児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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事件の依頼者(被害者)である原告が,被告は弁護士としての責務を放棄したなどと主張して,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づき慰謝料300万円の支払を求める事案(東京地裁H24.12.21)

 電車内痴漢行為の被害者代理人に対する「被告の債務不履行又は弁護過誤により,示談の機会を失い,精神的苦痛を受けた。原告の慰謝料は,300万円が相当である。」という主張です。

損害賠償請求事件
東京地方裁判所平成24年12月21日民事第34部判決
       判   決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 竹内俊雄
被告 B
       主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由

第1 請求の趣旨
 被告は,原告に対し,300万円を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,事件の依頼者である原告が,被告は弁護士としての責務を放棄したなどと主張して,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づき慰謝料300万円の支払を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)被告は,東京弁護士会に所属する弁護士である。
(2)原告は,平成21年8月12日午後10時54分頃,東京都足立区α××番×号所在の東武鉄道株式会社β駅1番線階段及び同ホームにおいて,C(以下「C」という。)から,わいせつな行為をされ,傷害を負うなどした(甲1)。
 Cは,平成22年6月24日,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反により起訴され,同年7月30日,罰金の略式命令を受けた(甲1)。
2 原告の主張
(1)被告は,原告から事件の依頼を受けながら,弁護士としての責務を放棄し,Cの弁護人(r弁護士。以下「r弁護士」という。)との間で適切な示談交渉をすることも,原告に適切な報告や説明をすることもしなかった。
(2)原告は,被告がCに対する損害賠償請求訴訟を提起しないことから,平成23年4月27日,被告を解任したが(以下,これを「本件解任」という。),被告の債務不履行又は弁護過誤により,示談の機会を失い,精神的苦痛を受けた。原告の慰謝料は,300万円が相当である。
 よって,原告は,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づき,慰謝料300万円の支払を求める。
3 被告の主張
 被告は,原告から,Cを告訴することや,同人との間で示談交渉をすることの依頼を受け,平成21年8月27日,原告夫婦と共に警視庁千住警察署に赴いて告訴状を提出し,また,r弁護士から示談の打診を受け,原告と協議の上,平成22年3月頃,Cに対して1195万4641円の損害賠償金の支払を請求する書面(以下「本件請求書」という。)を作成するなどしている(もっとも,r弁護士からの連絡で示談交渉の難航が予想されたことから,原告の了承を得て,本件請求書をr弁護士に送付することを中止した。)。
 被告には債務不履行も弁護過誤もない。また,本件解任の時点において,原告のCに対する損害賠償請求権は時効消滅しておらず,原告が示談の機会を失ったともいえない。
第3 当裁判所の判断
1(1)証拠(甲1から4まで,乙1から4まで,原告本人,被告本人。次の認定に反する部分はいずれも採用しない。)及び弁論の全趣旨によれば,〔1〕被告は,平成21年8月25日頃,原告から事件の依頼を受け,同月27日,原告夫婦と共に警視庁千住警察署に赴き告訴状を提出したこと,〔2〕その際,被告は,原告夫婦に対し,Cが示談,被害弁償の申入れをする可能性があるなどと今後の見通しを説明するとともに,報酬は30万円であるが100万円を超える金員を受領するに至った場合には報酬の増額を求める旨を告げたこと,〔3〕被告は,r弁護士から示談の打診を受け,原告から平成21年分の給与所得の源泉徴収票の送付を受けるなどした上,平成22年3月頃,Cに対して1195万4641円の損害賠償金(慰謝料,治療費,休業損害,逸失利益等の合計額)の支払を請求する書面(本件請求書)を作成し,これを原告に交付したこと,〔4〕被告は,休業損害の立証のため,原告から平成20年分の給与所得の源泉徴収票の送付を受けるなどしたが,r弁護士からCの資力について説明を受け,高額での示談は困難であると考え,原告の了承を得て,本件請求書をr弁護士に送付することを中止したこと,〔5〕被告は,平成23年4月頃,原告から示談交渉の進捗状況について問合せを受け,Cの住居を確認するため,同人の住民票(写し)の交付を請求するなどしていたが,原告は,同月27日,被告を解任し(本件解任),原告訴訟代理人に事件を依頼したことが認められる。
(2)原告は,被告がr弁護士との間で適切な示談交渉をすることも,原告に適切な報告や説明をすることもしなかった旨の主張をする。
 しかしながら,被告が,原告から依頼を受けて,直ちに告訴状を提出するとともに,原告に対して今後の見通しを説明するなどしていること,また,r弁護士から示談の打診を受け,原告から資料の送付を受けるなどして本件請求書を作成していることは,前記認定のとおりである。かかる事実に加え,〔1〕原被告間では,事件の依頼に関して何らの書面も取り交わされておらず(原告本人、被告本人,弁論の全趣旨),そもそも,原告が,Cに対して訴訟を提起することまで依頼する意向を有していたのかなど,原告の被告に対する依頼事項は必ずしも明確ではないこと,〔2〕被告は,原告から依頼を受け,現に警視庁千住警察署に赴いて告訴状を提出したにもかかわらず,原告から金員の支払を受けていないこと(原告本人,被告本人,弁論の全趣旨),〔3〕本件解任の時点では,原告がCの不法行為による損害を知った時から約1年9か月が経過したのみで,これに係る損害賠償請求権が時効消滅したわけではないことをも併せ考慮すると,被告が原告の依頼につき迅速に対応したとはいい難いことや,原告との間で示談交渉の進め方につき十分な意思疎通が図られていたのか疑問がないではないことに照らしても,本件における被告の対応が,債務不履行あるいは不法行為を構成するとまでいうのは困難である。
2 以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないのでこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 
東京地方裁判所民事第34部
裁判官 森冨義明