児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

裁判員制度の下では,控訴審は,裁判員の加わった第1審の判断をできる限り尊重すべきであるといわれるのは,このような理由からでもあると思われる。

 補足意見で裁判員の事実認定も量刑も尊重しろとか言われてますね

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=81993&hanreiKbn=02
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120213161911.pdf
4 当裁判所の判断
(1) 刑訴法は控訴審の性格を原則として事後審としており,控訴審は,第1審と同じ立場で事件そのものを審理するのではなく,当事者の訴訟活動を基礎として形成された第1審判決を対象とし,これに事後的な審査を加えるべきものである。
第1審において,直接主義・口頭主義の原則が採られ,争点に関する証人を直接調べ,その際の証言態度等も踏まえて供述の信用性が判断され,それらを総合して事実認定が行われることが予定されていることに鑑みると,控訴審における事実誤認の審査は,第1審判決が行った証拠の信用性評価や証拠の総合判断が論理則,経験則等に照らして不合理といえるかという観点から行うべきものであって,刑訴法382条の事実誤認とは,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることをいうものと解するのが相当である。したがって,控訴審が第1審判決に事実誤認があるというためには,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要であるというべきである。このことは,裁判員制度の導入を契機として,第1審において直接主義・口頭主義が徹底された状況においては,より強く妥当する
(2) 上記のとおり,第1審判決は,検察官主張の間接事実①ないし④は被告人に違法薬物の認識があったと推認するに足りず,また,間接事実⑤はその認識をうかがわせるものではあるが,違法薬物の認識を否定する被告人の弁解にはそれを裏付ける事情が存在し,その信用性を否定することができないとして,被告人を無罪としたものである。
第1審判決は,これらの間接事実を個別に検討するのみで,間接事実を総合することによって被告人の違法薬物の認識が認められるかどうかについて明示していないが,各間接事実が被告人の違法薬物の認識を証明する力が弱いことを示していることに照らすと,これらを総合してもなお違法薬物の認識があったと推認するに足りないと判断したものと解される。
したがって,本件においては,上記のような判断を示して被告人を無罪とした第1審判決に論理則,経験則等に照らして不合理な点があることを具体的に示さなければ,事実誤認があるということはできない。

裁判官白木勇の補足意見は,次のとおりである。
1 これまで,刑事控訴審の審査の実務は,控訴審が事後審であることを意識しながらも,記録に基づき,事実認定について,あるいは量刑についても,まず自らの心証を形成し,それと第1審判決の認定,量刑を比較し,そこに差異があれば自らの心証に従って第1審判決の認定,量刑を変更する場合が多かったように思われる。これは本来の事後審査とはかなり異なったものであるが,控訴審に対して第1審判決の見直しを求める当事者の意向にも合致するところがあって,定着してきたといえよう。
この手法は,控訴審が自ら形成した心証を重視するものであり,いきおいピン・ポイントの事実認定,量刑審査を優先する方向になりやすい。もっとも,このような手法を採りつつ,自らの心証とは異なる第1審判決の認定,量刑であっても,ある程度の差異は許容範囲内のものとして是認する柔軟な運用もなかったわけではないが,それが大勢であったとはいい難いように思われる。原審は,その判文に鑑みると,上記のような手法に従って本件の審査を行ったようにも解される。
2 しかし,裁判員制度の施行後は,そのような判断手法は改める必要がある。
例えば,裁判員の加わった裁判体が行う量刑について,許容範囲の幅を認めない判断を求めることはそもそも無理を強いることになるであろう。事実認定についても同様であり,裁判員の様々な視点や感覚を反映させた判断となることが予定されている。そこで,裁判員裁判においては,ある程度の幅を持った認定,量刑が許容されるべきことになるのであり,そのことの了解なしには裁判員制度は成り立たないのではなかろうか。裁判員制度の下では,控訴審は,裁判員の加わった第1審の判断をできる限り尊重すべきであるといわれるのは,このような理由からでもあると思われる。
本判決が,控訴審の事後審性を重視し,控訴審の事実誤認の審査については,第1審判決が行った証拠の信用性評価や証拠の総合判断が論理則,経験則等に照らして不合理といえるかという観点から行うべきものであるとしているところは誠にそのとおりであるが,私は,第1審の判断が,論理則,経験則等に照らして不合理なものでない限り,許容範囲内のものと考える姿勢を持つことが重要であることを指摘しておきたい。