児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

新百合ケ丘−新宿間を走行中の車内で、青少年にわいせつ行為をした場合

 これが性交類似行為に至らない「わいせつ行為」だとすると、東京都の東京都青少年の健全な育成に関する条例には触れませんので、神奈川県内の行為のみが処罰されます。
 「性交類似行為」であれば、両都県の条例に抵触しますので、罪数処理の問題になります。
 犯行場所の特定が肝ですね。
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20091102#1257150698
2県にまたがる青少年条例違反について包括一罪とした事例(東京高裁H19.2.27)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120321-00000503-san-soci
http://www.sanspo.com/geino/news/20120321/tro12032105050003-n2.html
捜査関係者によると、男は昨年12月25日(つまりクリスマス)の夜、車掌として乗車していた回送のロマンスカーが新百合ケ丘−新宿間を走行中、車内で当時15歳だった女子高生の胸や下半身を触った疑いが持たれている。
 2人は携帯電話の出会い系サイトで知り合い、男がメールで川崎市麻生区の新百合ケ丘駅から回送電車に乗るよう指示。生徒を乗車させ、窓側の席に座らせた。

http://www.reiki.metro.tokyo.jp/reiki_honbun/g1012150001.html
東京都青少年の健全な育成に関する条例
(青少年に対する反倫理的な性交等の禁止)
第十八条の六 何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない。
(平一七条例二五・追加)

http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f4151/p385175.html
神奈川県青少年保護育成条例
(みだらな性行為、わいせつな行為の禁止)
第31条 何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
2 何人も、青少年に対し、前項の行為を教え、又は見せてはならない。
3 第1項に規定する「みだらな性行為」とは、健全な常識を有する一般社会人からみて、結婚を前提としない単に欲望を満たすためにのみ行う性交をいい、同項に規定する「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激し、又は興奮させ、かつ、健全な常識を有する一般社会人に対し、性的しゆう恥けん悪の情をおこさせる行為をいう。

 県境をまたぐ青少年条例違反というのはあまりありません
 東京湾横断道路での青少年条例違反というのを見かけたことがあります。

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する条例(昭和38年埼玉県条例第47号)違反,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和37年東京都条例第103号)違反

東京高等裁判所判決平成13年2月23日
東京高等裁判所判決時報刑事52巻1〜12号9頁

 本件起訴状における公訴事実は,「被告人は,平成10年9月24日午前8時6分ころから同日午前8時15分ころまでの間,埼玉県朝霞市東弁財一丁目4番17号所在の東武鉄道株式会社朝霞台駅から東京都板橋区成増二丁目13番1号所在の同社成増駅に至る間を進行中の電車内において,乗客のA子(当16年)に対し,その着衣の上から,同女の陰部に手指を押し当て,さらに,同女の乳房を手指でつまむなどし,もって,公共の乗物において,婦女を著しくしゅう恥させ,かつ,婦女に不安を覚えさせるような卑わいな行為をした」というものであり,罰条として,埼玉県迷惑防止条例9条1項,2条3項,東京都迷惑防止条例8条1項,5条1項が掲げられている(なお,正確には,埼玉県迷惑防止条例の関係では,公訴事実中の「婦女」は「女子」とすべきである。)。この公訴事実については,所論のように,埼玉県内及び東京都内のそれぞれでいかなる痴漢行為がなされたのかの区分けが記載されていないと解することも不可能ではないが,上記区間の埼玉県内においても東京都内においても,被告人が同女に対し「着衣の上から,陰部に手指を押し当て,乳房を手指でつまむなど」の卑わいな行為をしたとの趣旨を記載しているものと解するのが相当である(原審で取り調べた証拠によると,捜査段階では,埼玉県と東京都との境界を意識し,どの行為がどちらでなされたかについての検討がなされているようには窺われないし,原審公判でも,弁護人から本論旨と同旨の主張がなされたのは,最終弁論においてであったこともあって,上記の点を意識した証拠調べはなされていない。)。そして,検察官は,埼玉県内及び東京都内の双方での上記痴漢行為につき,包括して一罪としての処罰を求めているものと解されるところ,その罪数解釈は正当として是認することができる。そうすると,埼玉県内における痴漢行為と東京都内における痴漢行為を,その態様,回数,時間等によりさらに詳しく記載しなくても,裁判所に対し審判の対象を限定するとともに,被告人に対し防禦の範囲を示すという訴因制度の目的は果たされているということができる。したがって,本件公訴事実の記載が訴因の特定・明示に欠けるとはいえず,原裁判所の訴訟手続に所論のような法令違反は存しない。(安廣文夫・松尾昭一・金谷 暁)

東京高裁平成20年 5月15日
 原判決は,「法令の適用」の項で,被告人の判示所為(注 その要旨は「被告人は,平成19年7月12日午前7時53分ころから同日午前8時3分ころまでの間,千葉県松戸市JR東日本松戸駅から東京都足立区の同北千住駅までの間を走行中の常磐線電車内において,A(当時20歳の女性)に対し,その着衣の上からその右乳房を手で触り,もって公共の乗物において,人を著しくしゅう恥させ,かつ,人に不安を覚えさせるような卑わいな行為をした」というものである。)は千葉県条例違反と東京都条例違反にそれぞれ該当する旨を示し,本件の罪数につき,「これは1個の継続的な犯意の下で行われた社会的に1個の行為であるが,2個の罪名に触れる場合であるから刑法54条1項前段,10条により(なお,条例の属地的な性質に照らせばそれぞれの地域での犯罪行為を併せて1罪とすることは相当ではなく,また,観念的競合の概念にまさに適合する判示所為を法律に明文の規定のない概念で処断する必要性も乏しいと考えられるので,判示所為を混合包括1罪として処断することはしない。)」として,いわゆる観念的競合に当たるとしているが,本件の事実関係を前提とすれば,被告人の判示所為については,各条例の場所的適用範囲からして同一の行為が両方の条例に違反するということはあり得ないので,いわゆる包括一罪として処罰するのが相当であるから,上記部分は「これらは包括一罪の関係にあるから,刑法10条により」とすべきであって,原判決は法令の適用を誤っているといわざるを得ないが,この誤りは判決に影響を及ぼさない。
 (安廣文夫 小森田恵樹 地引広)