着衣の上からだと、「強く」が要件になるようです。
名古屋高等裁判所金沢支部昭和36年5月2日
下級裁判所刑事裁判例集3巻5〜6号399頁
ところで、刑法第百七十六条にいわゆる「猥せつ」とは徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反することをいうものと解すべきところ、前段認定の如く、被告人の所為たるや、単なる飲食店の経営者と客という間柄にすぎない原判示Aに対し、白昼他に客の居ないのを奇貨としていきなり背後から抱きつき同女に接吻しようとしたもので、前段認定の諸事実からも明らかな如く、同女がこれを承諾すべきことを予期しうる事情は少しもないのに、専ら自己の性的満足を得る目的で相手方の感情を無視し、暴力を用いて強いて接吻を求めたものであるから、かような状況の下になされる接吻は、親子、兄妹、或は相思相愛の者同志が愛情の発露や友情としてなされる場合と異なり、一般人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念の許容しないところというべきであり、
さらに、原判示の如く、被告人が同女の膝に馬乗りとなつて抱きつき、その陰部をスカートの上から強く押し撫でた行為も、前段認定の情況の下においては、単なる酔客の悪ふざけと見られる程度のものと同視することはできないから、結局被告人の右一連の行為は刑法第百七十六条にいわゆる「猥せつの行為」に該ることは叙上の説明により明白といわなければならない。従つて原判決が叙上第一の事実を認定し刑法第百七十六条第百八十一条を適用したのは正当であり、この点に関する所論は採用できない。、また、原判示第二の事実は原判決挙示の対応証拠により優にこれを肯認できるところであつて、被告人の判示第二の所為が刑法第百七十六条にいわゆる猥せつの行為に該ることも前段説示にてらし明らかであるから、原判決が判示第二の事実を認定し刑法第百七十六条第百八十一条を適用したのは正当であり、結局論旨は理由がない