児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「痴漢をしたい人とされたい人が出会うインターネットのサイトを見てやった」という弁解

 書き込んだ人は特定できるでしょう。
 この被疑者がその書き込みで「承諾有り」と信じていたとすると、錯誤の問題になります。

http://digital.asahi.com/articles/OSK201305080166.html?ref=comkiji_txt_end
容疑者は「インターネットで痴漢を募集するサイトを見てやった」などと供述しているという。
 同サイトの掲示板には「痴漢してくれる人いませんか」「服装は当日朝7時過ぎに掲示板で連絡します」「後ろの車両に乗りました」などと、女性の様子が詳細に書き込まれていた。女性はこの掲示板に見覚えがなく、同署は女性になりすました悪質な記述とみて、書き込んだ人物を捜している。女性は車内で別の男からも痴漢を受けたが、この男は逃走したという。

http://www.sponichi.co.jp/society/news/2013/05/09/kiji/K20130509005765670.html
容疑者は「痴漢をしたい人とされたい人が出会うインターネットのサイトを見てやった」と供述しているが、女性は「サイトを利用したことはない」と話しているという。同署は何者かがネット上で成り済ましたとみて調べている。
 女性は同時に別の男からも胸を触られていたが、「やめてください」と言うと男は逃走。電車がJR和歌山駅に停車した時に、女性は容疑者の腕をつかんで駅員に引き渡した。
 容疑者は「ネットのサイトで女性から電車の時間と車両を指定された」と供述。女性は通勤時、いつも同じ席に座っているといい、同署はこの習慣を知る人物が成り済ましたのではないかとみて調べている。

条解刑法p465
本条は,個人の性的自由を保護法益とするものである。前段は,客体が13歳以上の男女の場合であり,暴行又は脅迫が用いられる必要があり,被害者の真意に基づく承諾がある場合には成立しない(被害者の承諾については,次条注5参照)。

条解刑法p470
5) 被害者の承諾
意義
本罪の性質上,13歳未満の女子に対する場合を除き,被害者の真意に基づく承諾があれば,本罪は成立しない。被害者の承諾は構成要件該当性を阻却する事由と解されるから,承諾があると誤信した場合には.故意を欠くことになる(本条注6(イ)参照)。
承諾は,自由な意思決定による真意のものである必要がある。黙示の承諾でもよいが,その場逃れのための真意に基づかないときは.承諾する旨の言動があったとしても,ここにいう承諾ではない。
反抗を著しく困難にする程度の暴行・脅迫があるときは,特別の事情がない限り,自由な意思決定による真意の承諾とは認められないであろう(注釈(4)298,大コンメ2版(9)72)。
条解刑法p471
被害者の承諾の誤信
被害者が自由な意思決定による真意の承諾をしたものと誤信したときは.故意を欠くことになる。しかし反抗を著しく困難にする程度の暴行・脅迫を自ら行った場合に.被害者の真意の承諾があると誤信したと認められるには,特別の客観的事情の存在が必要である(注釈(4)300,大コンメ2版(9)73) 。
・・・
注釈刑法(4)P300
自由な真意の承諾があるものと誤信したときは故立を欠く(新保・各235頁)。
誤信したことにつき相当の理由あるばあい〈東京地判昭35・12・22判タ117・111) はもちろんであるが,必ずしもそのようなばあいに限らない〈山口地判昭和34・3・2下級刑集1・3・611)。ただし反抗を著しく困難ならしめる程度の暴行・脅迫を加えている以上,自由な真意の承諾を誤信したとする主張を容れるには慎重を要するであろう。認定には被害者とのそれまでの関係,被害者の態度,行為者の精神状態等を考感に入れる必要がある〈福島地判昭34・5・13下級刑集1・5・1226)
・・・
コンメンタール刑法第二版第9巻P73
2 承諾の誤信
本条における承諾の存在は,前記のように構成要件を阻却する事由と解すべきであるから,真意に基づく承諾があったと誤信したときは,故意を欠くことになる.理論的には,必ずしも誤信するにつき相当の事由があった場合に限られないことになるが,この問題が生じるのは,反抗を著しく困難にするかあるいはそれ以上の暴行・脅迫がなされた場合なのであるから,自由な真意の承諾があると誤信したと認定するにはよほどの慎重さが必要とされよう(同旨,団藤・注釈(4)300頁).
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判例コンメンタール刑法ⅡP301
実務的には被害者の示諾があった、いわゆる和姦である、仮にそうでないとしても承諾があると誤信していたとの主張が多いが、要は暴行・脅迫の有無が争点であり、被害者の被害供述が信用できるか否かの事実認定の問題である。これらが深刻に争われる事例は姦i主行為と体をなす程度の有形力の行使しかなく、被害者の抵抗がない場合などであろう。これ以上の暴行等がある事例で無罪となった例は寡聞にして知らない。

東京地方裁判所判決昭和35年12月22日
判例タイムズ117号111頁
       主   文
 被告人等は、いずれも無罪。
       理   由
一、本件公訴事実は、「被告人両名は、共謀の上、昭和三十五年六月十四日午後五時三十分頃数時間前東京都新宿区新宿駅東口附近において知り合つた大木玲子(仮名、当時十七年)と同夜一緒にバーに遊びに行く約束をなし、それまで休んで行こうと申し向けて被告人等の友人花田一郎(仮名)等の居住している東京都新宿区戸塚四丁目五百三十一番地白根荘十三号室に同女と共に赴いたが、花田等が不在であつたため合鍵を使用して同室に入るや、俄かに劣情を催し、同女を強いて姦淫しようと企て、同女の肩に両手をかけて押し倒し、「帰してくれ、お母さんお母さん」と泣き叫ぶ同女の手足を押さえ、そのパンテイを脱ぎとる等の暴行を加えてその反抗を抑圧し、強いて同女を姦淫し、よつて同女に対し処女膜裂傷の傷害を負わせたものである。」というにある。
二、本件について取り調べた証拠によると、被告人下田(仮名、以下下田という。)が大木玲子(以下大木という。)を布団の上に倒し、被告人泉(以下泉という)がそのパンテイを脱ぎとり、その後しばらくして下田が大木の上に乗りかかつて姦淫したこと、年若い大本は相手が二人いるということにより相当の心理的圧迫をうけていたことが認められ、被告人等が大木に与えた暴行、脅迫(心理的圧迫)が同女の抵抗を著しく困難ならしめる程度に達していなかつたとはいい切れないものがあり、客観的には(すなわち、犯意の点を度外視するならば、)一応強姦罪が成立するようにみえる。また大木の側からみても、同人が下田との情交を承諾していたと認めることは困難である。しかし下田としては、姦淫に至るまでの大木の言葉、態度、動作等から同女が情交を承諾したと思いこんでいたので、はないかとの疑いが強い。すなわち、当時の大木には若干の抵抗、拒否的な言葉等下田との情交を拒むような言動がみられたが、同時にその間それを承諾したと解されるような言動もあつたので、下田としては、大木をその化粧等から半玄人的な女と思つていた関係もあつて、情交について同女の承諾を得たと思つたのではないかと推測されるのである。本件における暴行、脅迫は、強姦罪の成立を妨げない程度には達していたとしても、その間にはかなり微妙なものがあり、右の推測を容れる余地がない程強いものではなかつた。したがつて、本件は、和姦であるとはいえないが、下田が大木から情交の承諾を得たと誤解していた疑いが強く、この誤解には当時の情況に照らして無理からぬものがあり、下田に強姦の犯意があつたと認めることは困難である。かように下田について強姦罪が成立しない以上、現実に姦淫行為をしていない泉についても、強姦罪の共同正犯としての責任を問うことができないことは明らかである。(泉の行為については、理論上強制わいせつの疑いが残るが、検察官としては、下田が無罪となる場合に、泉の行為だけを切りはなして、右の罪で起訴する意思であるとは認められないので、裁判所も、この点は問題にしなかった。)以下詳細に検討する。

山口地方裁判所判決昭和34年3月2日
下級裁判所刑事裁判例集1巻3号611頁
       主   文
  被告人を判示第一の罪につき懲役六月に処し、判示第二の罪につき懲役三月に処する。
  未決勾留日数中百五十日を右懲役六月の刑に算入する。
  押収に係る小刀一丁(証第一号)はこれを没収する。
  本件公訴事実中強姦致傷の点は無罪。
してみれば、前述の、こりや世話ないやらせると思つた旨の被告人の供述にも真実性があり排斥し難いことは明かである。更に同女が被告人に姦淫された具体的状況について見るに、同女は両度にわたつて証人として尋問を受けながら、被告人が同女に加えた暴行の内容として、被告人は同女を抱くようにして手を首の後へ掛け、前から仰向けに押し倒したので、同女は逃げようともがきあちらこちらへ転げたが、相手の力が強く、ズロースを脱がされ、馬乗になつて関係されたという凡そ姦淫行為に通常伴う程度の漠然とした抽象的な態様を供述するに留まり、如何にして反抗を困難ならしめるような暴行を加えられたかという具体的な暴行の態様について何等明確な供述をなし得ない。この点を被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書について検討しても前述の如く、相手を押し倒し、乗り掛つて抑えつけ、ズロースを無理に脱がし、もがく女を無理に姦淫したという程度の極めて抽象的な供述があるに過ぎず、強姦行為の際多く見られる殴打扼首、脅迫等のなされた形跡もなく、果して相手の反抗を困難ならしめるような如何なる暴行が加えられたのか俄に断じ難い。首に手を掛け、押し倒し、馬乗になり、ズロースを引き脱がして姦淫するというのみでは姦淫行為一般についても当てはまることで必ずしも強姦行為とはなし得ない。被害者たる同女の抵抗の様子についても、同女の証言及び被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書によるも、同女が大きな声でたけるよ、警察へ言うよ等と言つたことは認められるが、実際に大声で救を求めた訳でもなく、単にもがいたというのみで、それ以上力を尽しての抵抗がなされた形跡を認め得ない。診断書記載の負傷は軽微なものであり、当裁判所の検証調書により認められるように現場の地面が各所に松の根の露出した荒い砂地であることを考えれば、必ずしも抵抗の烈しさを物語るものとはなし得ない。従つて同女が真実本気で力を尽して抵抗し、被告人が同女の反抗を困難ならしめるような暴行を加えたものか否か多分の疑があり、他面被告人としても、たとえ同女より一応の抵抗は受けても、それが前記の程度では、姦淫現場に到着するまでのいきさつから考へて、同女が本心から抵抗するのではなく内心は同意しているものと思い続けることも十分有り得べきことである。被告人は、司法警察員に対する弁解録取書、裁判官に対する被疑者陳述録取調書中で本件強姦致傷の犯罪事実はその通り相違ない旨述べており、叉司法警察員及び検察官に対する各供述調書中でも強姦の事実を認めた趣旨の供述をしていることは前述のとおりであるが、右は孰れも実際には結果的に外形的事実を認めた趣旨の供述に過ぎないと解する余地があり、被告人の犯意の証拠としては十分ではない。その他当公廷で取調べた全証拠につき検討するも、本件公訴事実中強姦致傷の点について犯意並びに強姦致傷罪の要件たる暴行脅迫の存在を認めるに足りる証拠は存しない。結局、本件公訴事実中強姦致傷の点は犯罪の証明がないことに帰するから、刑事訴訟法第三百三十六条により被告人に対し無罪の言渡をする。よつて主文のとおり判決する。