児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

(対人的)「わいせつ行為」とは?

 学説はいろいろですね。

木村光江「刑法第3版」P274
刑法のわいせつとは.「徒に性欲を興奮または刺激せしめ,かつ普通人の性的羞恥心を害し. 善良な性的道義観念に反すること」をいうただ、この定義は,わいせつ物頒布罪に関して用いられたものであり,強制わいせつ罪は個人の性的自由を侵害する罪である以上、これより広いわいせつ概念を用いざるを得ない。例えば反抗を抑圧してキスする行為は強制わいせつ罪に当たるが, 映画や小説におけるキスシーンはわいせつではないわいせつ行為は,必ずしも被害者の身体に触れる必要はなく,脅迫して裸にならせ写真を撮影する行為も含む。

前田雅英 刑法各論講義(第三版)P94
刑法上のわいせつの意義は, 主として公然わいせつ罪(174条),わいせつ物頒布罪(175条)の解釈論の中で議論されて,「徒に性欲を興奮または刺激せしめ,かつ普通人の性的基恥心を害し,善良な性的道義観念に反すること」という定義が維持されている(最判昭26・5・10刑集5・6・1026).ただ,強制わいせつ罪は個人の性的人格を直接侵害する罪である以上,公然わいせつ罪等のわいせつ概念よりも広くならざるを得ない.無理やりキスする行為は強制わいせつであるが(東京高判昭32・1・22高刑集10・1・10),映画のキスシーンが,善良な道義観念に反するとは考えられない。174条は第三者的視点からのわいせつ性判断であるのに比し, 176条は被害者本人の視点によるもので, しかも明確な意思に反した直接的な侵害であるということが加わりわいせつ行為の幅が広がる.
ただ, 176条のわいせつ行為は,必ずしも被害者の身体に触れる必要はない.裸にして写真を撮る行為も含む(最判昭45・1・29刑集24・1・1)

山口厚「刑法各論〔第2版〕」(有斐閣・H22)P106
わいせつな行為「わいせつな行為」とは.性的な意味を有する行為.すなわち.本人の性的差恥心の対象となるような行為をいう。
注) 被害者が,実際には.怒りを感じはしたものの, 羞恥心を感じなくとも,強制わいせつ罪は成立する。「わいせつな行為」にあたるか何かは.被害者の具体的な感受性を基準としてではなく.一般的基準によって判断される。なお, 7歳の女児に対する強制わいせつを肯定したものとして.新潟地判昭和63 ・8 ・26 判時1299号参照

平川宗信『刑法各論』(有斐閣、一九九五年)P199
「わいせつ」は,通説によれば,公然わいせつ罪・わいせつ物頒布等罪にいう「わいせつ」と基本的に同義であり, いたずらに性欲を興禽・刺激させ,普通人の正常な性的差恥心を害し.善良な性的道義観念に反することをいうが、.同罪が風俗犯であるのに対して本罪は性的自由を害する罪であるから,その重点を異にするとされる。しかし,保護法益を異にする以上「わいせつ」の概念も別個にとらえられるべきであり,本罪の「わいせつ行為」の意義は,性的自由の侵害の観点から独自に論定すべきものであろう。したがって,本罪の「わいせつ行為」は,一般に性的意味がある行為であって,意に反して行うことが具体的事情のもとで性的向由の侵害とみられるものをいうと解すべきであろう。

曽根威彦 刑法各論(第4版)P65
(2) 行為 姦淫以外のわいせつ行為を強制することである。ただし、13歳未満の者に対する関係では、強制の要素が擬制されている。わいせつは、一般に「いたずらに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的差恥心を害し、善良な性的道義観念に反すること」と定義されているが、強制わいせつ罪の「わいせつ」概念の定義としては、被害者の観点が欠落しており適当でない。上の定義は、特定の被害者の性的自由を害するおそれのない行為をもわいせつと評価しうる点で広すぎるし、反面、現に被害者の性的自由を侵害していながら、この定義に抵触しないかぎりわいせつでない、とする余地を残している点で狭すぎる。例えば、接吻は合意まのもとになされるかぎりわいせつ行為でないが、相手の意思に反して強制的に行えば本罪を構成するのである。

西田典之 刑法各論 第5版 
「わいせつな行為Jとは,性的自由が保護法益であることから,公然わいせつ罪(174条)におけるわいせつ概念より広く,被害者の性的差恥心を害する行為をいうと解すべきであろう(中森64頁)。したがって,相手の意に反して接吻する行為は,現在では公然わいせつ罪にはあたらないであろうが,本罪を構成する(東京高判昭和32・1・22高刑10巻1号10頁)。ただし,一般人の見地からみても性的差恥心を害する行為であることが必要であろう。