児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

1項破棄の事例(札幌高裁H21.8.27)

 1項破棄というのは、控訴審の情状立証を考慮せず、原判決時点での情状を控訴審で評価し直して、破棄されたということです。
 原審も量刑のプロだから、こんなことは滅多にありません。
 結局、被害者の意見という新しい要素があったので、扱いが定まってないということだと思います。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090908084452.pdf
札幌高裁H21.8.27
死亡被害者の父親の被った精神的衝撃や悲嘆は大きく,同人及び死亡被害者の兄が被害者遺族として原審手続に参加し,事故後の被告人の不誠実な行動を非難しつつ,死亡被害者の父親実刑を望む旨の意見を述べており,その心情は十分に理解することができる以上によれば,被告人の刑事責任を軽くみることはできない。
しかしながら,本件航行にあたっての被告人の立場をみると,被告人及び本件被害者3名を含む乗船者らは友人であって遊び仲間であり,唯一被告人が小型船舶操縦士の免許を保有していたことから,船長として本件船舶を操縦したものであること,被告人が本件船舶を操縦したのは,本件の約1か月前が初めで,それも遊び仲間との船釣りのためというのであって,日常的に職務として行ったものではないことが認められ,また,乗船者らは,本件当日の早朝に出航を断念した経緯を知っているのに,1名を除いては救命胴衣を着用しないまま乗船しているのであって,船長である被告人が明示的に着用を指示しなかったことは,原判決が説示するように乗船者らの生命,身体に対する配慮が欠けていたことを示すものであるとはいえるものの,上記の被告人と乗船者らとの関係等に照らすと,死亡被害者を含むそのような乗船者にも安易な面があったことは否定することができず,このような諸事情は,被告人の船長としての責任や,その過失の内容,程度を軽減させるものではないが,被害者に生じた死亡や傷害の結果について,その責任を船長である被告人のみに負わせるのは酷であるという意味において,被告人のために酌むことのできる事情というべきである。また,死亡被害者の遺族に対する被告人の対応をみると,その通夜や葬式等に参列し,その後も遺族を訪問して謝罪の気持ちを伝え,死亡被害者に対する弔意を表した記念碑の建立に携わるなどして反省の態度を示すとともに,死亡被害者の供養のための費用として七回忌までに遺族に対し500万円を支払う旨約束した念書を作成しているのであって,その後に,原判決が指摘するように,上記支払が全く実行されていなかったり,遺族との連絡を取らず,数回転居したのにその転居先を知らせることもしなかったという事情があり,これらは被告人の一方的な思い込み等によるものであって,到底十分な対応とはいえないものの,被告人なりに遺族に対して謝罪の態度を示しているというべきであって,遺族に対する被告人の対応が全体として誠意のあるものとはとても評価できないとの原判決の説示は相当ではない。これらに加えて,負傷した被害者2名が被告人を宥恕する意向を示していることなど,被告人のために酌むことのできる諸事情を考慮し,海難事故の事案に関する科刑の実情をも勘案すると,被告人に対しては社会内で更生する機会を与えるのが相当である。
したがって,被告人を禁錮1年6月の実刑に処した原判決の量刑は刑の執行を猶予しなかった点で重すぎるから是正を要する。
論旨は理由がある。
そこで,刑訴法397条1項,381条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により当裁判所において更に判決する。

刑訴法第397条〔原判決破棄の判決〕
第三百七十七条乃至第三百八十二条及び第三百八十三条に規定する事由があるときは、判決で原判決を破棄しなければならない。
②第三百九十三条第二項の規定による取調の結果、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。