児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

東京高裁H25.2.22について「サーバコンピュータからダウンロードするという顧客らの行為を介してわいせつ動画等のデータファイルを顧客らのパソコン等の記録媒体上に取得させる行為は,刑法175条1項後段にいうわいせつな電磁的記録等の「頒布」に当たる。」のだとすると、純粋に外国人が外国で運営しているアダルトサイトについて、日本でもDLできれば、日本刑法が適用されるんじゃないかと言われました。

 裁判所が唐突に判例タイムスの解説を引用して「わいせつ物公然陳列罪に関するものをみると,遍在説を前提に,被告人がインターネット上にホームページを開設し,わいせつ画像データを閲覧できるようにした事案で,画像データを日本から送信し,海外のサーバコンピュータのディスクアレイに記憶,蔵置させた行為を捉え,わいせつ図画公然陳列罪の実行行為の重要部分を行ったとして日本の刑法が適用できるとした例(大阪地判平11.3.19判タ1034号283頁。評釈として横溝大「海外へのわいせつ画像データの送信に対する刑法175条の適用」ジュリ1220号143頁等)がみられたが,最高裁がこの種の事案に関して直接判断した例はなく,なお残された問題であると指摘されていた(山口・前掲121頁)。学説としては,遍在説や結果説を前提に海外サーバを利用する場合でも国内犯といえるとする見解が多数であったといえようが,その中でも前記大阪地判と同様にサーバへのアップロードが日本で行われたことを重視する見解(前田雅英「インターネットとわいせつ犯罪」ジュリ1112号77頁以下)や日本からアクセスできることを重視する見解(山口厚「コンピュータ・ネットワークと犯罪」ジュリ1117号73頁以下)など理論構成は分かれていた。これらに対しては,そのように解すると全世界の者が日本の刑法の規制対象となり国際協調に反する,日本からの外国のサーバへのデータ送信行為は公然陳列罪の予備行為にとどまる,外国で賄賂の収受が行われた場合,結果である法益侵害(公務の公正に対する国民の信頼)は日本で生じていると考えられるのに,刑法4条が収賄罪につき国外犯処罰規定を設けていることと対比すると海外からの配信は国内犯とみることはできないなどという反対説もみられた(西田典之『刑法各論〔第5版〕』386頁。園田寿「わいせつの電子的存在について」関法47巻4号1頁等参照)。
 こうした状況のもとで,本判決は,改正後の刑法175条1項後段の罪に関し,遍在説に依ることを明らかにした上で(本件事案では配信サイトのウェブページには入会案内,作品紹介を含め日本語表記のものがあって日本向けであることは明らかであるから,結果説によっても結論に違いはないと思われる。),わいせつ画像等が外国にあるサーバにアップロードされた場合でも,被告人らは日本にいる顧客のダウンロードという行為を介して,わいせつ画像等のデータを頒布したといえ,実行行為の一部が日本国内で行われていることに帰すると指摘し,国内犯として処罰しうると判断したものである(なお,175条2項の罪に関しては,日本で頒布する目的があることは明らかと説示し,改正前の「販売目的の所持」に関する最一小判昭52.12.22刑集31巻7号1176頁,判タ357号156頁を意識したものと思われる。)。なお,本罪には未遂処罰はないから実益はないが,本件事案での実行行為をどう捉えるかは一つの問題である。国外でのサーバへのアップロードを実行行為の一部と捉える考えもあろう。そうではなく仮に顧客のアクセス,ダウンロードを実行行為の全部と解すると(顧客の行為を利用する間接正犯とみた上,実行の着手は到達時説を前提とする),実行行為と結果は日本国内のことであるから国内犯であることは当たり前のことで,本判決の説示には大きな意味はないとの見方もあるかもしれない。しかし,本件ではアップロードされた場所とサーバ所在地が外国にあるという特徴をもつものであり,この場合は国内犯とはいえないという考えもあり得るなか,改正後の刑法175条後段の罪の適用の可否が問われたものである。仮に前記立場に立ったとしてもアップロードという必要不可欠な行為が外国で行われ,アクセスとダウンロードを繋ぐ因果関係が国外で経過しているのであるから,国内犯であることが当然とは必ずしもいえず,これを国内犯と判断した本判決の先例的意義は大きいと思われる。
 この結論に対しては,上記反対説等から,国家間の規制の衝突の懸念や刑法4条の存在などを理由とする批判が出ることが予想されるが,前者に関しては,我が国の刑法の適用と実際の検挙の問題は区別されるべきであり,国家間の規制衝突の問題は国際法上の解決策に委ねられるべき問題であるといえるし,後者も,刑法4条は日本の公務保護という観点から格別に規定を置いたにすぎず,立法者はサイバー犯罪のような事態を想起していなかったものと考えられるから,いずれも批判として不十分であるとの反論がありえよう(只木・前掲179頁参照)。」なんていうんですよ。弁護人は反対説

わいせつ電磁的記録等送信頒布,わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管被告事件 東京高等裁判所平成25年2月22日
      高等裁判所刑事判例集66巻1号6頁
       判例タイムズ1394号376頁
       判例時報2194号144頁
       LLI/DB 判例秘書登載

第1 本件事案と控訴の趣意
 原判決の認定によれば,被告人は,いずれも氏名不詳者らと共謀の上,(1)不特定の顧客1名に対し,あらかじめアメリカ合衆国内に設置されたサーバコンピュータに記録,保存させたわいせつな動画データファイル合計10ファイルを,不特定の別の顧客1名に対し,前同様に記録,保存させたわいせつな電磁的記録を含むゲームソフトのゲームデータファイル合計4ファイルを,顧客らがそれぞれインターネット上の動画配信サイトとゲーム配信サイトを利用してそのサーバコンピュータにアクセスした,千葉県内と東京都内に設置された顧客ら使用のパソコン宛てに送信させる方法により,それぞれのパソコンに記録,保存させて再生,閲覧可能な状況を設定させ,電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録を頒布し(原判示1,2),(2)いずれも有償で頒布する目的で,東京都内の事務所で,DVD20枚にわいせつな動画データファイルを記録した電磁的記録を保管し,同所のパソコン1台のハードディスクにわいせつな電磁的記録を含む前記ゲームソフトのゲームデータファイルを記録した電磁的記録を保管した(同3,4)とされている。
 そして,本件控訴の趣意は,弁護人鶴田岬作成名義の控訴趣意書,控訴趣意補充書記載のとおりであり,論旨は法令適用の誤りの主張である。すなわち,日本国内の顧客がインターネット上のサイトからわいせつな電磁的記録を含むデータをダウンロードするのは,刑法175条1項後段にいう「頒布」には該当せず,また,ダウンロードに供するコンテンツを供給するための保管は同条2項にいう「頒布する目的」での保管には該当しない。さらに,本件は,アメリカ合衆国内のサーバコンピュータに置かれたサイトの運営により,インターネットを通じて行われたものであるから,本件を国内犯として処罰することはできない。したがって,被告人は無罪であり,前記各法条を適用して被告人を有罪とした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
第2 本件の主な事実関係
 本件証拠によれば,本件の主な事実関係は,次のとおりである。
 (1) 被告人は,Xらと共に株式会社Viviane Japan(以下「V社」という。)の名義でインターネット上のアダルトサイト動画配信サイトの運営に参画し,本件当時,V社の東京事務所に相当する株式会社DDA(以下「D社」という。)代表者として,同社の従業員らと共にわいせつな動画やゲームの企画,製作,顧客からのクレーム処理等に当たり,他方,アメリカ合衆国在住のXは,V社のニューヨーク事務所に相当するデザインファクトリー(以下「DF社」という。)代表者として,同社の従業員らと共にD社が制作して納品したわいせつ動画等を同国内に設置されたサーバコンピュータにアップロードするなどして,前記動画配信サイトを運営していた。
 (2) DF社は,平成21年頃には,「MiRACLEオリジナル素人SM無修正動画配信」というタイトルの動画配信サイトを立ち上げ,アメリカ合衆国内のサーバコンピュータから日本国内の顧客を含む不特定かつ多数の者に対し,D社がDF社の注文により撮影,編集して完成させたわいせつなアダルト映像の記録をインターネットを利用して有料で配信し,原判示1の平成23年7月21日頃に至った。この配信サイトのウェブページには,入会案内,作品紹介を含めて日本語表記のものがあり,日本国内からアクセスしてわいせつ動画等のデータファイルを有償でダウンロードすることが可能であり,被告人は,日本国内の不特定かつ多数の者が有償でわいせつ動画を各自のコンピュータにダウンロードすることを認識していた。
 (3) さらに,被告人は,平成23年秋頃,「TRAMPLE ON Schatten!!改〜かげふみのうた〜」というタイトルのわいせつ画像を含むゲームデータをDF社から配信するため,V社従業員に指示して顧客がダウンロードするシステムを構築させ,同年12月頃,それらのゲームデータをDF社のバックアップサーバにアップロードし,これをDF社がゲーム配信サイト(ゲーム名と同様のタイトル)にアップロードして配信し,原判示2の時期である同月7日頃に至った。この配信サイトのウェブページには,購入画像や作品紹介を含めて日本語表記のものがあり,日本国内からアクセスして,わいせつ画像を含むゲームデータを有償でダウンロードすることが可能であり,被告人は,日本国内の不特定かつ多数の者が有償でこれらのゲームデータを各自のコンピュータにダウンロードすることを認識していた。
 (4) 被告人は,D社の業務として,D社の事務所内で,DF社のデータが破壊された場合でも,インターネットで販売したり,別のメディアで二次利用したりできるようにする目的で,他の者と共に,原判示3,4のとおり,DVD20枚にわいせつな画像を記録したものを保管し,さらに同様の目的でわいせつ画像を含むゲームデータファイルをD社内のパソコンのハードディスクに保管していた。
第3 当裁判所の判断
 被告人らの行為は,日本国内の顧客に日本国外のサーバコンピュータからデータファイルを各自のパソコンにダウンロードさせてわいせつ動画等のデータファイルを取得させるものであるが,所論は,顧客によるこのようなダウンロードは,顧客による受信であって,サーバ側の送信ではないから,被告人らは,刑法175条1項後段にいうわいせつな電磁的記録を「頒布」したとはいえないという。
 しかし,刑法175条1項後段にいう「頒布」とは,不特定又は多数の者の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を取得させることをいうところ,被告人らは,サーバコンピュータからダウンロードするという顧客らの行為を介してわいせつ動画等のデータファイルを顧客らのパソコン等の記録媒体上に取得させたものであり,顧客によるダウンロードは,被告人らサイト運営側に当初から計画されてインターネット上に組み込まれた,被告人らがわいせつな電磁的記録の送信を行うための手段にほかならない。被告人らは,この顧客によるダウンロードという行為を通じて顧客らにわいせつな電磁的記録を取得させるのであって,その行為は「頒布」の一部を構成するものと評価することができるから,被告人らは,刑法175条1項後段にいう「電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録・・・を頒布した」というに妨げない。したがってまた,DVDの複製販売等のほか,前記のようなダウンロードに供することを目的として行うわいせつな電磁的記録の保管は,同条2項にいう「有償で頒布する目的」での保管に該当するから,被告人らが,サーバコンピュータのデータが破壊された場合に補充する目的でDVDやパソコンのハードディスクにわいせつな電磁的記録を保管した行為は,有償で頒布する目的で行うわいせつな電磁的記録の保管に該当するということができる(念のために付言すれば,その保管は,日本国内の顧客らのダウンロードをも予定したものであるから,日本国内において頒布する目的があることは明らかである。)。所論は採用できない。
 所論は,さらに,刑法1条1項の解釈上,国内犯として処罰するには,主要な実行行為を日本国内で行う必要があり,本件のようにアメリカ合衆国内でサイトを運営し,日本国内の顧客がこれにアクセスしてダウンロードするに過ぎない場合は国内犯として処罰できないという。
 しかし,犯罪構成要件に該当する事実の一部が日本国内で発生していれば,刑法1条にいう国内犯として同法を適用することができると解されるところ,既にみたとおり,被告人らは日本国内における顧客のダウンロードという行為を介してわいせつ動画等のデータファイルを頒布したのであって,刑法175条1項後段の実行行為の一部が日本国内で行われていることに帰するから,被告人らの犯罪行為は,刑法1条1項にいう国内犯として処罰することができる。所論は,このように解すると,わいせつ画像等の規制がない外国に配信サーバを設置してサイトを運営する行為であっても,日本からアクセスされてダウンロードされれば,日本人,外国人であるとを問わず,我が国の刑法が適用されることになり,各国の規制との衝突が生じることになり不当であるという。しかし,実際上の検挙の可能性はともかく,我が国における実体法上の犯罪の成立を否定する理由はなく,所論のいう点は,前記のような解釈の妨げとはならない。
 原判決は,以上と同旨の解釈の下に被告人を有罪と判断したものであって,その法令の適用に何ら誤りはなく,論旨は理由がない。
第4 適用した法条
   控訴棄却につき刑訴法396条
 (検察官齋藤博志出席)
(裁判長裁判官 三好幹夫 裁判官 菊池則明 裁判官 染谷武宣)