児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

神奈川県と東京都の迷惑防止条例違反(痴漢)容疑で逮捕された事例

 包括一罪でしたっけ
 強制わいせつ罪1罪でいいような態様です。

http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp0-20130413-1111829.html
電車で羽交い締め 15分間触り続け逮捕
 神奈川県警高津署は13日までに、東急田園都市線の電車で女性の体を触ったとして、県と東京都の迷惑防止条例違反(痴漢)容疑でを現行犯逮捕した。
 高津署によると、抵抗する女性を背後から羽交い締めにするなどし、約15分間、触り続けたという。現場が東京都と神奈川県にわたるため、両都県の条例を適用した。
 逮捕容疑は12日午後11時半〜11時45分ごろ、池尻大橋−梶が谷間を走行中の電車で、横浜市青葉区に住む女性会社員(32)の胸を触った疑い。「やっていない」と容疑を否認している。

http://www.sponichi.co.jp/society/news/2013/04/14/kiji/K20130414005607540.html
電鉄社員が東急線で痴漢 2都県適用逮捕
 神奈川県警高津署は13日までに、東急田園都市線の電車内で女性の体を触ったとして、県と東京都の迷惑防止条例違反(痴漢)容疑で電鉄社員容疑者(56)を現行犯逮捕した。現場が東京都と神奈川県にわたるため、両都県の条例を適用。触っていた時間は東京都の方が長かったが、本件はより罰則の重い神奈川県で処罰されることになるという。
 逮捕容疑は12日午後11時半〜11時45分ごろ、池尻大橋―梶が谷間を走行中の電車で、横浜市青葉区に住む女性会社員(32)の胸を触った疑い。容疑者は「やっていない」と容疑を否認している。
 高津署によると容疑者は、抵抗する女性を背後から羽交い締めにするなどし約15分間、触り続けたという。当初は、恋人同士がべたべたしているようにも見えたというが、近くにいた男性が女性の様子がおかしいことに気づき、容疑者を車内で取り押さえ、川崎市梶が谷駅で降ろして駅員に引き渡した。容疑者は帰宅途中で、酒に酔っていた。
 容疑者が女性を触り始めたのは、東京都世田谷区と目黒区にまたがる池尻大橋駅のあたり。行為は三軒茶屋駅、桜新町駅を通り過ぎてもやまず、多摩川を渡って神奈川県川崎市梶が谷駅の手前まで続いた。
 今回、両都県の条例が適用されたが、高津署によると「通常は容疑者が逮捕された都道府県で捜査する」という。容疑者が女性を触っていた区間は、東京都内では約7・5キロで、神奈川県内では約2キロ。それでも神奈川県の条例の下で、取り調べを受ける。
 痴漢に対する罰則は、東京都が「懲役6月以下または50万円以下の罰金」なのに対し、神奈川県は「懲役1年以下または100万円の罰金」と数字の上では2倍。捜査関係者は「殺人など相当に重大な事件ではないので(容疑者を東京都の警視庁に)引き渡すことはない」と話した。同署によると「今回は被害者が触られていた区間をはっきり覚えていたから都と県の条例を適用した」とし「初めてではないが珍しいケース」という。

 東急電鉄によると、容疑者は4月1日付でグループ会社の東急建設から出向し、10日から本社の営業本部営業推進部主査として勤務していた。同社は「捜査を見守り、厳正に対応する」とのコメントを出した。

論題 刑事判例研究(403)隣接都県にまたがって走行中の電車内での痴漢行為についてそれぞれの迷惑防止条例違反の罪について包括一罪が成立するとした事例(東京高裁平成19.3.14判決 確定 公刊物未登載)
著者 上冨 敏伸.
他言語論題 Study in criminal precedents (403)
請求記号 Z2-63
雑誌名 警察学論集 / 警察大学校 編.
出版者等 東京 : 立花書房, 1948-
巻号・年月日 60(11) 2007.11
巻号・年月日 60(11) 2007.11
ページ 198〜208

論題 特別刑法判例研究(17)隣接する地方公共団体にまたがる迷惑防止条例違反の罪の罪数関係[東京高裁平成19.3.14判決]
著者 仲道 祐樹.
雑誌名 法律時報.
出版者等 東京 : 日本評論社, 1929-
巻号・年月日 80(8) (通号 998) 2008.7
巻号・年月日 80(8) (通号 998) 2008.7
ページ 116〜119

迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(千葉県条例)違反,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(東京都条例)違反事件
東京高等裁判所判決平成20年5月15日
東京高等裁判所判決時報刑事59巻1〜12号38頁
 原判決は,「法令の適用」の項で,被告人の判示所為(注 その要旨は「被告人は,平成19年7月12日午前7時53分ころから同日午前8時3分ころまでの間,千葉県松戸市JR東日本松戸駅から東京都足立区の同北千住駅までの間を走行中の常磐線電車内において,V(当時20歳の女性)に対し,その着衣の上からその右乳房を手で触り,もって公共の乗物において,人を著しくしゅう恥させ,かつ,人に不安を覚えさせるような卑わいな行為をした」というものである。)は千葉県条例違反と東京都条例違反にそれぞれ該当する旨を示し,本件の罪数につき,「これは1個の継続的な犯意の下で行われた社会的に1個の行為であるが,2個の罪名に触れる場合であるから刑法54条1項前段,10条により(なお,条例の属地的な性質に照らせばそれぞれの地域での犯罪行為を併せて1罪とすることは相当ではなく,また,観念的競合の概念にまさに適合する判示所為を法律に明文の規定のない概念で処断する必要性も乏しいと考えられるので,判示所為を混合包括1罪として処断することはしない。)」として,いわゆる観念的競合に当たるとしているが,本件の事実関係を前提とすれば,被告人の判示所為については,各条例の場所的適用範囲からして同一の行為が両方の条例に違反するということはあり得ないので,いわゆる包括一罪として処罰するのが相当であるから,上記部分は「これらは包括一罪の関係にあるから,刑法10条により」とすべきであって,原判決は法令の適用を誤っているといわざるを得ないが,この誤りは判決に影響を及ぼさない。(安廣文夫・小森田恵樹・地引 広)

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反(神奈川県),公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反(東京都)被告事件

東京高等裁判所判決平成19年3月14日
高等裁判所刑事裁判速報集平成19年145頁
       理   由
 原判決は,「犯罪事実」として,「被告人は,常習として,平成18年11月2日午前8時10分ころから同日午前8時13分ころまでの間,神奈川県相模原市相模大野3丁目8番1号所在の小田急電鉄株式会社相模大野駅から東京都町田市原町田6丁目12番20号所在の同社町田駅に至る間を進行中の電車内において,被害者の女性(当時19歳)に対し,着衣の上からその陰部を右手で触り,もって公共の乗物において,人を著しくしゅう恥させ,かつ,人に不安を覚えさせるような卑わいな行為をした。」との事実を認定している。
 そして,関係各証拠によれば,被告人が,上記相模大野駅で一旦ホームに降りて再乗車した際,自分と同方向を向いている右斜め後方の被害者を認めて痴漢行為をすることを企て,同駅から上記町田駅までの間を進行中の電車内において,その犯意を継続させて一連の犯意の下に,上記女性に対し,電車が神奈川県相模原市内を走行中にも着衣の上からその陰部を右手で触る卑わいな行為をし,また,電車が東京都町田市内を走行中にも着衣の上からその陰部を右手で触る卑わいな行為をすることを繰り返していることが明らかである。
 このような事実関係を前提にすると,本件においては,神奈川県迷惑防止条例違反の罪と東京都迷惑防止条例違反の罪のいわゆる包括一罪が成立すると解するのが相当であり,上記両罪が観念的競合の関係に立つとして刑法54条1項前段を適用した原判決には,法令適用の誤りがあるといわざるを得ない。
 しかしながら,上記両罪は,包括一罪が成立する結果,刑法10条により,犯情の重い東京都迷惑防止条例違反の罪の刑で処断することになるところ,原判決は,上記両罪について,観念的競合の関係に立つと誤って解釈した結果,刑法54条1項前段及び10条を適用し,犯情の重い東京都迷惑防止条例違反の罪の刑で処断しており,結局,処断刑には差異を来していないのであるから,上記法令適用の誤りは,判決に影響を及ぼすものではないことが明らかである。

       公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する条例(埼玉県条例)、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する条例(東京都条例)違反被告事件
東京地方裁判所判決平成16年12月20日
判例時報1913号168頁
 (罪となるべき事実)
 被告人は、
 第一 (平成一六年七月一三日付け起訴状公訴事実関係)
 B1、B2ことB、C1ことC、D1、D2ことD、E1、E2ことE、F1ことFと共謀の上、常習として、平成一六年三月六日ころ、埼玉県川口市安行領根岸《番地略》甲野三階にある携帯電話機販売店「乙山」内において、それぞれ所携のデジタルカメラを使用して、G子(当時二〇歳)の衣服で隠されているスカート内の下着等を無断で撮影し、もって、公共の場所において、人を著しくしゆう恥させ、かつ、人に不安を覚えさせるような卑わいな行為をし、
 第二 (平成一六年一〇月一二日付け追起訴状公訴事実関係)
 E、H1ことH、I1ことIと共謀の上、常習として、同年四月二五日ころ、東京都墨田区錦糸《番地略》所在の丙川一階にある洋菓子販売所前において、被告人及びHが、所携のデジタルカメラを使用して、店員のJ子(当時一八歳)のスカート内の下着を撮影し、もって、公共の場所において、人の通常衣服で隠されている下着を撮影して、人を著しくしゆう恥させ、かつ、人に不安を覚えさせるような卑わいな行為をした。
 (証拠の標目)《略》
 (法令の適用)
 被告人の判示第一の所為は刑法六〇条、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する条例(埼玉県昭和三八年条例第四七号)一一条二項、一項一号、二条四項に、判示第二の所為は刑法六〇条、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(東京都昭和三七年条例第一〇三号)八条四項、二項、一項二号、五条一項にそれぞれ該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判が確定した日から四年間その刑の執行を猶予し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。
 (免訴の主張に対する判断等)
 一 被告人及び弁護人の主張
 被告人及び弁護人は、被告人は、判示認定の各犯行後に犯した判示認定の各罪と常習一罪の関係にある犯罪について略式命令を受け、本件各公訴提起前にこの略式命令が確定しているとして、本件においては、刑事訴訟法三三七条一号の「確定判決を経たとき」に当たることを理由に被告人に免訴の言渡しをすべきである旨主張する。そこで、以下、当裁判所のこの点に関する判断等を示すことにする。
 二 弁護人らの主張に対する判断
 (1) 前提事実等
 ア 前科調書(乙四〇)及び略式命令謄本(乙四三)によれば、被告人は、平成一六年六月七日に、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(愛知県条例)違反の罪につき、名古屋簡易裁判所で、罰金五〇万円に処する旨の略式命令(以下「本件略式命令」という。)を受けたこと、本件略式命令の罪となるべき事実(以下「本件略式命令事実」という。)の要旨は、被告人が、判示認定の各犯行の後である同年五月一七日午後五時一〇分ころ、名古屋市中区にあるビル内の店舗において、一八歳の女性に対し、所携のカメラ機能付き携帯電話機で同女のスカート内を撮影しようとし、後方から同女のスカートの下に同携帯電話機を差し入れ、もって公共の場所において、故なく、人を著しくしゅう恥させ、かつ、人に不安を覚えさせるような方法で、卑わいな言動をしたという内容であること、本件略式命令が、本件各公訴提起に先立つ同年六月二二日に確定していることが認められる。
 イ また、本件における検討に関係する各条例の条項の内容は、次のとおりである(以下の三条例を「本件各条例」ということがある。)。
  (ア) 判示第一関係の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する条例(埼玉県昭和三八年条例第四七号。以下単に「埼玉県条例」という。)
 一条 この条例は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為を防止し、もって県民生活の平穏を保持することを目的とする。
 二条四項 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、他人に対し、身体に直接若しくは衣服の上から触れ、衣服で隠されている下着等を無断で撮影する等人を著しく羞(しゆう)恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。
 一一条一項 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五〇万円以下の罰金に処する。
  一号 第二条第四項の規定に違反した者
 一一条二項 常習として前項の違反行為をした者は、一年以下の懲役又は一〇〇万円以下の罰金に処する。
  (イ) 判示第二関係の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(東京都昭和三七年条例第一〇三号。以下単に「東京都条例」という。)
 一条 この条例は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し、もって都民生活の平穏を保持することを目的とする。
 五条一項 何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しくしゆう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。
 八条一項 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五〇万円以下の罰金に処する。
  二号 第五条第一項の規定に違反した者
 八条二項 前項第二号の罪を犯した者が、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を撮影した者であるときは、一年以下の懲役又は一〇〇万円以下の罰金に処する。
 八条四項 常習として第二項の違反行為をした者は、二年以下の懲役又は一〇〇万円以下の罰金に処する。
 八条五項 常習として第一項の違反行為をした者は、一年以下の懲役又は一〇〇万円以下の罰金に処する。
  (ウ) 本件略式命令関係の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(愛知県昭和三八年条例第四号。以下単に「愛知県条例」という。)
 一条 この条例は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し、もって県民生活の平穏を保持することを目的とする。
 二条二項 何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、故なく、人を著しくしゆう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
  一号 人の身体に、直接又は衣服その他の身に付ける物(以下「衣服等」という。)の上から触れること。
  二号 衣服等で覆われている人の身体又は下着をのぞき見し、又は撮影すること。
  三号 前二号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
 九条一項 第二条第二項の規定に違反した者は、六月以下の懲役又は五〇万円以下の罰金に処する。
 九条三項 常習として第一項の違反行為をした者は、一年以下の懲役又は一〇〇万円以下の罰金に処する。
 (2) 常習一罪の成否について
 ア 本件においては、判示各認定事実のうち、第一の点は埼玉県条例に、第二の点は東京都条例に、また、本件略式命令事実は愛知県条例に、それぞれ違反する行為であって、当該行為を規制する条例を異にしており、また、判示各認定事実が、いずれもそれぞれの条例の常習加重処罰規定が適用される場合であるとして起訴され、当裁判所もそのように認定した事案であるのに対し、本件略式命令事実は、愛知県条例の常習加重処罰規定ではなく非常習の処罰規定が適用される場合であるとして略式起訴され、その旨の認定がなされた事案である(さらにいえば、判示各認定事実は、いずれも女性のスカートの中を盗撮した事案であるのに対し、本件略式命令事実は、盗撮自体ではなく、女性のスカートの中を盗撮しようとしてカメラ機能付き携帯電話をスカートの下に差し出した事案であるという違いもあるが、この点は以下の検討に際しては措いておく。)。しかし、いわゆる常習累犯窃盗罪について、常習累犯窃盗の一罪として起訴された数個の窃盗行為の中間に同種態様の犯行による窃盗罪の確定判決が存在し、起訴事実中の当該確定判決前の窃盗行為は確定判決の窃盗行為とともに常習累犯窃盗の一罪を構成するものと認められる場合、当該確定判決前の犯行については既に確定判決を経たものとして免訴すべきであるとの考え方に従えば(最高裁判所昭和四三年三月二九日第二小法廷判決刑集二二巻三号一五三頁参照)、判示第一の事実と本件略式命令事実の関係及び判示第二の事実と本件略式命令事実の関係において、常習一罪となるものについては免訴すべきであることになると考えられる。そして、常習とされる行為と非常習とされる行為が常習一罪の関係にあるかどうかは、非常習とされる行為が実際は常習とされる行為と同一の常習性の発露がある場合であったと認められるかどうかによって決するべきであると考えられるから、本件においては、例えば、判示第一の事実と本件略式命令事実との関係についていうと、①埼玉県条例と愛知県条例の常習加重処罰規定違反の罪が常習一罪の関係にあり、かつ、本件略式命令事実が愛知県条例の常習加重処罰規定の常習性の発露がある場合であったと認められる場合か、②端的に本件略式命令事実が埼玉県条例の常習加重処罰規定の常習性の発露がある場合であったと認められるとした場合に、判示第一の罪について被告人を免訴すべきことになろう。
 イ まず、本件各条例の常習加重処罰規定違反の罪相互の常習一罪の成否について検討する。
 条例は、国会が国の唯一の立法機関であるとされていることの憲法上の例外として憲法九四条によって認められた条例制定権に基づき、地方公共団体が制定するものであって、そのような自主立法権が認められた趣旨からすれば、条例において刑事上の罰則規定が定められるのは、当該地方公共団体において、ある行為を刑事罰をもって規制する必要性があると認めた場合であり、その場所的適用範囲は原則として当該地方公共団体の地域内に限られるのであるが(条例の効力が原則として属地的に生ずることにつき最高裁判所昭和二九年一一月二四日大法廷判決刑集八巻一一号一八六六頁参照)、他方、どのような行為を当罰性のあるものとして規制し、その規制行為にどのような刑罰をもって臨むかなどの内容面については、法律の範囲内である限り、当該地方公共団体が、当該地域における立法的措置の必要性の内容や程度に応じて基本的に自由に定めることができるものと解される。
 そして、本件各条例を見ると、まず、各条例の一条の文言から、その制定の目的が各地方公共団体それぞれの地域内における都民生活や県民生活の平穏の保持にあることは明らかであり、これと本件各条例で規制対象とされる行為には「人を著しくしゆう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」(以下「卑わい行為」という。)のほかにいわゆるダフ屋行為や景品買い行為等も含まれていることなどからすれば、本件各条例の保護法益は当該地方公共団体の地域内における都民生活や県民生活の平穏の保持という地方公共団体毎の社会法益であるというべきである。卑わい行為の規制の部分などは、一見保護法益が個人法益のようにも思われないでもないが、いずれの条例においても規制対象を公共の場所又は公共の乗物における卑わい行為に限定していることからしても、個人法益的側面が皆無とはいわないまでも、基本的には地方公共団体毎の社会法益が保護法益であると解すべきことに変わりはない。また、本件に関係する部分の各条例の具体的構成要件の定め方や法定刑についても、東京都条例は、卑わい行為を禁止した上(五条一項)、罰則については、盗撮とそれ以外の卑わい行為を分け、前者の法定刑を後者のそれより重く定め(八条一項、二項)、さらに盗撮とそれ以外の卑わい行為のそれぞれについて、やはり前者の法定刑を後者より重くして常習加重処罰規定を定めており(八条三項、四項)、盗撮については、常習の場合も非常習の場合も、法定刑のうち懲役刑の上限が埼玉県条例や愛知県条例のそれの二倍と重くなっている。他方、埼玉県と愛知県の両条例は、東京都条例のように盗撮とそれ以外の卑わい行為を区別することはせずに、すべての卑わい行為に共通のものとして非常習の処罰規定と常習加重処罰規定を置いており、両条例の法定刑も同一であるが、なお、その構成要件の規定ぶりには、埼玉県条例が、「身体に直接若しくは衣服の上から触れ、衣服で隠されている下着等を無断で撮影する等」を例示として「人を著しく羞(しゆう)恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」を禁止しているのに対し(二条四項)、愛知県条例は、「人を著しくしゆう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法」で、人の身体に、直接又は衣服その他の身に付ける物の上から触れること、衣服等で覆われている人の身体又は下着をのぞき見し、又は撮影すること、その他の卑わいな言動を禁止している(二条二項)と差が見られる。
 そうすると、そもそも本件各条例が、それぞれ全く別個の地方公共団体が制定主体となり、全く別個の議会における手続で制定したものであることに加え、前記の条例という法令の本来の性質、本件で問題となっている各条例の制定目的・保護法益や、当罰性のある行為の内容及び当罰性の程度を示すものである構成要件の定め方・法定刑の違いなどを総合して考慮するならば、本件各条例の常習加重処罰規定違反の各罪は、その社会的歴史的事実としての犯行態様等に類似性、共通性があり、各条例で文言上「常習として」という同一の表現が用いられているとしても、犯罪の法的性質としては、常習一罪関係にはない別個のものと解するのが素直な理解である。
 さらに、別の側面から検討する。一般に、常習罪は、常習により犯罪の反復が行われる場合につき、構成要件を数回充足する数個の行為があるときも一回の処罰でまかなおうとするものであり、それ故、前記昭和四三年最高裁判決の判示するように、常習一罪の一部について確定判決が存する場合、それ以前の行為は一事不再理効によって処罰されなくなるのであるが、場所的適用範囲を日本全国とする国法の適用を前提とする限りにおいては、立法者意思として、複数の都道府県にまたがる国法の構成要件を充足する数個の行為を一回の処罰でまかなおうとする意思決定があったものと解釈することは可能であろうが、ある地方公共団体が、当該地方公共団体の定める罰則の構成要件を充足する行為と他の地方公共団体の定めた罰則の構成要件を充足する行為を当該地方公共団体の罰則において一回処罰することでまかなおうとする趣旨の意思決定をして常習罪の規定を置いたと解することは相当ではない。そもそも条例制定権が認められた趣旨に照らすと、そのような意思決定は条例制定権の範囲を超えているものといわざるを得ず、条例の立法者の合理的意思解釈として採り得ないからである。そうすると、各条例における常習罪を通じて処罰範囲を画するものとしての「常習性」という概念を設定することは、無理があるといわざるを得ない。
 以上述べたところによれば、本件各条例の常習加重処罰規定の罪相互が常習一罪の関係にあるということはできない。
 ウ また、既に述べたような条例制定権の範囲に関する理解からすれば、ある地方公共団体が、同一の行為者がその地方公共団体の地域外で行った行為を当該地方公共団体の定める罰則の構成要件に該当するものとし、かつ、その地域外の行為を含めて構成要件に該当する数個の行為を一回の処罰でまかなおうとする趣旨の意思決定をして常習罪の規定を置くということも条例制定権の範囲を超えており、条例の立法者の合理的意思解釈として採り得ないから、条例を制定した地方公共団体の地域外における行為をも含めた処罰範囲を画するものとしての「常習性」という概念を設定することも無理である。
 エ そうすると、本件略式命令事実が本件各条例のいずれかの常習加重処罰規定の常習性の発露があったと認められる事案かどうかの検討をするまでもなく、常習一罪を理由として、本件略式命令が判示認定の各罪の刑事訴訟法三三七条一号にいう確定判決に当たるとする余地はない。
 (3) 包括一罪の成否について
 本件略式命令が、常習一罪を理由とする確定判決にはならないとしても、判示第一の事実と本件略式命令事実の関係又は判示第二の事実と本件略式命令事実の関係において、包括一罪の関係にあるものがあれば、その関係で本件略式命令が刑事訴訟法三三七条一号にいう確定判決に当たることになる(最高裁判所昭和三一年一一月二九日第一小法廷判決刑集一〇巻一一号一五七〇頁参照)。しかしながら、判示各認定事実と本件略式命令事実は、それぞれ既に摘示した内容のものであり、カメラを利用した盗撮行為ないし盗撮しようとしてスカートの下にカメラ機能付き携帯電話機を差し入れた行為という点で犯行態様に一定の類似性は認められるものの、各事実は、日時・場所が全く別個で何の連続性も近接性もなく、相手の女性も別々で、被告人が各犯罪行為に及んだ意思もそれぞれ別個に形成されており一連の継続した意思の存在も認められない。そうすると、各事実間には、複数の犯罪行為に一回の処罰で臨むのが相当であると考えるべき事情は全くなく、本件で包括一罪の成立を認める余地はない。
 (4) 結論
 そして、本件では、判示第一の事実と本件略式命令事実の関係及び判示第二の事実と本件略式命令事実の関係において、他に一罪の関係を認めるべき理由はない。よって、判示各認定事実の罪については、本件略式命令の存在をもって、刑事訴訟法三三七条一号の「確定判決を経たとき」に当たるとすることはできず、前記免訴の主張は採用しない。
 三 判示各認定事実中の常習性の認定について
 なお、前記のとおり、常習一罪の成立を認めないこととの関係で、判示各認定事実中の常習性の認定について触れておくこととする。
 本件では、関係証拠によって、被告人が、平成一三年一〇月ころから盗撮を多数回にわたって繰り返しており、判示第一の犯行の時点では、少なくともそれ以前に東京都内及び千葉県内で複数回の盗撮を行っていたこと、判示第二の犯行の時点では、少なくともそれ以前に東京都内において、少なくとも三、四カ所で合計一〇回以上盗撮行為を行ったほか、千葉県内においても複数回盗撮を行い、また、前記の埼玉県内における判示第一の盗撮も行っていたことは認められるが、判示第一の犯行当日より前に埼玉県内で盗撮を行ったと認め得るまでの証拠はない。
 当裁判所は、前記のとおり、本件各条例における常習加重処罰規定は、当該条例を制定した地方公共団体がその区域内の都民生活や県民生活の平穏を保持するために制定したものであって、各条例が適用される場所は当該地方公共団体の地域内に限定されると考えるものであるが、そうすると、被告人が東京都内で行った判示第二の犯行については、被告人がそれ以前に東京都内で行った盗撮の回数だけから見ても被告人に盗撮の常習性が優に認められるが、他方、被告人が埼玉県内で行った判示第一の犯行については、それ以前に埼玉県内において盗撮を行っていたと認め得ない以上(埼玉県条例は、東京都条例と異なり、盗撮とそれ以外の卑わい行為を構成要件上区別していないが、被告人が盗撮以外の卑わい行為を判示第一の犯行前に埼玉県内で行っていたという証拠はない。)、常習性を認めることができないのではないかという疑問が生じないではない。
 しかしながら、ここで問題となるのは埼玉県条例であるから以下同条例について述べるが、同条例一一条二項は身分犯であり、ここに「常習として」と規定されている常習性とは、刑の加重事由となる身分としての行為者の属性を指すのであって、同条例が常習者の卑わい行為を非常習者の場合より重く処罰することとしているのは、常習として卑わい行為を繰り返す属性を有する者が、埼玉県内で卑わい行為をするときは、非常習者が行う場合と比べて埼玉県民の生活の平穏を害する危険や程度が高く、当該行為者に対する非難可能性が類型的に高まるし、これを規制する必要性も高いという点にあるものと解される。そうすると、常習性の有無を判断する際に問題となるのは、当該行為者が常習として卑わい行為を繰り返す属性を有するか否かなのであり、かつ、その卑わい行為が刑事法的に違法なものでなければ刑法上の非難可能性は生じないから、結局、罰則をもって禁止されている卑わい行為を常習として繰り返す属性を有すると認められる場合に「常習性」が認定されることになる。そして、そのような属性があるかどうかの検討に際しては、当該行為者が埼玉県の地域外において罰則で禁止されている卑わい行為を繰り返していたという事実があれば、それは当該行為者が刑事法的に違法な卑わい行為を繰り返す属性を有することを推認させることは当然であるから、その点を判断要素から除外しなければならない理由はない。
 この行為者の属性としての常習性認定の判断要素としてどのような事情を考慮に入れるかという検討の場面と、既に常習一罪の成否の部分で述べた本件各条例の常習加重処罰規定違反の罪が常習一罪の関係にあるか等の検討の場面は、場面を異にするのである。
 上記認定のとおり、本件では、判示第一の犯行前に被告人が少なくとも東京都内及び千葉県内で複数回盗撮行為を行っていたことが認められるのであるから(千葉県内で卑わい行為が条例で罰則をもって禁止されていることは当裁判所に顕著である。)、判示第一の事実についても被告人の卑わい行為に関する常習性を認めることができるのである。
 四 訴訟手続について
 最後に、当審における訴訟手続について付言する。
 被告人は、当初判示第一の事実を公訴事実として起訴され、その後検察官から、判示第二の事実を訴因として追加する旨の訴因並びに罪名及び罰条の変更(以下「訴因等変更」という。)の請求があり、第一回公判期日において、裁判所は、弁護人の意見を聴いた上でこの請求を許可し、判示第一及び第二の各事実に関する証拠採用決定をしたが、第三回公判期日(被告人にとっては二回目の公判期日)に、前記訴因等変更許可決定を取り消し、併せて、判示第二の事実に関する証拠についてその採用決定を取り消す旨の決定をしたところ、検察官が、判示第二の事実を公訴事実とする追起訴を行ったため、弁論を併合した上で、第五回公判期日(被告人にとっては三回目の公判期日)において当該追起訴事件についての審理を行い、検察官が改めて請求した判示第二の事実に関する証拠を、すべて同意書面として採用した。
 判示各認定事実のような盗撮による常習的卑わい行為の場合に成立する各条例違反の罪の罪数については、公刊物上裁判例が容易には見当たらず、いまだ実務上の解釈が確立されていない状況にあり、かつ、適用される各構成要件が常習行為を加重処罰する趣旨のもとで「常習として」という共通の文言を用いていることからすれば、第一回公判期日の時点では、これらが常習一罪の関係にあるとする検察官の見解が成り立つ余地が相当程度にあったということができ、刑事訴訟法三一二条一項において、裁判所が、検察官の訴因等変更請求に対し、公訴事実の同一性を害しない限度において、これを許可しなければならないとされていることからすると、同期日の時点で訴因等変更許可の決定をした裁判所に罪数解釈に関する誤りがあったということはできないが、他方、その後の審理の結果、各罪が併合罪の関係にあると判断するに至った場合には、採り得る手段の一つとして、明文の規定はないが、従前の訴因等変更決定を取り消し、かつ、同変更決定に沿う証拠採用決定を取り消すことができることは、最高裁判所昭和六二年一二月三日第一小法廷判決(刑集四一巻八号三二三頁参照)の趣旨に照らして明らかである。
 (量刑の理由)
 本件は、被告人が、常習として、五人と共謀の上、埼玉県内で女性のスカート内を盗撮し(判示第一)、さらに、三名と共謀の上、東京都内で同様に女性のスカート内を盗撮した(判示第二)という事案である。
 被告人は、女性のスカートの中やその容貌を撮影した画像を掲示したインターネットのサイトを見たことから、盗撮行為に興味を抱き、自らもデジタルカメラを用意してたびたび女性のスカートの中などを盗撮し、それをインターネットのサイトに投稿することを繰り返している中で、前記サイトで知り合った者などと盗撮会などと称して集団での盗撮行為をして本件に及んでおり、動機に酌むべき点は全くないのはもちろんのこと、被告人のこの種事犯に関する常習性も顕著である。被告人らによる本件各犯行は、盗撮される対象の女性の気を引く役、犯行を発覚しにくくするいわゆる「壁」役、実際に盗撮する役など役割を分担しているのであって、その犯行態様は計画的・組織的かつ卑劣なものであるし、その反社会性も明らかである。被告人は、本件各犯行を敢行する以前にも、同種の犯行や痴漢行為により二度にわたり罰金刑を受け、そのたびに反省の機会を与えられたにもかかわらず、さらに本件各犯行に及んでいるのであって、被告人のこの種犯罪に対する規範意識の鈍麻は明らかであるといわなければならない。以上の諸事情に照らすと、被告人の刑責は重い。
 しかしながら、他方、被告人は、本件での取調べを通じて反省を深め、盗撮仲間とは手を切るなどとして更生への意欲を示していること、今回盗撮された各女性との間で、被告人が各女性に対してそれぞれ一〇万円を支払うことを内容とする示談を成立させ、その支払を了するなどして各女性に対する謝罪の念を示していること、被告人の父が証人として出廷し、被告人の更生に協力する旨誓約していること等の被告人に有利な事情もあるから、被告人に対しては、主文掲記の刑を科するが、今回に限りその執行を猶予して、社会内における更生の機会を与えるのが相当と判断した。
 よって、主文のとおり判決する。
 (求刑 懲役一年六月)
(裁判長裁判官 合田悦三 裁判官 吉崎佳弥 河村宜信)

       公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する条例(埼玉県条例)違反,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(東京都条例)違反被告事件
東京高等裁判所判決平成17年7月7日
高等裁判所刑事判例集58巻3号1頁
高等裁判所刑事裁判速報集平成17年142頁
東京高等裁判所判決時報刑事56巻1〜12号47頁
       判例タイムズ1281号338頁

       主   文

 本件控訴を棄却する。
 当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

       理   由

 本件控訴の趣意は,弁護人網野精一作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるから,これを引用する。
 論旨は,要するに,被告人が,原判示第1の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する条例(埼玉県条例)違反の罪及び原判示第2の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(東京都条例)違反の罪といずれも常習一罪の関係にあるその後に犯した公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(愛知県条例)違反の罪について略式命令を受け,それが確定しているから,原判示各条例違反の罪は刑訴法337条1号にいう確定判決を経たときに帰するのに,被告人を免訴することなく有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というのである。
 しかし,地方公共団体に認められた自治立法権条例制定権)の趣旨等に照らすと,地域を異にする別個の地方公共団体(埼玉県,東京都及び愛知県)の条例に違反する各罪を常習一罪として問う余地はないというべきであり,被告人を有罪とした原判決に訴訟手続の法令違反があるとはいえない。以下,敷えんして説明する。
 1 まず,記録により認められる前提となる事実関係は,次のとおりである。
  (1)ア 被告人は,①ほか5名と共謀の上,常習として,平成16年3月6日ころ,埼玉県川口市のグリーンシティ3階にある携帯電話機販売店において,それぞれが所携のデジタルカメラを使用して女性の衣服で隠されているスカート内の下着等を無断で撮影し,もって,公共の場所において,人を著しくしゅう恥させ,かつ,人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をし,②ほか3名と共謀の上,常習として,同年4月25日ころ,東京都墨田区のアルカキット錦糸町1階にある洋菓子販売所前において,被告人とほか1名が所携のデジタルカメラを使用して女性の衣服で隠されているスカート内の下着を撮影し,もって,公共の場所において,人の通常衣服で隠されている下着を撮影して,人を著しくしゅう恥させ,かつ,人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をした。
 イ 前記①が原判示第1の埼玉県条例違反の事実であり,同②が原判示第2の東京都条例違反の事実である。
  (2) 被告人は,前記アの①及び②の犯罪を行った後である平成16年5月17日,名古屋市内で同様の盗撮行為をしようとして逮捕され,同年6月7日に,愛知県条例違反の罪に問われて,名古屋簡易裁判所で,罰金50万円に処するとの略式命令を受け,同略式命令は,同月22日に確定した。同略式命令の罪となるベき事実の要旨は,平成16年5月17日,名古屋市中区のビル1階において,所携のカメラ機能付き携帯電話機を使用して女性のスカート内を撮影しようとし,後方からスカートの下に同携帯電話機を差し入れ,もって,公共の場所において,故なく,人を著しくしゅう恥させ,かつ,人に不安を覚えさせるような方法で,卑わいな言動をしたというものである。
 2 次に,関係する条例を見ると,
  (1) 前記1(1)アの①の関係の埼玉県条例は,埼玉県昭和38年条例第47号(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する条例。ただし,平成16年条例第77号による改正前のもの。)である。1条で,「この条例は,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為を防止し,もって県民生活の平穏を保持することを目的とする。」とうたい,2条4項で,「何人も,公共の場所又は公共の乗物において,他人に対し,身体に直接若しくは衣服の上から触れ,衣服で隠されている下着等を無断で撮影する等人を著しく羞(しゅう)恥させ,又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。」と,11条1項で,「次の各号のいずれかに該当する者は,6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と,その1号で,「第2条第4項の規定に違反した者。」と,11条2項で,「常習として前項の違反行為をした者は,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。」とそれぞれ規定している。
  (2) 前記1(1)アの②の関係の東京都条例は,東京都昭和37年条例第103号(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例。ただし,平成16年条例第179号による改正前のもの。)である。1条で,「この条例は,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し,もって都民生活の平穏を保持することを目的とする。」とうたい,5条1項で,「何人も,人に対し,公共の場所又は公共の乗物において,人を著しくしゆう恥させ,又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。」と,8条1項で,「次の各号のいずれかに該当する者は,6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と,その2号で,「第5条第1項の規定に違反した者。」と,8条2項で,「前項第2号の罪を犯した者が,人の通常衣服で隠されている下着又は身体を撮影した者であるときは,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。」と,8条4項で,「常習として第2項の違反行為をした者は,2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。」と規定している。
  (3) 前記1(2)の関係の愛知県条例は,愛知県昭和38年条例第4号(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)である。1条で,「この条例は,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し,もって県民生活の平穏を保持することを目的とする。」とうたい,2条2項で,「何人も,人に対し,公共の場所又は公共の乗物において,故なく,人に著しくしゆう恥させ,又は人に不安を覚えさせるような方法で,次に掲げる行為をしてはならない。」と,その2号で,「衣服等で覆われている人の身体又は下着をのぞき見し,又は撮影すること。」と,その3号で,「前2号に掲げるもののほか,卑わいな言動をすること。」と,9条1項で,「第2条第2項の規定に違反した者は,6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と,9条3項で,「常習として第1項の違反行為をした者は,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。」と規定している。
  (4) そして,これら3条例(以下「本件各条例」という。)の保護法益は,その制定目的の文言等に照らし,基本的には,それぞれの地方公共団体の社会法益であると解される。
 3(1) ところで,地域を異にする別個の地方公共団体(埼玉県,東京都及び愛知県)の条例に違反する各罪が常習一罪の関係にあるという論旨の理論構成は,以上のような事実関係等を前提とし,ア 本件各条例は,いわゆる迷惑防止条例といわれるもので,その制定目的,保護法益,構成要件等を考察すると,共通性,類似性がある上に,ほぼ同内容の条例が全国の都道府県において制定され,「常習として」という同一の表現の常習加重処罰規定があることも併せ考えると,各都道府県別の個別の条例と見るよりは,1個の全国共通の法令であると見るべきである,イ そして,前記略式命令を受けてそれが確定した愛知県条例違反の罪に係る事実は,埼玉県条例及び東京都条例と共通性,類似性がある愛知県条例の常習加重処罰規定の常習性の発露であることが明らかである,ウ そうであるならば,前記本件各条例違反の罪は,実質的に全国共通の法令の常習一罪を構成するというべきであるから,その一部について確定判決を受けたときに帰する以上,本件については,最高裁昭和43年3月29日第2小法廷判決・刑集22巻3号153頁に従い免訴とすべきである,とするものである。
  (2)ア しかし,そもそも,条例は,地方自治の本旨に基づき,憲法94条により法律の範囲内において制定する権能を認められた自治立法であり,各地方公共団体が,その地域の実情に応じて,その地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものに関し独自の判断で制定するものである(地方自治法2条2項,14条1項)。
 それ故,地域を異にする各地方公共団体の権能によりその地域の実情に応じて独自の判断で制定された条例について,制定目的,保護法益,構成要件等に共通性,類似性が認められる場合があるにしても,それら条例を全国共通の法令であると観念し,その上で,犯罪日時を異にし,犯罪場所も都道府県を異にした複数にわたる各条例違反の罪について,1個の常習一罪の成否を判断すベきであるというのは,各地方公共団体に自治立法権を認め,それぞれ独自に条例を制定し得るという憲法及び地方自治法の趣旨に反することとなるというべきである。論旨の拠って立つ大前提自体採用することができない(なお,本件各条例の間に小さくない違いが存在することは,後記5(2)で説示するとおりである。)。
 イ また,ある地方公共団体の条例に違反する罪について確定判決を経た場合において,仮に,その罪が地域を異にする他の地方公共団体の条例に違反する罪と常習一罪の関係にあるものと認めて他の地方公共団体の条例に違反する罪を処罰し得ないという解釈を取るに至るならば,前者の地方公共団体自治権が先に行使されたことにより,後者のそれが行使し得なくなるのを是認する,すなわち,一つの地方公共団体による他の地方公共団体自治権への容かいを是認することに帰する(本件各条例について具体的に述べるならば,それぞれの地方公共団体がその地域内における県民ないし都民の生活の平穏を保持するために制定した条例が,他の地方公共団体の条例に違反する罪が処罰されたがために,当該具体的な事例に関する限りとはいえ,その効力を発揮し得ないことになる。)。論旨の拠って立つ解釈は,この点でも,各地方公共団体自治権を認めた趣旨にもとるといわなければならないし,条例制定者の合理的な意思解釈を越えるものであろう。
 ウ そればかりか,地方公共団体に自治立法権条例制定権)を認めた趣旨からすると,条例の効力は,原則として,地方公共団体の地域において属地的に生ずると解せられる(最高裁昭和29年11月24日大法廷判決・刑集8巻11号1866頁参照)。本件各条例について,それと別個に考える余地はない。そして,その保護法益や構成要件に照らすと,本件各条例の処罰規定は,いずれもそれぞれの地方公共団体の地域外における事件を対象とすることはできないというべきであり,ある地方公共団体の条例に違反する罪と地域を異にする他の地方公共団体の条例に違反する罪を常習一罪として問うこと自体も,これに反することになるというべきである。すなわち,地域を異にする別個の条例違反の各罪を常習一罪として処理するということは,例えば,埼玉県条例違反の罪(常習加重処罰規定)を問うに際し,愛知県条例違反の罪に問われた前記1(2)の名古屋市内での所為を,埼玉県条例違反の罪に該当するものと認めることに帰するのであり,条例の効力が及ぶ範囲を逸脱して処理することになる。
  (3) そして,刑法的観点から見ても,常習犯というものは,罰則が複数回にわたる同種行為の反復を予定しているため,行為を反復しても,当該罰則により一罪として評価される集合犯の一つと考えられ,複数回にわたる同種行為は本来的には数罪である。したがって,同種行為であっても,罰則が予定していないと解される行為については,一罪として評価されることはないといわなければならない。
 4 以上のような条例に関する前記3(2)のアないしウの趣旨や前記3(3)の常習犯の特質から見ると,本件埼玉県条例の常習盗撮に関する罰則は,東京都や愛知県における盗撮又はそれを含む卑わいな言動を,それらが常習性の発露としてされたものとしても,本件埼玉県条例の常習盗撮の行為と共に一罪として処罰することを予定していないと解せられる。このことは,本件東京都条例についても同様である。
 5(1) 所論は,異なる条例であるとの理由により,本件各条例違反の罪の間に常習一罪が成立しないとの結論を取りながら,本件各条例違反の常習性の認定においては,他の都道府県における異なる条例違反行為を判断要素に入れることができるとすれば,同一の都道府県内で複数回の卑わいな行為をした場合は1個の常習一罪が成立するにすぎないのに,複数の都道府県内で卑わいな行為をした場合は各都道府県の条例に違反する常習一罪が別々に成立し,それらが併合罪となることになるが,このような結論は,行為が同一の都道府県において行われたか否かという犯罪の当罰性に関係ない事情により,著しく刑罰に不均衡が生ずることになり,明らかに妥当でなく,憲法の予定するところでもない,という。
 しかしながら,各地方公共団体に自治立法権条例制定権)を認め,罰則をも設けることを許している以上,所論のような事例においては所論のような結論にならざるを得ないが,これが憲法の予定するところでないとはいえない。行為が同一の都道府県において行われたか否かという事情は,幾つの都道府県の社会法益を侵害したかということを意味し,正に当罰性に関係する事情である。複数の都道府県の社会法益を侵害する以上,それに応じて処罰されたとしても,刑罰に不均衡が生ずることにはならない。
  (2) 所論は,本件各条例は,いわゆる迷惑防止条例であり,その制定目的,保護法益,構成要件等を総合的に考慮すれば,共通性,類似性があり,なおかつほぼ同内容の条例が全国の都道府県において制定されており,「常習として」という同一の表現の常習加重処罰規定があることからすれば,各都道府県別の個別の条例と見るよりは,1個の全国共通の法令であると見るベきである,という。
 しかしながら,所論の見解は,前記3(2)のアないしウで説示したとおりであって,採用の限りではない。のみならず,前記2に示した本件各条例には,原判決が説示するところでもあるが,構成要件の定め方や刑罰に違いが見られる。すなわち,東京都条例は,卑わい行為を禁止した上(5条1項),罰則については,盗撮とそれ以外の卑わい行為を分け,前者に対する刑罰を後者に対する刑罰より重く定め(8条1項,2項),さらに盗撮とそれ以外の卑わい行為のそれぞれについて,同様に前者に対する刑罰を後者に対する刑罰より重くして常習加重処罰規定を定めており(8条4項,5項),盗撮については,常習の場合も非常習の場合も,懲役刑については,その上限が埼玉県条例及び愛知県条例の上限の倍と重くしている。これに対し,埼玉県条例と愛知県条例は,盗撮とそれ以外の卑わい行為を区別することなく,すべての卑わい行為に共通なものとして非常習の処罰規定と常習加重処罰規定を設けており,両条例の刑罰も同一である。また,その構成要件について見ると,埼玉県条例が,「身体に直接若しくは衣服の上から触れ,衣服で隠されている下着等を無断で撮影する等」を例示として「人を著しく羞(しゅう)恥させ,又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」を禁止している(2条4項)のに対し,愛知県条例は,「人を著しくしゆう恥させ,又は人に不安を覚えさせるような方法」で,人の身体に,直接又は衣服その他の身に付ける物の上から触れること,衣服等で覆われている人の身体又は下着をのぞき見し,又は撮影すること,その他の卑わいな言動を禁止している(2条2項)という違いが見られる。このような本件各条例の規定の仕方の違いは小さくない。実質的に全国共通の法令が存在するともいえない。
 その他所論を検討してみても,免訴としなかった原判断に誤りは認められない。論旨は理由がない。
 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,当審における訴訟費用については,同法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとし,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官・阿部文洋,裁判官・高梨雅夫,裁判官・原田保孝)

条例の場所的適用範囲についての判例です。

      昭和24年新潟県条例第4号違反被告事件
【事件番号】 最高裁判所大法廷判決昭和29年11月24日
 
【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集8巻11号1866頁
       最高裁判所裁判集刑事100号557頁
       判例時報39号3頁
       刑事裁判資料181号6頁
       刑事裁判資料123号658頁
【評釈論文】 ジュリスト79号32頁
       ジュリスト200号150頁
       別冊ジュリスト2号22頁
       別冊ジュリスト71号44頁
       別冊ジュリスト125号50頁
       同志社法学9巻1号140頁
なお条例のこの効力は、法令また条例に別段の定めある場合、若しくは条例の性質上住民のみを対象とすること明らかな場合はこの限りでないと解すべきところ、本件条例についてはかかる趣旨は認められない。従つて本件被告人が長野県の在住者であつたとしても、新潟県の地域内において右条例五条の罰則に当る行為があつた以上その罪責を免れるものではない。されば原判決には法令違反も認められない)。