児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強制sexting 告訴無き強制わいせつ事件を強要罪で起訴することは許される(最決H24.4.4)

 強制わいせつ罪の一部起訴についても最判S28.12.16で積極説に変更されているそうです。
 親告罪の趣旨というのは重視しない傾向。非親告罪化につながりますね。

最決H24.4.4
強要罪児童ポルノ製造
弁護人奥村徹の上告趣意のうち,最高裁昭和26年(れ)第1732号同27年7月11日第二小法廷判決・刑集6巻7号896頁を引用して判例違反をいう点は,同判決は,既に当裁判所大法廷の判例(最高裁昭和27年(さ)第1号同28年12月16日大法廷判決・刑集7巻12号2550頁)によって変更されているものであるから,前提を欠き,その余の判例違反をいう点は,本件と事案を具にする判例を引用するものであって,適切でなく,その余は,単なる法令違反,量刑不当の主張で、あって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 最決が挙げる判例はいずれも強姦罪のもので、強制わいせつ罪については判例はなかったのですが、同じじゃということです。

暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件
最高裁判所大法廷判決/昭和27年(さ)第1号
昭和28年12月16日
最高裁判所刑事判例集7巻12号2550頁
最高裁判所裁判集刑事89号465頁
裁判所時報148号9頁
判例タイムズ35号57頁
判例タイムズ38号60頁
判例時報17号25頁

       主   文

 本件非常上告を棄却する。

       理   由

 検事総長の非常上告理由について。
 一件記録によれば、被告人A、同Bの両名が相被告人C、同D外三名と共同して暴力行為等処罰に関する法律第一条違反行為をしたものとして、昭和二三年一二月三〇日福島地方裁判所支部に起訴されたところ、同二四年四月五日同裁判所は、起訴に係る右所為は、被害者に対する強姦罪の構成要素でこれと不可分の関係にあつて、しかも、強姦罪については、告訴が取下げられたから暴力行為についても公訴権が消滅したとの理由で公訴棄却の判決を言渡したこと、検察官が右判決に対し控訴の申立を為し、仙台高等裁判所は、右の公訴事実を認定して被告人等の所為を暴力行為等処罰に関する法律に違反するものとして所論の有罪判決を為し、被告人両名に対する該判決がそれぞれ確定するに至つたこと、並びに、昭和二七年七月一一日当裁判所第二小法廷は、右仙台高等裁判所の判決に対し上告を申立てた相被告人C、同Dの両名に対し、前記平支部の判決と同様の理由を以て原判決を破棄し右両名に対する公訴を棄却する旨の判決をしたことは、いずれも、所論のとおりである。
 しかし、暴力行為等処罰に関する法律第一条の違反行為は、同条所定の構成要件を充足するによつて成立する非親告罪であつて、その内容が数人共同して暴行をした場合でも必ずしも刑法一七七条前段の強姦罪の構成要素ではなく、まして、これと不可分の一体を為すものではない。従つて、検察官が、同法律第一条違反の公訴事実のみを、何等姦淫の点に触れずに、同条違反の罪として起訴した以上、裁判所は、その公訴事実の範囲を逸脱して、職権で親告罪である強姦罪の被害者が姦淫された点にまで審理を為し、その暴力行為は、起訴されていない該強姦罪の一構成要素であると認定し、しかも、当該強姦罪については告訴がないか又は告訴が取消されたとの理由をも明示して、公訴を棄却する旨の判決を為し、これを公表するがごときこと(そして、かくのごときは、却つて被害者の名誉を毀損し、強姦罪親告罪とした趣旨を没却すること勿論である。)の許されないこというまでもない。
 果して然らば、被告人両名に対する原確定判決の審判は、前記当裁判所第二小法廷の判決とは相反するが、何等法令に違反した点が認められないから、本件非常上告は、その理由がないものといわなければならない。
 よつて、旧刑訴五一九条に従い、主文のとおり判決する。

暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件
最高裁判所第2小法廷判決/昭和26年(れ)第1732号
昭和27年7月11日
最高裁判所刑事判例集6巻7号896頁
       最高裁判所裁判集刑事66号177頁
       判例タイムズ23号40頁
法学(東北大)37巻1号210頁

       主   文

 原判決を破棄する。
 被告人両名に対する暴力行為等処罰に関する法律違反の各公訴を棄却する。

       理   由

 弁護人真木桓の上告趣意第三点について、
 強姦罪は暴行又は脅迫をもつて婦女を姦淫する罪である。原判決挙示の証拠によれば、原判示の日時場所において被告人両名は他の五名の者と共謀の上、A同Bに対し判示の如き暴行をもつて右両女を姦淫したものであることが明らかに窺えるのである。しからば原審が認定した本件暴力行為等処罰に関する法律(大正一五年法律第六〇号)違反の事実は、強姦行為を構成する一部の事実たるに過ぎないものといわねばならない。
 強姦罪は被害者の告訴を待つて罪を論ずる所謂親告罪であるから、本件につき告訴があつたかどうかを調べるのに、前示A同Bから強姦の被害を受けた旨の昭和二三年一〇月二九日附告訴状(記録一一丁)が提出されたが、検察官の公訴提起の前日である同年一二月二九日附右告訴人両名及びその父C連名で告訴取下書(記録一一三丁)が提出されたことが認められる。
 しかるに検察官は右告訴取消のあつた翌日、被告人等の右両女に対する共同暴行の点について、之を暴力行為等処罰に関する法律違反として起訴したのであるが、第一審裁判所は、証拠にもとづき本件は本来強姦罪であると認定し、よつて右告訴の取消により本件の公訴権は消滅したものであるとして公訴棄却の言渡をしたのに対し、検察官控訴の結果原審は第一審と見解を異にし、公訴事実とおりの共同暴行の事実を認定し、之を暴力行為等処罰に関する法律違反として処断したのである。
 そこで親告罪である強姦罪において告訴のないのに(又は適法に告訴の取消があつたのに)かかわらず、本来強姦罪の構成要件の一部の事実に過ぎない暴行又は脅迫の行為のみを捉えて提起された公訴が適法であるかどうかについて検討する。
 強姦罪親告罪とした理由は、被害者側の告訴のないのに(又は告訴の取消のあつたのに)之を起訴し、その結果被害の事実が公けになるときは、被害者の名誉を傷つけその他之に多大の不利益を与えるとの考慮に基いたものであつて、即ち被害者の意思感情名誉を尊重することの面に重点をおいたものであり、之に反し強姦致死傷罪は非親告罪となつているのであるが、この場合は死傷の結果の被害法益保護の面に重点をおいたものと解すべきである。立法の趣旨右の如くである以上、具体的事案においては両極端の事例として、たとえ軽微な傷害と雖もそれが強姦致傷の場合には非親告罪であり、之に反し単純強姦罪である限りはたとえその犯情最悪質のものであつても親告罪であるとの論結は之を堅持せざるを得ないのである。然らば当該具体的事案の犯情に拘泥し或は他に事由を捉え、もつて以上の区別を紛訌するが如き取扱に出でることは法の到底容認するところではないといわねばならない。
 本件について見るに、原審挙示の証拠に徴すれは被告人等を加えた七名の者が共同して前示両女に暴行を加え輪姦した事案と認められるものであつて、その犯情の悪質であること凡そ単純強姦罪の頂点に位するものと認められるのである。従つて本件は強姦致傷罪における軽微の致傷のものよりもその犯情遥かに悪質のものといわねばならない。しかし乍ら本件は苟くも公訴提起以前適法に告訴の取消があつたこと前説明のとおりである以上、之を強姦罪として公訴を提起し得ないことは勿論、強姦罪の構成要件中の一部の事実たる暴行行為のみを抽出して之が公訴を提起することも亦許されないところといわねばならない。けだし之を理論の面より観察するに強姦罪は「暴行又ハ脅迫ヲ以テ‥‥‥姦淫シタル」罪であつて、即ち暴行又は脅迫と姦淫とが合一して構成される単一犯罪であるからである。換言すれば暴行又は脅迫と姦淫とが因果の関係あるときはその行為全体をもつて常に強姦罪一罪のみが成立するものとするのであつて、強姦罪でない他の罪即ち強姦の手段行為であつた暴行罪又は脅迫罪が成立し、若しくは他の法令(例えは性病予防法の如き)に正条のない限り強姦の結果行為である姦淫だけを罰する罪は存在しないものであり、又強姦罪と共に他の罪即ち所謂一所為数法又は牽連犯関係の犯罪が成立するものとしていないことは、刑法の正条に照し疑を容れないところであるからである。そして以上の理は一人単独で犯した場合と数人共同で犯した場合との間に強姦罪としての成立要件において彼此差別を生ずる理は存しないのである。けだし苟くも暴行又は脅迫と姦淫とが因果の関係によつて構成されたものである以上は右の両者は単に犯行の事実形態を異にするだけであつて、強姦罪としての構成態様を異にするものではないからである。従つて数人による共同暴行であつても、それが姦淫の手段であると認められる以上はたとえ暴行行為のみについて公訴が提起されても裁判所は当然強姦罪として審判すべきものであらねばならないのである。しからば強姦罪において告訴なき以上は之より暴行行為のみを抽出して公訴を提起することの許されない理を窺うに十分といわねばならない。次に之を審判手続の実際上の面より観察するに、仮に強姦罪につき暴行の事実のみにつき提起された公訴が適法とし且つ裁判所は暴行の所為についてのみ審判権があるものと仮定するも、裁判所が当該事案を審判するにはその犯罪の動機原因手段目的被害の状況程度等、当該犯情の全般に亘り審判すべきものであるから、通例の場合強姦被害の事実は凡そ公けにせられるところとなり、その結果は前示強姦罪親告罪とした法の目的、即ち強姦罪においては犯人を処罰するよりも被害者の意思感情名誉を尊重することを重しとした立法の趣旨は到底之を達成すること不可能に帰するものといわねばならないのである。即ちこの審判手続における面から見ても強姦罪の場合においてその手段行為である暴行又は脅迫行為のみを抽出してなされた公訴の不合理性、従つてその違法性を知るに足るものといわねばならない。
 然るに原審は、その判決に挙示する証拠に照せば本件被告人等の行為は強姦罪を構成するものであること明らかであり、しかも前示の如く告訴を欠如するものであるにかかわらず、右強姦罪の構成要件の一部である本件共同暴行に関する公訴事実と同趣旨の事実を認定した上、之を暴力行為等処罰に関する法律違反罪に問擬し、被告人両名に対し何れも有罪の言渡をしたのは、本来公訴提起の条件を欠き従つて公訴を棄却すべきものを有罪としたのであるから、原判決はその判決に影響を及ぼすべき場合の違反があり、且つその違反は原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められるのである。されば所論爾余の論旨に対する判断を用いるまでもなく、原判決は刑訴施行法三条の二、刑訴四一一条一号に従い、之を破棄すべきものとする。
 よつて当裁判所は刑訴施行法二条、旧刑訴四四八条に従い、更に事件につき次のとおり判決する。即ち本件公訴事実の要旨は、被告人両名はD、E、F、G、Hと共にその多数の勢をたのんで婦女に暴行せんことを謀議し、昭和二三年九月二三日頃の午後一〇時頃福島県石城郡a村字bI撰炭婦である同郡c町大字bのA同B(姉妹)の両名の帰宅途中を待ち伏せ、おのおの覆面の上抵抗する右両女をつかまえてIズリ捨場の川辺及び同所ボーリング小屋に連行して同女等を押倒し或は裸体となす等、もつて多数の威力を示して暴行したものであるというのであるが、原判決の挙示した証拠に徴すれば被告人両名の右行為は被告人両名が前示外五名の者等と共謀の上、前同所においてA同Bを強姦した手段行為であることが明らかである。然るに右強姦罪に関する告訴権者のした告訴は本件公訴提起以前既に取消されたのであつて、従つて本件公訴は公訴提起の条件を欠如するものというべきであるから、旧刑訴四五五条同三六四条六号に則り、被告人両名に対する本件公訴は何れも之を棄却すべきものとする。
 よつて主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官藤田八郎を除くその他の裁判官一致の意見によるものである。

上告理由 法令違反・判例違反〜親告罪(告訴無き強制わいせつ罪)の一部起訴であること
1 判示の行為は強制わいせつ行為である。
 強要+製造行為が強制わいせつ罪を構成することはすでに述べた。
 しかし、告訴が無い。
 このように親告罪の全部について告訴なしに起訴することは、親告罪の趣旨を潜脱するものであり、違法である。
 また、原判決によれば性的意図はあるにしてもそれが訴因に記載されない場合には強要罪が成立することになるというのだから、強制わいせつの事実のうち、性的意図を起訴せずに、それ以外を強要罪として起訴することを許容している。この点でも親告罪の一部について告訴なしに起訴することは、親告罪の趣旨を潜脱するものであり、違法である。
 原判決には判決に影響を及ぼすべき法令の違反があって原判決を破棄しなければ著しく正義に反するから原判決は破棄を免れない(411条1項)。

 また、原判決は最高裁判所判例と相反する判断をしたことに他ならないから原判決は破棄を免れない(405条2号)。

4 親告罪の一部ないし全部起訴である(判例)。
 しかるに公訴事実で被撮影者の氏名を掲げて、あたかも被撮影者が被害者である性犯罪であるかのような公訴を提起している。被害者の意思に反して被害の事実が公の裁判にかけられてはならないというのが親告罪の趣旨である。

 本件起訴はこのような強制わいせつ罪が親告罪とされている趣旨を潜脱するものであるから、違法である。
 これは確定判例である。
最判S27.7.11
②札幌高裁S27.6.25
東京地裁S38.12.21
④広島高裁S25.12.26
 なお、注意しておくが、これらの判決例は、強姦の実行行為のうちの暴行または脅迫という手段的部分について暴行罪・脅迫罪等として評価して起訴することは親告罪の趣旨を没却させるから違法と判示しているのである。
 ところが、被告人はまさに性欲を充たすために撮影行為をしたのであるから撮影行為がわいせつ行為にほかならないのである。つまり、本件で問題にしているのは強制わいせつ罪の核心的行為・本質的行為である「被害者を裸にして裸体を撮影するという行為」について、非親告罪の別罪として起訴することの可否である。手段的部分が許されないのに核心的部分の起訴は許されるという結論は絶対に許されない。

 さらに、もし児童ポルノ製造罪が強制わいせつ罪に比べて比べものにならないほど重罪であるならば親告罪の趣旨より児童ポルノ製造の処罰が優先されることにまだ理解の余地はある。しかし、7条3項の児童ポルノ製造罪の法定刑の上限は懲役3年であるのに対して、強制わいせつ罪のそれは懲役10年である。懲役10年もの重罪について告訴なければ起訴できないとされているにもかかわらず、それだけの被害者の意思尊重の趣旨で親告罪とされているにもかかわらず、特別法の懲役3年の軽い罪でそれらの趣旨を無に帰すことは許されない。

5 学説
 学説は違法説が有力である。
平川・後藤「刑事法演習」第2版p15
石井一正「刑事法演習 一罪の一部起訴」判例タイムズ1273号 34頁
後藤昭・白取祐司編「新・コンメンタール刑事訴訟法」(日本評論社・H22)P598