児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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石渡聖名雄「窃盗未遂の主張が排斥され,同既遂罪の成立が認められた事例(東京高裁平成21年12月22日判決判例タイムズ1333号282頁)」研修763号

 強制わいせつ罪の既遂時期とか、3項製造罪の既遂時期とか、実務上は微妙な事例があります。

窃盗未遂の主張が排斥され,同既遂罪の成立が認められた事例(東京高裁平成21年12月22日判決判例タイムズ1333号282頁)
第1 はじめに
本判決は,警備員や監視カメラが配置された大型店舗において,液晶テレビという比較的大型の商品について,犯人がこれを窃取するべく店内のトイレ内に一時的に隠した(店外には搬出していない)時点で窃盗の既遂罪が成立する旨判示したものである。もとより,事例判断ではあるが,実務の参考になると思われることから,紹介することとした。
なお,本稿中記載の内容のうち,意見にわたる部分は筆者の私見である。
第2 事案の概要等
l 本判決によると,本件の概要は以下のとおりである。
被告人は,大型量販庖3階の家電売場に陳列してあったテレピ(幅46.9センチメートル,高さ40.9センチメートル,奥行き16.7センチメートル.以下「本件テレビ」という。)を盗むために買物カート上のかごに入れ, レジで清算せずに買物カートを押したまま同店舗3階北東側にある男性トイレに入り,同トイレ内の洗面台下部に設置されていた観音聞きの扉が付いた収納棚の中に本件テレビを隠し入れた(注1)。
その後,被告人は,上記トイレから出て,本件テレビを入れて店外に持ち出すための大きな紙袋を購入したが,その際の被告人の言動に不審を感じた庖員からの連絡を受けた警備員が,被告人が紙袋の清算をしている同店3階のレジに臨場した。そして,被告人が購入した紙袋を持って上記トイレに向かったため.警備員も被告人の後ろについて同トイレに入ったが,その際,被告人が洗面台の前に立っており,次いで洗面台の前から小便器の方へ移動したことから,警備員は不審を感じ,洗面台下部の収納棚の扉を聞けて中を確認したところ本件テレピを発見した。
警備員は,本件テレピが本件店舗の商品であることや被告人が本件テレビを収納棚に入れたことについて確信が持てなかったため,店舗関係者に連絡した。店舗関係者は本件テレビが同店舗の商品であることを確認するとともに,防犯カメラに撮影されていた映像で被告人が本件テレピを上記トイレに持ち込んだことを確認したことから.同店l階東口付近にいた被告人を捕捉した。

  東京高等裁判所判決時報刑事60巻1〜12号247頁
       判例タイムズ1333号282頁
       LLI/DB 判例秘書登載
      主   文

 本件控訴を棄却する。
 当審における未決勾留日数中40日を原判決の刑に算入する。

       理   由

 本件控訴の趣意は,弁護人萩原秀幸作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるから,これを引用する。
1 事実誤認の主張について
 論旨は,これを要するに,原判決は,「罪となるべき事実」として,10年以内に窃盗罪により3回にわたって6月以上の懲役刑の執行を受けた被告人が,更に常習として,平成21年6月12日,千葉市緑区所在の○○○株式会社A○○店(以下「本件店舗」という。)3階家電売り場において,液晶テレビ1台(販売価格3万9980円。以下「本件テレビ」という。)を窃取したとの事実を認定しているが,本件テレビの窃盗は未遂であるのに,これを既遂と認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。
 そこで検討すると,原判決が挙示する関係証拠によれば,原判示の事実を優に認めることができ,原判決が「補足説明」の項で説示するところも,正当として是認することができる。当審における事実取調べの結果によっても,この判断は動かない。
 すなわち,関係証拠によれば,本件犯行状況等について,次のとおりの事実が認められる。
(1) 被告人は,原判示の日時ころ,本件店舗3階の家電売り場に陳列してあった本件テレビ(幅469mm,高さ409mm,奥行き167mm)を盗むために買い物カート上のかごに入れ,レジで精算せずに買い物カートを押したまま同店舗3階北東側にある男性用トイレに入り,トイレ内の洗面台下部に設置されている観音開きの扉が付いた収納棚の中に本件テレビを隠し入れた。
(2) その後,被告人は,上記トイレから出て,本件テレビを入れて店外に持ち出すための大きな袋を購入したが,その際の被告人の言動に不審を感じた店員からの連絡で警備員が,被告人が袋の精算をしている同店3階のレジに臨場した。被告人が購入した袋を持って上記トイレに向かったので,上記警備員も被告人の後ろについてトイレに入ると,被告人が洗面台の前に立っており,次いで洗面台の前から小便の便器の方へ移動したので,上記警備員は不審に思って洗面台下部の収納棚の扉を開けて中を確認したところ,本件テレビを発見した。
(3) 上記警備員は,本件テレビが本件店舗の商品であることや被告人が本件テレビを収納棚に入れたことについて確信が持てなかったので,店舗関係者に連絡し,店舗関係者らは本件テレビが同店舗の商品であることを確認するとともに,防犯カメラに撮影されていた映像で被告人が本件テレビを上記トイレに持ち込んだことを確認した上,同店舗1階の東口付近にいた被告人を捕捉した(なお,当審で取調べ済みの上申書において,被告人は,警備員に追尾された状態でトイレに入った際に本件テレビを収納棚に入れたという趣旨の供述をしているが,防犯カメラに残された映像等によれば,上記認定のとおり,警備員が被告人を追尾したのは被告人が袋を購入した後と認められる。)。
 以上の事実関係によれば,被告人は,本件テレビをトイレの収納棚に隠し入れた時点で,被害者である本件店舗関係者が把握困難な場所に本件テレビを移動させたのであり,しかも上記のように被告人が袋を買う際に不審を抱かれなければ,これを店外に運び出すことが十分可能な状態に置いたのであるから,本件テレビを被害者の支配内から自己の支配内に移したということができ,本件窃盗を既遂と認めた原判決は正当であって,原判決に事実の誤認はない。
 所論は,本件店舗は7階建ての大型店舗であり,警備員が複数名配置され,監視カメラによる監視も行われていたことや本件テレビの大きさに照らせば,被告人が店の従業員らに怪しまれずに本件テレビを店外に持ち出すことは困難または不可能であるから,被告人が本件テレビを本件店舗内のトイレに設置された収納棚に隠しただけで,店外に搬出していない時点では,未だ本件店舗の占有を排除して自己の支配下に置いたとはいえない,という。
 しかし,上記認定のとおり,被告人が袋を購入する際の言動に不審を感じた店員の機転がなければ,被告人は購入した袋に本件テレビを隠し入れて店外に持ち出すことが十分可能であったといえ(なお,関係証拠によれば,本件テレビは被告人が本件犯行時に所持していた大型の袋2枚及び大型のビニールバッグに十分収納できることが明らかである。),自己の支配内に移したといえるから,所論は採用できない。
 論旨は理由がない。