児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

衆議院法制局小野寺容資「新法令紹介 著作権法の一部を改正する法律平成24年法律43号」(自由と正義vol.64 No.3 p74)

 小野寺さんの個人的見解だそうです。
 奥村は、注釈書のここを執筆しろと言われて、手探りでダラダラ起案して脱稿しています。編者に「長すぎるのでカットします」といわれたので跡形もないかもしれません。

第180回国会閣法64号「著作権法の一部を改正する法律案」は、国会における修正を経て、平成24年6月20日に成立した。
本稿では、この著作権法の一部を改正する法律(以下「本法律」という。)をご紹介することとしたい。なお、本文中の意見にわたる部分については、筆者の個人的見解である。
本法律は、近年のデジタル化、ネットワーク化の進展に伴い、著作物等の利用態様が多様化しているとともに、著作物等の違法利用、違法流通が広がっていることから、著作物等の利用の円滑化を図るとともに、著作権等の適切な保護を図るため、必要な改正を行うものであるI )。加えて、違法に配信されているものであることを知りながら、有償の音楽・映像を私的使用目的で複製する行為について罰則を設けること等の必要が認められ2)、衆議院文部科学委員会において修正議決されている。
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5 私的違法ダウンロードの刑事罰化に係る規定の整備平成21年の著作権法改正において、音楽や映像作品の違法配信対策の一環として、新たに、違法配信と知りながら行う私的使用目的のダウンロード行為が違法とされた(なお、その時には罰則は設けられなかった。
)。
 しかし、一般社団法人日本レコード協会の調査によれば、改正著作権法が施行されて、その効果が一部に見られるものの、依然として違法な音楽等の流通量は減少せず、音楽産業に大きな被害が生じているとされており、なお一層の対策を講ずる必要があると考えられ、このたび罰則が設けられることとなった。
 本法律により、著作権法に119条3項が新設され、私的使用の目的をもって、有償著作物等の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行って著作権又は著作隣接権を侵害した者に対し、2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科することとなった。
 違法に配信されているファイルの違法ダウンロードは、例えば、それが音楽ファイルの違法ダウンロードであれば、、?アーテイストの著作権やレコ−ド会社の著作隣接権を侵害するとともに、?多くの人に繰り返し行われることにより、音楽産業に多大な損害を与え、ひいてはアーテイストが次の作品を世に送り出すことができなくなってしまうことにつながりかねないと考えられている。
 なお、この改正では、違法ダウンロードに対して罰則を設けるとともに、関係事業者に対して違法ダウンロードを防止するための措置を講ずる努力義務を課すものであり、著作権の保護のみならず、音楽文化・映像文化の振興、音楽産業・映像産業の健全な発展に寄与するために必要であると考えられている。
条文を詳しく見ていくと、まず、「私的使用」とは、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」である。
これは、自分自身で使うとか、自分の家族に使わせるとか、自分の所属する閉鎖的グループに使わせるといった場合を指すと解されている9)。
「これに準ずる限られた範囲内」とは、複製をする者の属するグ」レープのメンバー相互間に強い個人的結合関係があることが必要とされている10 )。
次に、「有償著作物等」とは、録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となっているものに限る。
)であって、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。
)である。
典型例としては、有償で販売されている音楽や映画等が挙げられる。
ここにいう「録画」とは、「影像を連続して物に固定すること」(2条l項14号)であり、文字情報や写真等の静止画像については、録画された著作物ではないため、有償著作物等には該当しないと解される。
また、「有償」に関しては、例えば、民放のテレビ番組で既にDVD等で販売されているか、有料放送で放送されたものであるような場合には、「有償著作物等」に当たることとなると考えられる。
それ以外のテレビ番組については、「有償で公衆に提供され、又は提示されている」には該当しないので、「有償著作物等」には当たらないと考えられる。
なお、NHKに支払うこととされている受信料は、放送の視聴に対する対価ではないためll )、NHKのテレビ番組であってDVDでの販売や有償での配信がなされていないものについては、「有償著作物等」に当たらないと考えられる。
そして、「自動公衆送信」とは、公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うものをいい(2条l項9号の4)、インタラクティプ通信を意味する12)。
公衆からの求めに応じて行われるものではない場合や、公衆の求めに応じても電子メール等により手動で送信する場合は、自動公衆送信には該当しない。
したがって、例えば、知人から送信された電子メールに音楽ファイルや映像ファイルが添付されており、それをダウンロードしたという場合には、自動公衆送信の受信には該当せず、本項の対象とはならない。
「デジタル方式の録音又は録画」に限定しているのは、平成21年の著作権法改正時において、30条の適用範囲から除外する複製行為は被害実態が顕著な分野に限定すべきとの観点から、権利者の不利益が顕在化している録音・録画のみを対象としており、今回も同様の整理によるものである。
したがって、カセットテープ等によるアナログ方式の録音又は録画については、この規制の対象ではない。
また、単に視聴する行為は「録音又は録画」に該当しないため、違法に配信されているものであっても、視聴行為自体は本項の罰則の対象ではない。
なお、動画サイトの動画を視聴する際のコンピュータ内部へのデータの一時的な蓄積(キャッシュ)に関しては、平成21年の著作権法改正で設けられた電子計算機における著作物利用に伴う複製に関する著作権の例外規定(47条の8)が適用され、権利侵害にはならないと考えられる(違法に配信されている動画の視聴についても同様である。
) 13 )。
「自らその事実を知りながら」とは、ダウンロードを行う者が、ダウンロードをしようとする有償著作物等が著作権又は著作隣接権を侵害して違法に配信されたものであると知っていることを指す。
したがって、「その事実」とは、「有償著作物等」であること及び「著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信」であることを指し、「その事実を知りながら」という要件を満たさない場合には、著作権又は著作隣接権の侵害に問われることはない、と解されている14 )。
本項は、123条l項が適用されることにより親告罪となっている。
私的違法ダウンロードについては、国民に対する啓発等の規定が設けられている。
これは、私的違法ダウンロードを防止するためには、国民が、私的違法ダウンロードの防止の重要性に対する理解を深めることが非常に重要であると考えられるため、国及び地方公共団体に対し、特定侵害行為の防止に関する啓発その他の必要な措置を講じることを義務づけることとしている(改正附則7条l項)。
そのような行為を行う者の中には、子供が多く含まれていると考えられるため、特に未成年者については、あらゆる機会を通じて私的違法ダウンロードの防止の重要性に対する理解を深めることができるよう、国及び地方公共団体に対し、学校その他の様々な場を通じて特定侵害行為の防止に関する教育の充実を図ることを義務づけることとしている(改正附則7条2項)。
また、有償著作物等を公衆に提供し、又は提示する事業者には、私的違法ダウンロードを防止するための措置を講じるよう努めなければならないとされている(改正附則8条)。
関係事業者には、啓蒙活動13)文化庁(2012a)14)文化庁長官官房著作権課(2012)の促進や適法サイトの識別マークである「Lマーク」(一般社団法人日本レコード協会が発行)の普及の促進等が期待される。
ここにいう関係事業者には、インターネット上で著作物等を有償で配信するいわゆる「コンテンツプロパイダ」が該当すると考えられる。
なお、新119条3項の規定の運用に当たっては、インターネットによる情報の収集その他のイシターネットを利用して行う行為が不当に制限されることのないよう配慮しなければならないという規定が設けられている(改正附則9条)。
私的違法ダウンロードに対する捜査もまた令状主義の枠内にあるものであり、無限定に捜査機関のネットへの介入を認めるものでもなければ、介入の性質を変容させるものでもない。
しかしながら、この改正に対し、「罰則を設けることにより適法な行為についても萎縮効果が生じてしまうのではないか」といった懸念の声が一部に聞かれることから、入念的に運用上の配慮、規定を設けることとしたものと考えられる。