児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強制セクスティングを強要罪+製造罪の観念的競合としたときの処断刑期の算出方法

 脅迫して撮影させ送信させたという強制セクスティング事件でこういう判決を受けたました。
 こんなのは強制わいせつ罪だと思うんですが、強要罪だというのです。
 強要罪と製造罪の併合罪にするという判決もあります。

(法令の適用)
罰条
第1 包括して児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)7条3項,1項,2条3項3号
第2 包括して児童ポルノ法7条3項,1項,2条3項3号 (児童ポルノ製造の点),
包括して刑法223条1項 (強要の点) 
科刑上―罪の処理 刑法54条1項前段,10条(第2につき犯情の重い児童ポルノ製造の罪の刑で1罪処断)
刑種の選択 (第1につき懲役刑を選択)
併合罪加重 刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い第2の罪の刑に法定加重)

 3項製造罪のほうが犯情比較で重いというのです。
 こういうところを弁護人がチェックすることはないんですが、この際お勉強ということで確認していきます。

 まず、形式面で見ると、第2については3項製造罪なので罰金刑も選択しうるところ、懲役刑を選択したことが明確になっていません。
参照:刑事判決起案の手引(H19)

 次に刑法10条により、製造罪と強要罪の法定刑を比較すると、罰金刑が選択できない点で、強要罪の方が重いと言うべきである。

刑法第223条(強要)
1生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
第7条(児童ポルノ提供等)
児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。

 この点、原判決が法定刑ではなく犯情の比較で製造罪の刑を基準としたことは法令適用の誤りである。

 刑法施行法3条と判例最判S23.4.8)は知っているが、実情に合わない。

刑法施行法3条
?一罪ニ付キ二個以上ノ主刑ヲ併科ス可キトキ又ハ二個以上ノ主刑中其一個ヲ科ス可キトキハ其中ニテ重キ刑ノミニ付キ対照ヲ為ス可シ併合罪又ハ数罪倶発ニ関スル規定ニ依リ数罪ノ主刑ヲ併科ス可キトキ亦同シ

 仮に刑法10条と刑法施行法3条3項で両罪は同等の刑だとしても、強要罪は無理矢理させられたという権利侵害の実害があるが、3項製造罪は単体では記録しただけであって画像が流通する抽象的危険を生じさせただけであるから、定型的に、強要罪の方が犯情が重い。
 同旨の裁判例もある。
  福井地裁H20.10.8
  徳島地裁H20.2.13
原判決が犯情の比較で製造罪の刑を基準としたことも誤りである。