児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

確定前の逃亡、保釈金没収できず=最高裁決定、「法の不備」指摘も

 法律上は「没取」(ボッシュ ボットリ)ですね。

 なるほど、96条3項は確定後の場合で、
 控訴審実刑判決が出た時点で法343で保釈の効力が消えるので、保釈保証金没取はできないことになりますね。
 この判例の後は、保釈されている被告人が控訴審判決の法廷に出てきたら拘束されそうですね。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101222-00000132-jij-soci
男は昨年6月、詐欺罪で懲役2年6月の一審判決を言い渡され、保釈金500万円で保釈が許可された。今年1月、控訴が棄却され保釈は効力を失ったが、男は行方不明に。7月に身柄が確保され、上告を取り下げたため実刑が確定した。
 刑事訴訟法は、保釈中に逃亡した場合には保釈を取り消し、保釈金も没収できると定めており、刑の確定後に逃亡した場合も保釈金は没収されると規定。ただ、保釈が効力を失った今回のようなケースは明確な規定がなく、検察側は刑が確定した場合と同様に没収できると主張した。
 第2小法廷は、規定は刑確定後の逃亡防止を目的としており、確定までの間に逃亡しても、保釈金は没収できないと判断した

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101222-00000094-mai-soci
<保釈金>逃亡、実刑確定前に拘束…没収できず 最高裁判断
毎日新聞 12月22日(水)21時44分配信
 保釈中に逃亡し、実刑判決確定前に身柄を拘束された受刑者から保釈保証金を没収するよう求めた検察側の請求について、最高裁第2小法廷(古田佑紀裁判長)は20日付で棄却する決定を出した。確定前に拘束された場合に保釈保証金を没収できるかどうかは学説上も争いがあったが、小法廷は「確定までに逃亡状態が解消されていれば保釈保証金は没収できない」との初判断を示した。

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=80962&hanreiKbn=01
事件番号 平成22(す)463
事件名 保釈保証金没取請求事件
裁判年月日 平成22年12月20日
法廷名 最高裁判所第二小法廷
裁判種別 決定
結果 棄却
裁判要旨 保釈された者が実刑判決を受け,その判決が確定するまでの間に逃亡等を行ったとしても,判決確定までにそれが解消され,判決確定後の時期において逃亡等の事実がない場合には,刑訴法96条3項により保釈保証金を没取することはできない

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101224092335.pdf
記録によれば,被請求人は,大阪地方裁判所において詐欺被告事件につき懲役2年6月の判決を受けた後,控訴する一方,保釈許可決定を受けて釈放されたが,平成22年1月29日大阪高等裁判所において控訴棄却判決を受けたこと,同判決に対して上告したが,控訴棄却判決後の保釈請求が却下された後も勾留のための呼出しに応じず,同年3月5日頃から所在不明となっていたこと,同年7月20日に身柄を確保されて収容されると,同月21日に上告を取り下げ,その収容中に判決が確定して刑の執行が開始されたことが認められる。
刑訴法96条3項は,その文理及び趣旨に照らすと,禁錮以上の実刑判決が確定した後に逃亡等が行われることを保釈保証金没取の制裁の予告の下に防止し,刑の確実な執行を担保することを目的とする規定であるから,保釈された者が実刑判決を受け,その判決が確定するまでの間に逃亡等を行ったとしても,判決確定までにそれが解消され,判決確定後の時期において逃亡等の事実がない場合には,同項の適用ないし準用により保釈保証金を没取することはできないと解するのが相当である。

刑事訴訟法

第343条〔禁錮以上の刑の宣告と保釈等の失効〕
禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつたときは、保釈又は勾留の執行停止は、その効力を失う。この場合には、あらたに保釈又は勾留の執行停止の決定がないときに限り、第九十八条〔収容〕の規定を準用する

第96条〔保釈、勾留の執行停止の取消し〕
裁判所は、左の各号の一にあたる場合には、検察官の請求により、又は職権で、決定を以て保釈又は勾留の執行停止を取り消すことができる。
一 被告人が、召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき。
二 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
四 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき。
五 被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき。
?保釈を取り消す場合には、裁判所は、決定で保証金の全部又は一部を没取することができる。
?保釈された者が、刑の言渡を受けその判決が確定した後、執行のため呼出を受け正当な理由がなく出頭しないとき、又は逃亡したときは、検察官の請求により、決定で保証金の全部又は一部を没取しなければならない。

 出頭確保の趣旨なんだから、収監されたら没取する必要ないじゃんと思うんですが、そうは行かないという判例もあります。

東京高等裁判所決定昭和62年1月5日
高等裁判所刑事判例集40巻1号1頁
東京高等裁判所判決時報刑事38巻1〜3号1頁
判例タイムズ646号226頁
研修475号63頁
ジュリスト臨時増刊910号183頁
ところで、保釈保証金は、被告人の出頭を確保し、罪証に不当な影響を及ぼし事実認定を誤らせる行動を防止し、裁判所が円滑・迅
速に適正な審理・判決をするため、これを納付させることによつて保釈中の被告人に心理的強制を与え、逃亡・証拠隠滅をはかる行為など刑訴法九六条一項各号の行為をさせないようにするとともに、有罪判決後の刑の執行をも担保するものであり、これらの目的が達せられれば将来不要となつて還付される反面、被告人が逃亡・罪証隠滅その他保釈取消事由に該当する行為に出た場合は、その制裁として没取される性質のものである。そして、裁判所は、保釈を取り消す場合には、そこに至つた事情、保釈保証金納付者側の事情などを考慮したうえ、その裁量により保証金の全部又は一部を没取することができるところ(刑訴法九六条二項)、実務上、時に、身柄確保の必要上、保釈取消は急いで行なう必要があるが、保釈保証金の没取については、その必要性はなく、むしろ保釈取消事由となつた事実関係の外に、保釈保証金納付者側の事情などについてさらに調査したうえ決定する方が相当と思料される場合もある。なお、保釈保証金の没取決定は、保釈保証金納付者に対してあらかじめ告知・弁解・防禦の機会を与えないでなされても違憲とは認められないとされているけれども(最高裁判所大法廷昭和四三年六月一二日決定・刑集二二巻六号四六二頁)、これらの者に対しあらかじめ告知・弁解等の機会を与えることがのぞましいといい得る。かようにして、被告人の身柄確保の要請と、保釈保証金の没取について告知・弁解等の機会を与えたり、あるいは事実取調べをしたうえで慎重に判断したいという裁判体の要請を充足するために、保釈取消決定と保釈保証金の没取決定とを別の機会にすることの可否、及びそれがいつまで可能であるかが問題となる。
 そこで、検討するに、(1)刑訴法九六条二項は、保釈取消事由があれば保釈を取り消すだけでなく保釈保証金の没取もすることができることを定めており、刑訴規則九一条一項二号は、単に没取決定がない場合の保釈保証金の還付事由を定めたものであつて、いずれも没取決定をする期限まで規定しているものとはいい得ず、現行法上保釈取消と別の機会に保釈保証金を没取することや、収監後に没取することを禁じている趣旨が明確にあらわれている規定は見あたらない。(2)保釈保証金の没取には、保釈条件に違反して取消事由に該当する行為をしたことに対する制裁の意味もあるところ、保釈取消事由を発生させてしまつた以上はそれにより没取の要件は充足され、その後被告人が収監されたからといつて、右没取の要件や制裁を科する必要性が消滅するということはないのであるから、収監という事実の発生は没取の可否になんら影響を及ぼすものではなく、収監後は絶対に没取することができないとすることに合理性を見いだすことはできない。(3)
 刑訴規則九一条は、昭和二六年最高裁判所規則一五号により現行規則のように改正されたのであるが、同条一項二号の規定は、最高裁判所第一小法廷昭和二五年三月三〇日決定(刑集四巻三号四五七頁)が、刑訴法九六条三項の規定上、「保釈中の被告人に対し禁こ以上の刑に処する判決の宣告があつた場合でも、被告人が収監され又は該判決確定後執行のため呼出を受け出頭した後でなければ、保釈保証金を返還する必要はない」としたことを契機として、保釈が取り消され又は効力を失う場合の保釈保証金還付請求権の発生を被告人の収監にかからしめることが相当であるとして改正された経緯があり(最高裁判所刑事裁判資料六三号五六頁)、右最高裁決定は判決確定後に収監された場合の保釈保証金の還付に関するものであつたことに照らし、刑訴規則九一条一項二号は刑訴法三四三条の場合のみならず、同法九六条三項の場合の収監についても適用されることが予定されているものと解されるところ、右最高裁決定及び最高裁判所第一小法廷昭和五六年九月一三日決定(刑集三五巻六号六七五頁)の事案は、いずれも実刑判決が確定し収監された後の保釈保証金の没取が可能なことを前提としたものであり、東京高等裁判所昭和四八年一〇月八日決定(刑裁月報五巻一〇号一三八二頁)、大阪高裁昭和五一年一月二八日決定(高刑集二九巻一号二四頁)は、いずれもこれを肯認すべきことを明らかにしている。そして、刑訴規則九一条一項二号中「保釈が取り消された」場合と、「保釈が効力を失つた」場合とで、収監後の保釈保証金の没取の可否を区別すべき合理的理由はみあたらない。(4)前同規則は被告人が収監されたことにより保釈保証金の還付請求権が発生することを規定しているけれども、それが無条件かつ確定的に発生することまで規定したとは必ずしも解されず、前記の諸点を考慮に入れると、同規定は、保釈保証金が還付されるまでは没取が可能であり、没取の裁判があれば、その限度で還付請求権は消滅し、残余の没取されなかつた保釈保証金を還付することを予定しているものと解することができる。そして、保釈保証金の還付請求権は被告人の収監と同時に発生するから、保釈保証金の納付者はその時以後還付請求権を行使してその返還を求め得ることになり、他方右請求を受けた裁判所としては速やかに没取するかどうかを調査検討したうえ、没取しなかつた保釈保証金を還付することになるのであつて、そのため若干の時間を要すること、そして、没取の裁判があれば保釈保証金の全部若しくは一部の還付を受けられないこともあり得るけれども、それは前記のような保釈保証金の性質上当然のことと考えられる。(5)被告人の収監後は保釈保証金の没取決定ができなくなるとすると、被告人の弁解を聞いたうえで没取決定をするという運用はできないうえ、保釈を取り消しておいたうえで、保釈保証金の没取についての事実取調べや保釈保証金納付者に告知・弁解・防禦の機会を与えたうえで没取決定をしようとしても、右の手続中に被告人が収監されてしまえば保証金は没取できなくなつてしまうということになり、裁判所はいつ被告人が収監されるかわからないという不安定な状態で事実取調べ等を実施せざるを得ないことになる。これを避けようとすれば、保釈取消と同時に一応保釈金を全部没取しておいたうえで、抗告による再度の考案の規定(刑訴法四二三条二項)により更正決定をするという変則的運用をせざるを得ない。以上の理由により、保釈保証金の没取決定は、保釈取消決定と必ずしも同時にしなければならないものではなく、別の機会にすることができるとともに、それは被告人の収監の前後を問わないのであつて、保釈を許可された者が保釈を取り消され収監された後においても刑訴法九六条二項により保釈保証金の没取をすることができると解するのが相当である。