児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

刑法20条の適用については,同法19条により犯罪行為ごとに没収事由の有無が検討された上で,その罪について同法20条が適用されると解するのが条文の文言上も素直な解釈であり,その適用を受ける罪については,同条が適用されない罪と科刑上ー罪にある場合にも同条が適用されると解するのが相当であるとした事例(名古屋高裁金沢支部h25.10.3)

 軽犯罪法の窃視罪に没収規定がないと没収できませんね。

刑法第20条(没収の制限)
拘留又は科料のみに当たる罪については、特別の規定がなければ、没収を科することができない。ただし、第十九条第一項第一号に掲げる物の没収については、この限りでない。

判決速報
備考
建造物侵入,軽犯罪法違反(同法1条23号違反)の事案につき,被告人を執行猶予付きの懲役刑に処するとともに,犯行に使われたデジタルカメラ 1台及びSD HC カード(メモリーカード) 1枚を没収する旨の判決を言い渡した。これに対し,本判決は,上記デジタルカメラ等は法定刑に拘留,科料しかない軽犯罪法違反の犯行の用に供されたものであるから,たとえ処断刑に懲役刑のある建造物侵入と科刑上ー罪の関係にある場合でも,刑法20条が適用され,没収できないと判示したものである。
本判決により,同種事案の処理に際しては,デジタルカメラやSDカードの所有権放棄に鋭意努める必要がある。

追記
 研修に記事が出ました

研修789号
刑法20条の適用については,同法19条により犯罪行為ごとに没収事由の有無が検討された上で,その罪について同法20条が適用されると解するのが条文の文言上も素直な解釈であり,その適用を受ける罪については同条が適用されない罪と科刑上ー罪にある場合にも同条が適用されると解するのが相当であるとした事例(名古屋高裁金沢支部平成25年10月3日判決,確定)

【参考事項等]
着替え中の女性の姿態や女性のスカート内等を撮影する「盗撮行為」が,公衆が使用することができる更衣室や公共の場所・乗物において行われた場合には,地方公共団体が定めるいわゆる「迷惑防止条例」により処罰することが可能であり,その場合は,懲役刑又は罰金刑が法定刑として定められていることから盗撮行為に利用したビデオカメラ等については,犯行供用物件として刑法19条により没収することができる。
これに対して,本件のように,室内や特定の者が利用する更衣室等において盗撮行為を行った場合には,迷惑防止条例の適用はなく,そのような行為を行った者は,軽犯罪法l条23号が規定する「正当な理由がなくて人の住居,浴場,更衣場,便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」として処罰されることになるが,その法定刑は拘留又は科料である。
したがって,後者の場合であるとしてデジタルカメラやカメラ機能付き携帯電話機等を使用した盗撮事犯につき軽犯罪法1条23号違反のみにより公訴を提起した場合,刑法20条によりこれらの機器や盗撮場面が保存されている記録媒体を没収することができないことはもちろんのこと,本判決に従えば,建造物侵入罪との牽連犯として公訴を提起した場合であっても,同様にこれらを没収することができないことになることから,同種事案における求刑に際しては十分に留意する必要がある。
[おわりに]
盗撮事犯だけでなく,わいせつ事犯やストーカ一事犯などにおいても,被疑者が被害者の姿態等を自己のデジタルカメラやカメラ機能付き携帯電話機で撮影しそのデータを記録媒体に保存するということがあるが,これらの機器や記録媒体を没収することができる場合には,没収の執行で機器や記録媒体を破壊廃棄する際にデータも消滅するので問題は生じない。
しかしながら,これらの機器や記録媒体を没収することができない場合において,被疑者からこれらの機器や記録媒体の所有権放棄を受けていないときには,そのままの状態で被疑者あるいは被告人に返還せざるを得ないということになりかねないが被害者の保護という観点からは,被害者の姿態等が撮影されたデータや被害者の個人情報に関するデータを被疑者あるいは被告人の手元に残すような事態になることは避けなければならない。
そのためには,この種事案においては,被疑者が不起訴処分となる可能性,あるいは公訴を提起され有罪となった場合においても,被害者に関するデータが記録されている機器や記録媒体が没収されない可能性があることを視野に入れて,捜査の段階で,これらの機器や記録媒体の所有権を放棄させるか,少なくとも,これらに保存されている被害者に関するデータを全て消去することを被疑者に承諾させておくことが肝要である。
本判決は,拘留又は科料のみに当たる罪が他罪と科刑上ー罪にある場合における没収の可否に関する解釈を示したものとして,実務の参考になると考え,紹介した次第である。
法務総合研究所教官辻昌文)