児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強制わいせつ罪と3項製造罪は併合罪(東京高裁h24.11.1)

 こんなことを主張するのは誰なのかというのはおわかりですね。記録にも名前を出してもらいました。

原判決
 被告人は,遊戯中の女児にわいせつな行為をしようと企て
第1 平成25年7月1日午後1時26分頃,大阪市北区天満公園に設置された公衆便所内に,大阪花子(当時4歳)を誘い込んで,同便所ドア前に立ちふさがるなどして,同女の脱出を不能にし,その頃から同日午後1時28分頃までの間,同女を不法に監禁し
第2 同日午後1時18分頃から同日午後1時28分頃までの間,同公衆便所内において,前記大阪が13歳未満であることを知りながら,同女に対し,そのズボン及びパンティを引き下げ,その陰部を手指でもてあそび,舐めるなどした上,同女をして自己の陰茎を握らせるなどし,もって,13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をし
第3 前記大阪が18歳に満たない児童であることを知りながら,同日午後1時24分頃から同日午後1時28分頃までの間,同公衆便所内において,同児童に,その陰部を露出させる姿態をとらせ,これを撮影機能付き携帯電話機で撮影し,その動画データを携帯電話機本体の内蔵記録装置に記録させて保存し,もって,衣服の一部を着けない児童の姿態であって,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造し
たものである

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=83376&hanreiKbn=03
裁判要旨  1 わいせつ行為をする目的で公衆トイレ内に誘い込んだ後,内鍵を施錠し,あるいはドアの前に立ちふさがるなどして,陰部を触る等のわいせつ行為をした本件事実関係の下においては,監禁罪と強制わいせつ罪は観念的競合の関係にある。
2 わいせつ行為の際にこれらの姿態を撮影して児童ポルノを製造した場合においては,強制わいせつ罪と児童買春・児童ポルノ等処罰法7条3項の児童ポルノ製造罪は併合罪の関係にある。

 製造罪とは併合罪という結論を見越して、監禁罪と観念的競合にする理由を書いてもらったんですが、別に監禁しなくてもわいせつ行為できますし、監禁=わいせつではないので、行為は一体とはいえないですよ。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130628160234.pdf
そこで検討すると,被告人は,各被害児童に対し,いずれも,わいせつ行為をする目的で公衆トイレ内に誘い込んだ後,内鍵を施錠したり(原判示第4),ドアの前に立ちふさがるなどして(同第1),陰部を触る等のわいせつ行為をしたものであるが,わいせつ行為に及んでいること自体がドア前に立ちはだかることとなって監禁行為は継続しているし,わいせつ行為が終了した直後にその場から逃走して被害児童を解放している。そうす
ると,刑法176条後段に触れる行為と同法220条に触れる行為とはほとんど重なり合っているといえる上,社会的評価において,トイレのドアの前に立ちふさがるなどして脱出不能にする動態と,このような姿勢をとりながらわいせつな行為をする動態は,被害児童をトイレに閉じこめてわいせつな行為をするという単一の意思に基づく一体的な動態というべきであるから,原判示の各監禁罪と各強制わいせつ罪は,いずれも観念的競合の関係にあるものと解される。
・・・・

確かに,所論のいうとおり,一般に上記撮影行為自体も刑法176条後段の強制わいせつ罪を構成すると解されている上,直接的なわいせつ行為の姿態をとらせる行為が児童ポルノ法7条3項の構成要件的行為であることからすると,本件において,刑法176条後段に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為とは重なり合いがあるといえる。
しかし,本件では,被告人は,撮影行為自体を手段としてわいせつ行為を遂げようとしたものではないから,撮影行為の重なり合いを重視するのは適当でない。また,直接的なわいせつ行為の姿態をとらせる行為は,上記のとおり構成要件的行為ではあるが,児童ポルノ製造罪の構成要件的行為の中核は撮影行為(製造行為)にあるのであって,同罪の処罰範囲を限定する趣旨で「姿態をとらせ」という要件が構成要件に規定されたことに鑑みると,そのような姿態をとらせる行為をとらえて,刑法176条後段に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為とが行為の主要な部分において重なり合うといえるかはなお検討の余地がある。
そして,直接的なわいせつ行為と,これを撮影,記録する行為は,共に被告人の性的欲求又はその関心を満足させるという点では共通するものの,社会的評価においては,前者はわいせつ行為そのものであるのに対し,後者が本来意味するところは撮影行為により児童ポルノを製造することにあるから,各行為の意味合いは全く異なるし,それぞれ別個の意思の発現としての行為であるというべきである。そうすると,両行為が被告人によって同時に行われていても,それぞれが性質を異にする行為であって,社会的に一体の行為とみるのは相当でない。
また,児童ポルノ製造罪は,複製行為も犯罪を構成し得る(最高裁平成18年2月20日第三小法廷決定・刑集60巻2号216頁)ため,時間的に広がりを持って行われることが想定されるのに対し,強制わいせつ罪は,通常,一時点において行われるものであるから,刑法176条後段に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為が同時性を甚だしく欠く場合が想定される。したがって,両罪が観念的競合の関係にあるとすると,例えば,複製行為による児童ポルノ製造罪の有罪判決が確定したときに,撮影の際に犯した強制わいせつ罪に一事不再理効が及ぶ事態など,妥当性を欠く事態が十分生じ得る。一方で,こうした事態を避けるため,両罪について,複製行為がない場合は観念的競合の関係にあるが,複製行為が行われれば併合罪の関係にあるとすることは,複製行為の性質上,必ずしもその有無が明らかになるとは限らない上,同じ撮影行為であるにもかかわらず,後日なされた複製行為の有無により撮影行為自体の評価が変わることになり,相当な解釈とは言い難い。
以上のとおり,本件において,被告人の刑法176条後段に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為は,その行為の重なり合いについて上記のような問題がある上,社会的評価において,直接的なわいせつ行為とこれを撮影する行為は,別個の意思に基づく相当性質の異なる行為であり,一罪として扱うことを妥当とするだけの社会的一体性は認められず,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから,両罪は観念的競合の関係にはなく,併合罪の関係にあると解するのが相当である

 「自然的観察で社会的見解上一個」とかいう判例の基準からかなりずれてますよね。複製行為がない事案で複製行為のあった場合を考慮して併合罪にしているのですが、ありもしない訴因外事実じゃないですかね。
 被告人質問で「私は撮影行為自体で興奮するのであって、後で見直して興奮するわけではありません」って言わせておけば、観念的競合になりやすいようです。


 撮影というわいせつ行為と記録という製造行為は別だという屁理屈は、すでに、仙台高裁で退けられています。

仙台高裁H21.3.3
仙台高裁平成21年3月3日宣告
判決
上記の者に対する強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件について,平成20年10月15日福島地方裁判所白河支部が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官内田匡厚出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中70日を原判決の刑に算入する。
理由
1本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に記載のとおりであるから,これらを引用するが,論旨は,法令適用の誤り,訴訟手続の法令違反及び量刑不当の主張である。
2控訴趣意中,法令適用の誤り及び訴訟手続の法令違反の主張について
(1)所論は,原判示第2から第4までの各事実について,
①原判決は,被告人が各被害児童の陰部をデジタルカメラ等で撮影した行為をわいせつな行為と評価しているが,刑法176条のわいせつな行為は身体的接触を伴うものに限定されるから,上記各行為に同条後段を適用した原判決には法令適用の誤りがある,
②原判決は,各被害児童の陰部をカメラ機能付き携帯電話やデジタルカメラで撮影した電磁的記録を携帯電話機やSDカードに記録した行為をも強制わいせつ罪の実行行為としているが,仮に撮影行為がわいせつな行為と評価されるとしても,撮影後に記録媒体に記録する行為は,いかなる意味においても対人的行為ではないし,性的自由を害するものではなく,強制わいせつ罪の実行行為とはいえないから,これらの行為をわいせつな行為として同条後段を適用した原判決には法令適用の誤りがある,
などと主張する。
(2)しかしながら,
①については,刑法176条のわいせつな行為は,法文上,態様について限定がなく,また,自己の裸体を他人の目に触れさせたくないという気持ちは,人間の本質的部分に由来するものであるから,強制わいせつ罪の保護法益である性的自由には,自己の裸体を他人に見られたり写真等に撮影されたりしない自由を含むものと解される。そうすると,自らの性的欲求を満足させるために,各被害児童の陰部をデジタルカメラ等で撮影した被告人の行為が,同条にいうわいせつな行為に該当することは明らかというべきである。所論は,公然わいせつ罪の主たる保護法益が善良な風俗であるとしても,多少なりとも見せられた者の性的自由が害されているから,強制わいせつ罪と公然わいせつ罪とを区別するためには,強制わいせつ罪については身体的接触を要件とすべきであるなどとも主張するが,所論も認めるとおり,公然わいせつ罪は善良な性的風俗の侵害を本質とするものであり,わいせつ行為を見せられた者の性的自由を侵害する場合があるとしても,それは副次的なものにすぎず,直接的な性的自由の侵害を本質とする強制わいせつ罪とは行為態様において大きな違いがあるといえるのであって,身体的接触を強制わいせつ罪の要件としなければ両者を区別し得ないものではない。所論は独自の見解に基づくものであって採用の限りでなく,この点において原判決に法令適用の誤りはない。
②については,上記のとおり被害児童の陰部を撮影する行為は,刑法176条のわいせつな行為に該当するというべきところ,撮影の際に電磁的記録であるその画像データが携帯電話機やSDカードに同時に記録されるような場合には,このような記録行為も撮影行為と不可分なその一部と評価できるのであるから,原判示第2から第4までの各事実における各記録行為も撮影行為の一部としてわいせつな行為に該当するということができる。したがって,この点においても原判決に法令適用の誤りはない