児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・強姦・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(強姦罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例違反)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

法務省刑事局付検事朝火恒行「児童ポルノのURLをウェブページ上に明らかにした行為は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条4項の「公然と陳列した」に該当するとした原判決の上告審において,上告棄却の決定に反対意見が付された事例>>>判例時報2166号140頁」(警察公論2013年8月号)

 この判決の前には、これが公然陳列罪の正犯だとか幇助だとか検討している学説はありませんでした。

この点で参考となるのは,わいせつ画像を閲覧できるサイトへのハイパーリンク(他の文書や画像などの位置情報であり,これをクリックするとリンク先に移動するようになっているもの)を張る行為が公然陳列といえるかに関する学説上の議論である。消極説(園田寿「インターネットとわいせつ情報」法律時報69巻7号等)は,ハイパーリンクには何らわいせつな情報は存在せず,ハイパーリンクの設定行為は,わいせつ情報の情報の陳列であり,わいせつ情報自体の陳列とは質的に異なるとする。これに対して,積極説は,ハイパーリンクを張ることによってわいせつ情報への認識可能性を設定した以上,公然陳列に該当するとする。もっとも,積極説もわいせつ情報への認識可能性を設定する全ての行為を公然陳列とするわけではなく,陳列の日常用語的理解とのギャップを埋めるために認識可能性の設定行為とわいせつ情報との密接性を要求する見解(書籍・雑誌等によりわいせつサイト情報を知らせるような行為は,確かに「認識可能性」を設定する行為ではあるが,密接性の要件を通常欠くとする。) (山口厚「コンピュータ・ネットワークと犯罪」ジュリストNo.l1l7)や,わいせつ情報をサーバー等に記憶・蔵置したのと同視できる場合に限るとする見解(川崎友巳「サイバーポルノの刑事規制」同志社法学52巻1号等)がある。
本件のURLを明らかにする行為は,消極説に立てば,おそらく当然に公然陳列には該当しないことになろう。他方,積極説に立っても,クリックl回でわいせつ情報へ移動するハイパーリンクの設定行為に比して. URL情報を明らかにする行為はわいせつ情報への認識可能性が低いともいえ,わいせつ情報との密接性を欠く.又はこれをサーバー等に記憶・蔵置する行為とは問視できないと評価することもできょう。この点,上記の川崎友巳「サイバーポルノの刑事規制」は,ハイパーリンクの設定行為は公然陳列に該当するが. URLを明らかにする行為は公然陳列に該当しないとしている(なお,控訴審判決の考え方は,積極説のうち,わいせつ情報をサーバー等に記憶・蔵置したのと同視できる場合に限るとする見解に近い立場を採るものと考えられる。)。
本決定の反対意見が指摘するとおり,本件の改変されたURLを明らかにする行為が公然陳列に該当すると解した場合,同様に特段複雑困難な操作を経る必要がないといえる,児童ポルノ(わいせつ)情報の所在場所の情報を雑誌等に掲載したり,塀等にポスターを掲示する行為まで公然陳列となるという懸念はもっともであると,恩われる。
他方で,控訴審判決や積極説のように,自らウェプページに児童ポルノ(わいせつ情報)を掲載したのと同視することができるか否か,又は認識可能性の設定行為と児童ポルノ(わいせつ情報)との密接性が必要であるという観点から絞りをかけ.「陳列」の日常用語的用法にも照らし,公然陳列の処罰範囲を画するというアブローチは,高度の相互接続性を持つインターネット世界の特殊性も考慮に入れると,有用であると思われる。
なお,控訴審判決の立場に即していえば,本件と同種事案の捜査に当たっては.「特段複雑困難な操作を経ることなく閲覧できるか否か」につき,児童ポルノを閲覧するまでの操作の簡易性や操作時間の長短. 「URLを明らかにする行為又はこれに付随する行為が全体として閲覧を積極的に誘引するか否か」につき,ウェブページ全体における誘引文言やその趣旨,閲覧を誘引するその他措置の有無(閲覧者の匿名性担保のためのフリーメール取得方法の教示.ウイルス感染回避措置の教示等)などを明らかにする必要があろう。
終わりに
控訴審判決及び、積極説に立っても. 「児童ポルノのURLがある雑誌に掲載されている」旨をウェブページ上に明らかにする行為,児童ポルノサイトに関する情報を掲載した雑誌等を出版・販売する行為等は公然陳列には通常該当しないと解していると考えられるが,それが公然陳列に係る解釈の外延となるかどうかは,今後の事例の集積を待つほかないと思われる。
インターネット等のネットワークを介して児童ポルノ(わいせつ)情報を伝達する行為は,本件のようにURLをあえて一部改変するなど,処罰を免れるためにその手口は巧妙化していると思われる。今後も児童ポルノ(わいせつ)情報の認識可能性を設定する行為のうち,どこまでが公然陳列となるか慎重な判断が求められる事例が増えると思われる。