児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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インターネット検索結果削除等請求事件

「結果的に,本件検索サービスの利用者が違法なウェブサイトに到達することができたとしても,被告が特定の者に対して特定の違法な情報を意図的に提供したと評価することはできないから,児童ポルノ画像を掲載したインターネット上のサイトのURLが違法情報であることを認識・認容しつつ,URLを紹介する行為が処罰されることとは(甲10),その性質が異なるというべきである」だそうです。

東京地裁平成22年 2月18日
インターネット検索結果削除等請求事件
主文
 1 原告の請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 1 被告は,原告に対し,インターネット上で運営する検索サービスにおいて表示されるhttp://〈省略〉(「○○○」と題するもの。以下「本件ウェブページ1」という。)及びhttp://〈省略〉(「△△△」と題するもの。以下「本件ウェブページ2」といい,本件ウェブページ1と合わせて「本件各ウェブページ」という。)を削除せよ。
 2 被告は,原告に対し,金220万円及びこれに対する平成21年7月30日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要

第3 当裁判所の判断
2 検索結果の削除請求について
  (1) 検索結果の表示自体の名誉毀損
 証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件検索サービスの検索結果として一覧形式で表示されるもののなかに含まれる本件各ウェブページの表示は(甲1),被告自身の意思内容を表示したものではないし,標題はもちろん,本件各ウェブページの内容から抜粋されて表示される部分についても,それ自体が原告の人格権等を侵害するものであるとまで認めることはできない。なお,本件検索サービスの検索結果の表示として,本件ウェブページ2から抜粋された「Xは性犯罪者!消えろ死ね」という内容が表示されることもあるようであるが(甲1),その分量や,この表示を見た利用者の受け取り方等を忖度すると,上記の表示自体が原告に対する不法行為を構成するとまで認めることはできない。

 (2) 本件各ウェブページへの到達を容易にしたことによる名誉毀損
   ア 次に,被告の運営する本件検索サービスの検索結果として表示される本件各ウェブページの表示が,原告に対する名誉毀損等を助長する違法なものとして,原告の人格権又は名誉権に基づいて抹消されるべきものであるかについて検討する。
   イ この点,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件検索サービスの検索結果から本件各ウェブページを削除することも,技術的にはそれほど困難なことではないと認めることができるところ,現に,被告は,警視庁の要請を受け,平成16年8月27日に,架空口座を売買している合計約370のウェブサイト(ウェブページ)を検索結果から削除したり(甲8),国立精神・神経センター自殺予防総合対策センターの協力の下,平成19年12月1日に,自殺対策として,「Yahoo!検索」の自殺願望と関連するキーワードの検索結果画面に,自殺予防総合対策センターの相談窓口の情報を掲載したホームページに利用者を誘引するリンクを表示することを開始するなどしているほか(甲9,乙2),自らが相当と判断した場合には,利用者からの個別の要望に基づき,検索結果から特定の情報を削除するという取扱いも行っているようである(弁論の全趣旨)。
 また,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件各ウェブページへの書き込みに原告の社会的評価を低下させるような事実の摘示が含まれていることは否定できないところ(甲2,甲3,乙1),インターネットが広く普及した現代社会において,検索サービスは,一般人が自らが必要とする情報に接するためにほぼ不可欠な手段となっており,特に被告が運営する本件検索サービスのように利用者数の極めて多い検索サービスは,一般人が検索結果として表示されるウェブページにおける表現に接する機会を拡大するという重要な機能を果たしていることにかんがみると,本件検索サービスの検索結果として本件各ウェブページが表示されることが,原告の社会的評価を低下させる可能性のある事実の摘示が含まれた本件各ウェブページに到達することを容易にするものであるという点は,原告の主張するとおりというべきである。
   ウ しかしながら,本件検索サービスの検索結果から特定のウェブページを削除することが可能であることや,被告が特定のウェブページの表示の削除などの一定の措置を講じた実績があることをもって,被告が当該ウェブページが検索結果として表示されること自体の違法性を認めたと評価することはできず,本件検索サービスの結果として違法なウェブページが表示される場合に,それによって権利を侵害される者による検索結果の削除請求権が当然に発生するものと認めることはできない。
 また,検索サービスが現代社会において重要な機能を有していることや,被告の運営する本件検索サービスの利用者数が極めて多いことは前記認定のとおりであるが,仮に特定のウェブページの表現に違法な部分があったとしても,検索サービスはそのウェブページに到達するための手段に過ぎないのであって,検索サービスの検索結果自体が違法な表現というわけでも,検索サービスの運営者自身が違法な表現を含むウェブページの管理を行っているわけでもない。そして,特定のウェブページに違法な表現があるのであれば,発信者情報開示の手続をとった上で,その表現を行った者に対して法的な責任を追及するという手続が存在するし,ウェブサイト上の掲示板等については,仮に事実上困難な場合があるとしても,書き込みを削除する権原を有する掲示板等の管理者に対し,特定の書き込みの削除を求めるための手続が別途存在することも少なくない(甲11ないし13,乙5ないし8)。
 さらに,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件検索サービスのようなロボット型全文検索エンジンによる検索サービスについては,その性質上,検索結果として表示されるウェブページ上の表現について,検索サービスの運営者が個々の内容の信憑性の確認をすることはほぼ不可能であり,当該運営者に対してそのようなことを要求することも相当ではない。そして,現に被告も,ウェブページの内容を確認した上で,検索結果として表示しているわけではないと認めるのが相当である。そうすると,結果的に,本件検索サービスの利用者が違法なウェブサイトに到達することができたとしても,被告が特定の者に対して特定の違法な情報を意図的に提供したと評価することはできないから,児童ポルノ画像を掲載したインターネット上のサイトのURLが違法情報であることを認識・認容しつつ,URLを紹介する行為が処罰されることとは(甲10),その性質が異なるというべきである。
 加えて,前記のような検索サービスの社会的な機能からすると,仮に検索サービスの検索結果から特定のウェブページを削除すると,当該ウェブページにおける表現を広く社会に発信し又はこれに接する機会を事実上相当程度狭めることになってしまうところ,ウェブページの表現の一部に違法な部分がある場合に,検索サービスの検索結果から当該ウェブページ自体が削除されてしまうと,違法でない部分の表現を広く社会に発信し又はこれに接する機会を事実上相当程度狭めることになるという点にも留意する必要がある。
   エ 以上のように,違法な表現を含むウェブページが検索サービスの検索結果として表示される場合でも,検索サービスの運営者自体が,違法な表現を行っているわけでも,当該ウェブページを管理しているわけでもないこと,検索サービスの運営者は,検索サービスの性質上,原則として,検索結果として表示されるウェブページの内容や違法性の有無について判断すべき立場にはないこと,現代社会における検索サービスの役割からすると,検索サービスの検索結果から違法な表現を含む特定のウェブページを削除すると,当該ウェブページ上の違法ではない表現についてまで,社会に対する発信や接触の機会を事実上相当程度制限する結果になることなどからすると,ウェブページ上の違法な表現によって人格権等を侵害される者が,当該表現の表現者に対してその削除等を求めることなく,例外的に,法的な請求として,検索サービスの運営者に対して検索サービスの検索結果から当該ウェブページを削除することを求めることができるのは,当該ウェブページ自体からその違法性が明らかであり,かつ,ウェブページの全体か,少なくとも大部分が違法性を有しているという場合に,申し出等を受けることにより,検索サービスの運営者がその違法性を認識することができたにもかかわらず,これを放置しているような場合に限られるものと解するのが相当である。このように解すると,実際上,真実性等の違法性阻却が問題とならざるをえない社会的評価を低下させるような表現を含むウェブページや,様々な表現が混在する掲示板のスレッドに係るウェブページについては,検索サービスの検索結果からの削除を求めることができる場合が極めて限定されたものとなることは確かであるが,そもそも,ウェブページ上の表現によって自らの権利が侵害されたと主張する者は,本来は発信者情報開示を求めた上で,問題となる表現を行った者に対して法的責任を追及するのが原則であって,例外的にそれ自体が違法な表現を行っているわけではない検索サービスの運営者に対して検索結果の削除等を求める場合が制限されることは,やむをえないというべきである。
   オ そこで,本件検索サービスの検索結果として本件各ウェブページが表示されることについて検討するに,原告が被告に対して本件各ウェブページを本件検索サービスの検索結果から削除する措置を講じるように要望したことは前提事実のとおりであるが,本件各ウェブページの書き込みの一部が原告の社会的評価を低下させるようなものであったとしても,本件各ウェブページ自体から,それらが違法性阻却事由を欠く違法なものであることが明らかであるとはいえないし,また,原告の主張を前提としても,本件各ウェブページにおいて原告の社会的評価を低下させるような書き込みは,本件ウェブページ1では全体の30パーセント程度,本件ウェブページ2では全体の15パーセント程度に過ぎないことからすると,原告は,被告に対し,人格権に基づき,本件検索サービスの検索結果から本件各ウェブページを削除するように求めることはできないというべきである。