児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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原判決は,刑法25条1項の文言,高額の罰金刑の選択的併科が定められた趣旨等を考慮すると,懲役刑及び罰金刑を選択した上で執行猶予を付す場合はその限りでないとして,被告人に懲役2年及び罰金400万円に処した上,懲役刑のみならず罰金刑にも執行猶予を付したが,刑法25条1項は,罰金刑については,懲役刑と併科する場合で、あっても, 50万円以下の言渡しをする場合に限って執行猶予を付すことを認めた規定と解すべきである。(東京高裁h24.11.13)

速報番号3483
原判決は,刑法25条1項が50万円以下の罰金の言渡しをする場合に限って執行猶予を付することを認めていると指摘しつつも,同条項の文言,高額の罰金刑の選択的併科が定められた趣旨等を考慮すると,懲役刑及び罰金刑を選択した上で執行猶予を付す場合はその限りではない旨付言し,被告人を懲役2年及び罰金400万円に処した上,懲役刑のみならず罰金刑にも執行猶予を付している。
しかし,原判決が執行猶予の根拠条文として刑法25条1項を挙げるにとどまっていることからも明らかなように, 50万円を超える罰金を言い渡す場合に執行猶予を付すことができる旨の規定はないから,そもそも原判決は法的根拠を欠くといわざるを得ない。
原判決は併科の場合は別に解することも可能としており,同条項の「3年以下の懲役・・・又は50万円以下の罰金」 という文言から,懲役刑と併科する場合には(「懲役及び罰金」となるので) 5 0万円を超える罰金刑で、あっても執行猶予を付すことができると解するものとみられるが,同条項の文言から併科の場合にはそのようにできる旨の積極的な趣旨まで読み取ることは困難である。
しかも,そのような解釈からすると,逆に罰金刑と併科する場合には3年を超える懲役刑であっても同様に執行猶予を付すことができるということになりかねない。
このような取扱いは,短期自由刑の弊害を回避して社会内更生を企図するために,一定の軽い懲役刑に限って執行猶予を付すことができるとした法の趣旨に反し,許されないことはいうまでもない。
また,罰金刑であっても,刑の軽い一定の限度では執行猶予を付すことができても,その限度を超えれば執行猶予を付すことができない,というのが法の趣旨であり,刑法25条1項は,罰金刑について,執行猶予を付すことができる一定の限度を50万円と定めたものと解される。
この点,原判決は,本件各犯罪について,罰金刑の併科が選択的とされ,刑法犯と比して高額の罰金額が定められている趣旨を指摘するが,法文上何らの留保もないのであるから,同条項の規定は本件法律違反についても異なることなく適用されるはずである。このことは,平成3年当時,既に原判決が指摘する状況にあったにもかかわらず,罰金の額等の引上げのための刑法等の一部を改正する法律(平成3年法律第31号)により引き上げられた罰金の執行猶予の限度額が50万円にとどめられたことからもうかがわれるところである。
すなわち,刑法25条1項は,罰金刑については,懲役刑を併科する場合であっても, 50万円以下の言渡しをする場合に限って執行猶予を付すことを認めた規定と解すべきである。
したがって,原判決は,罰金400万円の刑に処した上,これに執行猶予を付した点において,刑法25条1項の適用を誤った違法があり,その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。

第25条(執行猶予) 
1 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者