児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強制わいせつ罪の「制服を着用した女子高校生」という訴因について、「名前を知られたくないという被害者の気持ちは最大限に考慮すべきなので、匿名に同意した」「被害者の要望を踏まえたと思われ、理解はできるが、事件ごとに匿名、実名が分かれると、被告は戸惑う。謝罪や賠償の交渉も難しく、弁護活動に支障が出る。基準を明確にしてほしい」という弁護人のコメント

 弁護人の意見としては、大阪高裁の判例を引っ張ってきて「そのために刑事裁判の出発点ともいうべき訴因の明示をあいまいなものにすることを許すわけにはいかない」でしょう。

兇器準備集合、暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件
阪高裁昭和50年8月27日

ここでは被害者ごとに一罪が成立することを前提として、訴因における特定の問題を検討する。
刑訴法二五六条三項が訴因の特定明示を要求しているのは、検察官に対する関係では公訴提起の対象宇即ち攻撃の目標を明らかにし、裁判所に対しては審判の対象、範囲を明確にし、被告人に対しては防禦の範囲を示すことを目的とするものであるから、被害者ごとに一罪が成立する本件犯罪においては、必ずしも氏名による特定を要しないとしても何らかの方法で被害者を特定することが要求されるわけではあるが、被害者とされている者の全員が被害を受けたことが明白な事案においては、訴因において被害者を特定することの実質的必要性は、もつぱらそれ以外の者と区別することに主眼があると思われるので、被害者らの集団の範囲が確定されている限り、その集団の内部における個々の被害者の特定に不充分な点があつたとしても、起訴状における訴因の明示としては、一応の目的を達しているものと解されないではない。
ししながら、記録によれば、本件において被害者とされている反帝学評系の学生ら約五〇名のうち三〇名位が竹竿をもつて被告人らの属する革マル派の集団と叩き合いをしたというだけで、その時間もの検察官調書によれば数秒間、の検察官調書によれば瞬間で勝負がつき自分らは負けて敗走したというほどの短時間であつて、右両名及びは、いずれも竹竿で叩き合つただけで自分の竹竿は相手の体に当らず相手の竹竿も自分の体には当らなかつたと述べていることを考えると、少くとも、竹竿を持たず、これらの集団の後方にいた者については、暴行を受けた事実すら認めがたい状況下にあるのである。
このように、被害者らの集団にいた者が全て被害を受けたとは断定できない場合には、単に起訴状に、反帝学評系の学生ら約五〇名に共同して暴行を加えたと記載し、被害者らの集団を確定してそれ以外の者と区別するだけではなく、さらにその集団内部において被害を受けた者を氏名その他の方法で特定しない限り、審判及び防禦に支障を来たし、訴因の特定明示を要求する刑訴法二五六条三項の趣旨に反し適法なものということはできない。
論旨は、いわゆる白山丸事件についての最高裁判所判例(昭和三七年一一月二八日大法廷判決・刑集一六巻一一号一六三三頁)を引用して本件の場合に訴因の明示に欠けるところはないと主張するが、この場合は、一罪の犯行の日時、場所という訴因特定の一手段の場合であるのに対し、本件は複数の人身犯罪における被害者についてのもので、罪となるべき事実そのものに関するものであつて、事案を異にするものといわなければならない。
さらに論旨は、本件犯罪の性質上被害者の特定が困難であるという。
たしかにこの種学生集団の対立抗争事件においては、捜査及び公判において関係者の協力を得ることがほとんど期待できないため、被害者を特定することは極めて困難であろうと思われるのであるが、そのために刑事裁判の出発点ともいうべき訴因の明示をあいまいなものにすることを許すわけにはいかないのである。

被害者名匿名で性犯罪被告起訴 地検堺支部 /大阪府
2013.12.07 朝日新聞
 自転車で追い抜きざまに女性の胸を触るなどし、強制わいせつ罪などに問われた被告の第2回公判が6日、大阪地裁堺支部(青木美佳裁判官)であった。地検堺支部は3件の起訴事実のうち1件について、被害者が再び被害に遭うのを防ぐため、被害者名を匿名にした。地検堺支部が起訴状で被害者名を匿名にするのは初めて。
 地検堺支部は天国被告を3件の性犯罪で起訴し、うち強制わいせつ罪の1件では、起訴状の被害者名の場所に「女子高校生」と書いた。残り2件の性犯罪では実名。被告は3件すべてで、起訴内容を認めている。
 匿名の起訴状では被害者が人違いになる恐れや、示談に向けて被告が謝罪の手紙を送ることができないなど、弁護側にとって不利益を被る可能性がある。金子哲也弁護士は「名前を知られたくないという被害者の気持ちは最大限に考慮すべきなので、匿名に同意した」と話した。

地検堺支部が匿名起訴状 強制わいせつ被害者「報復などの恐れ」
2013.12.07 読売新聞
 大阪地検支部が、強制わいせつ罪で起訴した男の起訴状に被害者名を明記せず、「制服を着用した女子高校生」と匿名で記載し、大阪地裁堺支部に認められていたことがわかった。性犯罪やストーカー事件の起訴状で被害者を匿名にするケースは東京地裁などで相次いでいるが、大阪地裁管内では初めてとみられる。
 7月29日夜、同市内の路上で、女子高校生(当時17歳)を自転車で追い抜く際、服の上から胸をつかんだとして、8月に起訴された。
 10月の初公判で、被告は起訴事実を認め、被害者を匿名として裁判を進めることに同意し、青木美佳裁判官も認めた。追起訴されたわいせつ事件2件では、いずれも被害者が実名で記載されているという。
 今月6日の第2回公判では、検察側が、事件後に被害者が被告を追跡した経緯を説明。地検幹部は取材に「被害者本人が被告を確保した」とし、匿名の理由について「報復や再被害を受ける恐れがあることなどを考慮した」と明らかにした。
 被告の弁護人を務める金子哲也弁護士(大阪弁護士会)は「被害者の要望を踏まえたと思われ、理解はできるが、事件ごとに匿名、実名が分かれると、被告は戸惑う。謝罪や賠償の交渉も難しく、弁護活動に支障が出る。基準を明確にしてほしい」と話した。
 東京地裁は10月、被害者を実名にすることで▽再び被害を受ける具体的な危険性がある▽名誉を著しく傷つけられる−−場合だけ、匿名の起訴状を認める見解を東京地検と東京の3弁護士会に伝えている。

追記 2015/04/09
 地裁にはそういう文書は存在しないということです。

平成27年4月3日
奥村徹
東京地方裁判所事務局総務課長
司法行政文書不開示通知書
平成27年3月9日付け(同月11日受付)で申出のありました司法行政文書の開示について,下記のとおり,開示しないこととしましたので通知します。

1 開示しないこととした司法行政文書の名称
東京地検と東京の3弁護士会に対して行った,匿名の起訴状を認める見解の申入事項
2 開示しないこととした理由
そのような司法行政文書は,作成又は取得していない。