児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「裁判員も先例を十分に踏まえた上で、『それでも死刑しかない』と結論を出している。高裁が先例だけを理由に破棄するのは制度の否定で、裁判官の独善だ」と批判する弁護士

 どこの刑訴法にそんなことが書いてあるんでしょうか?
 裁判員裁判制度が導入されても、法律上、控訴審の破棄事由は変わってないので、量刑不当の判断も従前通りですよね。
 刑法学会でも控訴審裁判員の量刑に盲従すべきという議論はありませんでした。

分科会Ⅱ 「裁判員裁判控訴審の在り方」 良心館107教室
「分科会の趣旨」(司会)京都大学酒巻匡氏
裁判員裁判控訴審の役割」一橋大学後藤昭氏
裁判員裁判控訴審の役割――実務家の視点から」東京高等裁判所大島隆明氏
裁判員裁判控訴審審査の在り方――課題と展望」京都大学酒巻匡氏

刑事訴訟法
第377条〔控訴申立理由−絶対的〕
左の事由があることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、その事由があることの充分な証明をすることができる旨の検察官又は弁護人の保証書を添附しなければならない。
一 法律に従つて判決裁判所を構成しなかつたこと。
二 法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
三 審判の公開に関する規定に違反したこと。
第378条〔同前−絶対的〕
左の事由があることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつてその事由があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
一 不法に管轄又は管轄違を認めたこと。
二 不法に、公訴を受理し、又はこれを棄却したこと。
三 審判の請求を受けた事件について判決をせず、又は審判の請求を受けない事件について判決をしたこと。
四 判決に理由を附せず、又は理由にくいちがいがあること
第379条〔同前−訴訟手続の法令違反と判決影響明白性〕
前二条の場合を除いて、訴訟手続に法令の違反があつてその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき法令の違反があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
第380条〔法令適用の誤りと判決影響明白性〕
法令の適用に誤があつてその誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、その誤及びその誤が明らかに判決に影響を及ぼすべきことを示さなければならない。
第381条〔量刑不当〕
刑の量定が不当であることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて刑の量定が不当であることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
第382条〔事実誤認と判決影響明白性〕
事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。

裁判員制度5年 判決の先に>中*市民感覚の量刑 模索
2014.05.26 北海道新聞
 「障害があることで明らかに刑が重くなっている。裁判員制度の最も恐れていたことが起こった」。大阪市の辻川圭乃(たまの)弁護士(56)は、その判決を事務所で聞いて、こう思った。大阪地裁は2012年7月、殺人罪に問われた発達障害の42歳の男性被告に懲役20年を言い渡した。検察官が求めた刑より4年重かった。知的障害のある被告らの弁護活動に取り組む辻川さんは、記者からコメントを求められて量刑理由を知った。
*再犯恐れ重い刑に
 判決によると、被告は約30年間、自宅に引きこもる生活をしていた。「このままでは駄目だからやり直したい」。両親に転校や転居を求めたが受け入れられなかった。「自分の頼みが実現しないのは姉のせい」と思い込んで恨みを募らせ、11年7月、姉を刺殺した。
 被告は逮捕後、発達障害の一つ、アスペルガー症候群と診断された。
 判決は、犯行に発達障害の影響があったと認めた上で、社会に被告の障害に対応できる受け皿がなく、このまま市民生活に戻れば再犯の恐れが強いと判断。「許される限り長期間刑務所に収容して内省を深めさせる必要があり、それが社会秩序の維持にも資する」と述べた。懲役20年は殺人罪の有期刑の上限。弁護側は執行猶予付きの判決を求めていた。
 「障害を危険視した量刑だ」「判決には偏見がある」−。札幌など各地の弁護士会や障害者団体は判決を批判。裁判官だけで審理する高裁は「量刑は重すぎる」と一審判決を破棄して懲役14年に減刑最高裁で確定した。控訴審から弁護した辻川さんは振り返る。「障害という、被告に責任がないことで刑を重くするのは刑事裁判の原則に反している。一審が『健全な社会常識の観点から』と言い渡した量刑だったが、高裁は認めなかった」
 最高裁によると、殺人や傷害致死など8罪について、裁判員裁判が言い渡した「求刑超え判決」は42件(09年5月〜2月末)。裁判官だけの裁判当時は年に2、3件だった。裁判員裁判では、介護疲れによる無理心中や被害が軽微な放火などは刑が軽くなり、強姦(ごうかん)致傷などは重くなる傾向も分かってきた。

*二審で減刑相次ぐ
 一方、市民判断の厳しい判決が高裁で覆されるケースも相次ぐ。死刑判決では21件のうち3件が、過去の同様の事件、「先例」に合わせて無期懲役となった。
 犯罪被害者支援弁護士フォーラムの高橋正人事務局長は、「裁判員も先例を十分に踏まえた上で、『それでも死刑しかない』と結論を出している。高裁が先例だけを理由に破棄するのは制度の否定で、裁判官の独善だ」と批判する。
 裁判官でも難しいと言われる量刑の選択。裁判員に選ばれれば、誰もが「有罪か無罪か」とともに慎重な判断を求められる。
 市民団体「裁判員ネット」代表の大城聡弁護士は言う。「裁判員を務めるのに細かな法律知識を身に付ける必要はない。ただ、『推定無罪の原則』や被告に認められる黙秘権などを知っておくことは大切。学校や市民講座での法教育が重要だ」
 市民の感覚を生かしつつ、その事件にとって最も公正な判決をどう導くか。司法の模索は続く。