児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」の見直し(児童ポルノの定義の限定等)を求める意見書 2010年(平成22年)11月16日日本弁護士連合会

  日弁連はこういう見解だということで。

http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/101116.html
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/data/101116.pdf
「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」の見直し(児童ポルノの定義の限定等)を求める意見書
2010年(平成22年)11月16日日本弁護士連合会
意見の趣旨
1現行の「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ処罰法」という)における児童ポルノの定義を次の」。とおり改正すべきである。
【改正案】下線部分は改正部分第2条第3項この法律において「児童ポルノ」とは,写真,電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ)に係る記録媒体その他の物であって,次の各号のいずれかに掲げ。
る実在し,又は実在した児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態二殊更に他人が児童の性器等を触る行為又は殊更に児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態三殊更に性器等が見える状態に置かれた児童の姿態2児童ポルノ処罰法において禁止される行為類型から「学術研究目的,報道目,的,証拠確保の目的その他正当な理由がある場合」を除外するべきである。
3「児童ポルノ」の定義及び禁止行為について,解釈上の指針(ガイドライン)を作成し,捜査機関の恣意による摘発がなされないようにすべきである。
意見の理由第1はじめに当連合会は,2010年3月18日「児童買春,児童ポルノに係る行為等,『の処罰及び児童の保護等に関する法律』の見直し(児童ポルノの単純所持の犯罪化)に対する意見書(以下「3月意見書」という)を公表し,?現行法にお」。
ける児童ポルノの定義を限定かつ明確化すべきである,?現行法の児童ポルノの定義を限定かつ明確化したうえで児童ポルノの単純所持を禁止すべきである(ただし,犯罪化することには反対)ことを提言した。
すなわち,児童ポルノ処罰法は,児童ポルノの定義規定を置くが,その中で同法2条3項2号及び3号には「性欲を興奮又は刺激するもの」という主観的要件を含んでおり,児童ポルノの構成要件該当性を客観的に判断できない。
特に,同3号は「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」と規定しており,極めて広範かつ曖昧・不明確な定義となっている。
そこで,当連合会として,児童ポルノの定義に関する改正案を提案するものである。
第2あるべき定義の検討1保護法益児童ポルノを規制することにより守るべき法益は,被写体となる児童の人権ないし権利(身体的自由,精神的自由,性的自由,性的自己決定権,プライバシー権,名誉権,成長発達権等)であって,善良な風俗ではない。
したがって,被写体は,実在の人物でなければならない。
この点,現行法には「実在」という文言はないが,立法経過や2条において「児童」について,「18歳に満たない者をいう」と定義されていることから,当然,現行法でも,実在の児童を前提としていることは明らかである。
しかし,昨今,漫画やアニメ等の規制にも踏み込むべきという見解もある折から,拡大解釈を防ぐためにも,ここで改めて,被写体は「実在」の児童に限ることを明記することが必要であると解する。
また,被写体となった時点で(すなわち,写真等の撮影時に)児童が実在すれば,その後に死亡したとしても本法律の規制の対象とすべきと考える。
なぜなら,生前に撮影された写真が,本意見書でいう「児童ポルノ」の定義に該当するものである場合,本人の死後に写真が頒布等されて他人の目に触れても,死者の尊厳を侵害することは明らかだからである。
とりわけ,強姦致死罪等の犯罪行為の過程において,被害児童が生きている間に裸の写真が撮影され,死後に頒布されるような事態を想起すれば,死者の写真であっても,個人法益を侵害していることは明らかであろう。
2定義の客観化・明確化(1)現行法2条3項の定義規定を,次のように改正すべきである。
【改正案】下線部分は改正部分第2条第3項この法律において「児童ポルノ」とは,写真,電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。
以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって,次の各号のいずれかに掲げる実在し,又は実在した児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態二殊更に他人が児童の性器等を触る行為又は殊更に児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態三殊更に性器等が見える状態に置かれた児童の姿態(2)上記提案の2号及び3号は,民主党が,2009年3月に提案した改正法案(以下「民主党案」という)の「殊更に他人が児童の性器等を触り,若しくは殊更に児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態又は殊更に児童の性器等が露出され,若しくは強調されている児童の姿態」から「性器(等が)露出されている」を「(性器等が)見える状態」に代えた上「強調,されている児童の姿態」を削除したものである。
「見える状態」に代えた理由は,例えば,女児がシースルーの下着をまとっているが乳首が透けて見えているような場合,乳首が「露出」しているとは言いにくいが,これも「児童ポルノ」に含めるべきと考えるからである。
また「強調されている児童の姿態」を削除した理由は,3月意見書で指,摘したとおり「強調されている」というのがどういう状態を含むのか,必,ずしも客観的に明確とは言えず,例えば,乳首を花びらで隠した場合,それは,隠されており「露出」していないとして,民主党案の「児童性行為等姿態描写物(児童ポルノ」にあたらないということになるのか,逆に「強調)されている」ということになるのか,見る者によって相当に受け止め方が異なり得るからである。
(3)ここでいう「殊更に(児童の)性器等が見える状態」という意味は,児童の自然な生活,行動の中では見えないような不自然な着衣の状態(一定の年齢以上の子どもが人前で衣服を脱ぐことを含め)を出現させたり,不自然な体勢をとらせたりして,性器等が見える状態をいう。
すなわち,乳幼児が,裸体で室内を這っているのは自然な光景であり,その際,乳首や男性器が見えることも自然な動作の中で十分にあり得ることであるから,これは「殊更に・・・見える状態」にはあたらない。
しかし,乳幼児の女性器は,不自然に開脚させなければ見えることは通常はあり得ず,女性器が見える写真は「殊更に・・・見える状態」にあたる。
,したがって,オムツのテレビコマーシャルのモデルとなっている乳幼児の画像は,それが不自然でなければ児童ポルノにはあたらない。
一方で,乳房がふくらみ始めた年齢以降の女児であれば,それを他人に撮影させることが自然な行動とは言えないので,撮影された体勢自体が,例えばただの立位であって不自然なものではないとしても,乳房が写っているだけで「殊更に・・・見える状態」に該当するというべきであろう。
また,世界には,裸で生活し,男性器を装飾して強調する部族も存在するが,そのような社会風俗を持った民族的背景により,児童の性器等が見えている写真は,その部族の価値観によれば決して児童の尊厳を害するものではなく,不自然なものではないので,個人法益の侵害状況があるとは言えず,「殊更に・・・見える状態」には該当しないというべきである。
(4)児童ポルノの定義を前述のとおりとすると,女性器が見える状態で撮影さ,れた写真等はその女性器部分を黒塗りにして完全に見えないようにすれば,その段階では児童ポルノには該当しないということになる。
その黒塗り写真等が「性欲を興奮させ又は刺激するもの(現行法2条3」項3号)と認められる場合には,現行法よりも処罰範囲が狭くなるが,この点について,児童の人権保障という観点からは異論を述べる向きはあろう。
しかし,犯罪構成要件としての児童ポルノの定義は,客観性・明確性を重視すべきであるから,その定義に該当しない外縁部分にグレーゾーンができることは避けようがない。
そして,罪刑法定主義の観点からは,グレーゾーンを処罰することができないのはむしろ当然であると考える。
なお,黒塗りをほどこす前の女性器が見える状態の写真等は,当連合会提,案の定義によっても児童ポルノに該当しそのような女児の姿態が撮影され,そのデータが記憶媒体に保存された段階で,児童ポルノ処罰法7条の製造罪に該当するので,処罰の対象となることはもちろんである。
さらに言えば,暴行又は脅迫を用いて,児童を裸にして写真等を撮影すれば,刑法176条の強制わいせつ罪に該当し(最判昭45年1月29日,刑集24巻1号1頁,そのような撮影を許した保護者・監護者は,強制わい)せつ罪の共犯になる(13歳未満の児童に対する行為は,暴行又は脅迫がなくても,強制わいせつ罪に該当する。)。
また,撮影の過程において,暴行又は脅迫を用いて,児童に対してわいせつな行為をしたり,姦淫行為を行った場合には,強制わいせつ罪や強姦罪が成立する(13歳未満の児童に対する行為は,暴行又は脅迫がなくても同様である。)。
さらに,「児童に淫行をさせる行為「児童に淫行をさせる行為をするお」それのある者その他児童に対し,刑罰法令に触れる行為をなすおそれのある者に,情を知って,児童を引き渡す行為「児童の心身に有害な影響を与え」る行為をさせる目的を持って,これを自己の支配下に置く行為」には,児童福祉法60条の罰則が適用される。
これに加えて,上記の児童ポルノの「提供目的による製造」に限らず,現行の児童ポルノ処罰法は,児童ポルノの「提供「提供目的の所持,運搬,」輸入,輸出,電磁的記録の保管「公然陳列「公然陳列目的の所持,運搬,」」輸入,輸出,電磁的記録の保管」を処罰の対象としている。
これらの現行の刑罰諸規定を迅速かつ適正に活用することによって,少なくとも,罰則の適用による児童の性的被害防止の措置については対応が可能である。
そして,現行法を適切に適用し,処罰すべき行為を処罰すれば「単純所,持罪」や「取得罪」の新設をしなくても,児童の被害を大幅に減らすことは可能なはずである。
これは,当連合会が3月意見書にて具体的に指摘した,単純所持罪等を新設することにより起こり得る捜査機関による人権侵害の危険性を防止することにもなる。
,(5)児童ポルノによる児童の人権侵害を防止するためには刑罰に頼るよりも,児童ポルノは子どもの人権に対する重大な侵害であるという意識を,わが国に広く根付かせることこそが有効である。
そのためには,犯罪に該当しない行為(例えば,13歳以上の児童については,暴行又は脅迫が伴わないと強制わいせつ罪に該当しない)であって。
も,児童虐待の防止等に関する法律(以下「児童虐待防止法」という)3。
条は「何人も,児童に対し,虐待をしてはならない」と規定しているところ,ここでいう「虐待」には「児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること(同法2条2号)が含まれることから,暴行」や脅迫を用いずして児童の衣服を全部又は一部脱がせて写真撮影する行為も,法律上,禁止されていることを社会に広く知らせ,教育し,徹底することが重要である。
児童虐待防止法4条4項は,国及び地方公共団体に対し「児童虐待の防止に資するため,児童の人権,児童虐待が児童に及ぼす影響,児童虐待に係る通告義務等について必要な広報その他の啓発活動に努めなければならない」と義務づけている。
また,子どもの権利条約19条1項は,性的虐待から児童を保護するための,適当な立法上,行政上,社会上及び教育上の措置を締結国に義務づけている。
そして,児童ポルノ処罰法も14条で「国及び地方公共団体は,児童買春,児童ポルノの提供等の行為が児童の心身の成長に重大な影響を与えるものであることにかんがみ,これらの行為を未然に防止することができるよう,児童の権利に関する国民の理解を深めるための教育及び啓発に努めるものとする」と定めているのである。
いま問題とされるべきは,児童の権利に関する国民教育の遅れと,児童に対する性的虐待児童虐待は児童の人権の重大な侵害であるとの広報啓発の遅れである。
すなわち,国や地方公共団体は,条約違反,法律違反の状態にあると言わねばならない。
国は,子どもの権利条約児童虐待防止法児童ポルノ処罰法が定めている上記教育義務,広報啓発義務の履行を,刑罰規定の新設よりも優先させて,早急に実践するべきである。
(6)なお,性病等の病気の治療のため,医学的研究のため,性的虐待の証拠を確保するためなどの理由で,性器を含む身体の部位を撮影・描写した医学的記録であっても,個人が特定される画像は「児童ポルノ」には該当すると,考える。
被写体である児童の心情を考えるならば,恥辱的な写真であることが多いと考えられるからである。
ただし,そのような写真を,医師が保管していたり,個人が特定されない形で医学論文に掲載したり,学会発表することは,許容されなければならない。
そこで,そのような写真は「児童ポルノ」の該当性は認められるが,次,に述べる禁止される行為類型の除外規定にあたるものとして,違法行為には該当しないというべきである。
3禁止行為前述のとおり,治療・医学目的のため,性的虐待の証拠確保のために客観的には児童ポルノに該当するような写真を撮影して保管することもあれば,営利目的で撮影された児童ポルノ画像を,ジャーナリストが,児童ポルノの問題性を啓発する目的で収集して所持しているということもある。
それらの行為が,処罰されたり,当連合会が3月意見書で提案したとおり,単純所持を禁止すべしとした「単純所持」の対象に含まれるようなことがあってはならない。
そこで,禁止される行為類型(刑罰の対象となるかならないかを問わず)から,「学術研究目的,報道目的,証拠確保の目的その他正当な理由がある場合」を除外するべきである。
ただし,例えば,治療目的で撮影された写真が所期の目的にしたがって保管・利用されている限りにおいては,違法性は認められないが,それを入手した者が,本来の目的を超えて,インターネット上で頒布するなどした場合には,処罰の対象になる。
4解釈上の指針(ガイドライン)作成の必要性本意見書で示したように,児童ポルノの定義や禁止される行為類型を可能な限り限定かつ明確化したとしても,その該当性が問題になる限界事例がなお多数あることが考えられる。
そこで,児童ポルノ処罰法に関する解釈上の指針(ガイドライン)を作成し,捜査機関の恣意による摘発がなされないようにすべきである。
また,そのことは,罪刑法定主義の補完という意味でも必要なことである。
なお,ガイドラインの作成は捜査機関に委ねるべきではなく,その作成は,学者(憲法,刑法,国際法等)のほか,当連合会,映画製作者団体,写真家団体,漫画家団体その他関連する民間団体から推薦された者をメンバーとする有識者会議を設置して,行われるべきであろう。

以上

児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)の一部を次のように改正する。
第二条第三項各号列記以外の部分中「掲げる」の下に「実在し、又は実在した」を加え、同項第二号及び第三号を次のように改める。
二殊更に他人が児童の性器等を触る行為又は殊更に児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態三殊更に性器等が見える状態に置かれた児童の姿態附則この法律は、○○○○から施行する。
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案新旧対照条文(傍線部分は改正部分)○児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)改正案(定義)第二条1・2(略)3この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。
以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる実在し、又は実在した児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一(略)二殊更に他人が児童の性器等を触る行為又は殊更に児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態三殊更に性器等が見える状態に置かれた児童の姿態現行(定義)第二条1・2(同上)3この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一(同上)二他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの三衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの