児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

裁判員裁判の量刑 プロより厳罰化?

裁判員裁判3年 強姦致傷や傷害致死、プロより厳罰化
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120515-00000547-san-soci
傷害致死事件と強盗致傷事件でも、裁判官裁判は「同3年超〜5年以下」が最多だったのに対し、裁判員裁判では「同5年超〜7年以下」が一番多く、裁判員の方が重くなる傾向がうかがえた。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120514-00001030-yom-soci
性犯罪は刑重く、放火は執行猶予増…裁判員判決
 調査は殺人など8罪が対象。制度施行前に起訴され、2008年4月以降に裁判官裁判で判決があった被告2757人と、今年3月末までに裁判員裁判で判決があった同2884人の量刑を比較した。

 実刑の分布のピークは、強姦致傷では、裁判官裁判の「懲役3年超、5年以下」に対し、裁判員裁判は「5年超、7年以下」。殺人未遂、傷害致死、強制わいせつ致傷、強盗致傷の4罪もワンランク重くなった。女児が虐待死した傷害致死事件で3月、大阪地裁が検察側求刑の1・5倍の懲役15年を言い渡すなど、社会的非難が強い事件を中心に重罰傾向が出ている。

第17回裁判員制度の運用等に関する有識者懇談会配付資料
http://www.courts.go.jp/saikosai/iinkai/saibanin_kondan/siryo_17/index.html

特別資料2(量刑分布)別紙5
http://www.courts.go.jp/saikosai/vcms_lf/80818005.pdf 

 性犯罪の量刑が厳しくなったというグラフなんですが、裁判員制度施行後、致傷罪の数が減っているような気がするんですよ。従前強制わいせつ致傷罪で起訴されていたような事件を、強制わいせつ罪で起訴しているのではないか。

 強制わいせつ致傷罪の判決は、
  特別資料1(罪名別終局結果)
  裁判員施行〜H24.3末 (準)強制わいせつ致死傷 186件
  裁判官裁判(平成18年〜平成20年) 387件
  http://www.courts.go.jp/saikosai/vcms_lf/80818004.pdf
となっているが、減ってるようにみえないか
 最高裁法務省に情報公開請求してみよう。

 罪名別の起訴件数があればわかるんですが
  強姦罪(裁判官裁判)と強姦致傷罪(裁判員裁判
  強制わいせつ罪(裁判官裁判)と強制わいせつ致傷罪(裁判員裁判
というのは、まとめて集計されているので、わからないんです。



 致傷罪になるかどうかは結構微妙です。傷害の有無や因果関係について立証に難がある場合には、強制わいせつ罪で起訴するということが従来からよくありました。

判例コンメンタール刑法第2巻P316
致傷
強姦に際し傷害を与えれば姦淫が未遂でも成立する(最決昭34.7.7)。
(1)傷害
傷害結果は、処女膜裂傷も(最大判昭25.3.15)、キスマークも(東京高判昭46.2.2[全治約10日間の吸引性皮下出血]、なお、東京地判昭40.8.10は、顎のキスマークにつき、社会生活上支障は生じないとして否定している。)、軽微な傷害も(大阪高判昭46.8.6[当日診察なし全治約1週間]、広島高判昭43.11.8[痛み4.5日、10日間通院])、陰毛の引き抜きも(大阪高判昭29.5.31[血管神経を破壊し表皮を損傷する])当たる。
(2)軽微な傷害
他方、医学上の創傷であっても、日常生活において看過される程度の軽微な損傷は含まれない(岡山地判昭42.7.12[2日間で自然治癒]、大阪地判昭42.12.16[外陰部裂傷全治4、5日問、被害者気づかず]、神戸地判昭37.3.22、大阪地判昭41.1.31[全治2日間のひっかき傷、痛み、治療なし]、大阪地判昭41.2.11[治療不要の全治3日聞の陰部擦過傷]、宮崎地都城支判昭42.6.2[全治3日間の擦過傷]、岡山地判昭45.6.9自然治癒した臀部の表皮剥脱])。
なお、前出奈良地判H46.2.4は、準強姦の手段として用いられた麻酔注射によって芯起された心神喪失状態を、理由は明らかではないものの「致傷」とは認めていない。しかし、これにより重篤な精神障害等が生じた場合は当然認められるであろう。


追記
 やっぱりな。
 ということは、強姦罪・強制わいせつ罪に落とせないような悪質な事件だけが裁判員事件に残っているわけで、対象事件の宣告刑を並べたグラフのピークが上の方に動くのは当然で、全体としては大して変わってないと思われます。
 裁判員から外せば、起訴率も元に戻るんでしょうね。

http://digital.asahi.com/articles/TKY201205220837.html
被害者が亡くなったりけがをしたりした強姦致死傷、強制わいせつ致死傷、集団強姦致死傷の罪は「重大事件」として裁判員裁判の対象になる。けががない強姦罪や強制わいせつ罪、集団強姦罪は対象外だ。
 朝日新聞は、法務省が発行する検察統計年報のデータをもとに、強姦致死傷、強制わいせつ致死傷、集団強姦致死傷事件の処理の状況を調べた。
 この3罪では、警察から送られてくる容疑者を検察が受理する人数自体、減る傾向にある。2005年は3罪で計637人だったが、最新データの10年は計594人で約7%減った。一方、検察が起訴した人数は、05年の計435人から10年は計218人と半減した。これに伴い、起訴率は72.5%から43.4%へ落ち込んでいた。
 被害者の代理人を多く務める番敦子弁護士は「被害者が裁判員裁判を嫌がった影響」と「検察の判断基準が変わった可能性」を指摘する。「裁判員制度で裁判への壁がさらに高くなったのでは、本質的な被害者救済にならない」と語る。
 法務・検察幹部も「裁判員裁判にならないように被害者が頼んでくる。けがをなかったことにして強姦の被害だけをみて起訴することもある」と認め、「性犯罪は非常に悩ましい。もっと被害者を保護する手段がないか検討する必要がある」と話す。
 性犯罪以外でも起訴率の低下傾向がみえる。強盗致傷罪は、起訴数が05年の1115人から10年は480人へ約57%減り、起訴率は86.6%から52.5%に。裁判員裁判にならない強盗罪の起訴率61.8%の方が高くなった。殺人罪の起訴率は、55.7%から38.3%に低下。こうした変化について、各地の弁護士からは「これまでなら殺人未遂罪で起訴されたようなケースが、裁判員の対象とならない傷害罪で起訴された」といった指摘がある。
 性犯罪被害者の支援にかかわる中村貴之弁護士は、裁判所と検察側、弁護側が公判が始まる前に証拠や争点を整理する公判前整理手続きが05年11月に導入されたことで「裁判員裁判に従来の倍近い時間と労力が必要になり、検察は起訴する事件を減らさざるを得なくなっているのではないか」と推測。なかでも性犯罪は被害者の敬遠傾向もあって、影響が大きいとみる

追記
 起訴が萎縮しているのか、告訴が萎縮したのかはわかりませんが、減少傾向は顕著です。
強姦罪と致傷罪.bmp 直
強制わいせつ罪と致傷罪.bmp 直
集団強姦と致傷罪.bmp 直


追記
 公的な資料でも確認されました。
起訴・不起訴の状況(強姦致死傷・強制わいせつ致死傷)
※検察統計年報を基に作成したもの
http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/boryoku/siryo/pdf/bo66-2-2.pdf


追記
 共同通信、気付くのが遅すぎ

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2012072101001678.html
殺人で起訴、大幅低下 検察、裁判員制度で慎重化か
2012年7月21日 17時33分
 殺人容疑で逮捕、送検された容疑者を、検察がそのまま「殺人罪」の罪名で起訴する割合が、06年からの4年間で大幅に低下していたことが21日、法務省の統計で明らかになった。10年には約4分の3が不起訴か、別の罪名で起訴されたとみられる。
 刑事事件を多く手掛ける弁護士は「09年の裁判員制度の導入に伴い、検察が有罪立証の難しい事件の起訴に慎重になっている」と指摘。殺人容疑で送検された容疑者を傷害致死罪で起訴するなどの「罪名落ち」の増加が反映している、との声もある。
 法務省の検察統計年報を基に、共同通信が算定、比較した。
(共同)