児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

日米英における児童ポルノの定義規定

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&rlz=1T4SUNC_jaJP356JP357&q=http%3A%2F%2Fwww.ndl.go.jp%2Fjp%2Fdata%2F%E3%80%80%E5%85%90%E7%AB%A5%E3%83%9D%E3%83%AB%E3%83%8E&btnG=%E6%A4%9C%E7%B4%A2&aq=f&aqi=&aql=&oq=&gs_rfai=
で検索してみました。

http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0681.pdf
ISSUE BRIEF
日米英における児童ポルノの定義規定
国立国会図書館 ISSUE BRIEF NUMBER 681 (2010. 6. 8.)
はじめに
児童ポルノは、児童ポルノを製造する過程でしばしば児童が性的虐待を受け、また、特にインターネットを通じて広範囲にかつ永続的に流通し、被害児童の健全な心身の成長を脅かす点で、被害児童に対する極めて深刻な人権侵害である。わが国では、このような児童ポルノに対して、平成11(1999)年に「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(平成11 年法律第52 号。以下「規制法」という。)を制定し、平成16(2004)年に規制強化を目的とした改正を行う等の対策を講じている。
近年、児童ポルノに関して、提供等を目的としない所持(単純所持)の規制が活発に議論されている。平成21(2009)年6 月26 日の衆議院法務委員会では、自由民主党公明党および民主党がそれぞれ提出した改正法案の審議を通じて議論が行われたが、主な論点の1 つは「児童ポルノ」の定義の在り方であった1。
本稿では、このような議論に資するため、わが国における児童ポルノの定義をめぐる議論を概観し、米英の児童ポルノ規制立法における児童ポルノの定義を整理する。


 余談ですが、これだと最高裁京都地裁H12.7.17の基準を追認したように見えますが、この記載は間違っていて、(1)の最判の一審は大阪地裁です。(1)の一審判決は、細かい判示はなくばっさり有罪でした(氷室裁判官。今となっては罪数間違ってます。)。
(2)は京都地裁で、一審で確定です。弁護人は奥村ではありません。
 調査甘いです。

判例の立場
(1)規制法の憲法適合性
被告人が販売目的で児童ポルノに該当するビデオテープを所持していたとして第1 審で有罪、控訴棄却の上で上告された事案について、最高裁判所は、まず、原判決が認定するような児童ポルノであるビデオテープに対して、規制法第7 条第2 項を適用して処罰することが「憲法21 条、13 条に違反するものでないことは、当裁判所大法廷の判例(昭和57 年(行ツ)第156 号同59 年12 月12 日判決・民集38 巻12 号1308 頁、昭和57年(あ)第621 号同60 年10 月23 日判決・刑集39 巻6 号413 頁)11の趣旨に徴して明らか」と判示している。その上で、規制法第2 条第3 項第2 号および第3 号にいう「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の文言について、「一般の通常人が具体的場合に当該行為がその適用を受けるかどうかを判断することが可能な基準を示しているということができ、不明確であるとはいえない」と判示し、憲法第21 条および第31 条に違反するという主張を退けている 注12。

(2)「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の判断基準
上記最高裁判所判決は、具体的な判断基準を示していないが、上記事案の第1 審判決13が、以下の判断基準を判示している。
・・・衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態(以下「児童の裸体等」という。)を描写した写真または映像に児童ポルノ法二条二項にいう「性器等」、すなわち、性器、肛門、乳首が描写されているか否か、児童の裸体等の描写が当該写真またはビデオテープ等の全体に占める割合(時間や枚数)等の客観的要素に加え、児童の裸体等の描写叙述方法(具体的には、①性器等の描写について、これらを大きく描写したり、長時間描写しているか、②着衣の一部をめくって性器等を描写するなどして性器等を強調していないか、③児童のとっているポーズや動作等に扇情的な要素がないか、④児童の発育過程を記録するために海水浴や水浴びの様子などを写真やホームビデオに収録する場合のように、児童の裸体等を撮影または録画する必然性ないし合理性があるか等)をも検討し、性欲を興奮させ又は刺激するものであるかどうかを一般通常人を基準として判断すべきである。そして、当該写真又はビデオテープ等全体から見て、ストーリー性や学術性、芸術性などを有するか、そのストーリー展開上や学術的、芸術的表現上などから児童の裸体等を描写する必要性や合理性が認められるかなどを考慮して、性的刺激が相当程度緩和されている場合には、性欲を興奮させ又は刺激するものと認められないことがあるというべきである。注13

注12  平成14 年6 月17 日最高裁判所判決(『最高裁判所裁判集 刑事』第281 号, 平成14 年1-7 月分, pp.577-578.)

注13平成12 年7 月17 日京都地方裁判所判決(『判例タイムズ』1064 号, 2001.9.15, pp.249-254.)。 なお、この判決の引用部分は、森山ほか編著 前掲注(2), pp.178-180.でも紹介されている

諸外国の児童ポルノ対策は、各々の固有の事情や経緯を踏まえて実施されるため、わが国との単純な比較は困難であるし、また、そのような事情や経緯を考慮しないままにわが国に導入することも適切ではないと考えられるが、このような限界を認識した上であれば、わが国の今後の児童ポルノ対策を検討する上で参考になると思われる注31。


注31
試みに、自分の子どもが海で遊んでいる裸の姿を親が撮影した写真を例に、わが国とアメリカ(連邦)の現行法制度上、当該写真が「児童ポルノ」に該当するか否かを検討してみる。この事例をわが国の規制法に則して考えた場合、第2 条第3 項第3 号に該当するか否かが論点となるが、当該写真が「衣服の全部又は一部を付けない児童の姿態を描写」していることは明らかであるので、結局、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当するか否かが論点となる。この後者の要件に該当するか否かは、当該児童の年齢、そのとっているポーズ等を見て、個別具体的に判断するほかないと解されるが、この事例の写真は、一般人から見て、「性欲を興奮させ又は刺激する」とはいいがたく、普通は児童ポルノに当たらないのではないか、との結論が一応導き出されると考えられる(森山ほか編著 前掲注(2), p.185.)。これに対してアメリカ連邦法に則して検討した場合は、少なくとも当該児童の生殖器等のみだらな露出が当該写真に含まれていない限り、児童ポルノに該当しないと解される(前掲注(1), p.27.において、参考人・一場弁護士が紹介した、アンドリュー・オースターバーン米国司法省搾取・わいせつ部部長が2008(平成20)年4 月に米国大使館で行った会合で配布した資料の記述による。)。このように、児童ポルノの定義が両国で異なるため、例えば、同一の写真が、当該国により、児童ポルノと評価されるか否かの結論が異なることもあり得ると考えられる。