児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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被害児童に頼んで撮影してもらった場合、被害児童が1項提供罪(7条1項)+提供目的製造罪(同条2項)の正犯であり、被告人はその教唆犯である

 sextingという行為について、日本の児童ポルノ法は規定がないわけです。
 なら、処罰されないのかというと、当罰性を叫んで、検挙するわけです。
 実刑事案も出ています。
 しかし、よく考えると、どうして頼んだ方だけに3項製造罪が成立するのかがよくわかりません。
 他人を用いる場合は、間接正犯か共犯しか泣く、間接正犯は成立しないのだから、残るのは、共犯のはずですよ。
 というわけで奥村説2009/08/25
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 事実関係を前提としても、被害児童が1項提供罪(7条1項)+提供目的製造罪(同条2項)の正犯であり、被告人はその教唆犯であるから、7条3項の製造罪は成立しない。
 被害児童を処罰しろと主張しているのではなく(訴追裁量として児童を起訴しなければいい)、被害者の帰責性を主張するもの
である。
 
2 3項製造罪は目的製造罪(2項、5項)が成立しない場合の補充規定である
(1)最初に
 3項製造罪はその「前項に規定するもののほか」という文言とその趣旨から、2項製造罪(特定少数)、5項製造罪(不特定多数)が成立しない場合の補充的な規定であるから、目的製造罪(2項・5項)が成立するときには3項製造罪(姿態とらせて製造)は成立しない。
 被告人のように「撮影して送れ」と指示した場合も、2項製造罪(特定少数)の教唆犯として処罰されるから、3項製造罪は成立しない。
(2)法文
 「前項に規定するもののほか」というのであるから、2項製造罪が成立する場合には3項製造罪は成立しない。
本件では、児童が2項製造罪(特定少数)+1項提供罪(特定少数)の正犯であり、被告人はその教唆犯として処罰できるから、3項製造罪は適用されない。

(3)3項製造罪の趣旨
 いずれの論者も2項製造罪(特定少数)、5項製造罪(不特定多数)が成立しない場合の補充的な規定であると説明している。
①島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08
衆議院法制局第二部第一課 井川良「児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」法令解説資料総覧(第一法規、2004)
③森山野田「よくわかる改正児童買春ポルノ法」P99
 立法者も同様の解説をしている。
 「他人に提供する目的を伴わない児童ポルノの製造であっても、児童に児童ポルノの姿態をとらせ、これを写真撮影等して児童ポルノを製造する行為については、当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為に他ならず」というのである。

3 事実関係
 事実関係を忠実に法文に照らせば、被害児童の行為は、1項提供罪(特定少数)+2項製造罪(特定少数)の正犯である。
 被告人に提供する目的で撮影し、提供しているからである。
 本件の結果(法益侵害=被害)も、まさに、1項提供罪(特定少数)+2項製造罪(特定少数)であるから、結果としても妥当である。

4 文理解釈〜物に描写した者が製造した者であり、製造犯人であること
 文理解釈として、児童の姿態を自ら物に描写した者が製造した者であり、製造犯人である。
 他人をして「描写させた者」は含まない。

5 被害児童が児童ポルノ罪の正犯となりうること
(1) 児童ポルノ罪の保護法益
 「児童を性的対象とする社会的風潮」等という社会的法益を含めるのが判例であって、被害児童自身による保護法益侵害は否定できない。
東京高裁h15.6.4*15
阪高裁h12.10.24*16
阪高裁h14.9.10
京都地裁h14.4.24*17
大阪地裁h13.2.21*18
名古屋高裁h18.5.30*19
札幌高裁h19.3.8*20
名古屋高裁金沢支部h17.6.9*21
名古屋高裁金沢支部h14.3.28*22
 特に、名古屋高裁金沢支部H17.6.9は被害児童が有償でモデルを演じた事案について、被害児童が共犯となる可能性に言及している。

 島戸検事も被害児童が製造罪の主体となることを認めている。
島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08
 
 さらには、児童が自分の画像を他人に提供する行為や、そのために撮影する行為についても処罰可能である。
島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08

森山野田「よくわかる改正児童買春ポルノ法」P190

 本件のように被害児童自身が撮影した場合は、被害児童はこれ以上無いくらいまで製造行為に関与しているのであるから、金沢支部の基準に従っても、島戸検事の見解に従っても、2項製造罪(特定少数)+1項提供罪(特定少数)の正犯となる。

(2)児童が道具となっている場合は間接正犯理論で解決する(大阪高裁H19.12.4)
 児童をして撮影させて送信させるという事案には、支配の程度に応じて
① 児童を脅迫強要して送らせる場合
② そこまでは支配していない場合(本件のように児童が販売している場合など)
がありうるところである。
 この場合の判例は、裁判例コンメンタールにまとめられている。
判例コンメンタール刑法第1巻P396

 ①の場合には3項製造罪の間接正犯とした裁判例がある。「単独犯行」というのは間接正犯という意味である。
阪高裁H19.12.4*23
 裏返せば、②のように被害児童が完全に道具となっていない場合には、共犯(児童が正犯)として処理するというのが、大阪高裁の見解である。

 本件のように児童が犯行に加わっていても、3項製造罪になるというのであれば、脅迫があった場合にも間接正犯の成否を論じることなく3項製造罪になると言えばよく、にもかかわらず、「被害児童は意思を抑圧されていたと認めるのが相当であり,被告人の単独犯行である」と被告人のみに3項製造罪を認めたのは、このような場合にのみ、被告人のみの3項製造罪と評価されるという意味である。

(3)現行法は児童ポルノに関する行為を幅広くかつ重く処罰する趣旨であるから、行為者が被害児童であるというだけで処罰を免れることは許さない趣旨である。
 改正前と現行法を比べると、児童ポルノに係る行為について、広く処罰するという趣旨と、重く処罰するという趣旨が明らかである。

 最近の判例でも、提供目的所持罪と提供罪は併合罪になるという判断が出ている。
事件番号 平成20(あ)1703
事件名 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,わいせつ図画販売,わいせつ図画販売目的所持,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件
裁判年月日 平成21年07月07日
法廷名 最高裁判所第二小法廷

6 児童があらかじめ提供目的で撮影(2項・5項製造罪)して、提供した(1項・4項提供罪)場合とのバランス
 姿態をとらせて撮影させた場合の児童の正犯性を否定したとしても、あらかじめ撮影していた場合には5項・2項製造罪の成立を認めざるを得ないし、本件の児童が本件の画像を被告人以外に提供した場合には1項・4項提供罪の成立を認めざるを得ない。
 そうなると、同じ保護法益であるのに、どうして、被告人に頼まれた場合の2項製造罪の正犯性のみ否定されて、そうでない場合の5項製造罪・2項製造罪の正犯性は肯定されるのかを説明できない。
 被害者だから処罰されないというのであれば、全ての児童ポルノ罪について、児童は正犯にならないという結論を採らなければならず、それができないのであれば、全ての児童ポルノ罪について、児童も正犯となり得るという結論となる。

7 星景子「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項3号に該当する姿態を児童自らに撮影させ、その画像を同児童の携帯メールに添付して・・・」研修720号
 この点については星検事の論稿がある。
 星検事説で一番の理解できない点は、
という行為分担で、目的製造罪や提供罪の正犯となりうる者が被告人の指示に従った点を、全体として被告人の行為としてのみ評価する点である。

 他人が関与している場合、他人の行為を自分の行為と同等に評価するというのは、間接正犯に他ならない。間接正犯でなければ共犯の問題である。
条解刑法第2版P207

児童を正犯として立件し処罰するかは別として、児童が構成要件該当性・違法性・責任を備え正犯となりうるならば、それに関与した者は共犯(共同正犯)にしかなり得ない。

 星検事自身も、児童は道具になっていないので、間接正犯構成は取れないとしている。
 にもかかわらず、道具になっていない他人(被害児童)を利用する行為を単独正犯とするのは自己矛盾であり、破綻している。共犯という結論しかない。

 最近の判例でも、被告人一人の行為によって構成要件全てを満たさないときは共犯と構成しなければならないとされている。
事件番号 平成21(あ)291
事件名 窃盗未遂,窃盗被告事件
裁判年月日 平成21年07月21日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
判示事項
裁判要旨 検察官において共謀共同正犯者の存在に言及することなく,被告人が当該犯罪を行ったとの訴因で公訴を提起した場合において,被告人1人の行為により犯罪構成要件のすべてが満たされたと認められるときは,他に共謀共同正犯者が存在するとしても,裁判所は訴因どおりに犯罪事実を認定することが許される

 さらに星検事は、被告人のメールサーバを製造罪の客体となる児童ポルノとして、そこまでの単純一罪とするのであるが、それでは、児童が送信に失敗したときは、画像(被害児童の携帯電話機)の流出危険が生じているのに未遂(不処罰)となる点で、法益保護に欠ける。

 さらに、姿態をとらせて非実行行為説によれば、3項製造罪の実行行為は撮影行為のみであって、本件では撮影は被害児童が行っているから、道具となっていない児童に対する被告人の言動に実行行為性を見いだすことができない。利用者標準説・被利用者標準説という議論を始めそうだが、それは間接正犯を認める場合の議論であって、間接正犯ではないことが明らかなこの場合にはふさわしくない。

 また、犯人が本件のように携帯やPCで受信していれば携帯電話機やPCまでの製造罪(単純一罪)とし、受信していなければサーバーまでの製造罪(単純一罪)とするのでは、結局どの時点で既遂になるかが一定せず、既遂時期を検察官が勝手に決めることになって、刑事実体法の議論とは言い難い。

 さらに、既遂時期について星検事は、画像が犯人の支配下に入ったことを考慮しているようだが、これは判例違反である。
 すなわち、大阪高裁H14.9.10は撮影行為で製造罪は既遂となり、現像・焼き付けを経る場合はそれらも製造罪となるとしている。 星検事の見解では、DPE屋に現像・焼き付けを依頼した場合に、受け取っていなければ製造罪は不成立ということになって、失当である。判例がいうように児童ポルノが有体物に最初に描写された時点で既遂であって、以後は別罪となって、製造罪の包括一罪となると解すべきである。
阪高裁 平成14年9月10日
 支配下に入ったかどうかというのは提供罪の既遂時期の議論であって、それと混同するものであろう。

 さらに、星検事は、「被告人はサーバへの蔵置を企てている」というが、正確には被告人が受信して、被告人のPCや携帯電話で受信することを意図しているはずであり(そうでないと画像を見られない)、犯人の意図を基準にするなら、受信時点で完成するとしないとおかしい。流出危険性を基準にするなら、撮影時で既遂になるのであって、サーバー蔵置時点で既遂というのは、いかにも不合理で中途半端である。
 しかも、サーバーにせよ、被告人のPCや携帯電話にせよ、そこに送ったのは、被害児童の自由意思であって、意思抑圧はない。これを送らせた者の行為だと評価する理由はない。


 結局、星検事の見解は、児童をして撮影・送信させる行為を強引に3項製造罪にするために、伝統的な刑法理論(正犯・共犯の区別)を曲げて、製造罪の判例を無視するものであって、採用すべきではない。

8 この構成の方が、児童の保護に厚い。
 児童に2項製造罪を認めれば、製造行為において姿態をとることは要件ではなくなるから、製造罪は成立しやすく、その教唆犯も処罰しやすい。
 さらに、児童が不特定又は多数の者に提供する目的で撮影した場合には、背後の者に5項製造罪(不特定多数)の教唆犯(懲役5年)を問える可能性がある。
 検察官の起訴裁量を適切に行使して児童は起訴しなければ処罰されない。
 結果として、児童の保護に厚い。
 児童ポルノ法は児童保護法であるから、児童の保護に厚い解釈が正解である。