児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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強制わいせつ罪と製造罪の罪数処理。

 こういう事件ばっかりなんですが、どっちかに決めてもらおうというわけです。

平成21年8月3日20:00ころ,大阪市において児童A(当時6歳)に対し,同児が13歳未満であることを知りながら,同児にパンツを脱がせて陰部等を露出させる姿態をとらせた上,その姿態をデジタルカメラで撮影してその電磁的記録を同デジタルカメラに内蔵の記録媒体に記録した

 これを

平成21年8月3日20:00ころ,大阪市において児童A(当時6歳)に対し,同児が13歳未満であることを知りながら,同児にパンツを脱がせて陰部等を露出させる姿態をとらせた上,その姿態をデジタルカメラで撮影してその電磁的記録を同デジタルカメラに内蔵の記録媒体に記録し,
もって、13歳未満の女子にわいせつな行為をするとともに,衣服のー部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激させるものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した

と記載すると、観念的競合になって,処断刑期は10年で、

第1 平成21年8月3日20:00ころ,大阪市において児童A(当時6歳)に対し,同児が13歳未満であることを知りながら,同児にパンツを脱がせて陰部等を露出させる姿態をとらせた上,その姿態をデジタルカメラで撮影してもって、13歳未満の女子にわいせつな行為をした
第2 前記日時場所において、前記児童に陰部等を露出させる姿態をとらせた上,その姿態をデジタルカメラで撮影しその電磁的記録を同デジタルカメラに内蔵の記録媒体に記録し,もって、衣服のー部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激させるものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した

と記載すると、併合罪になって、処断刑期は13年になるということです。
 同じことをしても書き方だけで刑期が3年変わってくることになる。
 どっちでもいいんじゃないかというわけにはいきません。
 まず、真実併合罪である2罪を観念的競合として記載すると、訴因不特定とか訴訟手続の法令違反で、破棄されます。

東京高裁h12.6.27
(1)以上のとおり、検察官が本件覚せい剤の所持を一罪として起訴していることは、その公訴事実の記載に徴して明らかであり、これに対し、原裁判所は、本件公訴事実の記載を何ら問題にすることなく、判決において、突如として、公訴事実第二の記載内容には表れていない所持の場所・態様・量(すなわち、一括して記載された覚せい剤のうち、どれだけのものをどこにどのようにして所持していたかということ)を関係証拠に基づき特定して、第二の一の事実と第二の二の事実に分けて認定判示した上、これを併合罪として処断したことが明らかである。
 2 しかし、原裁判所の右の訴訟手続には、重大な法令違反があることが明らかというべきである。
 すなわち、右のように二個の所持罪を認定しようとするのであれば、これに対応する公訴事実には、二個の所持の事実が書き分けられておらず、かつ、二個の所持に分ける手がかりとなるような事実の記載もないから、併合罪関係にある二個の所持罪の起訴としては訴因の特定を欠くというほかないので、原裁判所としては、検察官に原判示事実に沿うように訴因を補正させる必要があったというべきである。
それにもかかわらず、このような措置を講じないまま前記のとおりの判決をした原裁判所の訴訟手続は、審判対象の明示・特定という訴因制度の趣旨を無視するものであり、これが被告人の防御に具体的な影響を及ぼしたかどうかを論ずるまでもなく(本件においては、原判決のように二個の所持罪を認めるというのであれば、第二の二の罪については自首の成否が問題にされてしかるべきであるが、このような防御上の論点等の存否にかかわらず)、到底是認することができない(なお、本件とは異なり、公訴事実自体に数罪と認定する基礎になる事実が記載されている場合は、訴因の補正の問題は生じないことは当然である。ただ、その場合でも、検察官に対する釈明等を通じて、被告人への不意打ちを避けるための措置を講じなければならない場合があることに注意すべきである。)。

東京高裁H6.8.2
三 ところが、検察官は、原判示第四の公訴事実について、以上のような証拠に基づき訴因を日時、場所等によって特定することなく、前記のような概括的な記載をもって、被告人を起訴したものであるから、原審としては、検察官に釈明を求め訴因をより具体的に特定させるべきであったといわなければならない。
なお、被告人の覚せい剤注射を目撃した旨の中村の前記検察官調書中の供述も一概には排斥し得ず、かつ同調書の立証趣旨は前記のとおり「犯行目撃状況等」とされていたのであるから、前記公訴事実の記載につき、検察官として、同女の目撃したとする被告人の覚せい剤使用を起訴したものと見る余地もない訳ではないところ、これと被告人の供述する覚せい剤使用の事実とは社会的事実として両立し得るもので、併合罪の関係にあるから、本件において原審が検察官に釈明を求め訴因を特定識別することの必要性はいっそう強かったというべきである。
しかるに、原審はこれをせず、漫然、前記のように概括的で不特定な事実を認定判示したことが明らかであるから、原審は、訴訟手続の法令違反を冒したものというべきであり、これが判決に影響を及ぼすことが明らかである。したがって、所論についての判断を待つまでもなく、原判決は破棄を免れない。

 また、控訴審
  併合罪→観念的競合
  観念的競合→併合罪
と変更する時は処断刑期が変わりますから、法令適用の誤りで破棄されます。

阪高裁H16.12.9
 しかしながら,上記道路運送車両法98条3項違反の罪は,運行の意思をもって自動車登録番号標等を他の車両に取り付けることによって成立し,当該車両を運行している間は犯罪が継続する一種の継続犯と解すべきところ,関係証拠によれば,被告人は,平成15年10月ころ,知人から上記普通乗用自動車を譲り受け,そのころから上記犯行日時までの間に,同車両を運行に供する目的で,自ら他車の自動車登録番号標を取り付けたことが認められるのであって,被告人が同自動車登録番号標を上記普通乗用自動車に取り付けて使用した行為(同車両を運転する行為は,上記自動車登録番号標の使用の一環ではあるものの,あくまでもその一部分にすぎない。)と,上記普通乗用自動車を無免許運転等した行為とを社会的見解上1個の行為と評価することはできないというべきである。そうすると,両者を観念的競合とした原判決の上記法令適用には誤りがあり,かつ,この誤りは処断刑に変更を来す(上記道路運送車両法98条3項違反の罪には罰金刑しか定められていないから,無免許運転等の罪について懲役刑を選択すると,併合罪処理により,処断刑は懲役及び罰金の併科刑になる。)から,判決に影響を及ぼすことも明らかである。したがって,原判決は,既にこの点で破棄を免れない。

東京高裁H12.8.28
 したがって、本件覚せい剤の所持罪ととび口の隠し携帯の罪とは、刑法四五条の併合罪の関係にあるものというべきであるのに、これを同法五四条一項前段の「一個の行為が二個以上の罪名に触れ」る場合に当たるとした原判決は、右規定の解釈適用を誤ったものというべきであって、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。原判決は右の点で破棄を免れない

 という判例を前提にして、強制わいせつ罪と製造罪の罪数については、
  東京高裁H19.11.6は強制わいせつ罪と製造罪=併合罪
  仙台高裁H21.3.3は強制わいせつ罪と製造罪=観念的競合説
  最高裁判決はなし
となっているので、端的に言えば、強制わいせつ罪と製造罪の判決は、全部、判例違反です。
 しかし、こういう罪名なので、実刑事案が多いのですが、一審判決をみた普通の弁護人は、こういう判例状況を知らないので、控訴せずに確定していたり、控訴しても量刑不当だけの控訴になっていて、法令適用の誤りや訴訟手続の法令違反を残したまま、服役することになっています。
 奥村弁護士としては、これは、看過できないのです。

さらに、製造罪は包括一罪になるので、観念的競合説によれば、

1/1 被害児童A 強制わいせつ罪+製造罪
2/1 被害児童A 強制わいせつ罪+製造罪
3/1 被害児童A 強制わいせつ罪+製造罪
4/1 被害児童A 強制わいせつ罪+製造罪

は観念的競合と包括一罪で、結局科刑上一罪になります。
 これでいいのかということなんですが、これを立法者である森山・野田に聞いてわかるのか・わかった上でこういう法律を作ったのかということです。

 奥村は、観念的競合説を唱えたら、東京高裁で違うと言われ、併合罪説を唱えたら、仙台高裁で、違うと怒られました。わかってないのは裁判所なのに、聞いた人が怒られるという状況になっています。