児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

1号ポルノの製造罪、2号ポルノの製造罪を観念すれば、性犯罪とは観念的競合になる。↑→


 児童買春罪との関係では併合罪ですが、強制わいせつ罪・児童淫行罪との関係では観念的競合が多くなっています。

被告人は,被害児童が18歳に満たない者であることを知りながら,同日時・同場所において,
1同児童をして,同児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る姿態をとらせ,これを携帯電話内蔵カメラで撮影して、もって同児童に係る児童ポルノを製造した。
2 同児童に対し,現金の対償を供与する約束をし同児童と性交しもって児童買春をした

という事例。
 まとめると、

児童に対し,現金の対償を供与する約束をし同児童と性交し、同児童をして,同児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る姿態をとらせ,これを携帯電話内蔵カメラで撮影した

という事案。

 性交と性交しながら撮影というのは1個の行為なのかというのが問題です。
 観念的競合だという学者に説明を聞きました。

 法文を合成すると、製造行為というのは

 1号ポルノの製造行為とは、「写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写すること」である。

と定義できます。
 「児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態」というのは、本件の場合、犯人が児童と性交することで実現されているのだから、性交というのは「児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写する」行為の一部であり、製造罪の実行行為の一部である。
 だから、目的製造罪であっても、3項製造罪であっても、1号ポルノ製造と性交が重なっている。
 さらに、3項製造罪の場合は、

1同児童をして,同児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る姿態をとらせ,これを携帯電話内蔵カメラで撮影して、もって同児童に係る児童ポルノを製造した。
2 同児童に対し,現金の対償を供与する約束をし同児童と性交しもって児童買春をした

「姿態をとらせて」が実行行為であって、「児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る姿態をとらせ」というのは「児童と性交した」事に他ならないから、「姿態をとらせ」+「児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写する」行為において、性交と重複する。目的製造罪よりも重複する部分が広い。
 2号ポルノも同じ。
 3号ポルノは触っていない点で、性交を内容とする罪とは重ならない。強制わいせつ罪なら可能。

第2条(定義)
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
第7条(児童ポルノ提供等)
児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。
4 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
5 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
6 第四項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。

 一部には「性交しなくても製造できるから表裏一体の関係にない」「製造しなくても性交できる」「性交しながら撮影する行為は一般的ではなく、通常伴わない」などという理由で否定する向きもあるようですが、観念的競合かどうかで問題になっているのは抽象的な性犯罪の実行行為(性行為一般)と製造罪(製造行為一般)の実行行為ではななく、「あくまで被告人が○月×日 △において、児童Aに対し,現金の対償を供与する約束をし同児童と性交し、同児童をして,同児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る姿態をとらせ,これを携帯電話内蔵カメラで撮影した」という一連の行為で、このうち、性行為は児童買春罪に、撮影行為は1号ポルノの3項製造罪にあたるとして、両罪の関係を問題にしているわけで、この具体的行為を離れてはいけません。この事案においては、被告人が性行為をしてなければ、児童買春罪も成立しないし、1号ポルノ製造罪も成立しない関係にあります。

 最大判S49.5.29は無免許運転罪と無車検車運行罪の事案ですが、「被告人が同一の日時場所において、無免許で、かつ、自動車検査証の有効期間が満了した普通乗用自動車を運転した所為について」の判断であって、無免許運転しなくても無車検車運行もできるし、無車検車運行しなくても無免許運転もできるし、無免許運転と無車検車運行が通常表裏一体でもないのに、「被告人が同一の日時場所において、無免許で、かつ、自動車検査証の有効期間が満了した普通乗用自動車を運転した所為」は両罪の観念的競合というのです。

最高裁判所大法廷判決昭和49年5月29日
最高裁判所刑事判例集28巻4号168頁
最高裁判所裁判集刑事192号481頁
裁判所時報643号6頁
判例タイムズ309号246頁
判例時報739号36頁
警察研究48巻11号66頁
刑法五四条一項前段の規定は、一個の行為が同時に数個の犯罪構成要件に該当して数個の犯罪が競合する場合において、これを処断上の一罪として刑を科する趣旨のものであるところ、右規定にいう一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいうと解すべきである。
 これを本件についてみると、被告人が本件自動車を運転するに際し、無免許で、かつ、自動車検査証の有効期間が満了した後であつたことは、車両運転者又は車両の属性にすぎないから、被告人がこのように無免許で、かつ、自動車検査証の有効期間が満了した自動車を運転したことは、右の自然的観察のもとにおける社会的見解上明らかに一個の車両運転行為であつて、それが道路交通法一一八条一項一号、六四条及び昭和四四年法律第六八号による改正前の道路運送車両法一〇八条一号、五八条の各罪に同時に該当するものであるから、右両罪は刑法五四条一項前段の観念的競合の関係にあると解するのが相当であり、原判決のこの点に関する結論は正当というべきである

 観念的競合のデメリットというか不都合というか弱点は、数個の製造罪が包括一罪になることによるかすがい現象によって、(多数の強姦罪+製造罪が科刑上一罪になるなど)一事不再理効の範囲が広くなるということですが、これは、製造罪の包括一罪処理をやめれば防止できます。



 児童ポルノの3種類と、児童買春罪の3態様は一致しないので、こういう感じで、総当たりで検討する必要があります。
 大まかな整理ですが。

強姦罪−1号ポルノ 目的製造罪 ○観念的競合
強姦罪−1号ポルノ 3項製造罪 ○観念的競合
強姦罪−2号ポルノ 目的製造罪 △撮影されている接触行為が姦淫ないし暴行と評価される場合
強姦罪−2号ポルノ 3項製造罪 △撮影されている接触行為が姦淫ないし暴行と評価される場合 or 強姦行為=その姿態をとらせる行為である場合
強姦罪−3号ポルノ製造罪 × (姦淫場面は1号ポルノとなる)
強姦罪−3号ポルノ製造罪 △強姦行為=その姿態をとらせる行為であること

強制わいせつ罪−1号ポルノ 目的製造罪 ○観念的競合 性交類似行為=わいせつ行為であるし、撮影行為=わいせつ行為でもある。
強制わいせつ罪−1号ポルノ 3項製造罪 ○観念的競合 性交類似行為=わいせつ行為であるし、撮影行為=わいせつ行為でもあるし、強制わいせつ行為=姿態をとらせる行為でもある。
強制わいせつ罪−2号ポルノ 目的製造罪 ○観念的競合 接触行為=わいせつ行為であるし、撮影行為=わいせつ行為でもある。
強制わいせつ罪−2号ポルノ 3項製造罪 ○観念的競合 接触行為=わいせつ行為であるし、撮影行為=わいせつ行為でもあるし、強制わいせつ行為=性器接触の姿態をとらせる行為でもある。
強制わいせつ罪−3号ポルノ 目的製造罪 ○観念的競合 撮影行為=わいせつ行為でもある。
強制わいせつ罪−3号ポルノ 3項製造罪 ○観念的競合 撮影行為=わいせつ行為でもあるし、強制わいせつ行為=姿態をとらせる行為でもある。

児童淫行罪−1号ポルノ 目的製造罪 ○ 性交・性交類似行為が1号ポルノの目的製造罪の実行行為となっている。
児童淫行罪−1号ポルノ 3項製造罪 ○ 性交・性交類似行為が1号ポルノの3項製造罪の実行行為となっているし、児童淫行行為=姿態をとらせる行為でもある。
児童淫行罪−2号ポルノ 目的製造罪 × 性交・性交類似行為の場面は通常1号ポルノとなる
児童淫行罪−2号ポルノ 3項製造罪 ○ 児童淫行行為=性器接触の姿態をとらせる行為である。
児童淫行罪−3号ポルノ 目的製造罪 × 性交・性交類似行為の場面は通常1号ポルノとなる
児童淫行罪−3号ポルノ 3項製造罪 △ 児童淫行行為=3号所定の姿態をとらせる行為である場合

児童買春罪(性交・性交類似行為)−1号ポルノ 目的製造罪 ○ 性交・性交類似行為が1号ポルノの目的製造罪の実行行為となっている。
児童買春罪(性器接触)−1号ポルノ 目的製造罪 × 1号ポルノに該当しない。
児童買春罪(性交・性交類似行為)−1号ポルノ 3項製造罪 ○ 性交・性交類似行為が1号ポルノの3項製造罪の実行行為となっているし、児童買春行為=姿態をとらせる行為でもある。
児童買春罪(性器接触)−1号ポルノ 3項製造罪 × 1号ポルノに該当しない。

児童買春罪(性交・性交類似行為)−2号ポルノ 目的製造罪 × 性交・性交類似行為の場面は通常1号ポルノとなる
児童買春罪(性器接触)−2号ポルノ 目的製造罪 ○ 
児童買春罪(性交・性交類似行為)−2号ポルノ 3項製造罪 ○ 児童買春行為(性交・性交類似行為)=性器接触の姿態をとらせる行為である。
児童買春罪(性器接触)−2号ポルノ 3項製造罪 ○ 児童買春罪(性器接触)=性器接触の姿態をとらせる行為である。

児童買春罪(性交・性交類似行為)−3号ポルノ 目的製造罪 × 性交・性交類似行為の場面は通常1号ポルノとなる
児童買春罪(性器接触)−3号ポルノ 目的製造罪 × 性器接触の場面は通常2号ポルノとなる
児童買春罪(性交・性交類似行為)−3号ポルノ 3項製造罪 × 性交・性交類似行為の場面は通常1号ポルノとなる
児童買春罪(性器接触)−3号ポルノ 3項製造罪 ○ 児童買春罪(性器接触)=3項所定の姿態をとらせる行為である。