児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

自らが所持する物の存在については, これを把握しているのが通常であると考えられ,所持の事実が肯定されれば,所持の認識の存在についても強く推認される

 検事と判事がそういう論稿を発表していますので、児童ポルノの所持についても裁判所は当面こういうスタンスだと思います。

「薬物事犯における故意の認定について」刑事事実認定の基本問題P309
これらの事案のように,継続している所持の中である一時点が切り取られて, これが訴因とされている場合であっても,例えば,第三者から預かった荷物や自動車の中に薬物が存在しており, そのことを認識していなかったと主張されるような事案や,被告人の知らない聞に何者かによって自己の所持品中に薬物が持ち込まれたと主張されるような事案など,所持が開始されたとされる時点における所持の認識が問題となり得ることはある。
また,故意の要素という意味における所持の認識は,理論的には,所持の事実が肯定されて初めて問題となるものである。しかし,前述したように,そもそも所持の事実が認められるためには,少なくとも所持が開始されたとされる時点における対象薬物に対する実力支配関係が保管する意思に基づいていることが必要であり,対象薬物に対する所持の認識の存在が所持の事実を認めるための当然の前提となっているともいうことができる。加えて, 自らが所持する物の存在については, これを把握しているのが通常であると考えられ,所持の事実が肯定されれば,所持の認識の存在についても強く推認されるという関係にある。このようなことなどから,故意の要素という意味における所持の認識の問題については,前記平成10年東京地判が「本件覚せい剤は被告人の所持に係るものではな」いとしているように,実際には,所持の事実の成否という形で問題となることも多いものと思われる。

木曽裕「いわゆる所持の認識の立証のための捜査について」捜査研究 第52巻10号
一 はじめに
けん銃や覚せい剤など、いわゆる法禁物の所持事犯の構成要件については、当該対象物に対する事実上の実力支配関係があるとする客観的要件と、故意の内容として、当該物の存在について認識していたとする主観的要件に分けて検討される。
本稿では、本職が扱ったけん銃所持の否認事件の検討を通じて、主観的要件である所持の認識の認定について、一つの検討例を提示
することを目的としている。
なお、当然のことながら、本稿中、意見にわたる部分、とりわけ最終的な処分判断については、本職の私見である。
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三 所持の認識の判断基準について
冒頭に述べた二つの要件のうち、客観的要件の検討は、所持態様から比較的常識的な判断が可能であるのに対し、主観的要件は、本人が否認している場合、いかなる事情があれば、これを認定できるのかの判断に当たっては、しばしば困難を伴う。
ただし、自己の実力支配の範囲の中から、違法な物が見つかっているのに、その認識がないとなれば、それは、自然現象によるような特異な場合を除く限り、他者の意思に基づく混入であること、かつ、その物の存在に被疑者が気付かなくても不自然でないこと、という事情が必要であるはずである。
つまり、自分の意思で所持に至った場合は、所持の認識があるのは当然であるところ、他者による混入であったとしても、その存在に気付くことができれば、自力で排除も可能であるのが通常であり(特に、法禁物であればすぐにでも投棄もしくは通報の措置をとるのが経験則である)、にもかかわらず所持を継続していたならば、自己の意思により所持したと評価してよいからである。
よって、私は、所持の認識の認定は、他者による混入可能性の検討と、被疑者による認識可能性の検討を行って、その相関関係により行うべきであると考えている。