児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

アメリカのリベンジ・ポルノに対する政策、規制及び取組

http://www8.cao.go.jp/youth/youth-harm/chousa/h25/net-syogaikoku/2_16.html
リベンジ・ポルノに対する政策、規制及び取組
アメリカでは、SNS利用の拡大や「セクスティング(sexting)」の広がりともに、「リベンジ・ポルノ(revenge porn)」の問題が深刻化してきた。「リベンジ・ポルノ」とは、本人の同意を得ずに、ヌード、性的な画像又は動画をインターネットなどにいやがらせの目的で公開する性的暴力のことを指す 173。近年のアメリカでは被害者が増加する一方、法律的に被害者を救済する手段がない、あるいは非常に困難であるという状況があっただけでなく、「リベンジ・ポルノ」を集めて掲載することで広告収入などの収益を上げるウェブサイトの運営者に対しても何の法的処罰もないことが問題視されるようになってきた。

被害に遭うパターンとして、交際中に自分で又は相手が自分のヌードや性的な画像・映像などを自ら進んで、又は合意の上で電子メールやSMSなどで共有した後に交際関係を解消することになり、その相手が「復讐」のために「リベンジ・ポルノ」掲載ウェブサイトにその画像や映像、その他の個人情報を公開するという話を、典型的な例としてマスメディアなどは紹介している。このような「リベンジ・ポルノ」掲載ウェブサイトはいくつもあり、掲載物の削除依頼をすると法外な値段を請求されたり、クレジットカード番号を教えなければならなかったりするという。

「リベンジ・ポルノ」掲載ウェブサイトについては、2010年に、ハンター・ムーア(Hunter Moore)氏が"IsAnyoneUp?"というウェブサイトを開設したのが最初といわれる 174。同氏のウェブサイトは月間8,000ドルから2万ドルも広告収入が得られるものであったといわれており、一時期はマスメディアにも頻繁に出演するなど注目を集めた 175。同サイトは2012年に、未成年者の映像などの投稿が多くなったという理由で、同氏によって閉鎖された。

現在も運営されている「リベンジ・ポルノ」掲載ウェブサイトである"MyEX.com"は、ホスト国はオランダ、登録は香港、送金先はフィリピンとなっており、運営者は表に出ないようになっている。ある被害者によると、掲載映像の削除依頼に対して500ドルが請求されるという 176。

2013年12月には、カリフォルニア州サンディエゴで、"UGotPosted.com"を運営していたケビン・ボラール(Kevin Bollaert)氏が、恐喝、個人情報窃盗及び共謀などの重罪31件の容疑で逮捕された 177。他の「リベンジ・ポルノ」掲載ウェブサイトとは異なり、画像を投稿する際に、画像に映っている人物の氏名、住所、年齢及びFacebookのページなどの入力を必須にしていたことが逮捕につながった 178。

上述のようなウェブサイト運営者は、インターネット上の言論・表現の自由を守るとする「1996年通信品位法(Communication Decency Act of 1996)」第230条によって、法的罰則を逃れることができる。同法は、ウェブサイト運営者はそこに掲載される第三者から提供されるいかなる情報に対しても法的責任を問われることはない、とするものである。その結果、上述のようなウェブサイト運営者も州刑法の処罰をまったく受けていない 179。

被害者が自分の名誉を守るために警察や弁護士に訴えるとしても、被害者が18歳未満の未成年であればそのような画像や映像の単純所持だけで「1998年性的犯罪者からの児童保護法」に抵触する一方で、成人の被害者には当てはまらない。ストーキングやいやがらせの罪状は、加害者が当該行為を続けており、脅迫行為があることが証明されなければ、立件も難しい。

被害者が救いを求めることのできる唯一の手段はプライバシーの侵害を訴えることであった。1998年に成立し、2000年に施行された連邦法である「デジタルミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act:DMCA)」により、自分の名前を検索した際に問題のある画像や映像を検索結果から除去するよう検索エンジンに要請することは可能であるとされている 180。ただし、これは自分自身が撮影したものに限定されている。もっとも、「1996年通信品位法」があるため、ウェブサイト自体から除去することを求めることは、今のところ不可能である。

「リベンジ・ポルノ」の被害者には女性が圧倒的に多いことから、アメリカの世論には、「リベンジ・ポルノ」を女性に対する性的暴力ととらえ、是が非でも被害者の権利が守られるべきであり、そのようなポルノを掲載するウェブサイトの運営者が法的責任を負わないのはおかしい、とする論調が多くみられる。それと同時に、言論・表現の自由を制限する動きは好ましくないとする論も根強い。

また、2009年には、インターネット上のいやがらせなどの増加に応じ、インターネット時代にふさわしい市民権を考えるべき時が来ている、とする論文が学術誌に発表されるなど、「反リベンジ・ポルノ法」の立法化のための土壌が育ってきていたともいえる 181。

2013年11月現在、被害者の救済のために「反リベンジ・ポルノ法」が施行されているのはニュージャージー州カリフォルニア州の2州である。

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しかしながら、言論・表現の自由を守る第230条が無効となるような連邦法は、最高裁判所に訴えられた場合に違憲と判断される可能性が高いとする意見もあり、早急に連邦法化が進むのかどうかはまだ明らかでない