児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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キャバクラ嬢に対する強制わいせつ事件の無罪判決(東京地裁H21.10.8)

westlawから。
無罪判決なのに報道されてなかったような気がします。

東京地裁平成21年10月 8日
 上記の者に対する強制わいせつ被告事件について,当裁判所は,検察官溝端寛幸,私選弁護人長森亨各出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
 被告人は無罪。
理由
 (本件公訴事実)
 本件公訴事実は,次のとおりである。
 被告人は,
 第1 平成21年1月5日午後10時10分ころ,千葉県成田市○○a番地付近に駐車した自動車内において,告訴人(当時26歳)に対し,同人のブラジャー内に手を差し入れてその乳房をもみ,下着の上から陰部に手指を押し当てるなどし,
 第2 同月6日午前0時30分ころ,千葉県浦安市△△b丁目付近に駐車した自動車内において,同人のブラジャー内に手を差し入れてその乳房をもみ,首筋に接吻するなどし,
 もって強いてわいせつな行為をしたものである。
 (事案の概要及び争点)
 1 本件は,上記のとおり,被告人が,本年1月5日午後10時10分ころと翌6日午前0時30分ころの2回にわたり,千葉県成田市のcカントリークラブ付近(以下「第1現場」という。)に駐車中の自動車内及び千葉県浦安市のdリゾート付近(以下「第2現場」という。)に駐車中の自動車内において,告訴人に対し,その意思に反して,ブラジャー内に手を差し入れてその乳房をもみ,下着の上から陰部に手指を押し当てたり,首筋に接吻したりするなどのわいせつな行為をしたとされる事案である。
 なお,告訴人は,東京都内のキャバクラでホステスとして働いており,被告人は,本年1月1日に客としてそのキャバクラを訪れた際,告訴人から電話番号を教えてもらったものである。本件当日は,被告人が告訴人を食事に誘い,これに応じた告訴人が被告人の運転する自動車に乗車して,第1現場に至った。また,被告人と告訴人は,第1現場での出来事の後,被告人の運転する自動車で東京都内に戻り,焼肉店でともに食事をした後,再び被告人の運転する自動車で第2現場に至ったものである(以上は,証拠上明らかで,検察官,被告人に争いのない事実である。)。
 2 被告人は,公訴事実記載の各日時ころに,告訴人と同じ自動車内にいたことは間違いないが,公訴事実記載のようなわいせつ行為,すなわち,告訴人のブラジャー内に手を差し入れてその乳房をもみ,下着の上から陰部に手指を押し当てたり,首筋に接吻したりするなどの行為をしたことはない旨主張している(もっとも,被告人は,告訴人の太ももを触るなどの「アプローチ」をしたことは認める供述をしているが,公訴事実記載のようなわいせつ行為をしたことについては,捜査段階から一貫してこれを否定している。)。
 3 被告人が告訴人に対し公訴事実記載のようなわいせつ行為を行ったことを証明可能な証拠は,告訴人の公判供述のみであるところ,被害状況に関する部分の概要は,以下のとおりである。
 被告人は,成田空港で食事をすると言っていたのに,成田インターチェンジを通過し,その次の大栄インターチェンジで高速道路を下りた。被告人は,ゴルフ場が見たいと言ってゴルフ場に向かったが,そのゴルフ場も通り過ぎたので,越えてるから戻ってと言ったところ,Uターンして第1現場に至った。第1現場に到着すると,被告人は,休憩すると言ってエンジンを止め,私の右の太ももに左手を置いてきた。両手でその手をどかしたが,被告人が再度触ってきたので,被告人の手首を両手で押さえて,私の体から離すように押し返すようなことが何回か続いた。足をきっちり閉じて,太ももに置いたかばんで被告人の手がコートの中に入ってこないようにしていたが,被告人は,運転席に座ったままの形で私の体に覆い被さってきて,ブラジャーの中に手を入れて胸をもんできたり,お尻を触ってきたりした。さらに,太ももに置いたかばんの下から手を入れて,陰部に手を伸ばしてきたが,陰部まで届かないように被告人の手を押さえていた。その間,太ももに置いていたかばんを取り上げられ,後部座席に放り投げられたこともあったが,振り返ってすぐに取り戻した。これらの行為の最中,泣きながら抵抗したが,被告人はなかなかやめてくれなかった。10分間とか20分間とか,大分長い間押し合いをしていた記憶である。
 被告人はわいせつ行為を止めると車を出て小用を足しに行ったので,その間に車内の電灯をつけアイライナーの状態を確認するなどした。戻ってきた被告人から食事に行こうと誘われた。その場から早く離れたかったために承諾し,都内に戻ってから焼肉店で一緒に食事をしたが,それは,食事をして早く帰ることができるのであれば,そのほうが事を大きくしないでいいかと思ったからである。
 食事の後,タクシーで帰ろうとしたが,被告人から家まで送ると言われた。もう触られたりすることはないと思ったし,被告人を怒らせたくなかったので,おとなしく被告人の自動車に乗った。被告人は,まだ時間あるでしょう,ドライブに行こうという趣旨のことを言って,dランド方面に向かった。第2現場に駐車すると,被告人は,また私の足を触り始め,胸を直接もんだり,耳や首をなめたりしてきた。その際,「下着の感触が気持ちいいから,また会うとき,はいてきてくれ。」とか「100万円あげるから,させろ。」などとも言ってきた。被告人はなかなかやめてくれなかったが,最終的にはやめてくれたので,□□まで送ってもらった。
 4 本件の争点は,被告人が公訴事実記載のわいせつ行為をしたと認められるかどうかであり,具体的には,告訴人の上記のような公判供述が信用できるかどうかにかかっている。
 (当裁判所の判断)
 1 告訴人の公判供述の信用性には重大な疑問があり,同人が供述するようなわいせつ行為があったと認定するのは困難であると判断した。その理由は以下のとおりである。
・・・
  (3) しかしながら,検察官が本件公訴事実において主張しているのは,そのような事実ではなく,あくまでも,告訴人の意思に反して,ブラジャー内に手を差し入れてその乳房をもみ,下着の上から陰部に手指を押し当てたり,首筋に接吻したりするなどの行為をしたという事実である。
 また,被告人と告訴人は,キャバクラの客とホステスという関係であり,本件当日,告訴人は,被告人からの誘いに応じ,二人きりで夜間のドライブに同行しているのであるから,被告人が,告訴人と性的な関係を結べるかもしれないと期待したとしても無理からぬところがある。そのような事情の下では,被告人が,告訴人に対して,太ももを触ったり,陰部付近に手を伸ばそうとしたりしたことがあったとしても,拒絶されてそれ以上の行為に及んでいない限りは,未だ「暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした」ということはできず,強制わいせつ罪は成立しないというべきである。拒絶したのになかなかやめてくれなかったとする告訴人の公判供述の信用性に重大な疑問があることは,前述したとおりである。
  (4) 結局,被告人の供述によっても本件公訴事実を認定することは不可能である。その他に本件公訴事実を認めるに足りる証拠はない。
 3 結論
 以上の次第で,本件公訴事実については犯罪の証明がないから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。
 (求刑 懲役2年6月)
 (裁判官 伊藤雅人)