児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

告訴能力の話

 この際、非親告罪という方向もあるんでしょう。
 幼児への児童ポルノ製造なんて、強制わいせつ罪(176条後段)そのものですが、告訴不要です。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120314-00000275-mailo-l16
 ◆判決、しかし…
 1月19日、富山地裁田中聖浩裁判長は、田中被告に懲役13年、母に同4年の実刑判決を言い渡した。
 判決では妹の強制わいせつ事件2件のうち、1件は祖母の告訴を有効として田中被告らを処罰したが、もう1件は祖母の告訴を否定。妹の告訴は「当時10歳11カ月とまだ幼い年齢であった」などとして2件とも認めなかった。
 地検は「当時は地獄だった。犯人を死刑にしてほしい。でも、法律上それは無理だと聞いた。だったらできるだけ重い罰を与えてほしい。でも母親に対しては反省して戻ってきてほしい」という妹の供述調書を、正式な告訴状の代わりとして起訴していた。形式張った「告訴状」よりも被害者の生の声の方が有効と判断し、さらにこうした手法は最高裁判例でも認められ、実務上通例となっていたためだ。ある捜査関係者は妹について「実際、この子は非常に賢い」と語り、告訴能力に自信を持っていた。
 ◆専門家は…
 子どもの権利条約に詳しい富山国際大学子ども育成学部の彼谷(かや)環准教授(憲法)も「子どもには虐待や暴力を受けない権利がある。侵害された時は、権利回復の手段が用意されていなければならない」と指摘する。井戸田侃(あきら)・立命館大名誉教授(刑事法)も「性犯罪では自分の体が直接被害を受ける、女性にとって恥ずかしい行為の極み。だから『加害者を許してもらっては困る』という処罰意思はたとえ幼い被害者でも持つ」と妹の告訴能力を認めるべきだという立場だ。
 一方、甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「10歳であれば裁判や刑罰の一般的な意味は理解できる」とし、低年齢の告訴能力を認めた。そのうえで、「供述調書にまとめてしまうと、告訴意思、告訴能力が不明瞭になる。告訴意思を調書にするか、自ら告訴状を作成させるべきだった」と地検側の対応にも苦言を呈した。

3月14日朝刊

http://www.asahi.com/national/update/0314/OSK201203140245.html
富山地裁は1月19日、長女(当時15)と妹の少女にわいせつな行為をしたとして、男に強制わいせつや準強姦(ごうかん)などの罪で懲役13年の実刑判決を言い渡した。ただ、少女の被害について富山地検が起訴した2件のうちの1件については、地裁が、少女の年齢や少女が告訴状を作成していない事実を挙げ「告訴能力を有していたことには相当な疑問が残る」とした。地検は、少女らの供述調書を告訴とみなし、祖母からの告訴状を受けて起訴していた。
 地検は「少女は供述調書で被害にあった状況を細かく説明している。『当時は地獄だった』と被害感情を持ち、男にもできるだけ重い刑をと話している」と十分な告訴能力があったとしている。
 告訴能力に詳しい中谷雄二弁護士は「少女の供述は核心部分に関しては信用性が高いとみていい。年齢が低いという理由だけで安易に告訴能力を否定するのは問題がある」と話している。

第230条〔告訴権者〕
犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。
第231条〔同前〕
被害者の法定代理人は、独立して告訴をすることができる。
②被害者が死亡したときは、その配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹は、告訴をすることができる。但し、被害者の明示した意思に反することはできない。
第232条〔同前〕
被害者の法定代理人が被疑者であるとき、被疑者の配偶者であるとき、又は被疑者の四親等内の血族若しくは三親等内の姻族であるときは、被害者の親族は、独立して告訴をすることができる。
第233条〔同前〕
死者の名誉を毀損した罪については、死者の親族又は子孫は、告訴をすることができる。
②名誉を毀損した罪について被害者が告訴をしないで死亡したときも、前項と同様である。但し、被害者の明示した意思に反することはできない。
第234条〔告訴権者の指定〕
親告罪について告訴をすることができる者がない場合には、検察官は、利害関係人の申立により告訴をすることができる者を指定することができる。

福岡高等裁判所宮崎支部平成22年12月21日
LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

 原判決を破棄する。
 本件を宮崎地方裁判所に差し戻す。

       理   由

 本件控訴の趣意は,検察官小山陽一郎作成の控訴趣意書に記載のとおりであり,これに対する弁護人の答弁は,弁護人町元真也作成の答弁書に記載のとおりであるから,これらを引用するが,検察官の論旨は,原判決は,起訴にかかるわいせつ誘拐,強制わいせつ(以下「本件各公訴事実」ということがある。)事件の被害者であるA(当時29歳,以下「被害者」という。)が,上記事件についてした告訴は,告訴能力を欠くものであるから公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとして刑訴法338条4号により公訴を棄却したが,原判決は,被害者の告訴能力に関する事実の認定・判断を誤ったもので,訴訟手続の法令違反があり,それが判決に影響を及ぼすことは明らかであり,かつ,不法に公訴を棄却したものであるから,原判決を破棄すべきである,というのである。
 そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せ検討する。
1 原判決は,告訴能力につき,「告訴能力とは告訴の何たるかを理解する知的能力を指すところ,とりわけ,性犯罪に係る告訴に要求される告訴能力については,自らが犯人の犯罪となるべき行為による被害を受けた客観的経緯を認識した上,これに対する被害感情を持ち,告訴に伴う利害得失を理解した上,犯人に対して公の制裁を望むことができるだけの能力が必要であると解するのが相当である」と説示し,続いて,被害者の告訴能力に関し,「被害者は,本件犯行当時,療育手帳上の区分でB1に該当する知的障害を有し,精神鑑定書では,IQは57で,ICD−10の診断基準に照らし,軽度精神遅滞に該当するとの診断がされていたもので,告訴状を作成する際にその内容を被害者に確認させた係官においても,被害者の知的能力の程度は小学3,4年生程度であると感じ,その告訴能力に疑念を有していたものである。そして,被害者は,当公判廷の証人尋問においても,問いが被害者にとって難しいものになると,応答が迎合的になっている上,告訴状と供述調書との違い,上記告訴状の記載内容,上記告訴状の作成に際して係官から説明を受けた内容等につき,質問者の誘導なしに,自発的に説明することができておらず,被害者には,その知的障害のため,本件告訴の趣旨及び内容,本件告訴に伴う利害得失等を十分に理解していない様子がうかがわれるところである。また,被害者は,本件犯行に係る被害を受けた日の翌日にも被告人から指示された場所へ赴き,被告人運転の車に乗って再度わいせつな行為をされている上,本件犯行日及び翌日にされたわいせつ行為について,両親及び施設の指導員に相談しておらず,本件犯行に係る被害を受けた際に途中まで被告人運転の車両に同乗していた知人にも,打ち明けたり話したりしていない。被害者は,上記知人に何も話さなかった理由につき,恥ずかしさによることを否定しつつ,何ら説明をしておらず,施設の指導員に相談しなかった理由についても,何ら説明をしていない一方,両親に相談しなかった理由については,怒られるのが怖かったなどと述べている。このような被害者の言動をはじめ,本件犯行に係る被害を受けた当時の被害者の態度,本件犯行後の被害者の行動及び動静,本件犯行が発覚した経緯等を総合すると,被害者については,本件犯行時から本件告訴状作成時にいたるまでの間,本件犯行に係るわいせつ行為ないし車で誘拐されて連れ回された行為の意味を十分理解していたといえるか疑問が残るほか,本件犯行に係る被害を受けたことを踏まえて合理的に判断ないし行動することが期待できる状況にもなかったものといわざるを得ない。そうすると,外形的には,被害者が本件わいせつ行為及びわいせつ目的による誘拐に関する事実の供述をし,許せない旨の被害感情を表現したり犯人に対して処罰して欲しいとか刑務所に行ってもらいたい旨の制裁を望む発言をしているとしても,被害者がその意味内容を十分理解しているか否か疑問の余地がないではなく,自分に対してなされた被告人の行為の客観的事実の認識はあっても自分に何が起こったのかという社会的意味づけや規範的評価が被害者の中でできているとは認め難く,被害者が告訴に伴う利害得失を理解しているとも認められない。結局,被害者は,告訴の何たるかを理解する知的能力に欠ける部分があると言わざるを得ず,告訴能力があるとまでは認められない。」とした,。。。
・・・・
  以上の被害者の能力,性格傾向,供述状況等を踏まえ,被害者の告訴能力について検討する。
  告訴能力とは,自らが犯人の犯罪となるべき行為による被害を受けたという客観的経緯を認識し,これについて被害感情を持ち,犯人に対して公の制裁を望むだけの能力があることが必要であり,かつ,これをもって足りるというべきである。被害者は,軽度精神遅滞で言葉の問題があるものの,難しい言葉は,言葉を変えて表現されることにより理解して会話をする能力を有し,認知能力についても,健常者に比べれば劣るが,日常の社会的能力は一応備えていると認められ,実際に,被害者は,被害に遭ったことについて,捜査段階はもとより,原審公判廷においても,被告人からどのようなことをされたか供述しており,C医師との面接において,それらについて羞恥心を抱いており,又,自分がいけないことに関わってしまったと考えていたことが明らかにされ,そのような状況を作り出した被告人について,警察官から告訴という言葉の意味をかみ砕いて説明されて,許せないと答え,さらに,告訴状(原審甲1)に署名するに際し,警察官が被告人に対する処罰を求める意思を確かめると,「刑務所,刑務所」と言って被告人を懲役に処することを求める意思を明示したのであるから,被害者には,被害状況についての認識があり,その社会的意味も理解しており,これに対する被害感情と被告人に対する処罰感情を持ち,告訴の意味を理解して被告人の処罰を求める意思を示したということができ,告訴能力があるというべきである。これに対し,原判決は,告訴能力について,上記のほか,告訴に伴う利害得失を理解する能力を必要とし,本件の被害者はその利害得失を理解してもいないと認定判断したが,これによれば,大小さまざまな告訴に伴う利害得失を適切に理解していなければ告訴が有効でないということになり,被害者に過度に高度の知的能力を求めるものとなり,これでは被害者の意思を尊重し,被害者を保護することにはならないから,採用することはできない(なお,本件の被害者は,告訴人として原審公判で,尋問に適切に答え,証言していることから,告訴に伴う一定の負担を容認していたことが推認できる。)。
  弁護人は,?C医師は,告訴能力という法的概念について正確な理解を有しないまま,告訴能力があると判断したもので,同医師の精神鑑定は信用することができない,そうでないとしても,?C医師の当審証言によれば,(ア)C医師が被害者と面接した際,被害者は,被害感情ないし犯人への処罰感情を容易に言葉にすることができず,それらが極めてあいまいなものであったことがうかがわれ,被害感情の存在に大いに疑問があり,(イ)被害者には,告訴に伴う利害得失を理解する能力に欠けていることが明らかであるから,告訴能力は否定されるべきであり,これと同趣旨の原判決の判断は正当である,というのである。
  しかしながら,?については,C医師の当審証言によれば,同医師は,告訴能力に関する精神鑑定を行ったのは初めてであり,検察官から,告訴能力に関する説明,これまでの裁判例について説明を受けながら,精神鑑定を進め,最終的に,告訴能力がある旨の鑑定主文の結論に至ったものであることが認められるが,以上の経緯によって,C医師が告訴能力という法的概念について正確な理解を有していないということはできず,同医師の供述内容からも告訴能力に関する理解に誤りがあることは認められない上,精神鑑定における専門家の知見・判断は,法的概念である告訴能力の有無という結論に重要な意味があるのではなく,それを判断するために必要な被害者の精神障害の有無・程度とそれが被害者の心理等にどのように影響を与えるものかという精神医学的,心理学的な専門的知見・判断に重要な意味があり,裁判所もこの点に着目して告訴能力の有無を判断するのであり,この点において,C医師に何らの問題もないことは明らかであるから,弁護人の主張は,採用し得ないものである。
  次に,?の(ア)については,被害者は,原審公判廷において,被告人のことを許せない,刑務所に入れて欲しい旨明確に供述している上,C医師に対しても,C医師が,被害者に処罰感情を尋ねると,被害者は「二度とこんなことがないように」と答えたことが認められ,これは「二度とこんなことがないように」被告人を刑務所に入れて欲しいという趣旨であると考えられるのであり,十分に処罰感情を有していたということができ,それが,あいまいなものであるということはできない。
  さらに,?の(イ)については,C医師の当審証言によれば,被害者の精神遅滞の程度にかんがみると,被害者は,被告人を告訴することにより,被害の内容が公判廷で明らかになるなどの自己が払う犠牲の有無や程度についてまで考え,告訴した場合の利害得失を比較考量した上で告訴するかしないかを決するまでの能力は有しないことが認められる。弁護人の主張はこの証言に依拠するものであるが,告訴能力は,前記のとおり,自己の被害を認識して被害感情を持ち,加害者に対して公の制裁を求めるだけの能力があれば足り,それ以上に上記のような比較考量をするまでの高度の能力を必要とするものではないというべきであるから,弁護人の主張は,前記結論を左右するものではない。
  なお,親告罪は,被害者の保護のために告訴に伴う被害者の社会的負担を考慮し,公訴提起するか否かを被害者の意思にかからせるため,告訴を公訴提起の条件とすることにしたものであるが,そのことは,直ちに親告罪における告訴能力について告訴に伴う被害者の社会的負担に関する十分な検討をするに足るだけの高度の能力を要求することに結びつくものではなく,又,被害者が,法廷に出頭して,羞恥心に耐え,被害状況や被害感情,処罰感情を述べ,処罰を求める意思を明確にしているのに,告訴に伴う利害得失について検討する能力がないから告訴が無効であるというのは,かえって,本件のように本人以外に事実上告訴権者がいなかった事案において,被害者の保護に欠けることになるのであり,そのような高度の能力を必要的と考えることは相当でない。
  以上のとおり,被害者には告訴能力があるのに,被害者に告訴能力がないとした原判決は,被害者の告訴能力に関する事実認定を誤り,有効な告訴を無効であるとして刑訴法338条4号により公訴を棄却したものであるから,不法に公訴を棄却したものであり(刑訴法378条2号),検察官の論旨は理由がある。
 よって,刑訴法397条1項,378条2号により原判決を破棄し,犯罪の成否の事実認定及び有罪となった場合の量刑についての審級の利益を考慮し,同法398条により,本件を原裁判所である宮崎地方裁判所に差し戻すこととし,主文のとおり判決する。
   平成22年12月21日
     福岡高等裁判所宮崎支部
         裁判長裁判官  榎本 巧
            裁判官  飯畑正一郎

東京地方裁判所判決平成15年6月20日
判例時報1843号159頁
【訴訟条件に関する弁護人の主張に対する判断】
 本件においては、被害児童のC子及びその姉のD子から告訴がなされているところ、弁護人は、C子には告訴能力がなく、他方、D子は捜査官から被害の内容を間接的に聞かされたにすぎないなどとして、各告訴の効力について疑問がある旨主張するので、検討する。
 まず、C子による告訴について見ると、C子作成の告訴状(甲一)及びC子の検察官に対する供述調書抄本(甲五、六)によれば、C子は、判示日時場所において、被告人から、自分のおしっこの出る所に無理やりおちんちんを入れられて気持ち悪くてたまらなかった旨述べるとともに、被告人を処罰してほしい旨や、許すことはできないのでできるだけ長く牢屋に入れてほしい旨述べているのであるから、本件被害の内容を具体的に認識しつつ、被害感情を持って被告人に対する処罰を求めているものと認められるのであり、C子が告訴当時一二歳三か月の小学六年生であったからといって、自分の供述内容の意義を理解していなかったと疑うべき事情は窺われず、その告訴能力に欠けるところはない。したがって、C子による告訴は有効である。
 また、D子が告訴をした当時、C子の法定代理人である母B子は被告人と婚姻関係にあったのであるから、D子も本件に関し告訴権を有するところ、D子作成の告訴状(甲二)及びD子の検察官に対する供述調書(甲三)によれば、D子は本件被害の内容を理解した上で被告人に対する処罰を求めていることが認められ、弁護人がD子の告訴について指摘するところは、D子が本件被害の内容を知った経緯に関する事情にすぎず、告訴の効力に影響を及ぼすような性質のものではないから、D子による告訴も有効である。
 以上からすれば、本件の訴訟条件に欠けるところはない。

東京地方裁判所昭和39年10月30日
判例タイムズ170号259頁
判 決 理 由

(罪となるべき事実)被告人は、(中略)酔余劣情を催し就寝中の婦女を姦淫する目的で、昭和三九年七月二四日午前一時一五分頃、東京都新宿区矢来町八五番地甲方住居に故なく侵入したものである。
(一部公訴棄却の理由)本件公訴事実中、被告人が判示日時場所において就寝中の乙(当五九年)を強いて姦淫しようとしたが、甲に発見されたためその目的を遂げなかつたとの事実は、告訴を待つて論ずべきものであるところ、被害者からの適法な告訴があつたものとは認められず、右事実に対する公訴提起はその規定に違反したため無効であるといわなければならないが、右は判示住居侵入の罪と牽連犯の関係にあるものとして起訴されたものと認められるから、主文において特に公訴棄却の言渡をしない。
(争点に対する判断)二、告訴の有無に対する判断 本件公訴事実中準強姦未遂の事実につき、適法な告訴があつたか否かについて争いがあるので、次にこの点につき判断する。
(1)検察官は、告訴存在の証拠として、右準強姦未遂事件の被害者乙作成名義にかかる昭和三九年七月二四日付警視庁牛込署々長宛の告訴状を提出した。右告訴状には、犯人として被告人の氏名及び犯罪事実として本件公訴事実とほぼ同様な事実の記載と共に、「よつて犯人を強姦未遂で告訴致します。」と記載され、乙の署名指印がある。従つて、本件は一応適法な告訴があつたような外観を呈しているのである。
 しかしながら、告訴はもとより法律行為であるから、有効な告訴があるというためには、告訴の要件に合致した内容の表示行為があれば足りるというわけではなく、表示の内容に添う内心の効果意思が存在しなければならない。本件告訴状についてこれをいえば、右告訴状が告訴の意思表示として有効であるためには、作成名義人たる乙に、告訴状の記載に添う内心的効果意思、即ち犯人の処罰を求めるという意思が存在しなければならない。そこで、以下右意思の存否について検討する。
 乙は、当裁判所の証人尋問に対し、「自分は、口をふさがれただけで格別ひどい目に会つたわけでもなく、被告人も酔つ払つて行なつたことであるから、被告人を憎いとも思つていないし、処罰してもらいたいという気持はなかつた。」旨供述し、更に告訴状作成の経過については、「警察官から牛込警察署まで来てくれといわれ、自分は行きたくなかつたが、主人が行けというので行つた。そして、警察官が本件告訴状を書いて自分に読み聞かせたうえ、署名してくれというので、署名して指印した。しかし、自分は告訴という言葉の意味を知らず、事件の直後でかなり興奮していたせいもあつて読み聞かされてもその意味や効果のわからぬまま、警察官の求めに応じて署名した。自分は、警察に出頭するのは今回がはじめてで、警察ではそのようにするものだと思つていた。」旨供述している。牛込警察署の巡査橋本久雄は、当公判廷で、「事件の当夜、被害者の乙を取調べて供述調書と被害届を作成し、本件は親告罪といつて告訴状がなければ取扱えない事件であるから告訴状を提出してくれといつたら、同女は自分では書けないというので、自分が同女に代り、先の取調から判明したところにより本件告訴状を作成し、これを同女に読み聞かせたうえ、署名してもらつた。告訴といえば当然わかるものと思い、告訴の意味については改めて説明しなかつた。」旨供述し、乙の夫甲は当公判廷(第三回公判)において、「妻は、裁判所の尋問が終つてから家人に告訴とは何んのことかと尋ねていた。妻には告訴ということの意味がわかつていない。」旨供述している。これらの供述を総合すると、被害者乙には、被告人の処罰を求める意思が存在せず、また本件告訴状に署名することにより、被告人の処罰を求める意思を表示するものであるとの認識が欠けていることが認められる。本件を起訴した検察官河上和雄は、当公判廷で、「本件告訴状作成の経過については知らながつた。乙を直接取調べ、告訴を維持するかあるいは取消すかを質したところ、同女は維持する趣旨の答えをした。同女には告訴ということの意味がわかつていないというような様子はなかつた。」旨の供述をしているが、右の供述からは、同検察官が同女に告訴を維持するかあるいは取消すかを尋ねたことは認められるものの、前掲各証拠に照らし同女がはたして告訴の意味を理解したうえでそれを維持する旨の明確なる意思を表示したものか否かも明らかではなく、同女が告訴状作成の当時犯人の処罰を求める意思を有しかつ告訴の意味を理解していたとは認められず、右供述によつても未だ前記認定を覆すことはできない。また、前記甲及び橋本久雄の当公判廷における供述によると、乙は事件直後にはかなり畏怖しており、被告人の寛大な処分または不処罰を望む旨の積極的な意思を表明してはいないことが認められるが、このことから直ちに同女が被告人の処罰を求めていたと推断することはできない。
 そうだとすると、本件告訴状の作成名義人たる乙は、告訴状の記載内容に添う内心の効果意思を欠いていたものと認めざるを得ず、本件告訴状は告訴の意思表示としての効力を有しないものといわなければならない。
(2)もつとも、告訴状作成の当時には犯人の処罰を求める意思を欠き、かつ告訴ということの意味を知らなかつたとしても、公訴提起前において犯人の処罰を求める意思を生じ、かつ告訴の意味を理解したうえで、先の告訴状による意思表示を追認したことが告訴の方式を定めた刑事訴訟法二四一条一項の書面または同条二項の調書と同程度の方式を備えた文書によつて認証されるならば、適法な告訴があつたものと解してさしつかえない。
 しかし、本件においては、そもそも右のような追認を認証する文書は存在しないし、また追認の意思も認められない。ただ、前記検察官河上和雄の、乙は同検察官に対し告訴を維持する趣旨の答えをしたとの証言がここで問題となるが、仮に同女の右供述が追認の意思と解されたとしても、右供述がなされたことを認証すべき文書が起訴前に作成されていない以上、これに追認としての効果を与えることができないのみか、前述の如く、同女が同検察官の取調の段階ではたして告訴の意味を理解しかつ先の告訴状を追認したものかどうかも疑わしい。
(3)以上のように、本件告訴状は告訴の意思表示としての効力を有せず、右告訴状を除いては、起訴前において司法警察員ないし検察官に対し告訴があつたことを認証すべき文書が存在しないのであるから、本件は適法な告訴を欠くものといわなければならない。

水戸地方裁判所判決昭和34年7月1日
被告人は、昭和三十三年八月十一日午前八時頃茨城県北茨城市華川町車駒木地内山道上を通行中たまたま反対側から同所に来かかつたa(昭和二十年一月十七日生)とすれ違つた際、にわかに劣情をもよおし同女を強いて姦淫しようと決意し、やにわに同女を路傍に突き倒して馬乗りになり、恐怖のため悲鳴をあげる同女の口を手で抑える等の暴行を加えたが、同女に抵抗されて姦淫の目的を遂げなかつたものである。
(証拠略)
 弁護人は、本件被害者a子は未成年者であるところ、b子の昭和三十一二年八月二十五日付司法警察員に対する告訴ぱ、同人が被害者の法定代理人に当らないので不適法であり、従つて本件公訴はその提起の手続が違法なため無効である旨主張するけれども、子(戸籍上は子)の昭和三十三年八月二十五日付司法警察員に対する供述調書と証人aの当公廷における供述とを併せ考えると、同人は前同日司法警察員に対し本件の犯罪事実を申告し、かつ犯人の処罰を求める意思を表明していたのであり、しかも、同人は当時すでに年令も十三歳七ヶ月で右のような犯罪事実の申告及び犯人の処罰を求める意思表示をなし得る能力を保持していたものと認められるし、また、cの戸籍抄本、第二回公判調書中証人cの供述記載、証人bの当公廷における供述及びbの司法警察員に対する告訴調書を総合すると、bは本件被害者aの養母であるところから、同女の法定代理人である親権者養父の代理人の趣旨をも兼ねて昭和三十三年八月二十五日司法警察員に本件の告訴をしたものであることが認められるから、本件については、被害者a子及びその法定代理人cのそれぞれ適法な告訴があつたものというべきであつて、本兼の公訴提起の手続には弁護士が主張するような何らの違法も存しないのである。

最高裁判所第1小法廷決定昭和32年9月26日
最高裁判所刑事判例集11巻9号2376頁
最高裁判所裁判集刑事120号549頁
刑事篇昭和32年度465頁昭和31年(あ)第4628号強姦被告事件昭和32年9月26日足立勝義
別冊判例タイムズ9号61頁

       主   文

 本件上告を棄却する。
 当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

       理   由

 弁護人大久保重太郎の上告趣意は、違憲をいう点もあるが、その実質は単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお、昭和三〇年一〇月一七日附検察官の被害者Aに対する供述調書の第七項末尾の記載ー記録二九八丁以下ー及び同人の告訴状ー記録三一丁ーとに徴すれば、被害者Aが本件犯人に対し処罰を希望する意思を表明しているものと認められるから、たとえ、右被害者が昭和一六年一〇月三〇日生れで、中学二年生であつたとしても、告訴の訴訟能力を有していたものと認めるのが相当である。)よつて同四一四条、三八六条一項三号、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
  昭和三二年九月二六日

追記
 富山地裁h24.1.19ですよ。1/20に読売が報じています。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120325-00000038-jij-soci
10歳少女の告訴無効に=富山地裁、「幼い」と判断―強制わいせつ事件
時事通信 3月25日(日)15時42分配信
 強制わいせつ事件の裁判で、被害を受けた当時10歳の少女の告訴を富山地裁田中聖浩裁判長)が「幼い」ことを理由に無効とし、公訴の一部を棄却する判決を言い渡していたことが25日、分かった。検察側は「判決は少女の告訴能力について十分検討していない」として控訴しており、NPO法人児童虐待防止協会」(大阪市)の理事長も務める津崎哲郎花園大特任教授(児童福祉論)は「こうした判決が確定すれば、子どもが救済されず、水面下で被害が拡大する恐れがある」と危惧している。

<法廷から> 強制わいせつ事件 10歳少女の告訴不成立 「地獄だった」裁かれず
2012.01.30 北日本新聞
 起訴内容の一部は罪に問われなかった。昨年6月、18歳未満の姉妹にわいせつな行為をしたとして、準婦女暴行と強制わいせつなどの罪に問われた男(42)らの判決公判。富山地裁は、事件当時10歳だった妹の少女からの告訴==は成立しないと判断し、強制わいせつ事件2件のうち1件を棄却した。棄却とは、有罪かどうかの判断に踏み込まない結論。捜査段階で、自らの被害状況を「地獄だった」と言い表し、克明に語った少女の悲痛な思いは通じなかった。 (社会部・浜田泰輔)
 男は少女への強制わいせつ2件のほか、少女の姉=当時(15)=への準婦女暴行2件、傷害1件で罪に問われた。男と交際していた姉妹の母親(39)も、事件現場となったホテルを予約し、犯罪を助長したとして、準婦女暴行ほう助罪などで起訴された。
◇◇ 捜査関係者によると、少女は男と母親が逮捕された直後から、自らの被害について警察官らに事細かく説明した。当時を「地獄のようでした」と振り返り「死刑にしてほしい」と訴えたという。
 強制わいせつ罪で起訴するには被害者の告訴が必要だ。刑事訴訟法は、告訴に年齢制限を設けておらず、成立するかどうかは、被害の認識や処罰感情の有無などによって判断される。今回の事件では、少女の供述に具体性があることから、富山地検が、少女から口頭で告訴が申し立てられたとみなし、起訴に踏み切った。
◇◇ 今月19日の判決で富山地裁田中聖浩裁判長は、少女に対する2件のうち棄却した1件について、少女に告訴能力があったとするには疑いが残るとし「告訴は成立しない」と結論付けた。もう1件は少女の祖母からの告訴が成立したとして、有罪とした。
 姉が被害を受けた事件はいずれも姉の告訴に基づき有罪とされ、男に懲役13年、母親に懲役4年の実刑判決が言い渡された。
◇◇ 未成年者の告訴をめぐっては、2003年の東京地裁判決が、婦女暴行事件で被害を受けた12歳の少女について「被害内容を具体的に認識し、処罰を求めている」として、告訴成立を認めた事例がある。
 告訴能力があると認められる年齢について、高岡法科大の関根徹准教授(刑法)は「13〜14歳が一つの目安になっているが、一概に適用できない」と指摘する。
 富山地検は判決を不服とし、控訴を検討している。真田寿彦次席検事は「10歳とはいえ、少女はしっかりと被害内容を伝え、厳しい処罰を求めていた。告訴の不成立は受け入れられない」としている。一方、男は既に名古屋高裁金沢支部控訴した。 =随時掲載します

未成年の娘に強制わいせつなど 母親と交際相手に実刑 地裁判決=富山
2012.01.20 読売新聞
 母親が未成年の娘に、自分の交際相手と性行為などをさせた事件の判決公判が19日、富山地裁であり、田中聖浩裁判長は、準強姦と強制わいせつなどの罪に問われた交際相手の被告(42)に懲役13年(求刑・懲役18年)、準強姦ほう助と強制わいせつほう助の罪に問われた母親(39)に同4年(同7年)の実刑判決を言い渡した。強制わいせつの一部については「告訴の手続きを満たしていない」として棄却した。