児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

安部哲夫「青少年保護育成条例による淫行規制の変遷と将来」には「率直に言えば、国法が成った今日、各自治体の淫行規制条項は、解消されるべきものである。いわゆる淫行問題は、刑事規制の対象にはなじまない。それは、基本的に、両当事者の自己決定の領域にあり、児童(青少年)について、教育上の配慮を進めなければならないことがあっても、相手方に対して刑事介入することは、刑法の謙抑性の原則に照らして行過ぎの感がある。」と書いてあって、新版青少年保護法(安部哲夫 平成21年)には「それ以外の淫行については,もはや条例においても

 自己矛盾ですよね。長野県の弁護士はこの点を指摘していません。
 昔、この著書について、手紙で質問したんだが、返事がない。
 こんな議論でも青少年条例はできてしまうと思います。体裁も他府県と同様ということで、かなり矛盾を内在したままになりそうです。

性被害専門委:法規制は必要とのWG検討結果を報告 /長野
2013.09.13 毎日新聞社
 長野県が全国で唯一持たない18歳未満とのみだらな行為を禁じた「淫行(いんこう)処罰規定」の導入是非などを検討する「子どもを性被害等から守る専門委員会」の第3回会合が12日、長野市内であった。法規制検討ワーキンググループ(WG)の安部哲夫座長は「法的な規制を示すことで、大人へ規範を提示する必要がある」と報告し、新たな法規制が必要との考えを示した。

 安部座長がWGでの検討結果を報告した。条例規制に否定的な県弁護士会が淫行処罰規定について「淫行の定義があいまい。また、規制という手段自体が不当だ」と主張している点に、WGは「定義は最高裁判決で整理されている。大人への働きかけは規範(条例)でしかできない。他にどんな方法があるのか」と批判した。

 安部座長は「性行為がたとえ子供の任意な意思による場合でも、行ってはならない規範として高く掲げる必要はある」と述べた。

県の淫行処罰条例是非検討 専門委部会、必要性主張の「見解」提示 犯罪抑止効果実証「難しい」
2013.09.13 信濃毎日新聞
 青少年との性行為を処罰する条例の制定の是非などを議論する県の「子どもを性被害等から守る専門委員会」(平野吉直委員長、委員15人)は12日、3回目の会合を長野市内で開いた。条例に反対する県弁護士会などが指摘する「個人の性や恋愛に権力が踏み込みかねない」などの懸念や問題点に対し、法律関係の委員3人でつくる法規制検討作業部会が「見解」を示した。

 「見解」は、条例の必要性を主張し、慎重な運用をすれば乱用などの懸念は避けられるとの内容。ただ、他県の条例による性犯罪の抑止効果を実証することは「難しい」とした。さらに、法律家の間で意見が分かれている点について一方の見方を示した部分も多く、専門委員からは席上、「県弁護士会の意見も聴きたい」との声が出た。

 処罰の対象にする「みだらな性行為」の内容が曖昧で、捜査機関が判断することになる点について、「見解」は「(1985年の)最高裁判決以降、解釈に一定の共通認識としての整理がされている」と主張。ただ、同判決では裁判官3人が反対意見を示し、専門家の中には「本質的な曖昧さは解消されていない」との指摘もある。

 専門委はこの日、性教育や被害者支援についても議論。義務教育の段階での性教育を充実させるために「県が独自の指針を示すべきだ」との意見や、被害者の診断や支援など一連の対応をスムーズに進めるために医師や警察、行政などのネットワークが必要との提言が出た。また、使い方によっては子どもが性被害に巻き込まれる可能性が指摘されるインターネット・情報ツールをめぐる議論では、県教委や関係団体が、小中学生の端末利用やトラブルが増えている現状を報告した

 啓発教育には条例必要 子を性被害から守る専門委 反対意見に反論
2013.09.13 中日新聞
 【長野県】県が全国で唯一制定していない青少年健全育成条例の是非を話し合う「子どもを性被害等から守る専門委員会」が十二日、長野市内で開かれた。十八歳未満とのわいせつな行為を禁止する淫行(いんこう)処罰規定を検討するワーキンググループ(WG)が、条例への反対意見に対する見解を報告した。
 WGは、八月に非公開で開かれた会議での議論の結果を報告。県弁護士会などが「淫行処罰は手段として相当ではなく、条例による規制は県民運動に悪影響を及ぼす」などと批判している点に反論した。
 見解では「大人に向けた啓発教育は、現実的には刑事罰を示さないと難しい。規範があることで社会運動へ積極的に協力や支援を進めていくことができる」などとしている。
 この日はほかにも、子どもを取り巻くインターネットの問題についても議論。県警サイバー犯罪対策アドバイザーの南沢信之さんが「県内のインターネットをめぐる問題は今年に入って一層危機的な状況。出会い系サイトと知らずに子どもがアプリケーションを使っていることも多い。年齢制限があっても子どもたちは勝手にやっている」と問題点を指摘した。(小西数紀)

安部哲夫「青少年保護育成条例による淫行規制の変遷と将来」宮澤浩一先生古稀祝賀論文集第三巻三四四頁(成文堂二〇〇〇年)
六 条例による淫行規制の発展的解消へ向けて
 ともあれ、児童買春等処罰法の制定は、これまでの淫行規制の問題に新たな展望を与えることになった。淫行規制に消極的であった長野県でも、少なくとも青少年を相手にする買春行為を規制することができるようになったからでもある。だがそれ以上に、買春以外の淫行に対して改めて考え直す機会を提供しているからである。
 私のこれまでの主張は、金品や利益の供与が伴うような児童の売買春に限定して、国の法律でもって刑事規制する必要があるが、国法が成立するまでは、自治体の条例において(淫行規制というかたちであっても)、児童買春の規制を講じなければならない、というものであった。昭和五〇年代以降、とくに女子青少年の性行動は、大人たちの餌食となってきた感が強い。そうした時代に、早急に事態に対応する必要から、地域の条例が淫行規制という形で、大人の性行動を抑制することには意味があった。しかし率直に言えば、国法が成った今日、各自治体の淫行規制条項は、解消されるべきものである。いわゆる淫行問題は、刑事規制の対象にはなじまない。それは、基本的に、両当事者の自己決定の領域にあり、児童(青少年)について、教育上の配慮を進めなければならないことがあっても、相手方に対して刑事介入することは、刑法の謙抑性の原則に照らして行過ぎの感がある。児童福祉法第三四条一項六号が「淫行をする行為」とせずに「淫行をさせる行為」として、淫行の当事者を排除する形式になっているのも、性行為の当事者の性的自由を尊重しているものと思われる

新版青少年保護法(安部哲夫・尚学社・平成21年4月)P229
3. 福岡県条例最高裁判決の検討
筆者の見解
反対意見の要旨を長々と示したのは,私見も反対意見の論旨と同様だからである。多数意見による「淫行」定義の前段は限定機能を有するものの, もはや「淫行」概念とは文理上離れた性格を帯びているものと判断される。「淫行」規制の濫用を防止するため,かっ真に青少年の福祉を阻害するような,被害性の顕著な行為に限定するための明確な基準を示すためには前段のように解釈を限定する必要性は理解できるのであるが,やはり「淫行」とは,一般に倫理上許容しがたい乱れた性関係をいうのであって,本来的に記述的な定義になじまないもの、すなわち規範的概念なのであるから,およそ限定すること自体概念からの逸脱といわざるを得ない。それは,「淫行」なる概念を用いて「淫行」とは似て非なる行為を規制せんとすることを意味する。多数意見もその点の認識を踏まえていたればこそ。後段の定義(単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為)で補完しようとしたのであろうが,そうすると,結局はまた不明瞭な判断基準を用いるほかなく、せっかくの限定解釈が気泡に帰することになるのである。「淫行」規定を解釈論として捉えた場合, したがって反対意見の論じるように違憲・無効と断ずるべきであった。多数意見の限定解釈は,新たな立法であり、許される解釈の範囲を越えたものと思われる。
むしろ問題はこの新たな立法の方向性を尊重して各自治体がその真意にそった条例規定を整備するとともに,取締機関は,当該規定の慎重な運用にあたるべきであろう。
最高裁判決と前後して新たに規定整備が行われた大阪,山口,千葉の条例ではいずれも文言上「淫行」とは異なった規定方式をとっており,客観的かっ具体的に特定しやすい不当な手段方法を用いて行われる青少年への性行為の規制になっている。東京都の改正条例のように「買春行為」の処罰に限定した方向性も,また妥当なものといえよう。こうした新しい規定方式の動きに本最高裁判決が何らかの影響を与えたのであれば、それはその限度で評価すべきものと思われる。条例上の青少年買春規制条項は。児童買春処罰法の成立へと発展しその後東京都健全育成条例の改正(2005(平成17)年)によって,淫行規制の体制を強化するものとなった。

P248
さて 本来なら早急に対処すべき問題に即座に対応するためには!自治体の条例にまず依存することが場合によっては有効なこともある。しかし,条例による社会統制が,ほほ全国規模で展開されるようになれば,もはや,国の責務として中央立法を準備検討しなければならないと思われる。青少年保護育成条例についていえば,とくに社会環境の整備強化に関する事柄と,青少年の保護に関する事柄は中央立法の場で検討しなければならない問題であろう。なぜなら!地域の事情や都合によって,保護の態様や内容に差があってよいとは考えにくい事柄だからである。児童買春行為についてはようやく中央立法による規制が講じられるようになったが,淫行にしても,児童福祉法34条I項6号の「淫行をさせる行為」と並んでたとえば親族や教師,雇主など。事実上の支配力を行使しうる関係においてなされる淫行は, 同法の条項に付け加えて立法化することを検討すべきものと考える。 それ以外の淫行については,もはや条例においても,対応すべき根拠と,その正当性について説明することが難しいのではないだろうか。