児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

懲役60年求刑…強姦致傷・強盗・窃盗罪の被告

 執行刑期は刑法14条2項で30年になるのか?
 確定した事件を含めて全部同時審判していれば、有期懲役を選択すれば30年が上限になるので、30年でいいような気がします。

 執行刑期が30年になるという報道は見当たりません。
 明文規定がなく、高裁判決しかないので、上告して確立して欲しいところです。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111201-00000105-san-soci
これほど長期の懲役求刑は極めて異例。検察側は、13〜20年に起きた5件の強姦致傷や強盗、窃盗罪と、21〜22年の執行猶予期間中の4件の強姦致傷、強盗罪に分け、それぞれについて懲役30年とし、合わせて懲役60年を求刑した。
 被告は、21年3月に別の窃盗事件で執行猶予つきの有罪判決を受けている。刑法の規定では判決が確定した被告が、判決前後の事件について罪を問われた場合は、事件を2つに分けて刑罰を科す必要があり、検察側はこの規定に基づいて求刑した。
 検察側は論告で「被告にはゆがんだ性癖があり、再犯のおそれも高い。相当長期間の矯正教育が必要」などと主張した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111130-00000133-jij-soci
複数の事件で発生日が確定判決日をまたぐ場合、刑法の規定で前後の事件の罪の量刑は併合できないため、求刑は合計で「懲役60年」となる。
 検察側は論告で「9件の強姦致傷事件はいずれも1人歩きの女性を狙って暴力を振るい、卑劣で悪質」と非難。「犯した罪に見合った刑罰を与えるには有期懲役の上限を科すほかない」とした。 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111130-00000630-yom-soci
検察側は01〜08年に起きた5件の強姦致傷や強盗、窃盗罪と、09〜10年に起きた4件の強姦致傷、強盗罪について、いずれも懲役30年とし、併せて60年を求刑した。求刑が60年に及ぶのは極めて異例。判決は12月5日。
被告は09年3月、窃盗事件で懲役1年執行猶予4年の有罪判決を受け、確定している。刑法の規定では、確定判決を受けている被告が、判決の前と後の事件について罪に問われている場合、量刑を分ける必要がある。1回の量刑では懲役30年が有期刑の最高刑。

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20111130k0000e040079000c.html
被告は別の窃盗事件で09年3月に執行猶予付き有罪判決を受けており、静岡地検沼津支部は判決前の5事件と執行猶予中の4事件に分け、それぞれについて有期刑の最高の懲役30年を求刑した。検察側は、事実上「懲役60年」の求刑にあたるとしている。

刑法
(有期の懲役及び禁錮の加減の限度)
第十四条  死刑又は無期の懲役若しくは禁錮減軽して有期の懲役又は禁錮とする場合においては、その長期を三十年とする。
2  有期の懲役又は禁錮を加重する場合においては三十年にまで上げることができ、これを減軽する場合においては一月未満に下げることができる。
併合罪
第四十五条  確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。

併合罪に係る二個以上の刑の執行)
第五十一条  併合罪について二個以上の裁判があったときは、その刑を併せて執行する。ただし、死刑を執行すべきときは、没収を除き、他の刑を執行せず、無期の懲役又は禁錮を執行すべきときは、罰金、科料及び没収を除き、他の刑を執行しない。
2  前項の場合における有期の懲役又は禁錮の執行は、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを超えることができない。

参考判例

東京高等裁判所平成6年9月16日
記録によれば、被告人Bには、原判決挙示の確定裁判(賭博開帳図利罪により懲役一年二月、四年間執行猶予)があること、原判決が所論指摘のとおりの法令の適用により被告人Bに対し懲役二〇年に処したことが認められる。所論の趣旨は、要するに、確定裁判のあった罪と本件の殺人罪及び詐欺未遂罪とが同一の審理で行われれば、殺人罪で有期懲役刑を選択した場合、併合罪加重しても刑法一四条の制限により上限は二〇年であるところ、別々の審理で行われたことにより、原判決のように、本件の殺人罪及び詐欺未遂罪について併合罪加重し刑法一四条の制限内で懲役二〇年に処すると、これと確定裁判のあった罪により処された刑とを合わせて受けることになり、結果として同一の審理が行われた場合との間で不均衡が生じ、かつ、刑法一四条の趣旨が生かされなくなるのではないかと指摘するものと思われる。しかし、併合罪につき数個の裁判かあったときは、その執行に当たっては、併合罪の趣旨に照らし、刑法五一条ただし書のほか、同法一四条の制限に従うべきものと解するのが相当であり、したがって、有期の懲役又は禁錮の場合に、通じて二〇年を超えて刑の執行を受けることはなく、所論のように宣告刑の刑期において調整をしなければならないものではないというべきである。したがって、所論は採用することができない。

東京高等裁判所平成5年5月25日
判例タイムズ838号265頁
解説
二 被告人は、まず、東京地裁において、第1及び第3ないし第5の各事実について併合審理され(この段階では第2事実が被告人の犯行と判明していなかった)、平成4年9月14日に懲役17年の宣告を受け、被告人のみが控訴した(東京事件)。
ところが、被告人は、右判決宣告前後ころ、捜査機関に対し、第2事実について詳細な自白を記載した手紙を出し、これに基づいて捜査がなされ、その結果、同年12月19日に第2事実について長崎地裁に公訴が提起され、被告人は、平成5年3月26日、懲役15年の宣告を受け、被告人のみが控訴した(長崎事件)。
さらに、同年5月25日に東京高裁は、東京事件について、控訴棄却の判決((1)判決)をなし、被告人のみが上告した。
そして、同年8月3日に福岡高裁は、長崎事件について、控訴棄却の判決((2)判決)をなし、被告人のみが上告した。
 三 併合罪につき2個以上の有期懲役刑の執行をする場合、最も重い罪につき定めた刑の長期にその半数を加えたものを超えることができないと規定されている(刑51条)ほか、同法14条より、通じて20年を超えて刑の執行ができないと解されている(大コンメンタール刑法第3巻114頁)。
したがって、かりに、(1)及び(2)についての上告がいずれも棄却されたとしても、被告人に対する刑の執行は、主文の合計である懲役32年ではなく、懲役20年ということになる。

コンメンタール刑法第二版第1巻P366
数個の裁判のあった併合罪と14条の制限
13 刑法51条に規定する併合罪の数個の裁判の執行についても14条による制限に服するものと解されている〈滝川ら・注釈90頁,団藤・注釈(1)(香川達夫)101頁,同(2)のII (松尾浩也)606頁)。51条2項によれば「有期の懲役文は禁鋼の執行は,その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分のーを加えたものを超えることができない.」と定め,たとえば,併合罪について各々20年に処する2個の裁判があるときは,刑法51条の適用の結果,併せて30年の刑を執行することとなるが,この場合も刑の執行に関して14条の制限に従うことになり,各刑を併せて20年を超えることはできない(明42 ・6 ・12民刑甲115号民刑局長回答).

注釈刑法(1)P101
併合罪中余罪があれば, 余罪につきさらに裁判がなされる(50)。その結果2個以上の刑はあわせ執行され.とくにそれらが有期の懲役であれば.その執行にあたりもっとも重い刑に定めた刑の長期の半数をこええないとともに(51) 本条による制約をもさけられない(明42.6.12,民刑甲115号司法省民刑局長回答)。併合罪として同時に審判される限り、本来単一な加重刑が科せられるべきであり、そのその限度が20年の枠をこええない以上,余罪があったからといって,これと異なる処過をなすべき理由もないからである。執行にあたり,あわせて20年とされるのもそのた
めである。
・・・・・

(ハ)数個の不定期刑相互あるいは定期刑と不定期刑との併執行についても〈その具体的事例については, 12 IV条注(1)参照),やはりあわせて20年の線は維持されなければならない。20年という枠が有期刑そのものに対する絶対的制限だからである。

判例コンメンタール刑法1巻P475
また、有期刑の執行は、14 条2 項に準じて、通じて30 年を超えることができないと解するのが通説である。なお、東京高判平6 ・9 ・16 判時1527 ・154(平成16 年改正前の事案)は、懲役刑の確定裁判前の余罪である殺人罪と詐欺未遂罪について、殺人罪について有期懲役を選択し、併合罪加重した上、懲役20年に処した原判決に対し、確定裁判との関係で刑の調整が必要であり、懲役20年に処することはできないとの控訴趣意を斥けるに際して、併合罪につき数個の刑の言渡しがあっても、刑の執行段階で14 条の制限が働き、通じて20 年を超える刑の執行を受けることはないから、そのような調整は必要でないとしている。(木山暢郎)

朝倉京一 「裁判の執行」法律実務講座刑事篇12巻P2856
問題は、併合罪の数個の裁判として執行する有期刑であるが、
これについては、そのもっとも重い罪について定められた刑の長期にその半数を加えたものをこえるとができず(刑法51条但書後段)、かつ刑期二〇年をこえることができないので(14条前段)、執行することができる刑期までもっとも重い刑から順次その刑期を加えて、それぞれ執行すべき刑期とし、これをあきらかにして執行を指揮する(執行規程50条2項前文)


最新の論稿として、

植村立郎「裁判員裁判事件として審理された強姦致傷、強姦事件の被告人について、先行して別件強盗殺人未遂事件で起訴されており(裁判員制度施行前に起訴されたもの)、一括審理が可能であったが、裁判員の負担が考慮されて併合されず、別件につき懲役25年の判決が確定したという経緯を考慮した上、一括審理していれば懲役30年が上限であるから本件において懲役5年を超える刑を宣告することはできないとする弁護人の主張を排斥し、懲役7年に処するのが相当とされた事例 東京地裁平成22年4月22日判決」
51条1項、2項を本件に即して併せて読むと、有期の懲役刑である確定裁判の刑と本件の刑とは、同時並行的に執行されるのではなく、順次執行されるが、通じて30年を超えて執行されることはない、ということになる。
なお、刑法51条2項には明示されていないが、同項の場合でも、刑法14条の制限によることとされている(上記東京高判平6.9.16判時1527号154頁等)から、懲役30年を超えて刑の執行が続くことはあり得ない。
そのため、本件に対する刑が仮に懲役5年を超え、確定裁判の刑と合算すれば懲役30年を超えても、上記のような執行段階での調整が行われる結果、被告人が懲役30年を超えて刑の執行を受けることは生じず、刑の執行に関して不利益は生じない。

追記

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111205-00000059-jij-soci
被告に「懲役50年」判決=強姦致傷など13事件で―静岡地裁支部
時事通信 12月5日(月)16時4分配信
 13件の事件で強姦(ごうかん)致傷や強盗などの罪に問われた被告の裁判員裁判の判決公判で、静岡地裁沼津支部は5日、確定した有罪判決を挟む前の7事件について懲役24年を、後の6事件について懲役26年を言い渡した。 

追記
 執行刑期についての記事が出ました。
 判決が確定したとしても、執行される期間が決まってないというのは、無期懲役みたいです。

「事実上の終身刑」 被害者保護で評価も
2011.12.05 共同通信 
 9件の強姦(ごうかん)致傷罪などに問われた被告に、静岡地裁沼津支部は合わせて懲役50年の“厳罰”を言い渡した。専門家は「事実上の終身刑」「刑法の規定で執行できるのは30年までのはず」などと指摘、被害者保護の立場から評価の声も聞かれた。
 駿河台大法科大学院青木孝之(あおき・たかゆき)教授によると、二つの量刑を合算して判決を言い渡すケースはまれにあるが、窃盗などの微罪が多く、重大犯罪は特に珍しいという。青木教授は「35歳の被告にとっては事実上の終身刑に当たる」とした。
 法務省は「確定した執行猶予1年も含め合計51年の懲役を科すことができる」との立場。被告が懲役26年に服して出所後にふたたび懲役24年の刑を受けた場合は合計50年服することになるのと同じだ、と説明している。
 只木誠(ただき・まこと)中央大教授も、確定前後のそれぞれの罪について「有期刑の最長である30年までの判決を言い渡すことは可能」としたが、執行については「刑法の規定で合計30年を超えることはできない」とも指摘した。
 犯罪被害者救済の活動を続ける番敦子(ばん・あつこ)弁護士は、受刑者が仮釈放を認められるケースがあることに触れ「被害者は加害者がいつ刑務所から出てくるか不安を持っている」と好意的に受け止めた。
 只木教授も「性犯罪に対する国民の見方が厳しくなっている。一方で性犯罪の長期受刑者への矯正の在り方も考えなくてはならない」と求めた。

 法務省の「被告が懲役26年に服して出所後にふたたび懲役24年の刑を受けた場合は合計50年服することになるのと同じ」というのは、違いますよね。裁判所は両方の刑がわかってるわけですから。