児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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女児の背後から毛髪を触る行為を「わいせつ行為(176条後段)」とした事例(某地裁)

 客観的わいせつ性に欠けると思いますが。

東京高裁平成22年3月1日

 本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書各記載のとおりであるから,これらを引用する。

 第2 法令適用の誤りの主張について

 論旨は,要するに,原判決は,原判示第1の女児の陰部及び同第2の女児の下着をそれぞれカメラ付き携帯電話機で撮影した行為(以下「本件各撮影行為」ということがある。)がいずれも刑法176条の「わいせつな行為」(以下,単に「わいせつ行為」ということがある。)に当たると判示しているが,①これらの行為は,被害者との身体的接触がないからわいせつ行為には当たらず,②仮に,従来の議論ではこれらの撮影行為がわいせつ行為に当たるとしても,平成16年に児童買春等処罰法により児童ポルノ製造罪が設けられた以上は,上記撮影行為は同罪で評価されるべきであって,強制わいせつ罪に当たるとすることは許されないから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の適用の誤りがあるというのである。

 しかしながら,①については,刑法176条の「わいせつな行為」とは,いたずらに性欲を興奮又は刺激させ,かつ,普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為をいい,被害者との直接的な身体の接触を必要とするものではないと解するのが担当である。また,②については,児童ポルノ製造罪と強制わいせつ罪とは保護法益や処罰対象の範囲が異なっており,後者についてより重い法定刑が定められていることに照らしても,所論は失当である。さらに,所論は,公然わいせつ罪に当たる行為及びいわゆる迷惑防止条例上の盗撮行為と強制わいせつ罪に当たる行為とを区別する必要があるともいうが,同様の理由により失当である。

 そこで,さらに,本件各撮影行為が刑法176条の「わいせつな行為」に該当するかどうかについて検討する。

1 原判示第1の女児の陰部の撮影行為について

 性的興味を持って被害女性の陰部を撮影する行為がわいせつ行為に当たることは,前述したところから明らかであり,このことは,被害女性が原判示第1のような小学校低学年の女児であっても同様である。

 したがって,原判示第1の女児の陰部を撮影した行為がわいせつ行為に当たるとした原判決の判断は正当であって,原判示第1についての論旨には理由がない。

2 原判示第2の女児の下着の撮影行為について

 所論指摘のとおり,原判決が,原判示第2の女児(当時8歳。以下,単に「第2の女児」という。)のスカートを手でまくり上げた上で,その下着(パンツを指す。以下同じ。)をカメラ付き携帯電話機で撮影した被告人の行為(以下「本件撮影行為」という。)がわいせつ行為に当たると判断していることは明らかである。

 しかしながら,第2の女児のような小学校低学年の女児の下着は,スカート等の形状や女児の動作によって,日常の生活の中で他者の目に触れることがしばしばあり得るものであって,学校,公園その他の場所で,この年代の女児の下着を目にしたとしても,社会一般には,いたずらに性欲を興奮,刺激させ,性的羞恥心を害して性的道義観念に反するとはとらえられていないと思われる。無論,このような下着を単に目にする行為と,記録化する目的でこれを撮影する行為とでは,その意昧合いが異なり得るが,上記のようなこの年代の女児の下着を目にすることに対する社会通念のほか,一定のわいせつ性が認められ得る成人女性のスカート内の下着を撮影する行為(盗撮行為)であっても,強制わいせつ罪より刑の軽い迷惑防止条例違反として検挙,処罰されているのが通例であることにもかんがみると,この年代の女児の下着を撮影する行為は,通常,刑法176条の「わいせつな行為」には当たらないと解するのが相当である。そして,本件についてみても,第2の女児が犯行当時着用していたスカートは丈が短く,公園等で遊んだりしている際に,他者に下着が見えることもあり得ることが容易に想像される形状のものであって,本件撮影行為も,同女児のスカートをまくり上げて同女児が着用している下着をそのまま1回撮影しただけで,特に執ようであるなど別異の評価が問題となり得るような特別の態様のものではないから,本件撮影行為は,わいせつ行為には当たらないというべきである。

 なお,検察官は,当審公判において,女児の下着の撮影行為そのものを取り出してみると,それがわいせつ行為といえるか疑問がないではないが,被告人の内心の意図と,その余のわいせつ行為と一連のものとして行われたものであることにかんがみると,本件における下着の撮影行為及び下着内に手を入れて陰部を触る行為が全体として強制わいせつ罪の実行行為に該当すると主張するが,わいせつ行為に当たるかどうかは,社会通念に照らして客観的に判断されるべきものであって,社会通念上わいせつ行為に当たらないものが,被告人の特別の内心の意図によってわいせつ行為となることはないというべきであり,また,女児の下着の撮影に引き続いて下着内に手を入れて陰部をなでるわいせつ行為に及んだからといって,本来わいせつ行為に当たらない下着の撮影行為までがわいせつ行為に当たることになるものでもない。検察官の上記主張は採用できない。

 以上のとおり,原判決は,原判示第2につき,第2の女児の下着を撮影する行為がわいせつ行為に当たるとした点で,刑法176条の解釈適用を誤ったものといわざるを得ず,これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

 以上によれば,上記の所論①②とは趣旨が異なるものの,論旨はこの限度で理由があることとなる。