児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童に頼んで撮って送らせる行為は3項製造罪か?

 8月はこれを考えるのが仕事です。SEXTING
 頼んだ方を処罰したいのはやまやまですが、理屈がわかりません。
 通常、
ケース1
  (1)被告人が被害児童に撮影依頼(強要無し)
  (2)被害児童は所携のカメラで裸体撮影
  (3)被害児童は携帯等で被告人に送信
  (4)被告人が携帯等で受信
という段階を取るわけですが、
 立法者の説明によれば、児童自身もの2項製造罪(特定少数)と1項提供罪(特定少数)になるので、頼んだ方は、教唆犯か共同正犯になります。(これは手堅い解釈で、これを否定するには、児童の正犯性を否定するしかない)

森山野田「よくわかる改正児童買春ポルノ法」P190
Q42 18歳未満の児童が、交際相手に対し、自分の裸体の写真や、その交際相手との性交等の写真を渡した場合にも第7条第1項の罪は成立するのですか。

他人に児童ポルノを提供する行為については、第7条第1項の罪が成立し、これは児童による場合であっても、自己を描写したものであっても、また交際相手に対するものであっても、変わるところがありません。
もっとも、第7条第1項の罪が保護しようとする対象は、主として描写される児童の尊厳にあると考えられますから、当該児童ポルノにおいて描写される児童がその交際相手に対して提供したり、交際相手が当該被描写児童に対して提供する場合のように、提供者、被提供者と描写される児童との関係や被描写児童の承諾の経緯、理由等を考察し、当該提供行為について真摯に承諾し、かつその承諾が社会的に見て相当と認められる場合には、違法性が認められない場合もありうると考えられます。

Q48
被写体となる児童が児童ポルノの製造に同意していたとしても、第7条第3項の罪は成立するのですか。目的を問わず児童ポルノの製造(いわゆる単純製造)を処罰することにすると、交際中の高校生どうしが相手の裸体の写真を撮影する行為まで処罰されることになってしまいませんか。

第7条第3項の罪は、児童に第2条第3項各号に規定する姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写してその児童についての児童ポルノを製造する行為について、その児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為にほかならず、かつ、流通の危険性を創出する点でも非難に値するので、新たに処罰の対象とするものです。
この場合において、たとえ描写される児童がその製造について同意していたとしても、その児童の尊厳が害されているといえますし、そもそも、この児童の同意は、この児童の判断能力が未成熟なことに基づくものであると考えられますので、当罰性が認められ、第7条第3項の罪が成立すると解されます。
お示しの事例のように、児童が、真摯な交際をする相手による写真撮影を承諾する場合のように、製造者と描写される児童との関係、描写される児童の承諾の有撫及びその経緯(社会的相当性)等から、刑法上の違法性が認められない等の理由により、犯罪が成立しない場合もあると考えられます。

島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08
(3)第1項の罪
ア 前   段
前記のとおり、改正法では、児童ポルノを他人に提供する行為について、その相手が特定の者であるか不特定の者であるかや、多数の者であるか少数の者であるかを問わず処罰することとし、不特定又は多数の者に対する提供行為については、行為が悪質であり、結果が重大であることから、その法定刑を加重するものである。
 本項は、その基本的な処罰の類型として設けるものであり、旧法では処罰の対象とならない特定かつ少数の者に対する譲渡行為、反復継続の意思によらない貸与行為について、本項により処罰されることになる。児童による場合であっても、自己を描写したものであっても、また交際相手に対するものであっても、変わるところがない(15。

15)第7条第1項の罪の保護法益は、主として描写される児童の尊厳にあると考えられるから、当該児童ポルノにおいて描写される児童がその交際相手に対して提供したり、交際相手が当該被描写児童に対して碇供する場合のように、提供者、被提供者と描写される児童との関係や被描写児童の承諾の経緯、理由等を考察し、当該提供行為について真筆に承諾し、かつその承諾が社会的に見て相当と認められる場合には、違法性が認められない場合もあり得ると考えられる

島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08
なお、他者が児童に対して働きかけをすることを予定するものであって、児童自身が姿態をとって児童ポルノを製造した場合に処罰する趣旨ではないから、児童が、自身の児童ポルノの製造に同意していたからといって、この児童に第7条第3項の罪の共犯が成立するものではない(23)
23)もっとも、例外的に、児童が他者に対して執拗、積極的に自身の児童ポルノを作成させるよう働きかけたような場合に、製造罪の共犯が成立することは理論上考えられる。

名古屋高裁金沢支部H17.6.9
所論は,本件においては,被害児童が児童ポルノ製造に積極的に関与しており,共犯者であるのに,撮影者である被告人のみを処罰するのは不公平であり,憲法14条に違反するとする。しかし,本条の立法趣旨が,他人に提供する目的のない児童ポルノの製造でも,児童に児童ポルノに該当する姿態をとらせ,これを写真撮影等して児童ポルノを製造する行為については,当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為にほかならず,かつ,流通の危険性を創出する点でも非難に値するというものであることからすると,児童は基本的には被害者と考えるべきである。そして,記録を検討しても,本件の被害児童が共犯者に当たるとすべきほどの事情は窺えず,また,被告人を処罰することが不公平で,憲法14条に違反するとも認められない。

 他方、現在の実務のように、被告人の3項製造罪のみを問うという構成を検討します。(教唆犯・共同正犯説とは同時犯になるんでしょうか?)
  (1)被告人が被害児童に撮影依頼(強要無し)
  (2)被害児童は所携のカメラで裸体撮影
  (3)被害児童は携帯等で被告人に送信
  (4)被告人が携帯等で受信
 (1)〜(4)の他人に依頼するという経緯を「被告人が物に描写した」と評価する為には、(1)の依頼行為によって、被告人の意図通りに(1)〜(4)という段階に進むことが必要ですが、被害児童に正犯適格を認めて、児童が道具となっていない場合は、児童に規範的障害があるから、因果関係がなく、3項製造罪は未遂になると思います。
 大阪高裁H19.12.4は脅迫等の場合は間接正犯で説明しています。

阪高裁H19.12.4
(2) 所論は,次に,原判示第 3の児童ポルノ製造罪について,当時 13歳の被害児童自身が,携帯電話の内蔵カメラで自分の裸体を撮影し,その画像をメール送信したものであるから,被告人に本罪の間接正犯は成立しないのに,被害児童を道具とする間接正犯とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,関係証拠によれば,被害児童は,被告人との間で,自慰行為に関するメールのやりとりをしていることを,被告人から親に電話をするなどして告げ口されるのを恐れる余り,被告人の命じるままにするほかないと考えて,原判示第 3記載の画像を送信したものであることが認められるのであって,そのような本件の犯行態様に加えて,被害児童の性別,年齢等諸般の事情に照らすと,被害児童は意思を抑圧されていたと認めるのが相当であり,本件を被告人の単独犯行であるとした原判決に何らの法令適用の誤りもない。
 なお,所論は,間接正犯とする場合には, 13歳の被害児童が完全に道具となったことを判示しなければならないのに,「同女をして・・・電子メールで送信させて」と判示したにとどまる原判決には理由不備の違法がある,というが,前述のとおり,原判決の「罪となるべき事実」には,本件犯罪に該当する被告人の行為が具体的に特定明示されており,かつ,「法令の適用」の項における記載とも相まって,それが被告人単独による犯行であることが疑問の余地なく示されているといえるから,原判決に理由不備の違法があるなどということはできない。

 裏返せば、被害児童が完全に道具となっていない場合には、共犯(児童が正犯)として処理するというのが、大阪高裁の見解。

 15歳の児童に、人を殺してくれと依頼して、児童が人を殺した場合でも、頼んだ方を殺人罪とするのではなく、児童は殺人正犯で、頼んだ方が殺人教唆・共同正犯となるというのと同じ。
 15歳の児童に、自殺してくれと依頼して、児童が自殺した場合でも、頼んだ方を殺人罪とするのではなく、児童は自殺罪正犯(不可罰)で、頼んだ方が自殺教唆となるというのと同じ。

第7条(児童ポルノ提供等)
3 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。

 星検事は強引に3項製造罪のみ説。
 でも、3項製造罪は「前項に規定するもののほか」という以上は2項製造罪が成立する場合には成立しないことになります。
 ところが、被害児童が関与したときには、被害児童に2項製造罪(特定少数)と1項提供罪(特定少数)が成立してしまいます。判例もあります。
 星検事はこれをどう説明するんでしょうか?

星景子「研修の現場から 児童買春児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項3号に該当する姿態を児童自らに撮影させ,その画像を同児童の携帯メールに添付してサーバーコンピューターに送信させ,パソコンで受信して記憶させるなどした行為と児童ポルノ製造罪適用上の諸問題」研修720号
( 3) 「描写する」行為の主体
次に,写真等に「描写する」行為は,条文の文言上は.製造罪の主体となる行為者自身がすることが予定されているようにも思われる
 これを前提としても,被害児童が被告人の道具として行為したと認定できるのであれば、道具である被害児童に描写する行為をさせた間接正犯と構成することも可能であろう。
 しかし,既に述べたとおり,本罪は,被害児童に強制するなどして「姿態をとらせる」ことを要件としていないのはもちろん,被害児童が製造に同意していても成立を妨げない。
つまり,製造罪成立までの過程で被害児童自身の行為を経ることが予定されている構成要件になっているとも考えることができる。


 神戸地裁の判決もあるんですが、資料を出さずに主張だけした程度で、教唆犯説に理解を示しています。
 じゃあ、児童が送らなかったら未遂なのかというと、児童ポルノ(被害児童のカメラの媒体)はできているので、それもおかしな話です。
 また、多段階の製造行為は単純一罪になるのではなく、被害児童のカメラ→被告人の携帯というのは、別の製造罪となって、撮影行為とは包括一罪になるというのが判例です。この場合だけ単純一罪になるのというのも一貫しない。

神戸地裁H20.11.5
(弁護人の主張に対する判断)
l 弁護人は,判示第2,第3の1,2の各犯行について,検察官が主張する事実関係を前提としても,被害児童が児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「法」という。) 7条1項の提供罪及び同条2項の製造罪の正犯であり,被告人はその教唆犯であるから,同条3項の製造罪は成立しない旨主張する。
3 確かに,形式的に見れば,前記事実関係のうち,被害児童ら自身が自らの姿態をウェブカメラ等で撮影し,その画像をインターネットを通じて被告人にあてて送信した点は,法7条1項の児童ポルノ提供罪ないし同条2項の児童ポルノ製造罪に,被告人が被害児童らに指示・命令してかかる行為を実行する決意を生じさせた点は,それらの教唆犯に当たるものといえなくもない。
しかし,当該犯行における児童ポルノの製造行為は,インターネットを通じて上記画像が送信された後,被告人が使用する自宅のパーソナルコンピューターのハードディスク装置に記録された時点,あるいは,被告人が使用するプロバイダー会社のサーバーコンピューターに受信,記録された時点で完成すると考えられるところ,かかる記録がなされるのは,被告人が被害児童らに対して上記画像を送信するように指示し,被害児童らがそれに従って送信した結果であるから,製造行為の最終局面である記録は,被告人の行為により完成したと評価できるというべきである。
そして,製造行為の最終局面であり,被害児童の人格の侵害及び画像等が流通する危険という児童ポルノ製造罪の当罰性が実現する局面である記録が被告人の行為によって完成したと評価でき,かつ,その前提となる性器等を露出してウェブカメラ等で撮影し,その画像をインターネットを通じて送信する行為を被害児童らが行ったのも被告人が被害児童らに働きかけた結果である以上,これらは全体として被告人が行った児童ポルノの製造行為に当たるものと解するのが相当である。
 したがって,被告人は,判示第2,第3の1,2の各犯行について,法7条3項の児童ポルノ製造罪の成立を免れない。

 誤解しないでほしいのですが、頼んだ方は教唆犯だと言ってるので、別に処罰するなといってるわけじゃないんですよ。



 時々こういうのもあるんです。あらかじめ撮っておいて送る被害児童。
ケース2
 (1)被害児童は所携のカメラで裸体撮影
 (2)被告人が被害児童に画像送信依頼(購入)
 (3)被害児童は携帯等で被告人に送信
 (4)被告人が携帯等で受信
 立法者の解説によれば、これは、(1)で被害児童が5項製造罪(不特定多数)の正犯、(3)で4項提供罪(不特定多数)の正犯、(2)で頼んだ方が4項提供罪(不特定多数)の教唆犯になる。

 ケース1でなんとか児童=正犯というのを避けて3項製造罪のみで処理するとしても、ケース2は児童が正犯で、頼んだ方を教唆犯と構成するしかない。
 だとすると、ケース1でも少なくとも送信行為については、児童が正犯で、頼んだ方を教唆犯と構成する方が簡明。