児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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被害者特定事項秘匿申出があった場合、弁護人は「被害者特定事項秘匿申出書」を閲覧して被害者の連絡先を知ることができる。

頭に来たので条文操作で反論します。

 被害者特定事項秘匿申出が氏名・住所が空欄の申出であれば無効である。
 被害者特定事項秘匿申出に氏名・住所が記されているのに弁護人に閲覧・謄写させないことは違法な閲覧・謄写制限である。
 すなわち、刑訴法40条1項による弁護人は裁判長の許可無く「裁判所において、訴訟に関する書類」を閲覧・謄写できる。

刑訴法
第40条〔弁護人の書類・証拠物の閲覧謄写〕
弁護人は、公訴の提起後は、裁判所において、訴訟に関する書類及び証拠物を閲覧し、且つ謄写することができる。但し、証拠物を謄写するについては、裁判長の許可を受けなければならない。
?前項の規定にかかわらず、第百五十七条の四第三項に規定する記録媒体は、謄写することができない。

 犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律を理由にして閲覧制限をしようとする裁判所もあるのだが、 犯被3条等には弁護士に対する閲覧制限が設けられているのと対比すれば、40条1項の記録閲覧権は無制約である。弁護人としての活動の必要があれば、制約できない。

犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律
第3条(被害者等による公判記録の閲覧及び謄写)
刑事被告事件の係属する裁判所は、第一回の公判期日後当該被告事件の終結までの間において、当該被告事件の被害者等若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から、当該被告事件の訴訟記録の閲覧又は謄写の申出があるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、閲覧又は謄写を求める理由が正当でないと認める場合及び犯罪の性質、審理の状況その他の事情を考慮して閲覧又は謄写をさせることが相当でないと認める場合を除き、申出をした者にその閲覧又は謄写をさせるものとする。
2 裁判所は、前項の規定により謄写をさせる場合において、謄写した訴訟記録の使用目的を制限し、その他適当と認める条件を付することができる。
3 第一項の規定により訴訟記録を閲覧し又は謄写した者は、閲覧又は謄写により知り得た事項を用いるに当たり、不当に関係人の名誉若しくは生活の平穏を害し、又は捜査若しくは公判に支障を生じさせることのないよう注意しなければならない。
第4条(同種余罪の被害者等による公判記録の閲覧及び謄写)
刑事被告事件の係属する裁判所は、第一回の公判期日後当該被告事件の終結までの間において、次に掲げる者から、当該被告事件の訴訟記録の閲覧又は謄写の申出があるときは、被告人又は弁護人の意見を聴き、第一号又は第二号に掲げる者の損害賠償請求権の行使のために必要があると認める場合であって、犯罪の性質、審理の状況その他の事情を考慮して相当と認めるときは、申出をした者にその閲覧又は謄写をさせることができる。
一 被告人又は共犯により被告事件に係る犯罪行為と同様の態様で継続的に又は反復して行われたこれと同一又は同種の罪の犯罪行為の被害者
二 前号に掲げる者が死亡した場合又はその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹
三 第一号に掲げる者の法定代理人
四 前三号に掲げる者から委託を受けた弁護士
2 前項の申出は、検察官を経由してしなければならない。この場合においては、その申出をする者は、同項各号のいずれかに該当する者であることを疎明する資料を提出しなければならない。
3 検察官は、第一項の申出があったときは、裁判所に対し、意見を付してこれを通知するとともに、前項の規定により提出を受けた資料があるときは、これを送付するものとする。
4 前条第二項及び第三項の規定は、第一項の規定による訴訟記録の閲覧又は謄写について準用する。

 犯被法と同時に刑訴法299条の3で「被害者等特定事項の秘匿措置」が設けられたが、「検察官が」「証拠書類若しくは証拠物を閲覧する機会を与えるに当たり」刑訴法299条の3で可能になった制約は「検察官が弁護人に対し、その旨を告げ、被害者特定事項が、被告人の防御に関し必要がある場合を除き、被告人その他の者に知られないようにすることを求めることができる。」だけである。この場面でも弁護人に秘匿することは許されない。
 しかもこの規定は裁判所で弁護人が行う閲覧・謄写には適用されない。

刑訴法
第299条の3〔被害者等特定事項の秘匿措置〕
検察官は、第二百九十九条第一項の規定により証人の氏名及び住居を知る機会を与え又は証拠書類若しくは証拠物を閲覧する機会を与えるに当たり、被害者特定事項が明らかにされることにより、被害者等の名誉若しくは社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認めるとき、又は被害者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくはこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるときは、弁護人に対し、その旨を告げ、被害者特定事項が、被告人の防御に関し必要がある場合を除き、被告人その他の者に知られないようにすることを求めることができる。ただし、被告人に知られないようにすることを求めることについては、被害者特定事項のうち起訴状に記載された事項以外のものに限る。

 法40条による閲覧・謄写に対する制限としては規則301条第2項の「その他の適当な措置」と考える余地もあるだろうが、

規則第301条(書類、証拠物の閲覧等)
裁判長又は裁判官は、訴訟に関する書類及び証拠物の閲覧又は謄写について、日時、場所及び時間を指定することができる。
2 裁判長又は裁判官は、訴訟に関する書類及び証拠物の閲覧又は謄写について、書類の破棄その他不法な行為を防ぐため必要があると認めるときは、裁判所書記官その他の裁判所職員をこれに立ち会わせ、又はその他の適当な措置を講じなければならない。

「訴訟に関する書類及び証拠物の閲覧又は謄写について、書類の破棄その他不法な行為」というのは訴訟手続の円滑な進行を妨げる行為であって、要するに破棄破損の類である。
コンメンタール刑事訴訟法第一巻〔第1条〜第56条〕P425
条解刑事訴訟法P87

 「被害者特定事項秘匿申出書」は証拠書類ではないから代替性があるし、それを弁護人が破棄することは考えられない。

 しかも、そもそも被害弁償のために連絡先を知ることは正当な弁護活動であるから、この規定も根拠にはならない。
 閲覧・謄写そのものが不法行為となるはずもない。

 逐条解説でも、弁護人の権限に変更はないとされている。
白木功 他2名「『犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成19年法律第95号)』の解説(1)」法曹時報 第60巻9号p78

 結局、弁護人は勾留状閲覧謄写や299条1項の機会で被害者の連絡先を知りうるのであって、被害者特定事項秘匿申出書の閲覧の段階でのみそれを制約しても意味がないのである。

 百歩譲っても、299条の3を類推して「弁護人に対し、その旨を告げ、被害者特定事項が、被告人の防御に関し必要がある場合を除き、被告人その他の者に知られないようにすることを求めることができる」くらいであろう。

 かくして、本件では裁判所が被害者特定事項申出書に記載された被害者の連絡先を弁護人に開示しなかったことは違法である。
 裁判所が慰謝の措置の機会を奪っておいて慰謝の措置が十分尽くせなかったことを被告人に不利益に考慮してはならない。