児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ:女子中学生に写真強要、容疑で陸士長逮捕−−豊後大野署 /大分

 この事件の弁護人じゃないので言いますが、これは強制わいせつ罪であって、強要罪は成立しません。
 親告罪非親告罪として告訴無しに裁くことになるし、最高懲役3年で比較的裁いてしまうし、それで後から告訴しても一事不再理でアウトという意味で、まずいと思います。
 弁護人なら、実は強制わいせつ罪であることがバレないように適当に被害弁償して、一審をやり過ごすことになります。
 被害者の代理人なら、強制わいせつ罪20罪で告訴すべきです。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101006-00000301-mailo-l44
容疑者(22)を児童買春・ポルノ禁止法違反(単純製造)と強要の疑いで逮捕した。容疑を認めているという。
 容疑は、9月12〜14日、携帯のゲームサイトで知り合った県内の女子中学生(14)を脅して計約20回にわたり裸の写真を自分の携帯電話に送信させたとされる。

 この擬律の問題点を控訴理由風にまとめるとこうなる

法令適用の誤り〜強制わいせつ罪(但し、告訴無し)が成立するから強要罪は成立しないこと
1 はじめに
2 一般論として強制わいせつ罪が成立する場合には強要罪は成立しないこと
(1)学説
(2)判例
大審院s4.7.17(逮捕罪)
大審院s8.7.27(職務強要罪
名古屋高裁S34.8.10(恐喝未遂)
④東京高裁S35.11.8(恐喝罪)
⑤東京高裁S34.12.8(逮捕罪)
3 判示事実は強制わいせつ罪(告訴なし)を構成すること
(1)本件の事実
①公訴事実
②原判決「罪となるべき事実」
(2)脅迫
(3)撮影行為がわいせつ行為であること
①仙台高裁H21.3.3*4(福島地裁白川支部H20.10.15*5)
②東京高裁H22.3.1*6
③広島高裁H22.1.6*7*8
名古屋高裁h22.3.4*9*10
東京地裁H18.3.24*11
(4)わいせつの意図
①不要説
②裸体撮影行為自体にわいせつの意図が認められる。
③本件の証拠でも性的意図が明らかである
④原判決も性的意図を認定している
(5)告訴がないこと


訴訟手続の法令違反〜親告罪(告訴無き強制わいせつ罪)の一部起訴であること

法令適用の誤り〜強要罪と3項製造罪は、観念的競合ではなく牽連犯ないし混合的包括一罪となること
1 はじめに
2 観念的競合説の裁判例
3 両罪の実行行為
4 3項製造罪の核心は撮影行為ではなく媒体に記録することにある。
5 観念的競合にはならないこと
6 牽連犯・混合的包括一罪であること
7 併合罪
岡山地裁倉敷支部H19.2.13*28
松山地裁西条支部H18.12.11*29*30
8 まとめ


 弁護人でないので言わせてもらうと、強要と3項製造罪とが観念的競合というのも怪しいです。

1 観念的競合説の裁判例
 観念的競合とする裁判例を目にすることがある。最高裁のサイトにも1件紹介されている。

神戸地裁H21.12.10
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100406170426.pdf
判年月日 平成21年12月10日 裁判所名 神戸地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(わ)838号 ・ 平20(わ)1247号
事件名 強姦、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反、強要被告事件
第4 (平成20年12月9日付け起訴状記載の公訴事実第1の3関係)
 同児童を強要して児童ポルノを製造しようと企て,平成19年6月11日ころ,同児童(当時12歳)が18歳に満たない者であることを知りながら,上記のとおり同児童が極度に畏怖しているのに乗じて,同児童に対し,電子メールにより,「何か挟んで撮れ。」などと申し向けて脅迫し,同児童をして,これに応じなければ自己の自由,身体等にいかなる危害を加えられるかもしれない旨さらに畏怖させ,よって,同児童をして,同日午後零時46分ころから同日午後5時35分ころまでの間,別表番号12ないし22のとおり,被告人方において,全裸で両乳房の間や陰部に物を挟んだ姿態等をとらせ,これを同児童の携帯電話機内蔵のデジタルカメラで撮影させ,そのころ,その画像を被告人の携帯電話機に送信させ,上記マイクロSDカードに上記画像データ11ファイルを保存して記録し,もって,同児童に義務なきことを行わせるととともに,児童ポルノを製造した,

2 両罪の実行行為
 本件の訴因を分析するとおおよそこのように分析できる。
 まず、神戸地裁事件で言えば「平成19年6月11日ころ,同児童(当時12歳)が18歳に満たない者であることを知りながら,上記のとおり同児童が極度に畏怖しているのに乗じて,同児童に対し,電子メールにより,「何か挟んで撮れ。」などと申し向けて脅迫し,同児童をして,これに応じなければ自己の自由,身体等にいかなる危害を加えられるかもしれない旨さらに畏怖させ,よって,同児童をして,同日午後零時46分ころから同日午後5時35分ころまでの間,別表番号12ないし22のとおり,被告人方において,全裸で両乳房の間や陰部に物を挟んだ姿態等をとらせ,これを同児童の携帯電話機内蔵のデジタルカメラで撮影させ,そのころ,その画像を被告人の携帯電話機に送信させ,」が強要罪の実行行為である。

次に、「これを同児童の携帯電話機内蔵のデジタルカメラで撮影させ,そのころ,その画像を被告人の携帯電話機に送信させ,上記マイクロSDカードに上記画像データ11ファイルを保存して記録し,」が3項製造罪の実行行為である。
 ここで、「平成19年6月11日ころ,同児童(当時12歳)が18歳に満たない者であることを知りながら,上記のとおり同児童が極度に畏怖しているのに乗じて,同児童に対し,電子メールにより,「何か挟んで撮れ。」などと申し向けて脅迫し,同児童をして,これに応じなければ自己の自由,身体等にいかなる危害を加えられるかもしれない旨さらに畏怖させ,よって,同児童をして,同日午後零時46分ころから同日午後5時35分ころまでの間,別表番号12ないし22のとおり,被告人方において,全裸で両乳房の間や陰部に物を挟んだ姿態等をとらせ,」というのは、7条3項の法文でいう「姿態をとらせ」に該当するが、判例によれば、「姿態をとらせ」は3項製造罪の実行行為ではないので、重なり合いの検討対象とはならない。

 3項製造罪の実行の着手は、被害児童をして撮影させた時点である。既遂時期は、原判決も被告人が受信して被告人の携帯電話に記録蔵置した時点である。
 とすると両罪の実行行為が重なるのは、「被害児童に撮影・送信させた」部分だけである。

3 3項製造罪の核心は撮影行為ではなく媒体に記録することにある。
 判例によれば、福祉犯・性犯罪と3項製造罪の罪数が問われた場合には、最終媒体までの記録行為(通常、性犯罪より後に続く)を重視して、併合罪とする。
 たとえば、高裁H22はわいせつ行為との関係についてではあるが、撮影後に別の媒体に複製したことを重視して併合罪としている。
 大阪高裁H21.5.19*1も児童買春罪との関係についてではあるが、撮影後に別の媒体に複製したことを重視して併合罪としている。
 福岡高裁H21.9.16*1は青少年条例違反と3項製造罪の関係について「たしかに,被告人が被害児童の本件各姿態をデジタルカメラで撮影する行為は,3項製造罪における児童ポルノを製造するのに必要な行為に当たるとともに,本件条例違反のわいせつな行為にも当たるといえるが,本件条例違反のわいせつな行為の主要部分は,被告人が,被害児童の乳房をもんだり,同女に被告人の陰茎をロ淫させるという性的な接触行為であること,他方,原判示第2の3項製造罪においては,デジタルカメラの記録媒体に記録してあった本件画像をパーソナルコンピューターのハードディスクに記録する行為が主要部分に当たると解されることからすれば,原判示第1の罪と第2の罪における被告人の行為が,自然的観察の下で,社会的見解上1個のものと評価することはできない。」として最終媒体への記録行為を重視している。

 東京高裁H20.9.18*1も児童買春罪との関係について、「そのような姿態を児童にとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が,当該電磁的記録を別の記録媒体に記憶させて児童ポルノを製造する行為も,3項製造罪に当たると解する以上,上記性交等のなされた時間場所とは異なる時間場所においてなされる,別の記録媒体に記憶させる場合も処罰範囲に含まれることになるから,上記の自然的観察のもとにおいては,児童買春行為と3項製造罪に係る児童ポルノ製造行為とは,社会的見解上別個のものと評価すべきであって,これを1個の行為とみることはできない。」として最終媒体への記録行為を重視している。

 だとすれば、本件の製造罪の核心は、被告人の(受信行為+)携帯電話への蔵置であるから、両罪の重なり合いを見る場合にもその点を考慮すべきである。

 こう並べてみると、各高裁は臨機応変に製造罪の一罪の範囲を伸縮させて場当たり的に破棄を逃れているような感じで、弁護人もなにが判例なのか判らない。

5 観念的競合にはならないこと
 3項製造罪と他罪との関係については、最決H21.10.21が

児童福祉法34条1項6号違反の罪は,児童に淫行をさせる行為をしたことを構成要件とするものであり,他方,児童ポルノ法7条3項の罪は,児童に同法2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ,これを写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより,当該児童に係る児童ポルノを製造したことを構成要件とするものである。本件のように被害児童に性交又は性交類似行為をさせて撮影することをもって児童ポルノを製造した場合においては,被告人の児童福祉法34条1項6号に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,両行為の性質等にかんがみると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから(最高裁昭和47年(あ)第1896号同49年5月29日大法廷判決・刑集28巻4号114頁参照),両罪は,刑法54条1項前段の観念的競合の関係にはなく,同法45条前段の併合罪の関係にあるというべきである。

と判示しているところ、両罪の実行行為が重なるのは、「被害児童に撮影・送信させた」部分だけであることや、両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,両行為の性質等にかんがみると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから(最高裁昭和47年(あ)第1896号同49年5月29日大法廷判決・刑集28巻4号114頁参照),両罪は,刑法54条1項前段の観念的競合の関係にはないというべきである。