児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

わいせつのダウンロード販売を「頒布」とした事例(東京高裁H25.2.22) 

 これは公然陳列罪であって、頒布罪ではないというのが判例(大阪高裁・札幌高裁)ですよね。
 公然陳列罪で起訴された事件で「頒布だ」と主張したら「公然陳列罪であって頒布罪ではない」と判示していたのですが、いつの間にやら東京高裁が頒布説。控訴審弁護人はそこを指摘してほしいですね。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130807152342.pdf
平成24年(う)第2197号 わいせつ電磁的記録等送信頒布,わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管被告事件
平成25年2月22日 東京高等裁判所第11刑事部
判決
主 文
本件控訴を棄却する。
理 由
第1 本件事案と控訴の趣意原判決の認定によれば,被告人は,いずれも氏名不詳者らと共謀の上,(1)不特定の顧客1名に対し,あらかじめアメリカ合衆国内に設置されたサーバコンピュータに記録,保存させたわいせつな動画データファイル合計10ファイルを,不特定の別の顧客1名に対し,前同様に記録,保存させたわいせつな電磁的記録を含むゲームソフトのゲームデータファイル合計4ファイルを,顧客らがそれぞれインターネット上の動画配信サイトとゲーム配信サイトを利用してそのサーバコンピュータにアクセスした,千葉県内と東京都内に設置された顧客ら使用のパソコン宛てに送信させる方法により,それぞれのパソコンに記録,保存させて再生,閲覧可能な状況を設定させ,電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録を頒布し(原判示1,2),(2)いずれも有償で頒布する目的で,東京都内の事務所で,DVD20枚にわいせつな動画データファイルを記録した電磁的記録を保管し,同所のパソコン1台のハードディスクにわいせつな電磁的記録を含む前記ゲームソ- 2 -フトのゲームデータファイルを記録した電磁的記録を保管した(同3,4)とされている。
そして,本件控訴の趣意は,弁護人鶴田岬作成名義の控訴趣意書,控訴趣意補充書記載のとおりであり,論旨は法令適用の誤りの主張である。
すなわち,日本国内の顧客がインターネット上のサイトからわいせつな電磁的記録を含むデータをダウンロードするのは,刑法175条1項後段にいう「頒布」には該当せず,また,ダウンロードに供するコンテンツを供給するための保管は同条2項にいう「頒布する目的」での保管には該当しない。
さらに,本件は,アメリカ合衆国内のサーバコンピュータに置かれたサイトの運営により,インターネットを通じて行われたものであるから,本件を国内犯として処罰することはできない。
したがって,被告人は無罪であり,前記各法条を適用して被告人を有罪とした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
第2 本件の主な事実関係本件証拠によれば,本件の主な事実関係は,次のとおりである。
(1) 被告人は,Xらと共に株式会社Viviane Japan(以下「V社」という。
)の名義でインターネット上のアダルトサイト動画配信サイトの運営に参画し,本件当時,V社の東京事務所に相当する株式会社DDA(以下「D社」という。
)代表者として,同社の従業員らと共にわいせつな動画やゲームの企画,製作,顧客からのクレーム処理等に当たり,他方,アメリカ合衆国在住のXは,V社の- 3 -ニューヨーク事務所に相当するデザインファクトリー(以下「DF社」という。
)代表者として,同社の従業員らと共にD社が制作して納品したわいせつ動画等を同国内に設置されたサーバコンピュータにアップロードするなどして,前記動画配信サイトを運営していた。
(2) DF社は,平成21年頃には,「MiRACLEオリジナル素人SM無修正動画配信」というタイトルの動画配信サイトを立ち上げ,アメリカ合衆国内のサーバコンピュータから日本国内の顧客を含む不特定かつ多数の者に対し,D社がDF社の注文により撮影,編集して完成させたわいせつなアダルト映像の記録をインターネットを利用して有料で配信し,原判示1の平成23年7月21日頃に至った。
この配信サイトのウェブページには,入会案内,作品紹介を含めて日本語表記のものがあり,日本国内からアクセスしてわいせつ動画等のデータファイルを有償でダウンロードすることが可能であり,被告人は,日本国内の不特定かつ多数の者が有償でわいせつ動画を各自のコンピュータにダウンロードすることを認識していた。
(3) さらに,被告人は,平成23年秋頃,「TRAMPLE ONSchatten!!改〜かげふみのうた〜」というタイトルのわいせつ画像を含むゲームデータをDF社から配信するため,V社従業員に指示して顧客がダウンロードするシステムを構築させ,同年12月頃,それらのゲームデータをDF社のバックアップサーバにアップロードし,これをDF社がゲーム配信サイト(ゲーム名と同様のタイトル)にアップロードして配信し,原判示2の時期である同月7日頃に- 4 -至った。
この配信サイトのウェブページには,購入画像や作品紹介を含めて日本語表記のものがあり,日本国内からアクセスして,わいせつ画像を含むゲームデータを有償でダウンロードすることが可能であり,被告人は,日本国内の不特定かつ多数の者が有償でこれらのゲームデータを各自のコンピュータにダウンロードすることを認識していた。
(4) 被告人は,D社の業務として,D社の事務所内で,DF社のデータが破壊された場合でも,インターネットで販売したり,別のメディアで二次利用したりできるようにする目的で,他の者と共に,原判示3,4のとおり,DVD20枚にわいせつな画像を記録したものを保管し,さらに同様の目的でわいせつ画像を含むゲームデータファイルをD社内のパソコンのハードディスクに保管していた。
第3 当裁判所の判断被告人らの行為は,日本国内の顧客に日本国外のサーバコンピュータからデータファイルを各自のパソコンにダウンロードさせてわいせつ動画等のデータファイルを取得させるものであるが,所論は,顧客によるこのようなダウンロードは,顧客による受信であって,サーバ側の送信ではないから,被告人らは,刑法175条1項後段にいうわいせつな電磁的記録を「頒布」したとはいえないという。
しかし,刑法175条1項後段にいう「頒布」とは,不特定又は多数の者の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を取得させることをいうところ,被告人らは,サーバコンピュータからダウンロードすると- 5 -いう顧客らの行為を介してわいせつ動画等のデータファイルを顧客らのパソコン等の記録媒体上に取得させたものであり,顧客によるダウンロードは,被告人らサイト運営側に当初から計画されてインターネット上に組み込まれた,被告人らがわいせつな電磁的記録の送信を行うための手段にほかならない。
被告人らは,この顧客によるダウンロードという行為を通じて顧客らにわいせつな電磁的記録を取得させるのであって,その行為は「頒布」の一部を構成するものと評価することができるから,被告人らは,刑法175条1項後段にいう「電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録・・・を頒布した」というに妨げない。
したがってまた,DVDの複製販売等のほか,前記のようなダウンロードに供することを目的として行うわいせつな電磁的記録の保管は,同条2項にいう「有償で頒布する目的」での保管に該当するから,被告人らが,サーバコンピュータのデータが破壊された場合に補充する目的でDVDやパソコンのハードディスクにわいせつな電磁的記録を保管した行為は,有償で頒布する目的で行うわいせつな電磁的記録の保管に該当するということができる(念のために付言すれば,その保管は,日本国内の顧客らのダウンロードをも予定したものであるから,日本国内において頒布する目的があることは明らかである。
)。
所論は採用できない。
所論は,さらに,刑法1条1項の解釈上,国内犯として処罰するには,主要な実行行為を日本国内で行う必要があり,本件のようにアメリカ合衆国内でサイトを運営し,日本国内の顧客がこれにアクセスし- 6 -てダウンロードするに過ぎない場合は国内犯として処罰できないという。
しかし,犯罪構成要件に該当する事実の一部が日本国内で発生していれば,刑法1条にいう国内犯として同法を適用することができると解されるところ,既にみたとおり,被告人らは日本国内における顧客のダウンロードという行為を介してわいせつ動画等のデータファイルを頒布したのであって,刑法175条1項後段の実行行為の一部が日本国内で行われていることに帰するから,被告人らの犯罪行為は,刑法1条1項にいう国内犯として処罰することができる。
所論は,このように解すると,わいせつ画像等の規制がない外国に配信サーバを設置してサイトを運営する行為であっても,日本からアクセスされてダウンロードされれば,日本人,外国人であるとを問わず,我が国の刑法が適用されることになり,各国の規制との衝突が生じることになり不当であるという。
しかし,実際上の検挙の可能性はともかく,我が国における実体法上の犯罪の成立を否定する理由はなく,所論のいう点は,前記のような解釈の妨げとはならない。
原判決は,以上と同旨の解釈の下に被告人を有罪と判断したものであって,その法令の適用に何ら誤りはなく,論旨は理由がない。
第4 適用した法条
控訴棄却につき刑訴法396条
(検察官齋藤博志出席)
(裁判長裁判官 三好幹夫 裁判官 菊池則明 裁判官 染谷武宣)

阪高
平成23年3月23日
児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)違反,わいせつ図画陳列被告事件
                判    決
被告人
検察官  長崎正治
弁護人  奥村徹(主任),園田寿(いずれも私選)
一審判決 神戸地方裁判所 平成22年11月29日宣告
                主    文
     本件控訴を棄却する。
                理    由
第1  弁護人の控訴理由
 1  法令適用の誤り
 一審判決には, 次のとおり判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある。
(l) わいせつ図画である画像情報をファイル共有ソフトを利用してインターネット利用者が閲覧可能な状態にした行為は, わいせつ物を「公然と陳列した」ことに当たらないのに, 一審判決はわいせつ物陳列罪の成立を認めた。
(2) 一審判決別表1ないし3の児童ポルノかつわいせつ図画である画像情報をファイル共有ソフトを利用してインターネット利用者が閲覽可能な状態にした行為については,児童ポルノ公然陳列罪(児童ポルノ法7条4項前段)は成立せず,児意ポルノ提供罪 (同項後段) が成立するにもかかわらず, 一審判決は児童ポルノ公然陳列罪の成立を認めた。
(3) 仮に一審判決別表1ないし3の児童ポルノかつわいせつ図画である画像情報をファイル共有ソフトを利用してインターネット利用者が閲覧可能な状態にした行為について,児董ポルノ公然陳列罪が成立するとしても,本件では,児童ポルノ公然陳列罪については3罪の併合罪,わいせつ物陳列罪については包括一罪が成立し, 児童ポルノ公然陳列罪とわいせつ物陳列罪は観念的競合となり結局科刑上一罪となるのに, 一審判決は児童ポルノ公然陳列罪の包括一罪の成立を認めた。
 2  量刑不当
 一審判決の懲役10か月,3年間執行猶予の量刑は重すぎて不当であり,罰金刑が相当である。
第2  控訴理由に対する判断
 1  法令適用の誤りの主張について
 刑法175条が定めるわいせつ物を「公然と陳列した」とは,その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい(最高裁平成13年7月16日第三小法廷決定・刑集55巻5号317頁参照),児童ポルノ法7条4項前段の児童ポルノ公然陳列罪における「公然と陳列した」との要件についてもその文言に照らしてこれと同旨であると解するのが相当であるところ,本件は,児童ポルノを含むわいせつ図画の画像情報が記憶,蔵置された, わいせつ物であり児童ポルノに当たるハードディスクを内蔵したパソコンをインターネットに接続してファイル共有ソフトの共有機能を作動させ,不特定多数のインターネット利用者にこれらの画像が閲覧可能な状況を設定したというものであるから, わいせつ物陳列罪ないし児童ポルノ公然陳列罪が成立することは明らかである。なお,弁護人の主張にかんがみ,付言するに,児童ポルノ法の平成16年改正で,電磁的記録の提供(同改正後の同法7条4項後段)を新たに処罰の対象として新設し,かつ,児童ポルノの定義(同法2条3項)に「電磁的記録に係る記録媒体」を明記した趣旨は,同改正前の同法において,児童のポルノに係る電磁的記録である画像情報を記録煤体に記憶,蔵置させ,これをインターネット上で不特定多数の者に閲覧可能な状態にした場合には,裁判実務上,上記画像情報が記憶,蔵置された記録煤体を有体物としての児童ポルノとし,その公然陳列があったとして児童ポルノ公然陳列罪が成立すると解されていたところ,改正法では,そのような解釈を前提として,同改正前の同法では処罰の対象として含めることに疑義があった電子メールにより児童のポルノを内容とする電磁的記録を送信して頒布する等の行為の処罰規定を新設するとともに,この改正に伴い,解釈上の疑義が生じないように児童ポルノの定義中に「電磁的記録に係る記録媒体」が含まれることを明らかにしたもの,すなわち記録媒体自体の公然陳列等の行為が電磁的記録に係る記録煤体に係る罪, つまり有体物である児童ポルノに係る罪により従来通り処罰されることを明示したものと解される。このような同法の改正の趣旨・内容にかんがみれば,本件で児童ポルノ公然陳列罪が成立することは明白である。以上と異なる弁護人の主張は,結局のところ,独自の見解に基づくものであって採用できない。
 また,弁護人が罪数に関して主張するところは,その内容自体からして判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りに当たらないことは明らかであって,主張自体失当である。
 以上のとおり, 一審判決に判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りはない。弁護人の主張は理由がない。
 2  量刑不当の主張について
第3  適用法令
 刑事訴訟法396条

平成23年3月23日
 大阪高等裁判所第2刑事部
   裁判長裁判官  湯 川 哲 嗣
      裁判官  武 田 義 紱
      裁判官  岡 崎 忠 之

札幌高裁平成21年6月16日
          判      決
 上記の者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反(変更後の訴因 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,わいせつ図画販売目的所持)被告事件について,平成20年12月26日札幌地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官富松茂大出席の上審理し,次のとおり判決する。
          主      文
 原判決を破棄する。
 被告人を懲役1年10月及び罰金150万円に処する。
 その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
 この裁判が確定した日から3年間その懲役刑の執行を猶予する。
 札幌地方検察庁で保管中のファイルサーバー2台(同庁平成20年領第1835号符号36,37)及びハードディスク3台(同領号符号38,39,40)を没収する。
 原審における訴訟費用は被告人の負担とする。
          理      由
 本件控訴の趣意は,弁護人竹中雅史作成の控訴趣意書(なお,弁護人は,控訴趣意書で主張する原判決の法令解釈適用の誤りはいずれも判決に影響を及ぼすことが明らかなものである旨釈明した。)に,これに対する答弁は,検察官富松茂大作成の答弁書に,それぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。
 論旨は,原判決には,?児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「法」という。)7条5項前段の児童ポルノ提供目的所持罪は,刑法175条後段のわいせつ図画販売目的所持罪の特別法であるのに,原判示2につき児童ポルノ提供目的所持罪とともにわいせつ図画販売目的所持罪が成立するとした点で法令の解釈適用に誤りがあり,また,?法7条4項後段の児童ポルノ提供罪は,不特定多数の第三者がアクセスできる状態にすれば成立するのに,原判示1につき第三者が実際にダウンロードすることを必要としている点で法令の解釈適用に誤りがあり,これらの誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかなものであるというのである。
 諭旨に対する判断に先立ち,職権で原審記録を調査して検討するに,原判決には次のような法令の解釈適用の誤りがある。
 すなわち,本件訴因変更後の公訴事実中,わいせつ図画販売目的所持罪に係る公訴事実の要旨は,「被告人は,インターネット上に開設したホームページを利用して,不特定又は多数のインターネット利用者を対象として」「わいせつ図画を販売」「しようと企て,」「男女の性交場面等を露骨に撮影記録したわいせつ図画である動画ファイルを記憶・蔵置させたファイルサーバー2台及びハードディスク3台を,これらの動画ファイルを不特定又は多数の者に」「販売する目的で所持した。」というものであるが,同罪の「販売目的」の対象となる「わいせつな文書,図画その他の物」(刑法175条前段)とは有体物であって,単なる電子データそのものや「電磁的記録その他の記録」(法7条1項参照)はこれに含まれないと解されるから,有体物ではない「動画ファイル」を販売する目的でファイルサーバー等を所持したとの上記公訴事実自体がわいせつ図画販売目的所持罪を構成しないというべきである。(なお,関係証拠を検討しても,被告人が,わいせつな画像データを記憶,蔵置させたファイルサーバー及びハードディスクを所持し,このわいせつな画像データをインターネット等の電気通信回線を通じて第三者にダウンロードさせてその対償を得ていたことは認められるが,このファイルサーバー及びハードディスク自体を飯売したり,わいせつな画像データをCDやDVDなどの有体物に記憶させてこれを販売したりする目的を有していたことを認めるに足りる証拠は存在しない。) したがって,上記公訴事実と同一の事実を「犯罪事実」の項の2において認定し,刑法175条後段を適用してわいせつ図画販売目的所持罪の成立を認めた原判決は,同罪に関する法令の解釈適用を誤っており,この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れないところ,原判決は,「犯罪事実」の項の2の事実について,わいせつ図画販売目的所持罪と児童ポルノ提供目的所持罪が成立して両罪は観念的競合であるとし,さらに,同項の1と2の事実を包括一罪として1個の刑を科しているので,原判決は結局その全部について破棄を免れない。
 そこで,論旨に対する判断を省略し,刑訴法397条1項,380条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により当裁判所において更に判決する。
(犯罪事実)
 原判決の「犯罪事実」の項の冒頭事実中「及びわいせつ図画」及び「販売して」を,同項の2.の事実中「及び男女の性交場面等を露骨に撮影記録したわいせつ図画である動画ファイル」及び「かつ販売」をそれぞれ削除するほかは,原判決の記載と同一である。  (証拠の標目)
 原判決が「証拠の標目」の項で掲げるものと同一である。
(法令の適用)
罰     条
    判示1の各児童ポルノ提供及び判示2の児童ポルノ提      供目的所持の点
      包括して児童買春,児童ポルノに係る行為等の処      罰及び児童の保護等に関する法律7条4項後段,        同条5項前段
刑種の選択
    懲役刑及び罰金刑とを併科
労役場留置
    刑法18条
懲役刑の執行猶予
    刑法25条1項
没     収
    刑法19条1項1号,2項本文
原審の訴訟費用負担
    刑事訴訟法181条1項本文
児童ポルノ提供罪の成立時期についての補足説明)
 弁護人は,本件における児童ポルノ提供罪は,不特定多数の第三者がアクセスできる状態においた時点で成立する旨主張するが,本件犯行態様をみると,購入者によりその代金が振込入金されたことを確認した被告人が,犯罪事実1の児童ポルノ動画ファイルのダウンロードに必要なIDとパスワードを購入者に電子メールで送信し,購入者は,そのIDとパスワードを使って,被告人のファイルサーバーから上記児童ポルノ動画ファイルをダウンロードして自己のパソコン等に記憶,蔵置させた上,ダウンロードした上記児童ポルノ動画ファイルを再生して画像を見るというものであるから,本件における提供というためには,購入者が購入した上記児童ポルノ動画ファイルを実際にダウンロードして自己のパソコン等に記憶,蔵置することを要するというべきであり,弁護人の主張は採用することができない。
 よって,主文のとおり判決する。
 平成21年6月16日
   裁判官裁判官 小川育央
      裁判官 二宮信吾
      裁判官 水野将徳