児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「児童ポルノ譲り受け罪」「過失処罰規定」〜田中嘉寿子「性犯罪・児童虐待捜査ハンドブック」

性犯罪・児童虐待捜査ハンドブック

性犯罪・児童虐待捜査ハンドブック



 田中検事の脳内児童ポルノ法なんだろうな。条文よめよ。
 強要して撮影したら、強制わいせつ罪でしょ。

田中嘉寿子「性犯罪・児童虐待捜査ハンドブック」
P38
イ被疑者の携帯電話等
(ア) 画像解析とその活用方法
? 犯行状況を撮影した画像
犯行の直接証拠となる。
? 犯行前後の状況を撮影した画像
犯行に至る経緯等を示す間接証拠となる。
? 余罪を示す画像
余罪立件の証拠となり得る。
? 児童ポルノ画像
一見して18歳未満と分かる画像を保存していれば,児童ポルノ製造罪(複製保存も製造罪である。)・譲受け罪に該当する可能性がある。被害者の特定は不要で、あか画像から18歳未満であると判断できるとする医師等からの意見書を徴収すれば良い。ただしインターネットからダウンロードした画像の所持は犯罪に該当しないので,画像のプロパティを確認し被疑者による撮影・複製・譲受け事実を特定する必要がある。
? 一般的なわいせつ画像
性犯罪は傾向犯であるから,被疑者の性癖や動機等の証拠になり得る。

P147
(2)立件の必要性
児童ポルノ対策は,国際的課題であり,日本政府は,「児童ポルノ排除総合対策」に積極的に取り組んでいる。G8司法・内務大臣会議(G8各国の司法及び内務担当大臣が出席し,国際組織犯罪対策等に対する政治的取組を強化する趣旨で平成9年以来開催されている。)においても,児童ポルノ対策が毎年協議されている。
性犯罪の被疑者については,その所持する全画像データ・写真等を精査し児童ポルノに該当するものがあれば,所管の部署と連携し証拠品を保全し,立件するよう努めるべきである。
児童ポルノ法違反については,判例が継続的に出ているので,立件に当たっては,最新判例を確認しておく必要がある。
(3)年齢に関する推定規定
児童の年齢に関する推定規定が適用され18歳未満であると知らなかったことに過失がない限り,処罰を免れない(同法9条)。

P147
児童ポルノの撮影の際「姿態をとらせ」たことが強要に当たる場合は,強要罪と牽連犯になる
処断刑が重くなるわけではないが情状面や被害者の心情面からも,
強要に当たる場合は,強要罪をも立件することを検討すべきであろう。

P241
(78)児童ポルノ画像を「記録媒体に記録した」ときに製造罪が成立し,「記録した者が,当該電磁的記録を別の記録媒体に記憶させて児童ポルノを製造する行為」も製造罪に当たる(最判平18・2・20刑集60巻2号216頁)。強要罪は観念的競合であえて起訴する必要はないという意見もあり得るが,被害者の心情と情状面からいっても起訴し得るときはした方が良い。


 被害者保護も正しい法令適用からだと思います。

あとがき
筆者が検察官に任官した平成3年頃,強姦罪等の性犯罪の量刑は,今よりずっと低く,執行猶予率も高く,憤りを覚えたことをよく覚えている。本書の事例は,筆者の知見に基づいて作成した架空のものであるが,近時の類似した事案では,いずれも懲役7年ないし14年の判決が確定し性犯罪への量刑が重くなったことを実感している。
この間,強姦の被害者から,「検事さんには,私の気持ちは分かりませんJと言われて自身の聴取態度を反省したり,被害者が被告人の有罪判決・服役後も, PTSD摂食障害,抑欝状態,自傷行為不登校等で苦しみ続けているのを見聞きして性犯罪が被害者にもたらす被害の深刻さを痛感した。
本書は,性犯罪捜査について,警察官の研修で講師をした際の講義資料を基にしたものであるが,被害者支援に従事する方々の参考にもなるように心掛けた。
本書執筆中に,各都道府県に性犯罪被害者への支援センターが次々に設立され,性被害者への支援が拡充しつつあることは誠に喜ばしいことである。民間の支援者にとっては,本書の記載は基本的な法的知識を前提としていることから,やや難解な部分もあるかもしれないが,参照条文を確認していただいたり,協力関係にある地元の警察官・検察官,弁護士らと協力して活用していただければ幸いである。
社会心理学の本に,集団心理として,犯罪が発生したとき,「人聞は,被害者に落ち度があったと思いたがる。なぜなら,人間は,社会は安全だと思いたがっている。安全なはずの社会で被害に遭うのは被害者に落ち度があるからであって,落ち度のない自分は被害に遭うはずがなく,安全だと思いたがるからである。」という説明があった。
被害者自身も,同じ集団心理を共有するため,自責感が強いのではないだろうか。被害者にとって,何の落ち度がなくてもいつまた被害に遭うかもしれないのでは,この社会が怖くてたまらない。いっそ,自分に落ち度があったと思う方が,その落ち度をなくせば二度と被害に道わないと信じることができて,怖さが軽減する心理が働くのかもしれない。
被害者の示す深い罪悪感や自責の念は,被害に遺ったことのない筆者には,想像したり理解したりするのが難しかった。「検事さんには,私の気持ちは分かりません」とある強姦の被害者に言われたとき,そのとおりです,と頭を下げるほかなかった。他人の気持ちに鈍感なタイプの筆者に「被害者の気持ち」を教えてくれた全ての被害者に対し心からの謝罪と感謝の念を捧げるとともに,彼女らの人生に花が開くよう,祈りを込めて,本書の事例の被害者らには花の名前を付けた。
性被害者の支援者には,法改正を望む方も多く,改正してくれれば捜査・公判がより容易になる面もあるが,現行法の中でも,運用面で改善し得る点や,関係する他機関の連携により効率化し得る点は多々ある。性犯罪捜査に従事する捜査官は,本書を一つの契機として一層の改善を図り,被害者の捜査過程での二次被害を最小限のものにしていただきたい。

著者紹介
田中嘉寿子 大阪高等検察庁検事

追記
 大阪府警の捜査一課用の資料がベースなので、福祉犯の記載は雑なはずです。

◎時のひと 性犯罪と虐待の捜査手引書を出版した検事 田中嘉寿子(たなか・かずこ)さん(50)
2014.05.15 京都新聞
 「悲痛な告白を聞き出すのは、ボウリングの球を受け止めるように重く苦しい」。長年にわたって性的に虐待されてきた被害者と向き合う心境をこう例える。
 大阪高検の検事として「性犯罪・児童虐待捜査ハンドブック」を出版した。同様の書籍はほかになく、捜査関係者や被害者支援団体から注文が相次いでいる。
 「検事さんに私の気持ちは分かりません」。任官8年後の1999年、性的暴行を受けた女性に加害者と示談した理由を尋ねた際に返ってきた言葉。「悪気がない『なぜ』という言葉でも被害者は責められた気がすると今は理解できる」
 性犯罪や虐待では加害者が否認することが多く、目撃者と物証が少ない上、被害者も話したがらず立証は難しい。犯罪被害者の保護と支援がより重視されるようになる中「難事件」を任されることが多くなった。事例をまとめ始めたのは2008年ごろ。大阪府警捜査1課の性犯罪の講義用に資料を作成し、法科大学院に派遣された後、本格的な執筆を始めた。
 被害者が事件を届け出るのは、痛みを伴ういばらの道でもある。それでも「裁判所に『あなたに落ち度はない。悪いのは加害者だ』と認めてもらうのは、生き直すための出発点になる」と説く。
 休日にはストレス発散のためオペラや狂言日舞を習う多才な一面も。「捜査する側も心のバランスを保つのは大事です」。穏やかなまなざしで若手捜査官の成長を見守る。大阪府出身。(共同)

追記
 正誤表が出たようですが、まだおかしいですよ。

http://tachibanashobo.co.jp/upload/save_pdf/01231212_52e08888c51d8.pdf
性犯罪・児童虐待捜査ハンドブック』訂正及び説明追加
該当箇所 38頁 18〜25行目

④ 児童ポルノ画像
 一見して18 歳未満と分かる画像を保存していれば,児童ポルノ製造罪(複製保存も製造罪である。)・譲受け罪に該当する……(中略)……,被疑者による撮影・複製・譲受け事実を特定する必要がある。


④ 児童ポルノ画像
 一見して18 歳未満と分かる画像を保存していれば,児童ポルノ製造罪(複製保存も製造罪である。)・提供目的所持罪等に該当する……(中略)……,被疑者による撮影・複製・所持目的を特定する必要がある。
・・
該当箇所 147頁 17〜19行目

⑶ 年齢に関する推定規定
 児童の年齢に関する推定規定が適用され,18歳未満である
と知らなかったことに過失がない限り,処罰を免れない(同
法 9 条)。


⑶ 年齢に関する推定規定
 児童の年齢に関する推定規定が適用され,18歳未満であると知らなかったことが無過失でない限り,処罰を免れない(同法 9条)。

・・・
下記箇所に誤解を招く記述があったため,説明を追加いたします。
該当箇所 148頁 19〜20行目
⑸ 罪 数
イ 児童ポルノ撮影の際,行為者が遠隔地から電話で被害者を脅してポーズ等を指示し,被害者自身に写真撮影させて自己に送信させるなど,強制わいせつに当たらないものの,「姿態をとらせ」たことが強要に当たる場合は,強要罪と牽連犯になる。


「正
④ 児童ポルノ画像
 一見して18 歳未満と分かる画像を保存していれば,児童ポルノ製造罪(複製保存も製造罪である。)・提供目的所持罪等に該当する……(中略)……,被疑者による撮影・複製・所持目的を特定する必要がある。」について
 「一見して」については児童ポルノの定義(2条3項)に「一見して」というのはなく、「18歳未満であれば」児童ポルノに該当しうるということです。
 「複製保存」はその犯人が「姿態をとらせて」製造した場合の複製保存に限定され(最高裁平成18年2月20日第三小法廷決定・刑集60巻2号216頁)、単なる複製は7条の製造罪の構成要件には該当しません。

「正
⑶ 年齢に関する推定規定
 児童の年齢に関する推定規定が適用され,18歳未満であると知らなかったことが無過失でない限り,処罰を免れない(同法 9条)。」について
 製造犯全てに過失犯があるかのような記述ですが、第9条(児童の年齢の知情) は「児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、第五条から前条までの規定による処罰を免れることができない。ただし、過失がないときは、この限りでない。」とされていて、「使用者」に限定されていますので、かなり適用範囲が限定されます。強制わいせつ罪を伴う製造罪の場合に9条が適用された事例はこれまでないはずです。
 これまでの検事の論稿はたいてい、製造罪が原則として故意犯であることの論拠として、使用者についてのみ例外として9条が設けられていることを挙げていますので、逆向きになっています。

「⑸ 罪 数
イ 児童ポルノ撮影の際,行為者が遠隔地から電話で被害者を脅してポーズ等を指示し,被害者自身に写真撮影させて自己に送信させるなど,強制わいせつに当たらないものの,「姿態をとらせ」たことが強要に当たる場合は,強要罪と牽連犯になる。」について
  メールによる撮影強要事案が強制わいせつとなり得ることは、従前の刑法各論でも疑いがないと思われます(東京地裁H18.3.24準強制わいせつ、大分地裁H23.5.11強制わいせつ)。
 脅迫を強要罪と評価するのは訴追裁量の問題でよしとしても、強要罪と製造罪の関係は、観念的競合(大阪高裁H22.6.18)ないしは併合罪(広島高裁岡山支部H22.12.15)とされていて観念的競合説が優勢となっています。牽連犯とした裁判例はありません。