児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

動画サイトでわいせつ行為を“生中継”は児童ポルノの罪には該当しない

 生中継事案は時々ありますが、児童ポルノ罪は適用できません。
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20121016#1350296703
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20090616#1245132014
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20060331#1143793113
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20060119#1137619628

 サンケイはいかにも生中継=児童ポルノ罪という記事ですが、このような行為は児童ポルノ罪には該当しません。たいてい、児童福祉法違反(有害支配)とか、公然わいせつとかの軽い罪で処理されています。
媒体に記録されてないデータであっても、十分児童ポルノ同様の法益侵害があるのに、それは規制しないというのも時代遅れな話ですが、単純所持一本槍で、そういう改正の動きはありません。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130310-00000545-san-soci
17歳の少女にとって、異常な日々はとっくに限界に達していたに違いない。毎晩のように、インターネットの動画サイトで、少女にわいせつな行為を“生中継”させていた男3人が2月、警視庁に児童買春・ポルノ禁止法違反容疑で逮捕された。事件発覚の端緒は、生中継中に少女が視聴者らに発信したSOSのメッセージ。頼る相手のいない家出少女の弱みにつけ込み、男らは毎月100万円の暴利をむさぼっていた。
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逮捕容疑は昨年11月、動画配信する目的で、18歳未満であると知りながら、少女にわいせつな行為をさせた児童ポルノを製造したなどとしている。
 3人の自宅からは動画配信に使われたとみられるパソコン13台やセーラー服などのコスプレ衣装、バイブレーターなどのいわゆる大人のオモチャが大量に押収された。20人以上の若い女性のアダルト動画のデータも見つかっており、同課は半分以上が18歳未満の少女だったとみている。

 他紙にはそう書かれている。

女子高生裸にさせ配信用に録画容疑=東京
2013.02.27 読売新聞
 警視庁は26日、容疑者(34)ら男3人を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(公然陳列目的製造など)の疑いで逮捕したと発表した。容疑者らは昨年11月、自宅マンションで、栃木県の高校1年の女子生徒(17)を裸にさせるなどした様子を、インターネット上の「ライブチャット」で配信するため録画するなどした疑い


 児童ポルノについては「記録媒体その他の物であって」という定義規定から有体物であることが要件です。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
第二条  この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
3  この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一  児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二  他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三  衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

札幌高等裁判所判決平成21年6月16日
【掲載誌】  高等裁判所刑事裁判速報集平成21年317頁
 論旨に対する判断に先立ち,職権で原審記録を調査して検討するに,原判決には次のような法令の解釈適用の誤りがある。
 すなわち,本件訴因変更後の公訴事実中,わいせつ図画販売目的所持罪に係る公訴事実の要旨は,「被告人は,インターネット上に開設したホームページを利用して,不特定又は多数のインターネット利用者を対象として」「わいせつ図画を販売」「しようと企て,」「男女の性交場面等を露骨に撮影記録したわいせつ図画である動画ファイルを記憶・蔵置させたファイルサーバー2台及びハードディスク3台を,これらの動画ファイルを不特定又は多数の者に」「販売する目的で所持した。」というものであるが,同罪の「販売目的」の対象となる「わいせつな文書,図画その他の物」(刑法175条前段)とは有体物であって,単なる電子データそのものや「電磁的記録その他の記録」(法7条1項参照)はこれに含まれないと解されるから,有体物ではない「動画ファイル」を販売する目的でファイルサーバー等を所持したとの上記公訴事実自体がわいせつ図画販売目的所持罪を構成しないというべきである。(なお,関係証拠を検討しても,被告人が,わいせつな画像データを記憶,蔵置させたファイルサーバー及びハードディスクを所持し,このわいせつな画像データをインターネット等の電気通信回線を通じて第三者にダウンロードさせてその対償を得ていたことは認められるが,このファイルサーバー及びハードディスク自体を販売したり,わいせつな画像データをCDやDVDなどの有体物に記憶させてこれを販売したりする目的を有していたことを認めるに足りる証拠は存在しない。)
 したがって,上記公訴事実と同一の事実を「犯罪事実」の項の2において認定し,刑法175条後段を適用してわいせつ図画販売目的所持罪の成立を認めた原判決は,同罪に関する法令の解釈適用を誤っており,この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れないところ,原判決は,「犯罪事実」の項の2の事実について,わいせつ図画販売目的所持罪と児童ポルノ提供目的所持罪が成立して両罪は観念的競合であるとし,さらに,同項の1と2の事実を包括一罪として1個の刑を科しているので,原判決は結局その全部について破棄を免れない。

       児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
大阪高等裁判所平成15年9月18日
【掲載誌】  高等裁判所刑事判例集56巻3号1頁
       LLI/DB 判例秘書登載
(6) 原判示第2の事実についての法令適用の誤りの主張(控訴理由第1,第2)について
所論は,原判示第2の事実について,有体物に化体しない画像データそのものは児童買春児童ポルノ禁止法2条所定の児童ポルノに該当せず(控訴理由第1),また,有償の譲渡行為といえるためには現実の交付を伴うことが必要であるところ,本件ではこれがない(控訴理由第2)にもかかわらず,それぞれ児童ポルノである画像データを販売したと認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
そこで,検討するに,原判示第2の事実は,被告人が,各購入者に対して,自己がサーバーコンピューター上に開設したホームページのアドレス及びパスワードをメールで送信し,B及びCに対してはそれぞれの自宅に設置されたパーソナルコンピューター内のハードディスクにダウンロードさせる方法で(原判示第2の1及び2の各事実),Dに対してはその自宅に設置されたパーソナルコンピューター内のフロッピーディスクにダウンロードさせる方法で(同3の事実),児童ポルノである画像データを販売した事実を認定していることが明らかである。ところで,【要旨】児童買春児童ポルノ禁止法2条3項は,「『児童ポルノ』とは,写真,ビデオテープその他の物であって,次の各号のいずれかに該当するものをいう。」と規定しており,「その他の物」については,その例示として掲げられている物が写真,ビデオテープであることからすれば,文理解釈上,これらと同様に同条項各号に掲げられた視覚により認識することができる方法により描写した情報が化体された有体物をいうものと解すべきであるところ,関係各証拠によれば,本件において児童ポルノに該当するとされている画像データは,被告人において,契約を結んだ東京都千代田区a町b丁目c番地d所在の株式会社E管理のサーバーコンピューターにホームページを開設し,同コンピューターの記憶装置であるディスクアレイ内に記憶,蔵置させた電磁的記録であり,このような電磁的記録そのものは有体物に当たらないことは明らかである。そして,児童買春児童ポルノ禁止法7条の児童ポルノ販売,頒布罪における販売ないしは頒布は,不特定又は多数の人に対する有償の所有権の移転を伴う譲渡行為ないしそれ以外の方法による交付行為をいうものであるところ,本件において,上記B,C及びDは,それぞれ,被告人から教示されたホームページアドレス等を自己のパーソナルコンピューターにおいて入力することにより,被告人が開設した上記会社管理のサーバーコンピューター内のホームページにアクセスし,同サーバーコンピューターのディスクアレイに記憶,蔵置された本件の画像データをそれぞれ自己のパーソナルコンピューターにダウンロードし,ハードディスクないしはフロッピーディスクにその画像データを記憶,蔵置させて画像データを入手していることが認められるが,上記サーバーコンピューターのディスクアレイ上に記憶,蔵置された画像データそのものは上記Bらのダウンロードによってもその電磁的記録としては何らの変化は生じていないのであり,画像データの入手者であるBらに上記サーバーコンピューターに記憶,蔵置された電磁的記録そのものの占有支配が移転したと見る余地もなく,この点で原判示第2に認定された事実のもとでは児童ポルノの販売に該当する事実もないというべきである。
そうすると,原判決には児童買春児童ポルノ禁止法7条所定の児童ポルノ販売罪に該当しない事実を同罪に該当するとして有罪とした法令の解釈適用の誤りがあり,この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
論旨は理由がある。
1 破棄自判