児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

法務省刑事局刑事法制企画官中村功一科刑上ー罪の関係にある数罪につき,重い罪及び軽い罪のいずれにも選択刑として罰金刑の定めがあり,軽い罪の罰金刑の多額の方が重い罪の罰金刑の多額よりも多いときは,罰金刑の多額は軽い罪のそれによるべきとした事例(名古屋高裁金沢支部平成26年3月18日判決(名古屋高裁刑事裁判速報760号),確定)(研修794号)

 処断刑期に悩みますね。

第2 事案の概要
本件は,被害者方に侵入した上,被害者に暴行を加えたという住居侵入・暴行の事案であり,住居侵入罪と暴行罪とは手段結果の関係,すなわち牽連犯として科刑上一罪の関係にある。住居侵入罪の法定刑は, 3年以下の懲役又は10万円以下の罰金暴行罪の法定刑は. 2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料である。検察官は.第一審において,科刑上ー罪の関係にある2個の罪のいずれについても懲役刑のほか選択刑として罰金刑の定めがあり,軽い罪の罰金刑の多額が重い罪のそれを上回る場合には罰金刑の多額は軽い罪のそれによるべきであるから,本件における罰金刑の多額は軽い暴行罪のそれ(30万円)によるべきである旨主張し,罰金20万円を求刑した。しかし裁判所は,検察官の主張を容れず,罰金刑の多額は住居侵入罪のそれ(10万円)によるものとし,被告人を罰金10万円に処する旨の判決を言い渡した(富山地判平成25年10月16日公刊物未登載)。
検察官は,これに対し,法令の適用の誤りがあるとして控訴し本件については科刑上ー罪として重い住居侵入罪の刑によって処断することになるものの,罰金刑の多額については暴行罪のそれによるべきである旨主張した。
第3  本判決の要旨
本判決は次のとおり判示し原判決を破棄して自判し被告人を罰金20万円に処する旨言い渡した。
「数罪が科刑上ー罪の関係にある場合.刑法54条1項は,『その最も重い刑により処断する』としている。そして,最も重い刑を定めるに当たっては,数罪の法定刑を対照してその刑の軽重を定めることになるが,選択刑が定められている数罪の比較対照方法については,各罪の重い刑種のみを取り出して比較対照し,処断刑を決定することになる(重点的対照主義。最高裁昭和23年4月8日第一小法廷判決・刑集2巻4号307頁参照)ところ,この場合に,その重い罪及び軽い罪のいずれにも選択刑として罰金刑の定めがあり,軽い罪の罰金刑の多額の方が重い罪の罰金刑の多額よりも多いときは,罰金刑の多額は軽い罪のそれによるべきものと解するのが相当である。なぜなら,このように解することが,数個成立する罪について社会的事実としての一体性があることから,数個の行為を包括的に『その最も重い刑』により処断することとした刑法54条l項の文言や趣旨に合致するといえるしまた,このように解することによって,重い罪及び軽い罪を合わせて犯した場合の方が,軽い罪のみを犯した場合よりも選びうる罰金刑の多額が低くなってしまうという不都合な事態を回避することができるからである。原判決が確定した判例・実務とする重点的対照主義は,刑の軽重を定めるについて,刑法10条,刑法施行法3条3項を適用しなければならないとするものであるが,軽い罪との関係において,選択刑である罰金刑の上限の扱いまで直接示しているとはいえず,上記のような修正ないし補充を排除しているとまではいえない。