児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・強姦・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(強姦罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例違反)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

被害者匿名の起訴状

 答案風にいえば、この程度の記載で、「できる限り特定して」といえるかどうかが問題となる。
 児童ポルノ製造罪の場合は氏名特定不要という判例もあって、できるだけ特定してあるのなら、匿名でも許容される可能性はあると思います。被害者が複数の場合、証拠に出てくる被害者と、訴因の被害者が結びつかなくなりそうです。
 「児童の両親は地検に「氏名を出すなら告訴を取り下げる」と伝えているとされる。」というのですが、被害者は重要な証人なので、証拠上は被害者の氏名が被告人に伝わるのは避けられないので、検察官はその点もちゃんと説明した方がいですね、

刑事訴訟法
第256条〔起訴状、訴因、罰条、予断排除〕
1公訴の提起は、起訴状を提出してこれをしなければならない。
2起訴状には、左の事項を記載しなければならない。
一 被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項
二 公訴事実
三 罪名
3公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。

検察講義案H24
(2) 公訴事実
ア公訴事実の意義等
起訴状には,公訴事実を記載する(刑訴256「「②)。
公訴事実は,訴因を明示して記載しなければならない。訴因を明示するには,できる限り, 日時,場所及ぴ方法をもって罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない(刑訴256「「「)。
訴因と公訴事実との関係については争いがあるが,公訴事実とは,訴因の背後にある前法律的,歴史的事実をいい,訴因とは,これを犯罪構成要件に当てはめて構成した具体的事実をいうと解する。
したがって,起訴状に記載される公訴事実は,前法律的,歴史的事実を犯罪構成要件に当てはめ,罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものでなければならない。
公訴事実には,特定の犯罪構成要件に該当するすべての事実を具体的に記載すべきであり,基本的構成要件に該当する事実はもとより,その修正形式としての未遂罪,共同正犯,教唆犯及び幇助犯の要件に該当する事実も記載しなければならない。ただし,違法性,有責性などの要件は,特にこれを記載するまでもなく,当然充足していることが前提となっている。例えば, 「被告人は00を殺害した」旨の記載(刑199参照)がされている場合には,被告人の殺人の行為が正当防衛(刑361)や心神喪失者の行為(刑391)に該当しないこと等,刑法総則の規定の通常の要件が特にその旨の記載がなくとも充足きれているとの趣旨である。
公訴事実は,実務上種々の面で重要な役割を演じており,裁判所に対し,検察官が求めた審判対象を画定するとともに,被告人に対し,防御の範囲を特定することを目的とするものであるから,罪となるべき事実を特定して明確に記載しなければならない。
起訴状に記載きれた公訴事実が真実であっても,何らの罪となるべき事実を包含していないときは,決定で公訴が棄却される(刑訴3391②)。公訴事実が全く特定きれていないときは, 「公訴提起の手続がその規定に違反したため無効で、ある」として,判決で公訴が棄却される(刑訴338④)。
また,公訴提起の効力の及ぶ範囲と既判力の及ぶ範囲は,公訴事実によって定まる。
具体的な罪となるべき事実は,特定の日時・場所において,一回限り発生した歴史的な事実であるから,公訴事実にこれを明確に記載するためには, 日時及び場所の記載が不可欠である。さらに, 日時の記載は,罰条改正に伴う適用すべき法令の特定,行為者の責任能力(刑41) の有無の判断,時効期間の起算点(刑訴253)の決定等の際に必要となり,場所の記載は,国内犯(刑1)と国外犯(刑2ないし4の2)の区別,土地管轄(刑訴2)の決定等の際に必要となる。
イ公訴事実の記載要領等
訴因の特定などに関する記載要領
公訴事実は,訴因を明示し,審判の対象を明確に特定して記載しなければならない。公訴事実は,例えば, 「……を窃取した」(刑235)というように法令用語をそのまま用いて記載する場合もあるが,これは必ずしも必要的でない。しかし,犯罪構成要件に該当する具体的事実を法令用語を用いないで記載した後に, 「もって他人の不動産を侵奪した」(刑235の2)というように法令用語を最後に付け加え,訴因の法的構成を明らかにする例も多い。
公訴事実の全部又は一部が起訴済みの事実や起訴しない事実を含んでいるため,これらの事実についても公訴を提起したと誤解きれるような記載方法は避けるべきである。
訴因の特定に欠けるところはないとされた事例は,以下のとおりである。
a 犯罪の日時,場所,方法などに関するもの
出入国管理令違反につき,密出国の日時を「昭27.4ころより同33.6下旬までの問」,その場所を「本邦より本邦外の地域たる中国に」旨各記載し,その方法につき具体的な表示がないが,犯罪の種類,性質等によりこれをつまびらかにすることができない特殊事情がある場合(最大判昭37.11.28集16・11・1633)
11 覚せい剤取締法違反につき,使用の日時を「昭54.9.26ころから同年10.3までの間」,その場所を「広島県00郡00町及びその周辺」,その使用方法などにつき「若干量を自己の身体に注射又は服用し」旨各記載した場合であっても,これらが起訴当時の証拠に基づきできる限り特定したものであるとき(最決昭56.4.25集35・3・116)。
111 業務上横領事件につき,横領の場所が単に100市内において」と記載されているにすぎない場合でも,犯行の日時,横領の金額・方法などが各5」1」に表示されており,これと犯行場所とを総合することによって,各具体的な横領の事実を認識するに十分で、あるとき(札高判昭27.1. 31高集5・1・85)。
lV 傷害致死事件につき, 1被告人は,単独又は甲及び乙と共謀の上, 0年O月O日,福岡県00市所在の00旅館00号室において,被害者に対し,その頭部等に手段不明の暴行を加え,頭蓋冠,頭蓋底骨折等の傷害を負わせ,よって,そのころ,同所において,同人を頭蓋冠,頭蓋底骨折に基づく外傷性脳障害又は何らかの傷害により死亡させた。」旨記載し,暴行態様,傷害の内容,死因等の表示が概括的であるが,検察官において,当時の証拠に基づき,できる限り日時,場所,方法等をもって罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものであるとき(最決平14.7.18集56・6・307)。
v 麻薬特例法第5条違反の罪(業として行う営利目的の薬物譲渡等)につき,譲渡年月日,譲渡場所,譲渡相手,譲渡量,譲渡代金を記載した別表を添付した上, 「被告人は,営利の目的で,みだりに別表記載のとおり, 4回にわたり, 4か所において, Aほか2名に対し,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンの結晶合計約0.5グラムを代金合計5万円で譲り渡すとともに,薬物犯罪を犯す意思をもって,多数回にわたり,上記Aほか氏名不詳の多数人に対し,覚せい剤様の結品を覚せい剤として有償で譲り渡し, もって,覚せい剤を譲り渡す行為と薬物その他の物品を規制薬物として譲り渡す行為を併せてすることを業としたものである」旨記載したとき(最決平17.10.12集59・8・1425)0
b 犯罪の客体に関するもの
「 盗品等有償譲受け罪の訴因を表示するには,その目的物件が査品等であることを表示すれば足り,具体的にいかなる犯罪によって得たものであるかを明示することは要しない(札高判昭26.2.12高集4・1・55)。
「 窃盗の訴因を明示するためにその目的物が衣類や家具である場合,その内容品目を一々克明に記載しなければならないものとはいえない(東高判昭29.5.26東高時報5・5・198)。
111 窃盗罪において,物件の所持者の氏名が判明しない場合は, 「氏名不詳者所有の」と表示することも一向に差し支えなしもとより起訴状を無効としない(東高判昭29.10.7東高時報5.10・402)。
lV わいせつ丈書販売罪につき,特定の日時場所で一人の特定人に1回に各内容の異なるわいせつフィルム数本を販売した場合に,その特定の日時場所で,特定人にわいせつフィルム1本を販売した旨記載したのみで,数本のフィルムのうちいずれの1本を販売したかを特定しなかったとき(東高判昭39.4.27高集17・3・274)。

 個人的法益の罪についての被害者の特定についてはこういう判例があります。

【事件番号】 大阪高等裁判所判決/昭和49年(う)第58号
【判決日付】 昭和50年8月27日
【参照条文】 暴力行為等処罰に関する法律1
       刑事起訴法256−3
【掲載誌】  高等裁判所刑事判例集28巻3号310頁
       判例タイムズ329号307頁
       判例時報807号105頁
【評釈論文】 警察学論集30巻2号149頁
       別冊ジュリスト74号72頁
       判例タイムズ335号118頁

しかしながら、本件共同暴行罪を包括一罪と解すべきでないことは先に判示したとおりであるから、これが包括一罪であることを前提とする所論は採用することができないこと明らかであるので、ここでは被害者ごとに一罪が成立することを前提として、訴因における特定の問題を検討する。
刑訴法二五六条三項が訴因の特定明示を要求しているのは、検察官に対する関係では公訴提起の対象宇即ち攻撃の目標を明らかにし、裁判所に対しては審判の対象、範囲を明確にし、被告人に対しては防禦の範囲を示すことを目的とするものであるから、被害者ごとに一罪が成立する本件犯罪においては、必ずしも氏名による特定を要しないとしても何らかの方法で被害者を特定することが要求されるわけではあるが、被害者とされている者の全員が被害を受けたことが明白な事案においては、訴因において被害者を特定することの実質的必要性は、もつぱらそれ以外の者と区別することに主眼があると思われるので、被害者らの集団の範囲が確定されている限り、その集団の内部における個々の被害者の特定に不充分な点があつたとしても、起訴状における訴因の明示としては、一応の目的を達しているものと解されないではない。
ししながら、記録によれば、本件において被害者とされている反帝学評系の学生ら約五〇名のうち三〇名位が竹竿をもつて被告人らの属する革マル派の集団と叩き合いをしたというだけで、その時間も小池長幸の検察官調書によれば数秒間、山田秀樹の検察官調書によれば瞬間で勝負がつき自分らは負けて敗走したというほどの短時間であつて、右両名及び古賀滋は、いずれも竹竿で叩き合つただけで自分の竹竿は相手の体に当らず相手の竹竿も自分の体には当らなかつたと述べていることを考えると、少くとも、竹竿を持たず、これらの集団の後方にいた者については、暴行を受けた事実すら認めがたい状況下にあるのである。
このように、被害者らの集団にいた者が全て被害を受けたとは断定できない場合には、単に起訴状に、反帝学評系の学生ら約五〇名に共同して暴行を加えたと記載し、被害者らの集団を確定してそれ以外の者と区別するだけではなく、さらにその集団内部において被害を受けた者を氏名その他の方法で特定しない限り、審判及び防禦に支障を来たし、訴因の特定明示を要求する刑訴法二五六条三項の趣旨に反し適法なものということはできない。
論旨は、いわゆる白山丸事件についての最高裁判所判例(昭和三七年一一月二八日大法廷判決・刑集一六巻一一号一六三三頁)を引用して本件の場合に訴因の明示に欠けるところはないと主張するが、この場合は、一罪の犯行の日時、場所という訴因特定の一手段の場合であるのに対し、本件は複数の人身犯罪における被害者についてのもので、罪となるべき事実そのものに関するものであつて、事案を異にするものといわなければならない。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130713-00000050-jij-soci
児童わいせつ、氏名記載要求=被害者匿名の起訴状で東京地裁―地検は拒否
時事通信 7月13日(土)12時19分配信
 強制わいせつ事件の起訴状で、東京地検が被害児童を保護するため氏名を伏せたところ、東京地裁が記載を命じていたことが13日、関係者への取材で分かった。地検は応じず、地裁と協議しているが、起訴状の不備を理由に公訴棄却が言い渡され、裁判が打ち切られる可能性もある。
 関係者によると、問題になったのは、児童が見ず知らずの男に公園のトイレに連れ込まれ、わいせつな行為をされて写真を撮られた事件。2次被害を恐れる両親の強い要望を受け、地検は起訴状で児童の氏名は伏せ、犯行日時や場所、方法とともに、年齢のみ記載した。
 これに対し、地裁は起訴内容が特定されていないとして、児童の氏名を記載するよう補正を命じたが、地検は応じていない。被告の男の弁護人は氏名を伏せることに同意しており、地検は被害者が特定可能な別の記載方法について地裁と協議を続けているという。
 刑事訴訟法は「日時、場所、方法」によって起訴内容を特定するよう求めている。被害者の氏名は明記されていないが、犯罪事実の一部であり、通常は起訴状への記載が必要とされる。 

http://digital.asahi.com/articles/TKY201307120734.html?ref=comkiji_redirect
東京地裁、氏名明記を要求 地検拒否、裁判打ち切りも 児童わいせつ被害者匿名で起訴
紙面写真・図版
児童強制わいせつ事件の主な流れ
 強制わいせつ事件の起訴状で、被害児童の氏名を伏せた東京地検に対し、東京地裁が氏名を明記するよう補正を命じていることがわかった。地検は二次被害を恐れる被害者側の意向もあって求めに応じておらず、このまま公訴棄却で、裁判が打ち切られる可能性がある。被告が検察側の追及から身を守る「防御権」と「被害者保護」がぶつかる異例の事態だ。▼38面=被害者名、伏せる功罪
 関係者によると、東京地検が起訴したのは、児童が公園の公衆トイレに連れ込まれ、わいせつな行為をされたうえ、写真も撮られた事件。両親の強い要望や児童が幼いこと、加害者が見ず知らずの男だったことなどを考慮し、地検は氏名を伏せることにした。
 起訴状には、日時とあわせて「被告が公園のトイレに自ら連れ込んだ児童(○歳)」と記載した。これに対し地裁が、起訴内容が特定できていないとして氏名の記載を求めた。刑事訴訟法上は、起訴の手続きが規定に違反していれば、公訴棄却が言い渡され、罪に問うことはできない。
 児童の両親は地検に「氏名を出すなら告訴を取り下げる」と伝えているとされる。強制わいせつ罪は親告罪のため、被害者側の告訴がなければ起訴できない。
 刑事訴訟法は「日時、場所、方法」によって起訴内容の特定を求めている。被害者の氏名についての定めはないが、通常は起訴状に氏名を記載しており、事実上、起訴内容を特定する要素の一つとされてきた。
 起訴状の謄本は必ず被告本人に送達されるため、特に性犯罪やストーカー事件で、被害者や親族らが不安を抱くケースが多い。
 昨年11月に起きた神奈川県逗子市のストーカー殺人事件では、神奈川県警が別の事件での逮捕時に被害者の氏名や住所を加害者の男の前で読み上げていたことが発覚。これを受け、検察でも、起訴時の被害者の氏名の扱いを検討してきた。
 今回の事件では、「元々、相手の氏名も知らない被告に、何の不利益が生じるのか」と検察幹部は反発する。やはり親告罪である強姦(ごうかん)罪を含む性犯罪では、被害者側が被告に氏名を知られるのを恐れて処罰を求めない事例もあり、「犯罪を埋もれさせることにつながる」と懸念する。
 一方、日本弁護士連合会刑事弁護センター副委員長の奥村回(かい)弁護士は「被害者名が不明だと、被告人が仮に、人違いなどで誤った検察側の追及を受けても、具体的に反論するなどの防御がとれず、裁判所が間違った判断をする恐れがある。あいまいな運用を認めるべきではない」と指摘する。
 ◆キーワード
 <公訴棄却> 形式や手続き面で要件が整っていないため、実体的な審理に入らずに裁判の手続きを打ち切るもの。刑事訴訟法は338条で、同じ事件が2度起訴されたり、手続きに重大な違法があって起訴が無効だったりする時などは、判決で公訴を棄却すると定めている。法務省によると公訴棄却が確定しても、その後に裁判所が求めた要件を満たせば、あらためて起訴することは可能という。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130714-00000095-san-soci
刑事訴訟法は起訴状に日時、場所、方法を明記したうえで、罪となるべき事実を特定するように求めている。被害者の氏名に関する規定はないが、通常は記載されている。
 関係者によると、問題になったのは、児童が面識のない男に公園のトイレでわいせつな行為を受けたとされる事件。起訴状の謄本が被告に送達されることから、2次被害を恐れた両親の要望を受け、地検は起訴状で児童の氏名を伏せて、年齢のみを記載した。
 これに対して、地裁は起訴内容の特定に支障が出ることなどを理由として、児童の氏名を記載するよう命じた。被告の男の弁護人は氏名を伏せることに同意しており、地検は被害者が特定可能な別の記載がないか地裁と協議を続けている。
 検察当局では、昨年11月に神奈川県逗子市で起きたストーカー殺人事件で、警察官が逮捕状に書かれた女性の住所を朗読したことが犯行につながった事態を受け、一部事件で起訴状での被害者名の匿名化を進めている。被害者名の代わりにメールアドレスを記載したり、勤務先と姓だけを書いたりするといった配慮を行っているという。
 一方、匿名では誰に対する犯罪行為で起訴されたか、被告側に判然としなくなる可能性がある。刑事事件に詳しい弁護士は「匿名が一般化すれば、被告の反論する権利が侵害される恐れがあり、ひいては冤罪につながる危険性をはらむ」と指摘している