判段階にかけて概ね一貫し、原判示のとおり他の証拠にも符合しており、その信用性に疑いを持たせる事情は存しない。
 所論は、被告人が被害者Cらに上記脅迫文言を述べるなどしたとしても、それは、意に反して共犯者A及び関係者Bを姦淫したことに対する慰謝料、少なくとも未成年である共犯者Aらと姦淫したことに対する慰謝料を支払うよう求めた正当な権利の行使に当たり、恐喝罪にいう脅迫に該当しないと主張する。
 原判決は、共犯者Aが合意の上で被害者Cらと情交したことを被告人に伝え、被告人はそれを承知の上で共犯者Aらが強姦されたことにして被害者Cらから金を脅し取ることにした旨の共犯者Aの捜査段階の供述は、関係者Bの捜査段階の供述と核心部分で一致するなどして信用できるとし、これと相反する共犯者Aの公判供述及び被告人の供述は信用できないとする。しかし、共犯者Aは本件による逮捕直後に作成された警察官調書(当審弁3)において、被害者Cとの情交を嫌がって途中で止めた旨や関係者Bが情交に積極的でこれをたしなめた共犯者Aに関係者Bが怒った旨の供述もしており、このような供述は、共犯者Aがその場にいた5人での情交に積極的でこれを嫌がった関係者Bに共犯者Aが腹を立てた旨の関係者Bの検察官調書(原審甲43)の供述と必ずしも一致しているとはいい難い。そもそも共犯者Aらは、被害者Cらとは初対面で当初は居酒屋に誘われこれに応じたが、意に反して自動車でラブホテルに連れて来られたものであり、飲酒後合意の下で情交に応じたとしても、上記の供述等からもうかがえるように、状況からして不承不承これに応じた可能性がないとはいえない。そして、共犯者Aは被害者Cとの情交を被告人に説明するに当たり、一方で遊びだった旨を言いつつも、他方で不承不承応じた旨、さらには無理矢理応じさせられた旨の弁解めいたことを述べた可能性もまたないとはいえない。そして、共犯者Aの公判供述は曖昧な供述態度に終始しており信用できないが、警察官に対してもどうでもいいという気持ちで話した旨供述していることに照らすと、捜査段階の供述についても、情交した際の気持ちやその気持ちを被告人にどう説明したかという点に関して、正確に供述しているかどうか慎重に検討する必要がある。また、被告人の供述をみると、原判決は、共犯者Aとの情交に至る経緯に関する同供述は変遷している上、通話状況に照らして著しく不自然と指摘するが、指摘された変遷は共犯者Aとの交際状況を中心とするもので、情交の際の共犯者Aらの気持ちの場面で重視するのは相当でないし、通話状況についても著しく不自然とする具体的根拠が明らかでなく、そうとまで断じることもできない。確かに、被告人の供述には不自然な点が多いが、上記のとおり、共犯者Aからどう説明を受けたかはなお検討の余地があることを踏まえると、不自然な点が多いからといって、共犯者Aから無理矢理やられた旨、あるいはそれに近い言葉を聞かされたという弁解について、直ちに排斥できるのか疑問が残る。所論指摘のとおり、被告人において、共犯者Aらが強姦されたとはいえないにしても、その意に反して不承不承姦淫されたという程度の認識もあったのではないかという疑いは払拭できない。
 また、仮に被告人が上記情交が共犯者Aらの意に反することなく行われたと認識していたとしても、未成年者に対する情交として、一定の慰謝料を請求できると考えていたと認める余地もある。原判決は、被告人が強姦罪を犯したことを前提とする金銭要求をしていたから、青少年健全育成条例違反による金銭要求とする弁護人の主張は前提を欠くとするが、本件脅迫文言が強姦のみに限定したものとは断定できないし、被害者Cの検察官調書抄本(原審甲5)によれば、被告人が強姦の点だけではなく、未成年者に対する姦淫の点をも並行して追及していることが認められる。
 いずれにしても、本件は、被告人が共犯者Aの知人として一定の慰謝料を請求したものであるという可能性を排斥することは困難であり、少なくとも被告人の認識においては権利行使の面も有していた疑いが残る。被告人の金銭要求は権利行使とみる余地がない旨の原判決の判断には賛同できない。
 しかしながら、本件の行為態様をみると、被告人は、午後7時46分ころから約2時間半以上にわたり、駐車中の自動車内で上記文言を被害者D及び被害者Cに語気鋭く述べ、そのうちには暗に暴力団の威力を示す文言も含まれており、その結果上記の支払を約束させ、その後暴力団構成員であることを示唆する名刺まで示している。被告人の上記所為は、被害者Cらをして生命・身体等に危害を加えられるかもしれないと畏怖させるものであって、権利の行使として社会通念上忍容すべきものと一般に認められる程度を逸脱するものであることは明らかである。自動車内からの出入りに制限がなかったこと、外部への電話連絡が可能であったこと、被害者Cの知人に電話で連絡できたこと等の所論指摘の事情が上記判断を左右しないことは原判示のとおりである。被告人が名刺を示したのは、支払を免れようとすれば暴力団組織を利用して取立てを図ることもあり得る旨暗示したものとする原判示の内容も合理的である。そうすると、被告人に恐喝未遂罪が成立するというべきである。
 なお、被害者Cが被害について相談に出向いたE警察署の警察安全相談記録簿(3月23日分)には「その際、暴行や脅迫等はされていません」と記載され、継続相談措置経過簿には「現時点まで、恐喝などの事実はないとのこと」と記載されているところ、上記警察安全相談記録簿を作成した警察官Fが、相談者が言ってもいないことは記録しない旨原審公判において供述している上、上記の各記載自体明確に脅迫や恐喝を否定する内容であることからすれば、その相談の際、被害者Cは被告人から脅されていたことを申告していなかったし、逆に脅迫はなかった旨述べたとの疑いは払拭できない。しかし、上記のとおり、本件は権利行使の可能性もあったから、被害者Cとしては、被告人から要求された金員を支払わなければならないかに関心が向き、被告人の要求が正当であるならば、脅迫されたことを言える立場にないと考えていたり、恐喝として訴えることにちゅうちょしたとしても不自然ではない。被告人が被害者Cらに上記脅迫文言を述べ暴力団構成員であることを示唆する名刺を示したことは前記のとおり認定できるのであり、上記の各記載によってこれが左右されるとはいえない。
 したがって、事実誤認をいう論旨は理由がない。
第10刑事部
 (村瀬均 河本雅也 池田知史)

 児童・青少年と性交したという話を聞くと、恐喝しようと企てる。

判例番号】 L06720800
       恐喝未遂被告事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決/平成24年(う)第1357号
【判決日付】 平成24年10月30日
【判示事項】 被告人は,知人である未成年の女性が本件の被害者と情交したことを聞き,被害者を脅して金員を脅し取ろうとしたが目的を遂げず恐喝未遂罪に問われ,原審が,懲役1年4月に処したのに対し,訴訟手続の法令違反,事実の誤認,量刑不当を理由に控訴した事案。控訴審は,検察官調書の採用は,手続き正義に反し違法とは言えないとし,事実誤認については,本件の行為態様は,権利行使として社会通念上忍容すべき程度を逸脱し,恐喝未遂が成立するとした。量刑については,被告人の認識において,権利行使の面も有していた疑いが残り,未遂であること等に鑑みると量刑上重きに失しているとし,原判決を破棄し,懲役2年,執行猶予4年に処した事例
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載